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NFTとNFTマーケットプレイス

NFTの取引額は減少し、数億円単位での取引が取り沙汰されることはなくなりましたが、そのような中でも新しいNFTシリーズが発行され、界隈は一定の盛り上がりを保っています。

NFTの歴史は古くて新しく、NFTの原型ともいえるCryptoPunksCryptoKittiesが誕生したのは2017年にさかのぼります。その後EthereumのNFTのトークン標準が確立し、2020年末から2021年にかけて本格的にNFTが盛り上がりを見せました。EthereumのほかにもSolanaなど新興チェーンでもNFTが発行され、取引されるようになりました。本記事を読んでいる方の中にも「NFTに興味がある」「NFTを保有している」「NFTを作ってみたい」という人もいるかもしれません。

NFTは、ERC721やERC1155などブロックチェーンごとの標準に基づいて作られたトークンで、技術的にはウォレット間で所有権を移転できますが、マーケットプレイスがあることでより確実かつ便利に取引できます。NFTを手軽に発行できる機能を提供するマーケットプレイスも少なくなく、トークンの仕様など技術的な知識がなくても誰でも簡単にNFTを発行できるようになりました。

本ブログでも過去にNFTマーケットプレイスを紹介してきました。

OpenSeaの創業は2017年で、NFTマーケットプレイスの中でも歴史が長く、現在でも圧倒的な取引額を誇っています。

画像: NFTマーケットプレイスの過去30日間の取引量ランキング(DappRadarより)

本記事で紹介する新興NFTマーケットプレイスのLooksRareは、2022年1月に老舗のOpenSeaに対してヴァンパイアアタックをしかけ、一時は24時間あたりの取引額でOpenSeaを上回り、注目を集めました。

NFT Market Looksrare Surpasses Opensea’s 24-Hour Sales With $385 Million in Volume – Markets and Prices Bitcoin News

続いてLooksRareとはどのようなサービスなのかみてみましょう。

 

LooksRareとは

LooksRareは、2022年1月に共同創業者のZodd(@ZoddLooksRare)氏とGuts氏がローンチしたEthereum上のNFTマーケットプレイスです。共同創業者は匿名で、運営主体については謎につつまれています。

LooksRare – NFT Marketplace | LooksRare

LooksRareのウェブサイトを見てみると、従来のNFTマーケットプレイスと大きな違いはなく、NFTマーケットプレイスを見て回ったまたは使ったことのある人であれば、戸惑いを感じることはないでしょう。むしろOpenSeaとLooksRareのトップページはコンテンツや構成が類似しているようにも見えます。

画像: OpenSeaとLooksRareのトップページ

LooksRareはNFTの取引手数料が2.0%でOpenSeaの2.5%と比べて安く、単一のNFTに対してだけでなくコレクションに対してオファーを出せます。LooksRareには独自のNFTの発行機能はありませんが、LooksRareに対応しているManifold Studioを利用するよう案内されます。

標準的なNFTマーケットプレイスとしての機能に加えて、LooksRareは独自トークンLOOKSを最大限に活用してシェアを拡大しようとしています。OpenSeaとは対照的で、OpenSeaは本記事執筆時点の2022年8月現在まで独自トークンを発行していません。

LOOKSの発行はサービスのリリースとともに始まり、2年間かけて10億LOOKS発行されます。10%がそれぞれLooksRareのチームとエコシステムのトレジャリーに、5%がセールと流動性管理に、75%がエアドロップやユーザー報酬に割り当てられています。内部と外部へのトークンの配分割合としては標準的な範囲といえます。

画像: LOOKSの割り当て(LooksRareウェブサイトより)

現在LOOKSは、取引所で購入できるほか、LooksRare上でNFTをリスティングしたり取引したりすると入手できます。また、LOOKSはステーキングでき、これに対してLooksRare上での取引手数料が分配され、LOOKSも配布されます。暗号通貨市場の下落基調と相まって、LOOKSの価格はLooksRareのローンチ以降、何度か上下して入るものの、本記事執筆時点の8月上旬では0.40ドルほどを推移しています。

画像: LOOKSの価格推移(CoinMarketCapより)

LooksRareのほかにもRaribleなどNFTマーケットプレイスの中には、独自トークンを持つものもありますが、LooksRareはよりアグレッシブにLOOKSを活用していて、その一端がOpenSeaへのヴァンパイアアタックにも垣間見られます。

LooksRareがOpenSeaにしかけたヴァンパイアアタックとはどのようなものだったのかみてみましょう。

 

OpenSeaへのヴァンパイアアタック

ヴァンパイアアタックとは

ヴァンパイアは「吸血鬼」の意味で、分散型サービスの文脈で「ヴァンパイアアタック」とは、他のサービスのユーザーにトークンをはじめとするインセンティブを与えてサービスの乗り換えを促し、シェアを奪うことを意味します。

ヴァンパイアアタックをしかけたのはLooksRareが初めてではなく、古い事例では2020年のDeFiサマーにUniswapをコピーして誕生したSushi Swapが、Uniswapに対してヴァンパイアアタックをしかけました。ヴァンパイアアタックをきっかけにUniswapにロックされた総額は激減しました。CoinPostのSushiSwapについての解説記事で当時の詳しい経緯を知ることができます。

初心者でもわかる「SushiSwap」とは|特徴と仕組みを解説 – CoinPost

最近の大きな事例では、Curveのシェアをめぐって、Convex FinanceがYearn Financeにしかけたのもヴァンパイアアタックといえるでしょう。
※ CurveとCurve DAO、Convex Financeについては本ブログの記事「分散型取引所Curve FinanceとCurve DAO」を参考にしてください。

既存のサービスから金銭的なインセンティブでユーザーを奪い取る行為を疑問視する見方もありますが、一方で、競争によってユーザーはよりよいサービスが提供されるようになるという利点もあります。

たとえば、SushiSwapのヴァンパイアアタックによって、UniswapはガバナンストークンのUNIが発行されることとなりました。攻撃を受けたUniswapは今日でも巨大なTVLを誇るトップDeFiプロトコルとして存在しています。

LooksRareのOpenSeaに対するヴァンパイアアタック

LooksRareは2022年1月のローンチ時に、OpenSeaで6ヶ月さかのぼって3ETH以上取引をしたことのあるウォレットアドレスに対してLOOKSをエアドロップしました。3ETH取引したアドレスは125LOOKS(トークン発行開始時の2.6ドルで売却した場合は325ドル相当)、1000ETHを超える取引をしたアドレスは最大10,000LOOKS(26000ドル相当)を受け取りました。

What Is The LOOKS Airdrop? | LooksRare Docs

LooksRareは同サービス上でのNFTのリスティングや取引に対してもLOOKSを配布し、LOOKSをステークしたユーザーには取引手数料として受け取ったWETHを分配し、さらにLOOKSを配布することで、OpenSeaのシェアを奪おうとしました。LOOKSの年間収益率(APY)は一時数百%まで高騰しましたが、現在は50%程度に落ち着いています。APYについてはトークンの価値の上下も考慮する必要があり、プロトコルが表示する数字を鵜呑みにしてはいけません。

Rewards | LooksRare

LooksRareはリリース直後に一時一日の取引額でOpenSeaを上回り注目を集めましたが、その背景には、報酬目的で同じユーザーがNFTを自己売買するウォッシュトレードがかなりの量あったとされています。

LooksRare Has Reportedly Generated $8B in Ethereum NFT Wash Trading – Decrypt

OpenSeaへのヴァンパイアアタックから半年以上が経過した現在、OpenSeaはLooksRareに対して取引額とユーザー数で優位に立っています。一方で、LooksRareは一定のシェアを保ってランキングの上位に位置付けていることから、トークンを組み込んでOpenSeaに対して差別化し、ヴァンパイアアタックをしかけたLooksRareのローンチ戦略は一定の成功を収めたといってよいでしょう(DappRadarのNFTマーケットプレイスのランキング参照)。

 

LooksRareの今後

LooksRareの共同創業者のひとりZodd氏は2022年8月に入って、Twitterで「LooksRareのアカウントは最近アップデートを投稿していない」というコメントに対して、LooksRareのV2の開発を進めていると投稿しました。

V2については公式の文書に記述がありますが、内容は詳細ではなく「LOOKSの用途を増やす」「機能強化」など、概要に触れるにとどまっています。

Space Recap – Things You Should Know | LooksRare Docs

現在LOOKSは報酬として配布され、ステーキングしたり売買したりできますが、Web3プロジェクトによく見られるガバナンストークンとしての役割はありません。今後LOOKSにどのような新しい用途が出てくるのか、サービスは中央集権的な運営が続くのか、分散化が進められるか見ものです。

 

おわりに

本記事ではNFTマーケットプレイスの老舗OpenSeaに対してヴァンパイアアタックをしかけて一定の地位を確立したLooksRareについて紹介しました。

LooksRareがヴァンパイアアタックを行い、ウォッシュトレードの温床となったことについて、筆者個人の意見を述べることは差し控えますが、LooksRareは 「By NFT people, for NFT people」としているものの、匿名の主体が中央集権性を持ってLooksRareを運営している点が気になりました。流動性提供者への報酬付与の停止や、プレマインされたトークンの配分変更といったトップダウンでの方針変更に現れています。

CoinbaseLooksRareのヴァンパイアアタックを解説したブログ記事のむすびで「匿名のチームには常にラグプルのリスクがつきまとう」と警告しています。同ブログ記事ではLooksRareのコードがオープンソースではないことに触れていますが、現在は徐々にオープンソース化が進められています。

今後、LooksRareがどのようにサービスを運営し、ユーザーとコミュニケーションしていくのか、LOOKSの配布が終了したあとにどのように競合NFTマーケットプレイスとの間でサービスを差別化していくのか、V2のリリースとともに注目したいところです。

エンジニアの経験と情報学分野での経験を活かして、現在はドイツにてフリーランスで翻訳・技術解説に取り組む。2009年下期IPA未踏プログラム参加。2016年、本メディアでの調査の仕事をきっかけにブロックチェーンや仮想通貨、その先のトークンエコノミーに興味を持つ。

erc1155ERC721NFTOpenSeaマーケットプレイス

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