中東アフリカ地域最大のブロックチェーン関連イベントであるFuture Blockchain Summit(FBS)が、今年もドバイで開催されました。4日間にわたり開催されたFBSには、50カ国以上から150以上の団体が出展し、web3関連企業、規制当局・政府関係者など多くの人が参加しました。本記事では、今年のFBSの様子と主なポイントをご紹介します。
目次
Future Blockchain Summitとは?
イベント概要
Future Blockchain Summit (FBS)は、2018年以降毎年ドバイで開催されているブロックチェーン関連イベントで、ドバイ世界貿易センター(DWTC)が主催しています。6回目となる今回は、2023年10月15日から18日まで4日間開催されました
FBSは、中東・アフリカ地域最大のテクノロジー展示会であるGITEX Globalの一部となっています。今年はGITEX Globalの開催に合わせて10のイベントが同時開催となり、会場を2箇所に分けて実施されました。第2会場であるドバイハーバーでは、本イベント(FBS)に加えて、スタートアップイベントであるExpanding North Star、フィンテックを扱うFintech Surge、マーケティングに特化したMarketing Maniaの各イベントが開催されました。
画像:第2会場の様子(左)、会場MAP(右)
FBSには、仮想通貨やweb3分野で国際的に活躍する企業や、ベンチャーキャピタル、政府関係機関、研究機関、メディアなど多くの団体が参加しました。
今年のプログラム
今年のFBSのテーマは「Feeling the web3 Revolution(web3革命を体感しよう)」で、web3がもたらす社会変革に焦点が当てられました。プログラムは、会議、ワークショップ、有識者によるトレーニングなどで構成され、一部の会議やトレーニングへのアクセスは有料となっていました。4日間のプログラムで、取り上げられたトピックは、エンターテイメント(ゲーム、音楽など)、ファッション、社会インパクト(気候変動対策、ReFiなど)、暗号資産規制、投資環境、仮想通貨取引など多岐に渡りました。詳細なイベントのプログラムは、FBS公式ウェブサイトをご参照ください。
また、同じ会場で開催されたスタートアップイベント「Expanding North Star」のピッチコンテスト「Supernova Challenge Pitch」では「blockchain & web3 disruptor」という部門が設けられ、UAEに拠点をおくverofaxが部門最高賞を受賞しました。同社はブロックチェーンを活用してブランディングや小売サービスを提供する企業で、消費者が商品の購入前に製品の品質や持続可能性に関する情報にアクセスしたり、消費者の個々の志向に応じたサービスが受けられたりするソリューションが高く評価されました。
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登壇者
今年のFBSには合計で150人以上の有識者が世界各地から登壇者として参加しました。登壇者の多くは各企業のCレベルの経営幹部で、このイベントに対する注目度の高さを示していました。
登壇者には、DEX(分散型取引所)のアグリゲーターサービスを提供するワンインチ・ネットワーク(1inch Network)の共同設立者であるSergej Kunz氏、大手仮想通貨取引所バイナンス(Binance)のRichard Teng氏(11月22日にバイナンスの新CEOへの就任が発表)、暗号資産カストディ企業のビットゴー(BitGo)のAPAC最高責任者のHobeng Lim氏、シンガポールの暗号資産デリバティブ取引所のビットゲット(Bitget)のマネージングディレクターであるGracy Chen氏、ステーブルコイン発行企業のサークルの欧州中東アフリカ部門(Circle EMEA)の政策・戦略担当バイスプレジデントのTeana Baker氏、レイヤー1ブロックチェーン「Sui(スイ)」の開発を主導するスイ財団(Sui Foundation)のマネージングディレクターであるGreg Siourunis氏、米大手暗号資産カストディ企業のファイヤーブロックス(Fireblocks)のCEO兼共同設立者であるMichael Shaulov氏などが参加しました。また、web3企業のみならず、政府機関、規制当局、コンサルタント、大学関係者など多様な登壇者し、レディ・ガガの「ボーン・ディス・ウェイ」や「ザ・モンスター」の音楽プロデューサーを務めたFernando Garibay氏の登壇も参加者の注目を集めました。(2023年の登壇者一覧はこちら。)
画像:Future Blockchain Summmit公式サイト
今年の主な注目ポイント
AI
生成AIの利用が2022年以降急速に広がった背景もあり、今年のFBSでは生成AIとブロックチェーンに関する関心の高まりがみられました。
Mind Bank AIの創業者兼CEOのEmil Jimenezのトークセッションでは、AIに自分の思考パターンや回答パターンを学習させることによって、自分のデジタルツインを作るという試みが紹介されました。Jimenez氏は、自分の分身を活用することによって仕事のみならず家庭など私生活でも新たな可能性が広がることを紹介しました。
画像:Future Blockchain Summmit公式YouTubeサイト
また、House of Novaの創業者であるNova Lorraine氏の講演では、ファッション業界におけるブロックチェーンと生成AIの活用状況について紹介されました。Lorraine氏は、ファッション業界でのAI関連市場は年平均42%成長し、2027年には37.2億ドルの規模に達するという予測を紹介し、AIが顧客の志向に応じたパーソナライゼーション、在庫最適化、デザイン生成に活用されていることを説明しました。また、ブロックチェーンの活用により、真正性の証明(ブランド品の偽造・模倣品の対策)、透明性の向上(サプライチェーンの追跡、持続可能性の対策)、生産効率性の向上(グッチでは水やエネルギー効率を改善)が取り組まれていることが説明されました。
画像:Future Blockchain Summmit公式YouTubeサイト
上記以外のトークセッションや講演でもAI利用についての話題が多く上りましたが、AIはあくまでもツールであり、人々を完全に代替するものではないこと、利用する側の人間の倫理性やデータ保護などが重要であることなどが多く指摘されていました。
web3ゲーム
AIに加えて大きな注目を集めていたのが、web3ゲームです。デジタルエンターテインメントの新しいフロンティアとして近年ドバイでも大きな成長を遂げている分野です。
画像:Future Blockchain Summmit公式サイト
ドバイの自由貿易特区(フリーゾーン)の一つであるドバイ・マルチ・コモディティ・センター(DMCC)では、2022年12月にゲーミングセンター(DMCC Gaming Centre)を新たに設置し、各国からのゲーム関連事業者(eスポーツ含む)の誘致に力を入れています。
FBSでは、DMCCの会長を務めるAhmed Bin Sulayem氏が基調講演を行い、L1ブロックチェーンのソラナ(Solana)がDMCCのエコシステム・パートナーに新たに加わったことを発表した他、ベンチャーアクセラレーターのブリンク(Brinc)による1.5億ドルのweb3/ゲーミングファンドの運用開始や、仮想通貨取引所のバイビット(Bybit)とDMCCが共催したハッカソン(対象分野:web3ゲームなど)を開催したことを報告しました。同氏は、DMCCが最近発表した新たな報告書『Future of Trade(ゲーム業界編)』にも言及し、web3ゲームの成長可能性が極めて大きいことを強調しました(なお、この報告書では、2027年までに中東アフリカ地域のデジタルゲームの市場規模が2021年と比較して倍増すると予測しています)。
また、FBS開催後の11月2日、ドバイ政府は、ドバイを世界のゲーム産業のトップ10都市に成長させ、ゲーム関連で新たに30,000人分の雇用を創出することを目標に「Dubai Program for Gaming 2033」を発表しています。
関連記事:
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持続可能性
前回の記事でもご紹介した通り、FBS開催地のドバイでは11月30日からCOP28(第28回気候変動枠組条約締約国会議)が開催されることもあり、今回のFBSでは気候変動対策や持続可能性についても焦点が当てられました。
FBSの最終日には「Enterprise Blockchain & Climate Action(企業のブロックチェーン技術を活用した気候変動対策)」というテーマで複数のパネルディスカッションが開催され、ドイツ、米国、オーストラリア、オーストリア、オランダ、UAE、パキスタン、シンガポール、インド、イタリア、フランス、カナダ、英国など多様な国からの登壇者が、サプライチェーンマネジメントの効率化、カーボンクレジット取引や監査、データセキュリティ、エネルギー移行への分散型台帳技術(DLT)の活用について議論を行いました。
特に存在感を示していたのがスロベニアからの参加者です。スロベニア政府(経済観光スポーツ省)は、今年の6月にFBSとパートナーシップ協定を結んでおり、COP28のスロベニアのパビリオンで気候変動対策に関する展示プログラムを合同で実施する予定です。FBSの会場でも、スロベニア政府がブースの出展を行い、スロベニアのweb3企業(仮想通貨決済のカードの発行など金融包摂に取り組むNAKA、デジタル資産の取引プラットフォームを提供するPalmatrix、分散型ナレッジグラフのソリューションを提供するorigin tail)による取り組みを紹介していました。
FBSに登壇したスロベニア経済観光スポーツ省Nena Dokuzov氏(画像:FBS公式サイト)
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web3業界とドバイ
最後に、web3業界で高まるドバイの存在感も特筆すべき点と言えるでしょう。ドバイは国外から積極的に投資や人材を誘致する戦略をとっていて、FBSの機会を捉えてドバイの暗号資産を取り巻く環境が整っていることを積極的に対外発信していました。DMCC会長のAhmed Bin Sulayem氏も、ドバイのリーダーシップ、規制機関(VARA)、公的機関によるサポート体制が、ドバイをweb3業界の新たな中心地としている重要な要素として挙げていました。特に、ドバイが取り組んでいる暗号資産に関わる規制枠組みの整備については、チェーンアナリシスのCaroline Malcolm氏やUAE拠点のM2のCEOを務めるStefan Kimmel氏も、今後暗号資産の利用が拡大していく上で極めて重要であると指摘していました。
FBSには世界各地の暗号資産の規制にかかわる関係者が参加し、フィンテック分野での国境を越えた連携を模索する動きも見えています。例えば、今年の9月には、ドバイの経済観光省(Department of Economy and Tourism: DET)と香港の金融サービス財務局(Financial Services and the Treasury Bureau)が、ドバイと香港間の金融分野の協力に関する覚書(MoU)を締結しています。 このMoUにより、2都市は金融政策に関する対話やフィンテック産業(暗号資産分野含む)の発展に向けた協力、能力開発、知見の共有、共同研究などを進めるとしています。
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まとめ
ドバイでは年間を通して様々な会議やイベントが開催されていますが、参加者はこのような機会をうまく捉えて世界各地の業界関係者とのネットワーキングを積極的に進めている様子を垣間見ることができました。FBSは、各参加企業の最新の取り組みを知るだけでなく、ダイナミックな議論から新たなアイディアやイノベーションを生み出す場としても機能していると言えます。2024年のFBSの受付は公式ウェブサイト(問い合わせフォーム)から可能ですので、関心をお持ちの方は是非確認してみてください。