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今年の夏は観測史上最も暑い夏となりました。世界の平均気温は上昇を続けていて、地球温暖化の影響は世界各地で熱波、山火事、豪雨、洪水などの災害となって顕在化しています。気候変動対策は、待ったなしの状況です。そんな中、今年の気候変動枠組条約締約国会議(COP)がアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで11月30日から開催されます。会議を目前に控え、現地では気候変動対策へのブロックチェーン活用に向けた議論が進んでいます。本記事では、気候変動対策におけるブロックチェーン活用の可能性や、COP28に向けた取り組み状況を紹介します。

 

気候変動とCOP

深刻化する気候変動

今年の夏(6月〜8月)は日本の観測史上最も暑い夏となりましたが、これは日本に限ったことではありません。アメリカ航空宇宙局 (NASA)によると、今年の夏は地球全体でも史上最も暑い夏であり、1951年から1980年の6月〜8月の間の平均気温と比較して1.17度高い気温を記録しました。

画像:NASA Earth Observatoryウェブサイトより

さらに、Yale Climate Connectionsの記事によると2023年9月は同月の平均気温としてこれまでで最も高く、月間気温が産業革命前のレベルよりも1.5度以上上回ったのは初めてとされています。気候変動は世界各地で熱波、旱魃、山火事、豪雨、洪水などの自然災害を引き起こし、甚大な被害をもたらしています。今年9月にNature Communicationに掲載された研究では、過去20年間の気候変動に起因する異常気象の世界的な被害額は、年間1,430億ドルと推定されています。

COPの概要と目的

COPは国連が主催する気候変動対策の会議で、正式には「国連気候変動枠組条約(UN Framework Convention on Climate Change: UNFCCC)締約国会議(Conference of the Parties: COP)」といいます。1994年に発効したUNFCCCに基づき、1995年から毎年COPが開催されています。

2015年にフランスで開催されたCOP21で採択されたパリ協定により、先進国、途上国の区別なく、あらゆる国が温室効果ガス(GHG)排出削減等の気候変動の取り組みに参加する枠組みが導入されました。パリ協定の下、世界の平均気温上昇幅を産業革命前のレベルと比較して2度より十分に下回る程度に抑え、1.5度に留めるように努めることが目標となっています。しかし、上記の通り世界の気温上昇は進行を続け、このままでは1.5度の目標達成は厳しいと指摘されています。更なる気温上昇は自然災害の発生確率を急速に拡大させることから、対策強化が急務となっています。

COP28の主な論点

4つの気候変動対策の議論の柱

今年の気候変動対策会議となるCOP28は、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで11月30日から12月12日まで開催されます。今回のCOPでは、下記の4分野が議論の柱として設定されています(詳しいプログラムは公式ウェブサイトをご参照ください)。

  1. クリーンエネルギーへの急速な移行(Fast-track the energy transition)
    再生可能エネルギーへの移行や化石燃料の段階的廃止、エネルギー効率の改善、手頃な価格で信頼性の高いエネルギーへのアクセスなど。

  2. 気候金融の変革(Fix climate finance)
    影響緩和に必要な資金の調達、途上国の気候変動への適応、COP27で設立された気候変動の悪影響に伴う損失と損害の基金(Loss and Damage Fund)への拠出や運用など。

  3. 自然、人間、生活へのフォーカス(Focus on nature, people, lives, and livelihoods)
    今回の会議では、COPとして初めて「健康」や「救済、回復、平和」がテーマとして取り上げられています。特に気候変動対策において、厳しい状況にある脆弱な立場にある人々の生命や暮らしへ焦点があてられます。

  4. 包摂性(Full inclusivity)
    すべての人々、特に若者、女性、先住民の発言権とニーズについても取り上げられます。

今回のCOP28が重要な理由

COP28では、パリ協定の下で、5年ごとに世界全体としての実施状況を検討する仕組みである「Global Stocktake(GST)」が初めて実施されます。これまでにGSTにかかる情報収集、技術評価が実施されていますが、9月に公開された技術評価の報告書は、現在の世界の排出量がパリ協定の目標の軌道を外れていると警告しています。GSTの最終プロセスであるハイレベルでの検討がCOP28で実施されますが、気候危機の緊急性を考えると、気候変動対策を推進するための強力なコミットメントが必要になっています。

参考:GSTについての詳細は、こちらのサイトをご参照ください。

気候変動対策におけるブロックチェーンの活用の意義

遅々として進まない気候変動対策。その動きを加速させる技術として注目されているのがブロックチェーンです。ブロックチェーンの活動自体の環境負荷を削減する動き(Ethereumpolygonrippleなど)もありますが、この技術を気候変動対策全体の透明性、信頼性、効率性、アクセシビリティの向上に活用させることへの期待が大きくなっています。

ダボス会議の開催で有名な世界経済フォーラムは、2023年4月に気候変動対策とブロックチェーンに関する報告書を公開しています。(画像:世界経済フォーラムのウェブサイトより)

透明性と信頼性の強化

ブロックチェーンは取引の透明性を高めることができるため、炭素排出量や再生可能エネルギーの取引記録を公開し、検証可能にすることができます。「測定、報告、検証(MRV)」は、気候変動対策の分野で使用されるフレームワークの一つで、国や組織が自分たちの気候変動対策の取り組みを透明性と信頼性のある方法で評価・報告するための手段として導入されていますが、ブロックチェーンはMRVに下記のような形で活用が可能となっています。

  • データの透明性と不変性:GHGの排出量の測定データなどが正確に、そして改ざんされずに記録・保存されることが保証されます。これは GHGの測定量に限ったものではなく、電力や水の消費量、リサイクルやクリーンエネルギー利用など、様々なデータの追跡がより可能になります。
  • 検証可能性:ブロックチェーンの公開的な性質とデータの不変性により、第三者が報告されたデータの正確性や信頼性を効率的に検証することが可能になります。これは、気候変動対策交渉において、利害関係者の信頼構築に貢献することも期待されています。

カーボンクレジット市場の拡大と資金調達

多くの企業が「ネットゼロ」の達成に向けた取り組みを進める中、注目されているのがカーボンクレジット市場です。カーボンクレジット市場は、コンプライアンス市場(CCM: Compliance Carbon Markets)とボランタリー市場(VCM: Voluntary Carbon Markets)の2つに大別され、CCMは、国・地域や国際機関が設定する排出削減義務や排出量報告制度などの規制・制度に基づいてGHGの排出権が取引される市場、VCMは企業や個人が温暖化対策で削減したGHGの量をカーボンクレジットとして認証し、それを自主的(ボランタリー)に取引する民間主導の市場になります。

ブロックチェーンは、カーボンクレジット市場全体の透明性を高めることに加えて、信頼性のあるVCMを構築するのに貢献することが期待されています。国際金融協会(IIF)のVCM拡大に関するタスクフォース(Taskforce on Scaling Voluntary Carbon Market:TSVCM)が発表した報告書によると、VCMのカーボンクレジッドに対する国際的な需要は2030年までに15倍、2050年までには100倍に拡大すると予想されています。ただし、VCMのクレジット供給量が増加する需要に追いつかなくなるのではないかという見方や、VCMのクレジットの質が必ずしも担保されていないといった懸念も指摘されています。

画像:McKinsey & Company ウェブサイトより

今年4月に発表された世界経済フォーラムの報告書では、ブロックチェーンがカーボンクレジットについての情報を透明性のある形で開示することで、信頼性を担保したVCMの拡大を促進できるとしています。情報の信頼性が向上することにより、クレジットの買い手側のリスクが抑えられ、気候変動対策への資金調達にもつながるのではないかとの期待も膨らんでいます。

取引コストの削減

カーボンクレジットの取引の効率化も重要な点です。カーボンクレジットの取引をブロックチェーン上で実施することにより、取引の仲介者が不要となり、取引コスト(費用や時間)を抑えることができます。スマートコントラクト(特定の条件が満たされたときに自動的に実行されるプログラム)を利用して、例えば炭素排出量が特定の基準を下回った場合に報酬を自動的に支払うといった取引を実行することも可能となります。ブロックチェーンの利用により、国際的なカーボンクレジットの取引や再生可能エネルギーの取引が、より迅速で効率的に行うことができるのではないかと注目されています。

気候変動対策の民主化を促進

現在のカーボンクレジット市場は政府や大企業が主な関係者となっていて、多くの市民にとっては馴染みのあるものとは言えないでしょう。気候変動対策を加速するためには、個人や小規模の組織も参加しやすい取り組みが必要となっています。

ブロックチェーン技術の利用で、市民が気候変動対策に参加し、その取り組みを公開・共有する動きが広がることも今後有望視されています。また、ブロックチェーンによる参加型の取り組みは、若い世代による気候変動対策を促進することも期待されています。

なお、ブロックチェーンと環境については、本ブログでこれまでにも取り上げているトピックです。下記記事もご参照ください。

また、下記サイトでもブロックチェーン技術の気候変動対策への活用を包括的に取り上げています。

COP28に向けた取り組み事例

COP28の開幕が近づき、開催地であるドバイでは、ブロックチェーンの気候変動対策への活用についての議論が活発に行われています。ここでは、ドバイで10月中旬に開催されたFuture Blockchain Summitでも取り上げられた取り組みを紹介します。

 

画像:10月にドバイで開催されたFuture Blockchain Summit(著者撮影)

GloCha (Global Challenges)

GloChaは、地球規模の課題解決を目指す個人や団体によるネットワークで、ブロックチェーンなど先端技術を活用した取り組みを進めています。このネットワークはUNFCCC事務局に認定された非営利組織であるIAAI (International Association for the Advancement of Innovative Approaches to Global Challenges)により運営されていて、特に若者の参加に力を入れています。(より詳しい情報はこちらのサイトをご参照ください。)

DigitalArt4Climate

GloChaの活動で特に注目が集まるのが、気候変動対策のためのNFTを活用したイニシアチブ「DigitalArt4Climate」です。2021年に英国で開催されたCOP26以降、気候変動をテーマとしたデジタルアートのコンペティションを実施しています。COP26の入賞作品はNFTとして販売され、販売収益はアーティスト(15%)、Youth Climate Action Fund (35%)、Action for Climate Empowerment (ACE) / GloChaのインフラストラクチャー(50%)に分配されています。

ドバイで実施されるCOP28では、「楽しみながら学ぶ(エデュテインメント)」を意識した「DigitalArt4Climate Edutainment hub」が企画され、学校やユースセンターなどで若者を対象にデジタルスキルの育成支援の活動が予定されています。

これまでのDigitalArt4Climateの作品はこちらから確認できます。https://digitalart4climate.space/#rec374020001

What is DigitalArt4Climate

United Citizens Organization (UCO)

GloChaは、気候変動対策に向けたエンパワメントのための市民連合(United Citizens Organization: UCO)というDAOの組成にも取り組んでいます。UCOは、2021年に英国グラスゴーで開催されたCOP26にてその構想が発表されたもので、公共部門と民間部門の連携の下で、世界中の特に若い環境活動家がより公平で効率的な形で資金調達をすることにより、彼らの気候変動対策のアイディアを実現することを目指しています。

このDAOには環境活動家や彼らを応援する人々が参加し、上述のDigitalArt4ClimateのNFTを購入した人や、他の活動を通じて気候変動対策に資金提供をした人が、このDAOへの参加資格を得ることができます。

報道記事(コインテレグラフ)

https://cointelegraph.com/news/united-citizens-organization-launches-as-a-blockchain-initiative-at-cop26

Hack for Earth

Hack for Earthは、SDGの達成のためのハッカソンです。Hack for Swedenを前身としていて、Hack for Earthに拡大後は、ドバイEXPOとエジプトのCOP27でグローバルハッカソンを開催しています。前回COP27のハッカソンでは、125ケ国から1,000人を超える若者が参加し、選抜された7チームがHack for Earthのアクセラレーションプログラムに参加しています。

Hack for Earthで扱う技術は必ずしもブロックチェーンに限ったものではありませんが、ブロックチェーンを活用した新たな気候変動対策のアイディアが出てくることも期待されています。COP28は3回目のグローバル・ハッカソンとなり、以下の8つのテーマで参加者を募集しています。

画像:Hack for Earthウェブサイトより

The Green Block

最後に、COP28の開催地であるドバイでの取り組みを紹介します。ドバイを拠点とするCrypto Oasis Ventures と、国際的なコンサルティングファームのローランド・ベルガーが、2023年6月20日に新たなイニチアチブとして「the Green Block」の立ち上げを発表しました。Web3の領域内で、環境、社会、ガバナンス(ESG)分野のプロジェクトを育成し、エコシステムの形成を目指しています。現在は、ESG関連情報の収集、対外発信、NFTの販売を実施しているほか、イベントの開催なども行っています。

Crypto Oasisは、スイスのツークを拠点とするCrypto Valley Associationとも協力関係にあり、2023年9月に開催されたSWISS WEB3FEST 2023では、the Green Blockイニシアチブのヨーロッパでのローンチが発表されています。中東から欧州へと広がっているこちらのイニシアチブは、今後の動きが注目されます。

The Green Blockウェブサイト

The Green Block立ち上げを報じる現地情報誌サイト

画像:The Green Blockウェブサイトより

おわりに

本記事に記載したとおり、ブロックチェーン技術が気候変動対策を加速するポテンシャルは非常に高いと言えます。ただし、ブロックチェーンに関係する法律や規制フレームワークの整備がまだ進んでいない国も多く、VCMでのカーボンクレジット取引についても今後国際的な指針や標準化が課題となってくると思われます。

COP28の開催国であるUAEは産油国ではありますが、GHGの排出量を2050年までにネットゼロを達成することを目標に掲げています。UAEの今後の気候変動対策におけるブロックチェーンの活用動向についても、引き続き注目していきたいと思います。

株式会社ガイアックスweb3事業本部リサーチャー
過去10年以上国際開発協力に従事し、国内外の社会課題の解決に関心を持っている。web3時代の新たな国際協力や関係人口創出の形としてDAOにポテンシャルを感じ、ガイアックスに参画。ドバイ在住。

ドバイ気候変動環境

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