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本記事では、2020年4月に立ち上げられたEthereumと関連プロジェクトに投資するベンチャーキャピタルDAOについて、The LAOが公開しているドキュメントをもとに、The LAOとはどのようなDAOなのか、どのような仕組みで運用されているのか、今後の展望について解説します。

 

The LAOとは 

長くブロックチェーン・暗号通貨界隈にいる方の中には、The LAOと聞いて、一文字違いの「The DAO」を思い出したという人もいるかも知れません。The DAOは2016年にEthereum上でローンチした初期の分散型自律組織(DAO)で、スマートコントラクトを使って投資家から資金を集め、分散型の意思決定による投資を試みました。しかし、ハッキングにより約360万ETHが流出し、プロジェクトは破綻しました。ハードフォークにより、損失は取り戻されましたが、The DAO事件は特定の人の利害のためにEthereumハードフォークを招いた事件として記憶されることとなりました。

The LAOは分散型自立組織ですが、初期段階では、スマートコントラクトと従来の法的契約を統合するプラットフォームを提供するOpenLawの支援を受け、2020年4月にローンチしました。

The LAO

The LAOとThe DAOには直接的な関係はありませんが、The LAOのウェブサイトには、The DAOの精神を受け継いでいることが明記されています。分散型ベンチャーキャピタルというアイディアは受け継ぎつつも、アメリカの法律に基づいてデラウェア州の有限責任会社として立ち上げられた投資DAOと見るとよいでしょう。

The LAOのウェブサイトでは、ポートフォリオとして100を超えるさまざまな分野のEthereum関連のプロジェクトが掲載されています。中には有名プロジェクトの名前も見られます。投資額は1件あたり25,000ドルから250,000ドル(本記事執筆時点のレートで約3750万円から3億7500万円)とされていて、The LAOは数十億円から数百億円規模の投資を行っているとみられます。

The LAOのメンバーは資本金をプールし、プロジェクトに投資し、投資収益の配分を受けます。誰もがThe LAOに投資家として参加できるわけではなく、アメリカの適格投資家の基準を満たした最大99人の投資家に限られています。The LAOのウェブサイトに掲載されたポートフォリオ数や1件あたりの投資額から推定すると、投資額は310ETH(本記事執筆時点のレートで約1億8600万円)からとされています。

 

The LAOのしくみ 

The LAOは、DAOでありながら、アメリカのデラウェア州の有限責任会社(LLC)として法的に組織されています。このような構造により、メンバーは法的保護を享受しつつ、分散型の意思決定プロセスに参加できます。The LAOでは、MolochDAO v2のスマートコントラクトが採用され、効率的かつ透明性の高いガバナンスを目指しています。

The LAOのメンバーになるには、米国証券法に基づく適格投資家の基準を満たす必要があります。たとえば、個人の場合、年収が過去2年間で20万ドル以上、または純資産が100万ドル以上(自宅を除く)であることが条件となります。メンバーになりたい人や組織は、必要書類をアップロードの上、KYC、AML、アメリカ・財務省外国資産管理室のチェックを受ける必要があります。

申し込みが承認されると、メンバーはThe LAOの分散型アプリケーションを利用してThe LAOの活動に参加します。はじめにユニットという単位に相当するETHをThe LAOに送金し、保有するユニット数に応じて投票権が与えられます。原則的にこのユニットを譲渡することはできません。メンバーは投票権を行使して、The LAOの意思決定に参加します。メンバーはすべての投票に参加する必要はなく、投票を棄権したり、投票を他のメンバーに委任することもできます。

投票は、スマートコントラクトで処理され、すべての記録はEthereumブロックチェーンに記録されます。Snapshotのようなガス代がかからない投票ツールも実装しているとされています。投資収益については、各メンバーが保有するユニットの数に基づいて比例配分で収益を受け取ります。

The LAOはサービス費用として、一年目は投資額の2%を、その後、費用は減額され、5年目以降は0.7491%をメンバーから受け取ります。数百億円規模の投資を行っているとして、1%ほどの手数料を受け取っていると、The LAOの年間収益は数億円と見られます。

投資を受けたいプロジェクト側は、プロジェクト名と連絡先情報、既存の投資家、設立情報、プロジェクトのスマートコントラクトアドレスといった情報とともにThe LAOに投資を申請します。The LAOのメンバーの過半数が資金提供の提案を承認した場合、プロジェクトは資金を受け取ります。

 

The LAOの今後

The LAOは今後の展開を明確に示していませんが、2024年12月現在、暗号通貨市場が再び注目を集める中、今後もEthereum関連を中心とした有望なプロジェクトへの投資を進めていくと考えられます。投資家の数に上限を求めていることから急拡大の可能性は少ないものの、これまでの投資実績やDAOとしての透明性を活かし、存在感を示していくことでしょう。

The LAOの活動は、これまでのベンチャーキャピタルの在り方に一石を投じる可能性があります。2000年代のベンチャーキャピタルの台頭、2020年代初頭のサイクルで見られた閉鎖的で不透明なクリプトベンチャーキャピタルとは異なり、The LAOは分散型ガバナンスと透明性を前提にした新しいベンチャーキャピタルのモデルを提示しています。規制遵守の姿勢も、これまでのクリプトベンチャーキャピタルと一線を画しています。

The LAOは、DAOが規制と分散型の本質をどのように両立させるかという課題に取り組むプロジェクトとして、今後の展開に注目したいところです。

 

おわりに

本記事では、法規制を遵守しながら投資DAOを実現し、すでに投資活動を行っているThe LAOについて紹介しました。The LAOがその精神を受け継いでいるとされるThe DAOは、2016年にハッキングによる大量の資金流出事件を引き起こし、その結果、Ethereumのハードフォークが実施されました。それから8年、暗号通貨分野では4年ごとのサイクルを2回経て、多くの人々や組織が暗号通貨やブロックチェーンの分野に参入するようになりました。各国で法規制が整備され、投資家保護やマネーロンダリング防止の仕組みが求められるようになっています。そのような中で、The LAOのような「行儀のよい」投資DAOが登場したのは、自然な流れといえるでしょう。

しかし一方で、筆者は16年前に発表されたビットコインのホワイトペーパーに描かれた「純粋なピアツーピアの電子キャッシュ」という理想からは、一部乖離があるようにも感じます。インターネットの普及の過程で初期の理念が変化していったように、暗号通貨の世界でも同様の変遷が起きつつあるのかもしれません。

暗号通貨が再び注目を集める中、The LAOに続く投資DAOが現れることでしょう。DAOにおける分散性や匿名性がどのように保たれるのか、あるいはそれがどう変化していくのか。これからのDAOの発展と進化に注目していきたいです。

エンジニアの経験と情報学分野での経験を活かして、現在はドイツにてフリーランスで翻訳・技術解説に取り組む。2009年下期IPA未踏プログラム参加。2016年、本メディアでの調査の仕事をきっかけにブロックチェーンや仮想通貨、その先のトークンエコノミーに興味を持つ。

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