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誤情報とフェイクニュース:ブロックチェーンやDAOによる対策事例

現在の情報化社会において、誤情報やフェイクニュースなどの偽情報がもたらす影響はますます深刻化しています。ブロックチェーン技術や自律分散型組織(DAO)は、誤情報や偽情報への対策としてどのように活用できるのでしょうか。ブロックチェーンの透明性と不変性、DAOの自律性と参加型の特性を活かすことで、情報の信頼性を高める取り組みが世界中で模索されています。本記事では具体的な事例を紹介しながら、その効果と可能性を探ります。 「誤情報」と「偽情報」との違い そもそも誤情報と偽情報は、何が違うのでしょうか。誤情報(misinformation)は、間違いによって作成され広められる情報です。これは、その情報が間違っていることに気づかずに拡散してしまうもので、意図的なものではありません。実際の出来事や事実が文脈を外れて解釈されたり、偶然に誤った情報が伝えられたりする場合に発生します。一方、偽情報(disinformation)は、意図的に作成され、広められる情報を指します。ディープフェイクやフェイクニュース、デマ、プロパガンダなどは偽情報に該当します。偽情報は、特定の目的を持つ人々によって広められます。 世界経済フォーラムが発表した「グローバルリスク報告書2024年版」では、今後2年間の最大のグローバルリスクとして、誤情報と偽情報が挙げられています。この報告書は、約1,500人のグローバルリスクの専門家、政策立案者、業界のリーダー(「グローバルリスク・コンソーシアム」のメンバー)に対して行われた調査結果に基づき、現在世界が直面している最大のリスクとして認識されているものを集計しています。 画像:世界経済フォーラムグローバルリスク報告書2024年版より 誤情報と偽情報のリスクが高まっている背景として、生成AIなど高度化する技術の普及により情報の改ざんが容易になっている点が挙げられます。加えて、今年(2024年)は「選挙の年(Year of Elections)」とも言われるように、世界の80ケ国以上で投票が実施される(参考記事)こともこれらのリスクへの注目の高まりの背景にあると言えます。選挙期間中は、意図的に誤った情報が拡散されることで、有権者の判断が歪められる可能性があることから、偽情報による政治的分断のリスクが高まっていると懸念されています。さらに、世界各地で発生している自然災害や紛争などに関連した誤情報や偽情報も多く広まっていることも、リスクが高まっている要因と言えるでしょう。 誤情報やフェイクニュースに対する取り組み 誤情報やフェイクニュースなどの偽情報に対する懸念が高まる中、世界各地で様々な取り組みが行われています。 AI規制法案 まず、ディープフェイクの生成などに用いられているAIの利用について規制しようという動きが挙げられます。ヨーロッパでは、欧州連合(EU)の加盟国からなる閣僚理事会が、今年5月21日にAIを包括的に規制する法案(AI法案)を承認しました。生成AIの提供企業にAI製であることを明示させるなど、透明性の担保を求める内容となっていて、2026年には全面適用が開始されます。EUのAI法案は、世界でも初めてのAI規制法案となりますが、今後ヨーロッパ以外の地域や国でもAI規制にかかわるルールが導入されることが予想されます。 関連情報: JETRO ”EU理事会、AI法案を採択、2026年中に全面適用開始へ” コンテンツ認証 AI規制と合わせて注目されているのがコンテンツ認証技術です。各コンテンツが人間によって作成されたのか、または機械によって作成されたのかを判断するために、コンテンツにラベルを付けることを目的とした技術です。コンテンツ認証に力を入れている企業の1つがAdobeです。同社は、デジタルメディアの透明性を確保し、誤った情報や偽情報の拡散を防ぐために、コンテンツ認証イニシアチブ(CAI)やコンテンツの来歴と真正性のための連合(C2PA)を立ち上げ、運営しています。 コンテンツ認証イニシアチブ(CAI) コンテンツ認証イニシアチブ(CAI)は、2019年にAdobe、The New York Times、X(当時はtwitter)によって立ち上げられた取り組みで、デジタルメディアの透明性を保証し、コンテンツの生成と変更の履歴を追跡するメタデータを組み込むことで誤情報や偽情報に対抗するシステムを開発しています。このイニシアチブは、オープンソースの開発方法を推進し、特に情報の起源を明らかにすることで偽情報に対処することに焦点を当てています。CAIには、メディア、テック企業、NGO、学術機関など現在55ヶ国以上から1,500を超えるメンバーが参加しています。CAIに参加するNikonが、同じくCAIに参加するAFP通信と協働し、Nikonが開発中の来歴記録機能の報道分野における実用性検証を開始するといった動きも出ています。​  画像:コンテンツ認証イニシアチブ(CAI)のウェブサイト コンテンツの来歴と真正性のための連合(C2PA) コンテンツの来歴と真正性のための連合(C2PA)は、米国のNPOであるジョイント・デベロップメント・ファウンデーションが主導するプロジェクトで、コンテンツ認証イニシアチブ(CAI)とプロジェクト・オリジン(​​2018 年に BBCが CBC/Radio-Canada、The New York Times および Microsoftとともに発足)の活動を統合していて、デジタルコンテンツのソースと履歴を認証するための技術標準を作成することを目的としています。C2PAは、さまざまなプラットフォームやクリエーターが実装できる統一されたコンテンツ認証のアプローチを提供し、ウェブ全体のメディアの透明性と完全性に焦点を当てています​。 画像:コンテンツの来歴と真正性のための連合(C2PA)のウェブサイト CAIとC2PAは、どちらもデジタルメディアの信頼性を向上させることを目的としていますが、CAIはデジタルコンテンツの透明性を高めるためのシステムを構築し、クリエーターが自身の作品に対する著作権を主張できるようにすることに重点を置き、C2PAはデジタルコンテンツの来歴に関するオープンなグローバル標準の開発と普及に焦点を当てていると言えます。お互いを補完するような形で活動をしており、実際にCAIのウェブサイトで公開されているCAIのオープンソースSDK(ソフトウェア開発キット)は、C2PA基準に基づいたコンテンツ認証情報を作成、検証、表示するためのツールとライブラリのセットとなっています。(CAIのオープンソースSDKはこちらに公開されています。) 関連情報: Adobe コンテンツ認証情報 Nikon プレスリリース「AFP通信と協働し、ニコンのカメラへの来歴記録機能搭載に向けた検証を開始」(2024年1月) ブロックチェーン技術を活用した取り組み事例 次に、誤情報やフェイクニュース対策において、ブロックチェーン技術がどのように活用されているか見てみましょう。 まず、ブロックチェーン技術による透明性と不変性は、情報の信頼性を確保するために極めて重要だと言えます。例えば、ブロックチェーンにニュース記事や公的記録などのデジタルコンテンツを記録することで、データの改ざんを防ぎつつ、公開情報の変更履歴や閲覧者の記録を透明に管理することが可能になります。これにより、情報がどのように生成され伝えられてきたかが明らかになり、不正確な情報や意図的に操作された情報を容易に特定することが可能になります。 さらに、ブロックチェーンは分散型ネットワークであるため、中央機関に依存することなく情報の正確性を確認できます。DAOを活用すれば、コミュニティ主導での情報検証システムの構築が可能となり、特定の組織や個人による情報操作のリスクが軽減され、情報の公正性が保たれます。また、スマートコントラクトを使用することで、誤情報やフェイクニュースの検証プロセスを自動化し、より効率的かつ確実に実行することができます。 具体的な事例 誤情報やフェイクニュースの対策のためにブロックチェーン技術が活用されている具体的な事例をご紹介します。 初期の取り組み(2010年代後半) Civil (Civil Media Company) ブロックチェーン技術を使って、ジャーナリズムの信頼向上を目指した初期の取り組みとして、Civilが挙げられます。Civilは、ベンチャー企業であるCivil Media Companyによって2016年に設立された分散型メディアプラットフォームで、ブロックチェーン技術を活用してジャーナリズムを支援することを目的にしたプロジェクトです。独自の仮想通貨CVLトークンを発行し、メンバーはCVLトークンを買うことで投票権を獲得し、信頼できるニュースの評価や異議申立てができるようになるというもので、一時は100人以上のメディア会員数を抱えるまでに成長し、イーサリアム・ブロックチェーン上に記事を保存するなど、新しいメディアのあり方を切り開いていました。他方、2018年にICOが失敗し、その後Consensysから追加融資を受けるものの独立した運営を持続することが出来ず、残念ながら2020年にはCivilは閉鎖となってしまいました。残念な結果にはなってしまいましたが、従来のような広告報酬に頼らない「持続可能なジャーナリズム」という新しいビジネスモデルを打ち出したという点で、注目に値する事例であると言えます。 関連情報: Civilの閉鎖についての公式アナウンスメント:”Ending the Civil Journey” Coin Post 「ブロックチェーンベースのジャーナリズム支援プラットフォーム「Civil」が幕を閉じる」(2020.6) あたらしい経済 「ジャーナリズムの改善を目指した分散型メディアプラットフォーム「シビル(Civil)」がプロジェクト終了」 大手ニュースメディアによる取り組み Civilのようなベンチャー企業による取り組みとは別に、大手のニュースメディアがブロックチェーン技術を活用する動きが2010年代の終わり頃から拡大しています。 The News Provenance Project 「ニュース・プロビナンス・プロジェクト(the News Provenance Project: NPP)」は、The New York TimesとIBMの協力により2019年に開始したプロジェクトで、ニュースコンテンツの出所を明確にすることで、偽情報の拡散を防ぐことを目的としています。NPPの概念実証(PoC)では、特に報道写真の来歴に注目し、報道機関が公開した写真のメタデータをブロックチェーン(Hyperledger Fabric)に記録する試みを行いました。それぞれの写真がいつ、どこで、誰によって撮影されたのか、またどのような編集が加えられたかの履歴が残り、読者が写真の情報を自ら確認することができるという取り組みです。PoCで仮に作成されたソーシャルメディアプラットフォームはこちらのサイトで確認することが出来ます。 画像:NPPウェブサイトより。ブロックチェーンに保存されたメタデータにより、ユーザーは写真の来歴を確認したり、類似の写真と照合したりすることができる 関連情報: Introducing the News Provenance Project The Brown Institute for Media Innovation “A technology of trust in a trustless information economy: Insights into The News Provenance Project” ANSACheck ブロックチェーン技術を使って、メディアの信頼向上を図る動きは欧州にも広がっています。イタリアの通信社ANSAは、2020年に大手コンサルティングファームのErnst & Young(EY)と提携してニュースを追跡するためのブロックチェーンプラットフォーム「ANSAcheck(アンサチェック)」を試験的に開発しました。ANSAcheckは、イーサリアムのパブリックブロックチェーン上で動作するEY OpsChainトレーサビリティソリューションをベースにしていて、ニュース記事がプラットフォーム内でアップロードされると、テキストのハッシュまたはデジタル フィンガープリントがANSAcheckよって記録されます。記事がウェブサイトやその他のプラットフォームで公開されると、テキストは再ハッシュ化され、既存のハッシュと比較され、ハッシュ化されたデータが一致した場合に公開された記事にはANSAcheckのデジタルステッカーが貼られるという仕組みになっています。 画像:ANSA Englishより。ハッシュ化されたデータが一致した場合に、記事にANSAcheckのデジタルステッカーが貼られる。 関連情報: EY "How blockchain helps the public see the truth in the story" ANSA “ANSA leveraging blockchain technology to help readers check source of news” あたらしい経済「​​イタリア通信社ANSAがフェイクニュース撲滅のためブロックチェーンプラットフォーム開発」 Capture 欧米のみならず、アジアでもデジタルメディアの信頼性向上のためのソリューションを提供する動きが出ています。特に、台湾のスタートアップであるNumbers Protocolは、デジタルメディアの来歴と真正性の証明に関する技術革新を牽引している企業だと言えるでしょう。Numbers Protocolは、米国で毎年開催される大規模イベントのSXSWのピッチイベントであるSXSW Pitchで、2023年のMetaverse および Web3 部門で最優秀賞を受賞するなど世界的に注目を集めていて、C2PA規格やEU一般データ保護規則(GDPR)に適応したソリューションをグローバルに展開しています。(Numbers Protocolのより詳細な情報は、こちらのページを参照。) Numbers Protocolの主力製品である「Capture」は、世界で初めての分散型web3カメラアプリで、デジタルコンテンツの認証と登録を行うためのツールとなっています。Captureを使用すると、ユーザーはコンテンツをブロックチェーンに登録し、その出所や編集履歴を追跡できるようになります。これにより、コンテンツが改ざんされていないかどうかを瞬時に確認でき、信頼性の高いデジタル資産を作成することができる他、コンテンツをNFTにして収益化することも可能になります。また、カメラアプリ(Capture Cam)以外にも、デジタルコンテンツを一箇所で管理できる分散型ストレージ機能(Capture Dashboard)や、アプリケーションにブロックチェーン機能を簡単に統合できる開発者向けのツール(Capture SDK)、ウェブサイトのコンテンツの出所を確認できる認証ツール(Capture Eye)も提供しています。(Captureのより詳細な情報は、こちらのページを参照。) Numbers Protocolは、誤情報やフェイクニュースへの対応にも注力していて、ロイター通信、サウスチャイナ・モーニング・ポスト、Starling Lab(スタンフォード大学の電気工学科とUSC Shoah 財団によるイニシアチブ)やRolling Stone誌などに協力しています。2020年の米国の大統領選挙の後の政権移行を記録するためにロイター通信とStarling Labが立ち上げた写真のアーカイブプロジェクト「78 Days」では、Numbers Protocol が提供する画像認証技術や分散型 Webプロトコルが利用されました。また、ロイター通信とStarling LabがCanonと協力して2022年に実施したPoCでは、ロシア軍によるウクライナへの侵攻に関する報道で写真の真正性の証明が検証され、その際にもNumbers Protocol の技術が利用されました。このPoCでは、フォトジャーナリストによって撮影された写真がCanonのカメラによってデバイス固有のキーを用いてデジタル署名が行われ、写真データはメタデータと共に直接ロイターのシステムへ送信されます。そして、認証された画像は公開ブロックチェーンに登録され、FilecoinとStorjプロトコルを用いた暗号化アーカイブにも保存されます。編集過程での各変更はプライベートデータベース(ProvenDB)に記録され、公開台帳(Hedera public ledger)にも真正性が登録され、最終的にC2PA規格で画像ファイルに全ての情報が組み込まれ、公開されるという手順が踏まれました。これらの検証を踏まえて、2022年6月にはStarling Labが国際刑事裁判所(ICC)にロシアのウクライナにおける戦争犯罪の証拠としてブロックチェーンに登録されたデータの提出を行っています。 画像:ロイター通信とキャノンによる画像認証技術のPoCについてのサイトより。C2PA規格で画像ファイルに全ての情報が組み込まれ公開された例(ウクライナ)。 関連情報: Numbers Protocol ホワイトペーパー  Numbers Protocol ユースケース Numbers Numbers Protocol Numbers DAO Starling Lab https://youtu.be/X4komlmuHxk DAOの可能性 このように、様々な報道機関やテック企業により、ブロックチェーン技術を活用してデジタルメディアの信頼性を高め、誤情報やフェイクニュースに取り組む動きが広がっています。加えて、分散化技術の特性を利用して、誰でも参加できるDAOによる取り組みの可能性についても検討が行われています。 DAOによる情報の検証の仕組みについて実用化されている事例はまだ少ないですが、Factland DAOは誤情報に対処するために事実確認プロセスを改善することを目的とした非営利のDAOで、ベータ版のプラットフォームを公開しています。 Factland DAOでは、ユーザーは疑わしい情報を報告し、FACTトークンをステークして調査員(Investigators)や陪審員(Juror)を報酬で支援する仕組みを提供しています。コミュニティメンバーは証拠を収集し、ランダムに選ばれた匿名の陪審員が証拠を審査して評決を下します。Factlandは、クラウドソーシングとトラストレスな検証を用いて迅速でかつ信頼性の高い市民によるファクトチェックを実現することを目指しています。(Factland DAOのホワイトペーパーはこちらを参照。) Factland DAOの仕組みは、下記の4つのステップからなっています。 報告: ユーザーが偽情報の疑いがあるコンテンツを報告し、FACTトークンをステークします。 調査: 調査員が証拠を収集し、情報の真偽を検証します。 陪審: ランダムに選ばれた匿名の陪審員が証拠を審査し、評決を下します。 報酬:…

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ETHDubai 2024 注目のトピックと今後の展望

2024年4月、ドバイでは仮想通貨とブロックチェーンに関連した多くのイベントが開催され、業界の注目を集めました。TOKEN2049 WEEK(2024年4月15日〜21日)、TOKEN2049(2024年4月18日〜19日)やETHDubai(2024年4月20日〜21日)と併せて現地で開催されたミートアップ、ワークショップ、ハッカソンなどでは、世界中から多くの開発者や投資家、起業家が集まりました。一方ドバイでは4月16日に記録的な大雨が降り、洪水や空港の一時閉鎖など珍しいトラブルが発生しましたが、一連のイベントは影響を受けながらも予定通り開催されました。本記事では、ETHDubai2024において特に注目を集めたプロジェクトやトピックを中心に、今年のETHDubaiのハイライトをご紹介します。 ETHDubaiとは 概要 ETHDubaiはイーサリアムに特化したブロックチェーン関連イベントで、ドバイで開催されるのは今回が3回目です。イベントでは、イーサリアムに関係する最新動向や新しい技術やサービスに関する議論が行われた他、ハッカソン、ワークショップ、ピッチデモなどを通じて、主に開発者、起業家、投資家で構成される参加者間でネットワーキングをする機会が提供されました。 画像:ETHDubai会場外観(著者撮影) 今回のETHDubaiのスポンサーは、レイヤー1ブロックチェーンネットワークであるXDC Networkを筆頭に、DeFiプラットフォームのBancorやCarbon DeFi 、分散型AIのためのクラウドサービスであるOORT、分散型アプリケーション(DApps)レイヤー2のコンシューマー向けブロックチェーンであるMorphなどがスポンサーとして名を連ねていました。 画像:ETHDubai2024のスポンサー一覧(ETHDubai YouTubeチャネルより抜粋)。ワークショップ提供団体含む 今年の登壇者とイベント構成 イベントでは複数のステージでトークセッションやパネルディスカッションが同時並行で開催され、合計で100人を超える登壇者が参加しました。登壇者の一覧は、ETHDubaiのウェブサイトにて確認できますが、スポンサーやイーサリアム財団からの出席者に加えて、web3プロジェクトの創業者や部門責任者など多くの人が参加しました。 画像:今年のETHDubai登壇者の例(ETHDubaiウェブサイトより抜粋) トークセッションやパネルディスカッションに加えて、開発者向けのワークショップ、投資家向けピッチイベントとネットワーキング(Demo Day Pitching & VC Speed Dating)、ハッカソンが開催されました。 ハッカソン受賞プロジェクト ハッカソンは、4月19日から21日までの3日間開催され、合計で32のプロジェクトがエントリーしました。各スポンサーが賞金を設定し、今回のハッカソンの賞金は合計で25,000米ドル(日本円で約395万円)となっています。 32のプロジェクトのうち、8つのプロジェクトが今回のハッカソンでスポンサーから賞金を獲得しました。受賞プロジェクトの概要は以下の通りです。 HabibiCross(Chainlink賞、Base賞、Morph賞受賞) ユーザーの仕事や学業における成果に対して迅速に報酬を付与するためのプラットフォーム。ユーザーは自分のデジタルウォレットを紐付け、特定のマイルストーンを設定することにより、これらのマイルストーンが達成されると、自動で報酬が仮想通貨で支払われるというもの。 利用した技術:Solidity、Node.js、Next.js、Chainlink、Biconomy SDK、Web3Auth、XDC、Account Abstraction、CCIP、Morph 詳細はこちらを参照。 Survival Bird(Base賞、XDC Network オープンアイデア賞、Morph賞受賞) 4月16日にドバイを襲った大雨から発想を得たプロジェクトで、嵐の中のドバイの街の中を、ユーザーが鳥に乗って駆け抜けるサバイバルゲーム。プレイヤーは一回のゲームごとに0.01 ETHまたはTXDCを預け入れ、そのゲームで最も高得点を獲得したプレイヤーが、賞金プール全体を定期的に獲得するもの。100ブロックごとに、最も高得点のプレイヤーに賞金が配分される。プレーヤーはゲーム終了後に記念NFT「I survived Dubai NFT(ドバイ生還証明NFT)」を獲得できる。 利用した技術:Solidity、CSS、 Vercel、Next.JS、Base、XDC、Morph 詳細はこちらを参照。   画像:ハッカソン受賞プロジェクト(GitHubページより) Feedback Incentivized(XDC Network トークナイゼーション賞、Neo賞受賞) Feedback Incentivizedは、金銭的なインセンティブを提供することによりユーザーにバグ報告を促すという、バグ報告のためのプラットフォーム。これにより、ユーザーと企業の間で直接的なコミュニケーションが生まれ、迅速な問題解決とプラットフォームの向上に役立つフィードバックが提供される。 利用した技術:Solidity、 Chainlink、React.js、hardhat、Ethers.js、ICP、Base、XDC 詳細はこちらを参照。 Oathentic(Base賞受賞) ソーシャルメディアフィードと、NFT(チケット、メンバーシップ、アート、クーポン)を購入する機能を組み合わせたプラットフォーム。ユーザーは、自分のウォレットに紐づいた資産やイベント参加証明(Proof of Attendance Protocol: POAP)に関係するコンテンツやレビューを投稿して、報酬を得るもの。信頼性が担保されたコンテンツやレビューが確保される他、オンチェーンのソーシャル・プロファイルを利用してサービス提供側はユーザーとの関係をより強固なものにすることが可能となる。 利用した技術:Solidity、Ethers.js、React.js、Appwrite、React Query 詳細はこちらを参照。 TradeTez - SDK & API's for Trade documents(XDC Network デジタルドキュメント賞受賞) 貿易文書の処理を簡素化するプラットフォーム。文書の作成、認証、検証が出来、貿易文書の処理プロセスを効率化し、手続きをスムーズにするもの。​ 利用した技術:Ethers.js、Node.js、React.js、Open Attestation、Open Attestation CLI 詳細はこちらを参照。 EcoCrowdChain(Neo賞受賞) サステナビリティを強化する取り組みへの資金提供の方法を革新するエコ・クラウドファンディングプラットフォーム。 利用した技術:Javascript、Ethers.js、web3.js 詳細はこちらを参照。 Zkomm(Gnosis賞受賞) 個人情報を明かさずに接続し、DAOの設立と管理を簡素化するプラットフォーム。カスタマイズ可能なガバナンス設定(柔軟な投票メカニズムとトークンゲート付きのリソース管理、匿名グループへのアクセスなど)、ユーザーフレンドリーなインターフェース、透明性の確保などを提供しているもの。ガイアックスもDAO組成のオールインワンツールであるDAOX(ダオエックス)を提供していますが、DAO導入は国外でも関心のあるテーマであることがうかがえます。 利用した技術:Next.js、Chakra UI、Base、Gnosis、XDC、Morph 詳細はこちらを参照。 画像:Zkomm(Devfolioページより) CryptoUnity(Gnosis賞受賞) ブロックチェーン技術と仮想通貨へのアクセスを簡素化して、ユーザーに安全で信頼性の高いツールとリソースを提供するプラットフォーム。複数のウォレットの情報を一元化して、一つのインターフェースで全てのデジタル資産を管理することができる。また、Chainlink Oracleと統合することで、正確で最新の市場データを提供する。 利用した技術:React.js、Redux、HTML5、CSS3、Biconomy、Chakra UI、XDC、Chainlink Oracle、Ankr 詳細はこちらを参照。 特に注目を集めたトピック 次に、今年のETHDubaiのトークセッションやパネルディスカッションなどで、特に注目を集めていたトピックについてご紹介します。 分散型AI 分散型AIは初日のトークセッションとパネルディスカッションのテーマとして挙げられていました。米国のコロンビア大学電気工学科の非常勤教授であり、ETHDubaiのスポンサーの1つであるOORTの創業者であるMax Li氏は、現在広く利用されている生成AIはブラックボックス的な側面を持っており、データの取得元や処理方法について明らかになっていないため透明性や信頼性が十分ではなく、プライバシーや個人情報の保護やセキュリティ面で課題があると指摘しました。 この課題への対処として、データの収集、前処理、モデル設計、トレーニング、微調整、展開といったAI開発の各ステージに誰でも参加できるオープンな構造が求められており、それが分散型AIの考え方となっていると説明されていました。Li氏は、OORTはデータストーレジ(OORT Strage)や計算機能(OORT Compute)など、各ユーザーのビジネスで分散型AIを取り入れたサービスを開発するのに必要な機能を提供しているとしてOORTのクラウドプラットフォームについて紹介を行っていました。 OORTについて詳しく知りたい方は、こちらからご確認ください。 画像:OORTのMax Li氏によるトークセッションの様子(著者撮影) リステーキング リステーキングも本イベントで注目を集めた分野でした。リステーキングとは、一度ステーキングした暗号資産を再度ステーキングする技術で、ステーキングを行う側は追加的な報酬を得て資金効率を高めることが出来、プロトコルを開発する側もセキュリティを強化してプロジェクトの拡大を図ることができるというメリットがあります。 EigenLayerは、イーサリアムのブロックチェーン上に構築されたリステーキングのための代表的なプロトコルで、ユーザーはEigenLayerのプラットフォーム上に構築されたプロジェクトAVS(Actively Validated Services)でステーキングされた資産の再利用をすることで、AVSのセキュリティ強化に貢献し、追加の利回りを報酬として得ることが出来ます。 本イベントではEigen LabのDevRel責任者のNader Dabit氏が登壇し、EigenLayer AVSの最大のメリットは、個々の新たなサービスの認証(validation)のために信頼性を検証するための独自のネットワーク(trust network)をゼロから構築する必要性を無くし、共有の安全性(shared security)を提供している点にあると説明していました。また、AVSの代表的な例として、EigenLayerの最初のAVSとしてリリースされたEigenDA (Data Availability)を挙げ、このDAレイヤーがカスタマイズ可能、大量処理能力、ローコスト、帯域幅の指定ができる等の特徴を持っていることが説明されました。さらに、Dabit氏は、他のAVSの例として、Versatus、OpenDB、AltLayer、Caldera、MegaETHなどを紹介しました。EigenLayerのエコシステムについてはこちらのページにまとめられている他、Dabit氏のNotionのページにはEigenLayer関連のドキュメントや動画、ポッドキャストのリンクなどがまとめられているので、興味のある方は是非確認してみてください。 画像:Eigen LabのNader Dabit氏によるトークセッションの様子(著者撮影) インテント中心のエコシステム ETHDubaiの2日目の第1ステージは主にインテント中心のエコシステムについて議論が続きました。インテントとは、その名の通り、ブロックチェーンユーザーが達成したい具体的な「目標」や「意図」のことを指します。分散型金融アグリゲーターのParaSwapのMounir Benchemled氏は、インテント中心のシステムを取り入れることで「自分が達成したい目標を、自ら煩雑な手順を踏まずに実現できる」とし、コーヒーの注文やタクシーでの目的地までの移動の例を挙げながら、ソルバー(ユーザーのインテントを達成するために必要な作業を実行する存在で、人やAIボット、別のプロトコルなどが該当)に判断を委ねることで効率的にユーザーの目的が達成されることが可能になっていると説明していました。 他方、Benchemled氏は、現状のインテント中心のシステムの課題として中央集権的な要素や信頼性の確保で問題があるとし、インテントエコシステムの分散化と信頼性の原則を満たすためのインフラが必要であると発言していました。これらの課題への対応として、ParaSwapが現在開発を進めているPortikusを紹介し、分散化されたインテントの実現に向けたエコシステムを作ろうとしていると説明しました。同氏の説明によると、Portikusのローンチは今後5段階で行われるとのことです。(Portikusの最新情報は公式Xからご確認ください。) Stage 1 — DORIC: ガスレス取引やMEV保護などの使いやすさ向上機能を備えたインテントDEXのような体験が可能になる Stage 2 — IONIC: ParaSwap以外の流動性ソースやソルバー、マーケットメーカーが追加され、アグリゲーターの価格を上回ることを目指す Stage 3 — CORINTHIAN: 分散型インテントレイヤーのテストネットワークをローンチし、エコシステムプロジェクトがオークションエンジンを統合できるようにする Stage 4 — PALLADIUM: ネットワークの持続性を保証するために、Payment for Order Flow(PFOF)、コミッション、サブスクリプションモデルなどの支払いモデルを導入する Stage 5 — VITRUVIUS: ノードオペレーターセットを拡大し、最初のプロトコルがネットワークを活用することで、メインネットにフル展開し、Portikusの分散型インテント”dInts”のビジョンを実現する 画像:ParaSwapのMounir Benchemled氏によるトークセッションの様子(著者撮影) また、anomaの共同創業者であるAdrian Brink氏もトークセッションに参加していました。 anomaは、インテント中心のシステムを採用した新しいタイプのブロックチェーン技術で、Brink氏は「AnomaはEthereumに万能なインテントマシン(A Universal Intent Machine for Ethereum)」と表現し、これにより開発者はインテントの観点からアプリケーションを記述できるようになり、Ethereumエコシステムのどこでもオーダーや解決、確定されることを可能にすると説明していました。anomaを利用して分散型アプリケーション(dApps)を開発するメリットとしては、パーミションレスの(誰でも参加できる)インフラ、インテントレベルの構成可能性(composability)、情報フローの制御、異なるタイプの信頼性(heterogeneous trust)の4つを挙げていました。anomaのより詳細な情報についてはこちらのページに記載されていて、anomaを利用して開発されたdAppsの例はこちらのページに紹介されていますので、関心のある方はご確認ください。 画像:anomaのAdrian Brink氏によるトークセッションの様子(著者撮影) インテント中心のエコシステムに関連した議論の中で特にDAOに関連したものが、CoW Swapのプロダクト開発マネージャーを務めるAlex Vinyas氏による、CoWDAOの「プログラム型のインテント」に関する話でした。CoWDAOは、ユーザー保護のためのプロダクトを生み出すことをミッションとしたグループで、これまでにCoWプロトコル(インテント中心の取引プロトコルで複数のインテントの処理が可能)、CoW AMM(流動性プロバイダーを保護することを目的とした自動マーケットメーカー)、MEVブロッカー(ユーザーのトランザクションがMEV(Maximal Extractable Value:最大抽出価値)を称した搾取の手口による被害を受けないように保護するソフトウェア)などの代表的なプロダクトを提供しています。(なお、CoW=「牛」を想起させるロゴや、ソルバーを「milkman(牛乳配達人)」と呼んだりと遊び心が見られますが、CoWは”Coincidence of Want”の略称でpeer to peerの取引を指しています。) Vinyas氏は現状の課題として意思決定や諸手続きに要する時間によって最適な価格での取引の機会を逸してしまうことや、オンチェーンでの保証の取付、高いガス代や煩雑な手続きなどを挙げ、それらの対応策として「プログラム型のオーダーフレームワーク(Programmatic Order Framework:POF)」を紹介しました。プログラム型のオーダー(PO)とは他のオーダーを生成するオーダーのことで、これらは一つの署名で作成され、予め指定した条件(価格、ボリューム、残高、時間など)が満たされた際に実行されるもので、POFはPOの簡単な作成を可能にするフレームワークを指します。Vinyas氏は、POFのユースケースとしてDAOの自動化について触れ、POFを利用することにより、DAOは手数料の収集、報酬の支払い、財務資産の多様化、債務担保の管理、TWAP(時間加重平均価格)/DCA(ドルコスト平均法)を利用したトークンの売買、またはその他の繰り返し発生するトランザクションを自動化することができると説明しました(POFについて詳しく知りたい方は、CoW Protocolのブログ記事をご参照ください)。 画像:POFのユースケース(CoW SwapのAlex Vinyas氏によるトークセッションの説明資料の一部。ETHDubai YouTube サイトより。) ZKロールアップ 最後に、ZKロープアップについても、今回のイベントで注目されたトピックの1つとしてご紹介します。ZKロールアップは、Ethereumブロックチェーンのスケーラビリティを向上させるために開発されたレイヤー2ソリューションで、複数のトランザクションをゼロ知識証明(Zero-Knowledge Proofs、ZKP)と呼ばれる暗号技術を用いて一つの証明にまとめ上げ、ブロックチェーンに記録されるデータ量を削減するものです。(なお、ZKPについては過去の記事「ブロックチェーンで使われるゼロ知識証明とは?」も参考にご覧ください。) 本イベントのトークセッションでは、zkSyncの共同創業者でありMatter LabsのCEOであるAlex Gluchowski氏が登壇し、ZK技術はイーサリアム上のシステムのセキュリティの保証と検証可能性を向上させる観点から極めて重要であると説明しました。また、Gluchowski氏は、現在のweb3の状況をインターネットの発展状況に例えるならば、イーサリアム仮想マシン(EVM)はHTTPで、ZKはHTTPSに相当するとし、web3のマルチチェーンの世界でプライバシー保護や安全性、計算の整合性を保証するにはZK技術が必要になっていると強調しました。 質疑応答の中で、Gluchowski氏は証明を発行するのに要する処理時間について、現在は数分かかっているものも、新しい世代のプロトコルによって今年の年末までには15秒程度になるとし、ZKPは数年以内にはリアルタイムの処理になっていくという見解を示しました。また、同氏は、ZKロールアップはオプティミスティック・ロールアップと比較しても、高速でかつ安価であると説明しました。 画像:zkSyncのAlex Gluchowski氏によるトークセッションの様子(著者撮影) おわりに ETHDubai2024での話題となった数々の新技術やサービスは、イーサリアムの将来に大きな影響を与える可能性を秘めています。特に、ユーザーエクスペリエンスの向上と信頼性の確保を目指す技術に焦点が当てられたことは、ブロックチェーン技術の普及に向けた一歩と言えるでしょう。 イーサリアム関係のイベントは世界各地で開催されており、日本でもETHTokyoなどが開催されています。イーサリアムのエコシステムの更なる拡大やダイナミックな進展からは、今後も目が離せないと言えるでしょう。

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今月、注目のDAO管理ツール「DAOX」がリリースされました。DAOを立ち上げるためには、複数のサービス導入が必要があり、社内の担当者と参加者の双方にとって大きな障壁となっていました。DAOX(ダオエックス)ではツールの導入だけで組成から運用までの組織作りがワンストップで実現します。この革新的なツールを活用し、Biz Communityのメンバー限定で特別なプロジェクトを開始します。その目標は、私たちのコミュニティで共有された記事を一冊の本にまとめ、技術書典に出展することです。 https://daox.solutions/ プロジェクト概要 このプロジェクトでは、DAOXを使ってタスク管理を行い、作業の進捗と収益の分配を可視化します。参加者の皆さんにはタスクが割り当てられます。以下、タスクの例となります。 新規記事の執筆: 新たな視点やアイデアを記事にして、本に反映させます。 過去記事の選定: 過去に共有された記事から、本に掲載する価値のあるものを選び出します。 本の校正: 記事が正確で理解しやすい形で本に掲載されるよう、校正を行います。 DAOとは何か? 「DAO(Decentralized Autonomous Organization)」とは、分散型の自律組織のことを指します。伝統的な組織と異なり、DAOはブロックチェーン技術を利用して運営され、その決定や資金の管理がデジタル的に行われます。このプロジェクトを通じて、DAOの概念を実際に体験し、理解を深める絶好の機会です。 収益の分配 本から得られる収益は、DAOXを通じて明確に管理され、各参加者の貢献度に応じて分配されます。 ご協力頂いた方もれなく全員をDAO本のspecial thanksにお名前又はハンドルネームを記載します! 例: 過去記事の投票 100ポイント MTG参加 300ポイント 新規記事作成 3000ポイント 本の校正 3000ポイント 05/26参加 3000ポイント ポイント数の総発行量に応じて売り上げ金を振込手数料を差し引いた上で分配します! これにより、参加者全員が公平に報酬を受け取ることができます。2024年5月26日(日)の技術書典に実際にこちらを販売する予定です。 参加方法 このユニークな取り組みに興味を持たれた方は、ぜひBiz Communityに入会をご検討ください。技術の枠を超えて、新しい形のコラボレーションと創造の場を一緒に作り上げましょう。 Biz Communityに入会後に案内されるDiscordにて毎日午前8:00-8:30にてweb3朝会をやっているのでそこでコミュニケーションを取りたいと考えております。 皆さんの積極的な参加を心よりお待ちしております。この機会にDAOの世界を体験し、新しい知識を深めることができるでしょう。 ご参加お待ちしております!

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the Green Block Talks 持続可能な社会に向けた取り組み紹介

以前、本ブログのweb3と気候変動対策に関する記事でご紹介したthe Green Blockが、12月初めに新たな報告書を発表し、それにあわせて初めてのトークイベントを開催しました。本イベント、”the Green Block Talks & Launch of the Green Block Report”は、COP28開催期間中(11/30-12/12)にドバイで実施されたこともあり、国内外の気候変動対策に取り組む企業や国際機関、大学などから多くの人が参加しました。 気候変動対策へのデジタルテクノロジーの活用に注目が集まる中、本記事ではこのイベントの概要をご紹介します。 The Green Blockとは? 概要 The Green Blockは、ドバイを拠点とするCrypto Oasis Ventures と、国際的なコンサルティングファームのRoland Bergerが、2023年6月20日に新たなイニチアチブとして立ち上げたもので、Web3の領域内で、環境、社会、ガバナンス(ESG)分野のプロジェクトを育成し、ESGに関するブロックチェーン・エコシステムの形成を目指しています。 下記の図に示されるように、様々な関係者(政府、企業、スタートアップ、研究機関、メディア、サービスプロバイダー、投資家、業界団体など)を有機的に結びつけ、ESG分野のweb3プロジェクトの知見を集積していくことで、持続可能な社会の形成に向けた新たなソリューションを生み出していくイニシアチブとなっています。 発起人のCrypto Oasisは、スイスのツークを拠点とするCrypto Valley Associationと協力関係にあり、the Green Blockの活動を欧州地域にも拡大させていく動きを見せています。2023年9月にスイスで開催された「SWISS WEB3 FEST 2023」では、the Green Blockイニシアチブの欧州地域でのローンチングが実施され、ヨーロッパを拠点とする企業もこのイニシアチブへの賛同と協力を示しています。 12月4日に開催されたイベントでは、the Green Blockのスポンサーとして新たにSIEMENSとBMWが加わったことが発表されました。既存のスポンサーであるBEEAH社とSEAGRASS社(両社ともUAE拠点)に加えて、ドイツの大企業が複数参画した形になります。 The Green Block Reportの発表 12月4日には、the Green Blockによる新たな報告書 Green Block Report 2023が公開されました。(報告書はオンラインで公開されていて、https://thegreenblock.com/report2023/ からダウンロード可能です。)報告書の主なポイントは以下の通りです。 ビジネスにおけるESGに対する意識の高まり: すべての規模のビジネスにおいて、ESGの重要性に対する認識が高まっています。多くの企業が、気候変動、多様性、インクルージョン、教育などの課題に積極的に貢献するための方策を検討しています。 ブロックチェーン技術の役割: 仮想通貨を支える技術である分散型台帳技術(DLT)は、環境問題への対応にも活用されてます。例えば、二酸化炭素等に代表される温室効果ガスの削減を加速させ、地球温暖化を抑制するためのカーボンオフセット制度についても、ブロックチェーン上でカーボンクレジットをトークン化することにより、透明性が高まり、環境プロジェクトの実際の貢献度が保証されます。さらに、ESG関連情報の構築、管理、報告のためのフレームワークを提供し、関連情報の提供ニーズに対応することが可能となっています。 大企業のコミットメント: GoogleやMicrosoftなどの世界的にも有名な大企業は、温室効果ガスの削減や再生可能エネルギーの利用に向けた目標を設定しています。同様に、ブロックチェーン業界もエネルギー効率の高い方法への移行を進めており、例えば、イーサリアムのPoSへの移行は、エネルギー消費が大幅に削減されたとされています。 集団的コミットメントの必要性: レポートでは、持続可能な変革を達成するためには、単なる革新以上のもの、つまり行動への集団的なコミットメントが必要であることが強調されています。the Green Blockは単なるプラットフォームではなく、持続可能性を追求する様々な関係者を結びつけるエコシステムとして機能するとレポートにも示されています​​。 2024年の活動方針の発表 The Green Blockの2024年の重点分野として、監査証明に対応したESG成果の測定(Audit-Proof Measureable ESG Results)、ESGスタートアップ支援(the Green Block Accelerator)、web3とAIによる金融包摂(Financial Inclusion through web3 and AI)、 持続可能なビットコインマイニング(Sustainable Bitcoin Mining)の4点が挙げられました。トピック毎にワーキンググループを設置して議論を行っていき、このワーキンググループには誰でも参加できる形にするとのことです。ご関心がある方は、ぜひ公式サイトやSNSをフォローしてみてください。 ESG分野のプロジェクト紹介 自発的リサイクルクレジット(Voluntary Recycling Credits:VRC) 報告書の発表とthe Green Blockの活動方針についての報告があった後、多様な登壇者によるトークイベントが開催されました。中でも非常に興味深いプロジェクトとして、自発的リサイクルクレジット(VRC)イニシアチブを紹介します。VRCは、the Green BlockのコアメンバーであるRoland BergerとBEEAHグループが、DFINITY Foundationおよび国際固形廃棄物協会(ISWA)と協力して立ち上げたプラットフォームで、固形廃棄物のリサイクル実績をクレジットとして取引するための世界初のグローバルシステムとなっています。 プロジェクト概要 世界的なゴミ問題への取り組み: 廃棄物の量は世界的にも増加しており、多くの廃棄物は埋立、投棄、焼却などにより土壌、水資源、大気に深刻な負の影響を与えています​​。 目標とアプローチ: VRCイニシアティブは、公的部門と民間部門双方からの多様な関係者間の協力関係を強化して廃棄物問題を克服しようとするものです。このイニシアティブは、固形廃棄物の排出量をオフセットするために利用できる標準化されたルールとプロセスを確立するものです。これには、ブロックチェーンベースのマーケットプレイスで固形廃棄物の「リサイクルクレジット」を取引するメカニズムが含まれ、廃棄物オフセット企業とリサイクル会社間の監査可能で安全な取引を保証するものです。このイニシアティブにより、固形材料の収集とリサイクルが奨励され、あらゆる種類の廃棄物管理が向上することが期待されています​​。 イベントでは、会場で実際にVRCプラットフォームを動かすデモが行われ、リサイクル業者がクレジットを得る過程と、廃棄物を算出する事業者がクレジットを購入する過程が説明されました。 VRCは本イベント開催日(12月4日)にCOP28の会場で正式にPoCがローンチされました。2024年から25年にかけてVRC導入国を拡大し、26年以降はサービス内容と対象範囲の更なる拡充を目指すとしています。 関連報道:COP28のUAEパビリオンでVRCイニシアチブのPoCがローンチされた旨の現地報道(Gulf Business)https://gulfbusiness.com/cop28-voluntary-recycling-credits-initiative/#:~:text=%E2%80%9CThe%20VRC%20Initiative%20is%20a,waste%20produced%20in%20their%20operations.%E2%80%9D SEAGRASS carbon map その他、本トークイベントで紹介された興味深いプロジェクトとして、Seagrass社のCarbon mapプロジェクトが挙げられます。 Seagrass社は、ドイツの大手エネルギー会社のE.ONグループの子会社で、UAEのアブダビ(Abu Dhabi Global Market:ADGM)に拠点を置いています。同社は、脱炭素の促進やカーボンクレジット市場の拡大を促進するための技術的なソリューションを提供していて、ブロックチェーンの活用にも力を入れています。 The Green Blockのトークイベントでは、COP28にて新たに発表されたSeagrass社のCarbon mapについて説明が行われました。このCarbon mapは、環境保全に寄与するプロジェクトに関する詳細な情報(デジタルIDとの連携が可能で、プロジェクト情報、環境面の情報、経済的な情報、歴史的な情報などを網羅したもの)を掲載するデジタルマップで、カーボンクレジットの売り手(プロジェクト側)と買い手がいつでも最新の情報にアクセスすることを可能にするアプリケーションとなっています。 Seagrass社は、スイスに拠点を置くHashgraph Associatioと共同でカーボンクレジットのWeb3アイデンティティウォレットの開発を進めており(下記関連記事参照)、Carbon Mapはこのウォレットと連携して、カーボンクレジット取引の加速を今後後押ししていくことが期待されています。Seagrass Walletは、2024年中の実用化が予定されているとのことです。  関連記事: Seagrass社設立のアナウンスメント(ADGM) https://www.adgm.com/media/announcements/seagrass-company-launches-in-the-united-arab-emirates Seagrass社とHashgraph AssociationによるWeb3アイデンティティウォレットの立ち上げ https://www.zawya.com/en/press-release/companies-news/uae-based-seagrass-and-the-hashgraph-association-announce-launch-of-co-funded-carbon-credit-web3-identity-wallet-r9bpsrtf おわりに 気候変動対策を含め、持続可能な社会を実現するためには、個々の企業や団体の取り組みのみならず、集団的なコミットメントと行動が必要となっています。ESG分野のweb3関係者を有機的に結びつけるthe Green Blockの取り組みはまだ始まったばかりですが、今後中東地域や欧州を含めて広く拡大してくことが期待されます。2024年1月にはダボス会議の開催と合わせて欧州でイベントも予定されており、今後の動きを引き続き追っていきたいと思います。

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イーサリアムでスマートコントラクト開発してみた ~vol.1~

はじめに こんにちは! 初めて記事を書かせていただきます、曽我と言います。よろしくお願いします! 「ブロックチェーンによってこれまで価値が認められてこなかったものに価値をつけることができる」というお話に触れて以降、どうしてそんなことが可能になるのかを理解したいという思いがずっとあります。 ブロックチェーンの仕組みについては、勉強すればするほど分からないことが増えるばかりです。 今回、理論的な話だけではなくブロックチェーンの開発を実際に手を動かしてやってみることで、より具体的な議論に参加できるようにして理解を深めることを目標とします。   本記事ではまず、現状の疑問の整理と、それらに対して再度調べ直して構築した仮説とその根拠を記しました。 疑問点の整理 イーサリアム イーサリアムについては、ブロックチェーンの上でプログラムを動かせるものというぼんやりとした理解だったので、その定義から詳しく調べ直してみました。 https://ethereum.org/ja/developers/docs/intro-to-ethereum/#what-is-ethereum イーサリアムとは、ブロックチェーンにコンピュータが組み込まれたもので、 分散型、自由参加型かつ、検閲耐性を備えたアプリや組織を構築するための基盤となっています。 ① 分散していて ② 自由に参加できて ③ 検閲耐性のある そんなアプリを作れるものらしいです。   どういうことでしょうか。 一つ一つ見ていきましょう!   分散 分散とは、特定の組織が管理するサーバーにアプリが存在するのではなく、イーサリアム上のいろんなコンピュータにデプロイされているということだと思われます。 これのメリットとして思い浮かぶのは、特定のサーバーがダウンしたらサービスが止まる、といったことがなくなるということです。 しかしこの類の話は通常のアプリケーションでも出てくるものです。 他にもブロックチェーン特有のメリットが何かあるのでしょうか? 分散しているからその正しさを保証できるという意味であれば、それはあくまでブロックチェーンの特徴であり、イーサリアムでアプリを作るメリットではないと思います。   自由に参加できる 「自由に参加できる」とはどういうことなのでしょうか? 普通のWebアプリケーションでも、大体自由に参加できると思いますが、 ユーザー登録とかが不要になるという意味ですかね? 調べてみると、少しヒントとなるような記述がありました。 https://doneru.jp/life/what-is-the-application-dapps/ dapps では個人情報を載せないプライベートアドレスで容易にアクセスできます。 さらにユーザーが開発に参加し、利便性の高いサービスを構築してユーザー全員で作っていくことも可能です。 このエコシステムでは基盤となるチェーンは誰かが所有している訳ではないので、実際にはチェーン上のアプリケーションはユーザーの手に委ねられます。 そういった意味ではユーザーがホストなので、より多くのエージェントがアプリを利用しても永続的に公平さは保たれます。 「個人情報を載せる必要がない」という意味で「参加のハードルが低い」ということでしょうか。 しかし、アプリケーションの性質として個人情報の利用が必要なら提供せざるを得ないのではないのでしょうか? メールアドレスの提供なしには本人確認が出来ないと思うのですが。 もしやブロックチェーンなら「本人確認」が必要なくなるということでしょうか??   検閲耐性 「検閲耐性」とは何か? 「検閲耐性 ブロックチェーン」で調べても一発でバシッと上位に出てくれませんでした。 しかしこのような記述を見つけました。 https://academy.binance.com/ja/articles/what-s-the-relationship-between-blockchain-and-web3 検閲耐性: ブロックチェーンは検閲に強いように設計されているため、どの当事者も一方的に取引記録を変更することはできません。記録がブロックチェーンに追加されると、それを削除することはほとんど不可能です。この機能は、政府や企業の検閲からあらゆる種類の言論を保護するのに役立ちます。 アプリに記録されているデータを第三者が見て、データを書き換えることができない。 そのことを「検閲耐性がある」と言っているということでしょうか? どちらにせよ、誰にも変更できないというのはすごいですね。 一度記録した後に変更させたくないようなデータとしては 何かのログ というのが真っ先に思い付きます。 よく言われるのは、誰になんの権利があるのか。過去に誰が権利を有していたのか。そういったものをトレースしたいケース。 「誰にも変更できない」ことが保証されていたら確かに安心です。   ブロックチェーンとは何か(仮説) 上記を踏まえて、いろんな動画や記事を読みながら友人や Blockchain Biz の方々とやりとりする中で、「ブロックチェーンというのはこういうことなんじゃないか??」という仮説が立ちましたので披露させていただきます!! 結論 ブロックチェーンでは、特別な信頼関係構築なしに複数の組織のデータを「連携できる状態」にできる。 すなわち、自由に参加できる!!! (どう連携させるかはプログラムする = スマートコントラクト) それを可能にしているのは、ブロックチェーンが可能にした以下の要素。 特定の中央管理者がいない 改竄できない これらによって、結果的に「分散」していて「検閲耐性」がある状態になっている。   根拠 この仮説に至った根拠を記します。 複数の組織間を簡単に連携させる 薬局の例 https://youtu.be/H2jP94Fpoi0?t=940 上の動画では、中田敦彦さんが「調剤薬局のデータ連携」についてお話されています。 関連記事: https://www.indetail.co.jp/projects/?uc=detail-01 各地にいくつもある調剤薬局は、何か特定の組織によって管理されているわけではないそうです。 一部の大企業の傘下にある薬局同士は、共通のシステムですでに系列店舗同士での在庫移動が行われており、在庫の最適化が実現されています。 しかし薬局市場においてそのような薬局は全体の15%に過ぎず、その他の多くが個人経営だそうです。 そういった薬局同士が在庫データの連携を相互にしたいとなると、一からの信頼関係構築が必要となり大きなコストがかかると思われます。 具体的には「データを改竄しないでね。そのほかにも、お互い相手に不利益になるような恣意的な操作をしたら法的に訴えますよ」的なことを文書として残しておくなどのやり取りが予想されます。   これが2つの薬局間であればまだ頑張って実現できると思いますが、目的である在庫管理の最適化のために他の多数の薬局とも連携する必要が出てきたりすると、もう非常に面倒になってしまうのがイメージできます。 関係者としては連携システムを構築するベンダーもいるわけで、ステークホルダーの増加にともなって信頼関係の構築に金銭的、時間的、労力的コストが増加していくと思われます。 データを保有するのはどの組織の何のアカウントにするか決める必要があるし、その組織がそのデータを改竄しないことを法的に保証するために、同様に取り決めを構築する必要があるでしょう。   データ連携のための信頼関係構築のコストがバカにならないです。 これではイノベーションを生み出すコラボレーションが加速しない。 なんとかできないものか? そこでブロックチェーンに白羽の矢が立ったのです。 「信頼関係?俺にデータ預けてくれればそんなの丸ごと気にしなくて済むぜ!!!」 「そのデータの連携ルールはスマートコントラクトというプラットフォームを使えば作れるぜ!!」   ポイントの例 T ポイントを国家が「国の貨幣だ」として定めるのになんのハードルがあるんだろうか? と考えながらネットサーフィンしていると、以下の記事を見つけました。 ブロックチェーンが崩す共通ポイントの垣根:日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO14061860U7A310C1X13000/ 「支払い方法はどうしますか」「TポイントをPonta(ポンタ)に換えますので、それでお願いします」。近い将来、コンビニエンスストアのローソンのレジでこんな会話が交わされるかもしれない。 すでに共通ポイント同士をネットを通じて交換できるようにはなっている。だが、面倒な手続きが必要なうえ、実際にポイントを交換できるまで数週間かかっていた。消費者の「今すぐ換えたい」というニーズに応えられなかった。 なぜそんなにかかるのだろうか?と思い調べてみましたが、そんなに時間がかかるような例は今のところ見つかっていません。 https://www.smartwaon.com/ext/001/exchange/tpoint/#notes 例えばこちらのように T ポイントと WAON ポイントは即時交換が可能だそうです。 日経新聞のこの記事の公開日が6年前と非常に古いのを考慮すると、「ポイント同士の交換」というデータ変換を手動で行なっているようなケースを想定して書かれた文章なのではないかと思っています。   一度組織間で信頼関係を(文書など法的な手続きを経て)築いてシステムを構築したあとは、この T ポイントと WAON ポイントの例のように即時に交換することは可能になると思われますが、 問題なのは、「他のポイントとも交換できるようにしたい!」と思った時、その都度信頼関係を築くコストは莫大だということです。   (寄り道) 共通ポイント同士の交換が容易になれば、ポイントがどこでも使えるようになる。それは「ポイントが貨幣により近づくことを意味する」(野村総合研究所の冨田勝己上級コンサルタント)。 これは、長らくビットコインの意義について理解ができずにいた僕にとって、ヒントとなる記述でした。 「ブロックチェーン上で動くアプリを開発する」という本記事の趣旨からはズレるので、「ブロックチェーン上で貨幣が構築できる」という話については、機会があれば別記事でぜひ書きたいなと思っています! まとめ ブロックチェーンという技術は、以下を可能にするものだと考えます。 特別な信頼関係の構築なしにいろんな組織のデータを共通のデータベースに保存できる イーサリアムというプラットフォームは、以下を可能にするものだと考えます。 ブロックチェーンに保存されているデータを任意のロジックで連携させることができる これらをまとめると、イーサリアムによって以下の革命が起きていると考えます。 複数の組織に存在するデータを超低コストで連携させ、そのコラボレーションによって爆速で新たな価値を生み出すことができる   次回予告 今回の整理の後に疑問として残ったのが、 ブロックチェーンはもしかしたら「ログデータ」のような時系列データにしか適用できないのではないか? というものです。 例えば MySQL で管理するような一般的なリレーショナルデータの場合は、一度登録した後も(例えばユーザープロフィールの編集などの形で)変更しうるのが普通かなと思います。 普段からそういうアプリケーションを開発しているからか、「変更できないデータ」というのが、「時系列データ」以外にはどうにも直感的にイメージしにくいです。 そこで、どういった分野のアプリケーションで実際にイーサリアムが用いられているのか、具体的な事例を Vol.2 の記事で掘り下げていきたいと思います。    

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ブロックチェーンの未来を探る Future Blockchain Summit 2023まとめ

中東アフリカ地域最大のブロックチェーン関連イベントであるFuture Blockchain Summit(FBS)が、今年もドバイで開催されました。4日間にわたり開催されたFBSには、50カ国以上から150以上の団体が出展し、web3関連企業、規制当局・政府関係者など多くの人が参加しました。本記事では、今年のFBSの様子と主なポイントをご紹介します。 Future Blockchain Summitとは? イベント概要 Future Blockchain Summit (FBS)は、2018年以降毎年ドバイで開催されているブロックチェーン関連イベントで、ドバイ世界貿易センター(DWTC)が主催しています。6回目となる今回は、2023年10月15日から18日まで4日間開催されました FBSは、中東・アフリカ地域最大のテクノロジー展示会であるGITEX Globalの一部となっています。今年はGITEX Globalの開催に合わせて10のイベントが同時開催となり、会場を2箇所に分けて実施されました。第2会場であるドバイハーバーでは、本イベント(FBS)に加えて、スタートアップイベントであるExpanding North Star、フィンテックを扱うFintech Surge、マーケティングに特化したMarketing Maniaの各イベントが開催されました。 画像:第2会場の様子(左)、会場MAP(右) FBSには、仮想通貨やweb3分野で国際的に活躍する企業や、ベンチャーキャピタル、政府関係機関、研究機関、メディアなど多くの団体が参加しました。 今年のプログラム 今年のFBSのテーマは「Feeling the web3 Revolution(web3革命を体感しよう)」で、web3がもたらす社会変革に焦点が当てられました。プログラムは、会議、ワークショップ、有識者によるトレーニングなどで構成され、一部の会議やトレーニングへのアクセスは有料となっていました。4日間のプログラムで、取り上げられたトピックは、エンターテイメント(ゲーム、音楽など)、ファッション、社会インパクト(気候変動対策、ReFiなど)、暗号資産規制、投資環境、仮想通貨取引など多岐に渡りました。詳細なイベントのプログラムは、FBS公式ウェブサイトをご参照ください。 また、同じ会場で開催されたスタートアップイベント「Expanding North Star」のピッチコンテスト「Supernova Challenge Pitch」では「blockchain & web3 disruptor」という部門が設けられ、UAEに拠点をおくverofaxが部門最高賞を受賞しました。同社はブロックチェーンを活用してブランディングや小売サービスを提供する企業で、消費者が商品の購入前に製品の品質や持続可能性に関する情報にアクセスしたり、消費者の個々の志向に応じたサービスが受けられたりするソリューションが高く評価されました。 関連記事: Verofax wins GITEX Supernova Web3 & Blockchain Award 2023 登壇者 今年のFBSには合計で150人以上の有識者が世界各地から登壇者として参加しました。登壇者の多くは各企業のCレベルの経営幹部で、このイベントに対する注目度の高さを示していました。 登壇者には、DEX(分散型取引所)のアグリゲーターサービスを提供するワンインチ・ネットワーク(1inch Network)の共同設立者であるSergej Kunz氏、大手仮想通貨取引所バイナンス(Binance)のRichard Teng氏(11月22日にバイナンスの新CEOへの就任が発表)、暗号資産カストディ企業のビットゴー(BitGo)のAPAC最高責任者のHobeng Lim氏、シンガポールの暗号資産デリバティブ取引所のビットゲット(Bitget)のマネージングディレクターであるGracy Chen氏、ステーブルコイン発行企業のサークルの欧州中東アフリカ部門(Circle EMEA)の政策・戦略担当バイスプレジデントのTeana Baker氏、レイヤー1ブロックチェーン「Sui(スイ)」の開発を主導するスイ財団(Sui Foundation)のマネージングディレクターであるGreg Siourunis氏、米大手暗号資産カストディ企業のファイヤーブロックス(Fireblocks)のCEO兼共同設立者であるMichael Shaulov氏などが参加しました。また、web3企業のみならず、政府機関、規制当局、コンサルタント、大学関係者など多様な登壇者し、レディ・ガガの「ボーン・ディス・ウェイ」や「ザ・モンスター」の音楽プロデューサーを務めたFernando Garibay氏の登壇も参加者の注目を集めました。(2023年の登壇者一覧はこちら。) 画像:Future Blockchain Summmit公式サイト 今年の主な注目ポイント AI 生成AIの利用が2022年以降急速に広がった背景もあり、今年のFBSでは生成AIとブロックチェーンに関する関心の高まりがみられました。 Mind Bank AIの創業者兼CEOのEmil Jimenezのトークセッションでは、AIに自分の思考パターンや回答パターンを学習させることによって、自分のデジタルツインを作るという試みが紹介されました。Jimenez氏は、自分の分身を活用することによって仕事のみならず家庭など私生活でも新たな可能性が広がることを紹介しました。 画像:Future Blockchain Summmit公式YouTubeサイト   また、House of Novaの創業者であるNova Lorraine氏の講演では、ファッション業界におけるブロックチェーンと生成AIの活用状況について紹介されました。Lorraine氏は、ファッション業界でのAI関連市場は年平均42%成長し、2027年には37.2億ドルの規模に達するという予測を紹介し、AIが顧客の志向に応じたパーソナライゼーション、在庫最適化、デザイン生成に活用されていることを説明しました。また、ブロックチェーンの活用により、真正性の証明(ブランド品の偽造・模倣品の対策)、透明性の向上(サプライチェーンの追跡、持続可能性の対策)、生産効率性の向上(グッチでは水やエネルギー効率を改善)が取り組まれていることが説明されました。 画像:Future Blockchain Summmit公式YouTubeサイト 上記以外のトークセッションや講演でもAI利用についての話題が多く上りましたが、AIはあくまでもツールであり、人々を完全に代替するものではないこと、利用する側の人間の倫理性やデータ保護などが重要であることなどが多く指摘されていました。 web3ゲーム AIに加えて大きな注目を集めていたのが、web3ゲームです。デジタルエンターテインメントの新しいフロンティアとして近年ドバイでも大きな成長を遂げている分野です。 画像:Future Blockchain Summmit公式サイト ドバイの自由貿易特区(フリーゾーン)の一つであるドバイ・マルチ・コモディティ・センター(DMCC)では、2022年12月にゲーミングセンター(DMCC Gaming Centre)を新たに設置し、各国からのゲーム関連事業者(eスポーツ含む)の誘致に力を入れています。 FBSでは、DMCCの会長を務めるAhmed Bin Sulayem氏が基調講演を行い、L1ブロックチェーンのソラナ(Solana)がDMCCのエコシステム・パートナーに新たに加わったことを発表した他、ベンチャーアクセラレーターのブリンク(Brinc)による1.5億ドルのweb3/ゲーミングファンドの運用開始や、仮想通貨取引所のバイビット(Bybit)とDMCCが共催したハッカソン(対象分野:web3ゲームなど)を開催したことを報告しました。同氏は、DMCCが最近発表した新たな報告書『Future of Trade(ゲーム業界編)』にも言及し、web3ゲームの成長可能性が極めて大きいことを強調しました(なお、この報告書では、2027年までに中東アフリカ地域のデジタルゲームの市場規模が2021年と比較して倍増すると予測しています)。 また、FBS開催後の11月2日、ドバイ政府は、ドバイを世界のゲーム産業のトップ10都市に成長させ、ゲーム関連で新たに30,000人分の雇用を創出することを目標に「Dubai Program for Gaming 2033」を発表しています。 関連記事: Web3 Gaming Takes Center Stage in the UAE(FBS 2023 Event Insights) ドバイ政府、世界のゲーム産業集積地を目指す新プログラムを発表(JETROビジネス短信) 持続可能性 前回の記事でもご紹介した通り、FBS開催地のドバイでは11月30日からCOP28(第28回気候変動枠組条約締約国会議)が開催されることもあり、今回のFBSでは気候変動対策や持続可能性についても焦点が当てられました。 FBSの最終日には「Enterprise Blockchain & Climate Action(企業のブロックチェーン技術を活用した気候変動対策)」というテーマで複数のパネルディスカッションが開催され、ドイツ、米国、オーストラリア、オーストリア、オランダ、UAE、パキスタン、シンガポール、インド、イタリア、フランス、カナダ、英国など多様な国からの登壇者が、サプライチェーンマネジメントの効率化、カーボンクレジット取引や監査、データセキュリティ、エネルギー移行への分散型台帳技術(DLT)の活用について議論を行いました。 特に存在感を示していたのがスロベニアからの参加者です。スロベニア政府(経済観光スポーツ省)は、今年の6月にFBSとパートナーシップ協定を結んでおり、COP28のスロベニアのパビリオンで気候変動対策に関する展示プログラムを合同で実施する予定です。FBSの会場でも、スロベニア政府がブースの出展を行い、スロベニアのweb3企業(仮想通貨決済のカードの発行など金融包摂に取り組むNAKA、デジタル資産の取引プラットフォームを提供するPalmatrix、分散型ナレッジグラフのソリューションを提供するorigin tail)による取り組みを紹介していました。 FBSに登壇したスロベニア経済観光スポーツ省Nena Dokuzov氏(画像:FBS公式サイト) 関連記事: Future Blockchain Summit Sets The Stage For A Greener Future(FBS 2023 Event Insights) Future Blockchain Summit partners with Slovenian Ministry of Economy, Tourism & Sport(スロベニア政府とFBSの協力) web3業界とドバイ 最後に、web3業界で高まるドバイの存在感も特筆すべき点と言えるでしょう。ドバイは国外から積極的に投資や人材を誘致する戦略をとっていて、FBSの機会を捉えてドバイの暗号資産を取り巻く環境が整っていることを積極的に対外発信していました。DMCC会長のAhmed Bin Sulayem氏も、ドバイのリーダーシップ、規制機関(VARA)、公的機関によるサポート体制が、ドバイをweb3業界の新たな中心地としている重要な要素として挙げていました。特に、ドバイが取り組んでいる暗号資産に関わる規制枠組みの整備については、チェーンアナリシスのCaroline Malcolm氏やUAE拠点のM2のCEOを務めるStefan Kimmel氏も、今後暗号資産の利用が拡大していく上で極めて重要であると指摘していました。 FBSには世界各地の暗号資産の規制にかかわる関係者が参加し、フィンテック分野での国境を越えた連携を模索する動きも見えています。例えば、今年の9月には、ドバイの経済観光省(Department of Economy and Tourism: DET)と香港の金融サービス財務局(Financial Services and the Treasury Bureau)が、ドバイと香港間の金融分野の協力に関する覚書(MoU)を締結しています。 このMoUにより、2都市は金融政策に関する対話やフィンテック産業(暗号資産分野含む)の発展に向けた協力、能力開発、知見の共有、共同研究などを進めるとしています。 関連記事: Central Bank of the United Arab Emirates and Hong Kong Monetary Authority Strengthen Financial Cooperation(2023年5月 UAE連邦中央銀行と香港金融局が、金融分野の協力を強化について協議) How Dubai and Hong Kong are shifting crypto’s power dynamics: Opinion まとめ ドバイでは年間を通して様々な会議やイベントが開催されていますが、参加者はこのような機会をうまく捉えて世界各地の業界関係者とのネットワーキングを積極的に進めている様子を垣間見ることができました。FBSは、各参加企業の最新の取り組みを知るだけでなく、ダイナミックな議論から新たなアイディアやイノベーションを生み出す場としても機能していると言えます。2024年のFBSの受付は公式ウェブサイト(問い合わせフォーム)から可能ですので、関心をお持ちの方は是非確認してみてください。

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