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旧・山古志村とは

Web3やDAO、テクノロジーを使った地域振興に興味のある人は、「山古志村DAO」について見聞きしたことがあるかもしれません。旧・山古志村については2004年の新潟県中越震災の被災地として知っているという人もいることでしょう。正確には、山古志村は、2005年の市町村合併により、新潟県長岡市の一部となり、山古志村という村は現在存在しません。新潟県長岡市の南部に位置する地域という位置付けです。

画像: 新潟県長岡市南部に位置する山古志地域(Google Mapsより)

山古志については、山古志農泊推進協議会のウェブサイトに詳しい説明があります。山古志の魅力は、棚田や古い家屋など、日本の昔ながらの田舎の風景が残り、文化や伝統行事が積極的に継承されているところと言えそうです。

山古志について、あまり知らない方にお伝えします! – #山古志

2004年の新潟県中越震災の後、山古志は復興への道のりを歩み始めました。人口800人の限界集落の山古志では、人口減少や高齢化といった課題を抱えつつも、さまざまな地域活性化の取り組みが行われてきました。特に近年では、DAOやNFTを取り入れた地域振興の取り組み「仮想山古志プロジェクト」が注目を集めています。

山古志は、自然災害を乗り越え、伝統を大事にしつつも新しい技術や概念を融合させながら、新たな地域活性化のモデルを創造しようとしています。

 

仮想山古志プロジェクト

山古志では中越震災以降、地域振興の取り組みが行われてきましたが、コロナ禍を経て物理的な制約を乗り越えるべく、デジタル空間にコミュニティとしての山古志を作ろうという機運が高まりました。そこで、立ち上げられたのが地域団体の山古志住民会議による仮想山古志プロジェクトです。仮想山古志プロジェクトの単独のウェブサイトはないようで、山古志のオフィシャルウェブサイトで情報が公開されています。

山古志オフィシャルウェブサイト

★Nishikigoi NFT情報★ | 山古志オフィシャルウェブサイト

インターネット上では「山古志村 DAO」「山古志 DAO」という表記が見られますが、本記事執筆時点の2024年2月時点では、公式に「DAOである」とは宣言はされていません。2022年頃の少し昔の資料になりますが、長岡市や総務省のウェブサイトで公開されている資料には「仮想山古志プロジェクト」という表記が見られ、DAOについては、今後挑戦したいと説明があります。

世界初、人口800人の限界集落が「NFT」を発行する理由 仮想山古志プロジェクト

仮想山古志村プロジェクト ~新たな共同体の形成~(新潟県長岡市旧山古志村地区)- 総務省 令和3年度 過疎地域等集落ネットワーク圏形成支援事業

このほか、サブプロジェクトとしてVR空間上にデジタルな山古志村を作ろうというプロジェクトもあるようです。

NishikigoiNFT — 仮想山古志村プロジェクト

地域振興というと、物理的な移住者を募る形で進められることもありますが、私たちの体は一つです。家庭や仕事、金銭的な制約から複数拠点での生活は多くの人にとって現実的ではありません。リアル・デジタルでつながっていて愛着を持てるふるさとのような場所だったら何カ所あってもいいのです。デジタル村民であれば、海外からも気軽に村民になれます。山古志の取り組みでは、地域につながりを持つ「関連人口」を増やすことを目指している点でユニークです。

このような現代人のニーズに魅力的な地域資源を生かしながら的確に応え、前回の暗号資産ブームを生かしてNFTの波に乗ったのが山古志だったのではないでしょうか。

デジタル村民証「錦鯉 NFT」

山古志住民会議は、Next Commons Labの創業者の林篤志さんが手掛ける「錦鯉 NFT」をデジタル村民証として発行しています。このNFTは長岡市公認のNFTで、いわば電子的な住民票のようなものです。

Nishikigoi NFT

デジタル村民証のモチーフは、山古志で古くから養殖されてきた錦鯉です。Wikipediaには山古志での錦鯉養殖の歴史について、以下のような説明があります。

19世紀初期に「二十村郷」と呼ばれた現在の新潟県小千谷市と旧山古志村(現・長岡市山古志地域)にまたがる地域で食用として養殖していた真鯉の中から、突然変異した個体を人為選択して錦鯉の飼育が始まった。・・・余裕のある農家の趣味として錦鯉の交配が進み、質の良い個体が売買されるようになった。それ以降も養殖は進み、20世紀までには数多くの模様が開発された。

錦鯉 – Wikipediaより)

突然変異や交配などと言うと、元祖NFTのCrypto Kittiesを彷彿とさせ、NFTに合った素材のように感じるのは筆者だけでしょうか。

ウェブサイトなどは日本語だけでなく、英語にも対応していて、国内からだけでなく、海外からの参加も視野に入れている様子が伺えます。

2021年12月に行われた最初のNFTのセールでは約350人のデジタル村民が誕生しました。このときセールに参加した人の40%は初めてのNFTの購入だったとのこと。これまでに3回のセールが行われ、OpenSeaの錦鯉NFTのページによると、2024年1月現在、2,898点のNFTが存在し、8点が出品中になっています。

Nishikigoi NFT – OpenSea

複数のNFTを保有している人がいたとしても、山古志の人口800人を上回るデジタル村民が存在すると考えられます。また、2021年の発行から1年半の間に、NFT所有者の3割が山古志に足を運んだと言われています。

仮想山古志の活動

NFTの初回セール後、山古志デジタル村民総選挙が行われました。セールの収益を使った地域振興のアクションプランに投票が行われました。当時の記録はDAOで利用されることの多い投票システムSnapshotに残っています。

“Yamakoshi Digital Villagers” General Election – Snapshot

実際に山古志に住む人たちに対するNFTの無償配布についても投票が行われ、全員賛成で投票が終了しました。山古志に住む人たちとデジタル住民のコミュニケーションはDiscorde上で行われていると言います。

限界集落ではお年寄りも少なくないと考えられ、新しい技術やツールの採用がスムーズに進むのか気になるところですが、地道に使い方を広め、錦鯉NFTの仕掛け人である林さんによると、地元の60歳を超えるお母さんたちもメタマスクを使ってNFTを管理しているとのこと。Web3関連の技術を一般の人に使ってもらうのは難しいというのはもはや言い訳にはならないかもしれません。

このほか、2024年1月にはオンラインとオフラインの二部構成で錦鯉NFT所有者のための錦鯉村民新年会が行われました。

画像: 新年会の案内(錦鯉NFTウェブサイトより)

これまでの活動やその背景にある思いなど、詳しくは山古志住民会議のnoteの記事が参考になります。

山古志住民会議 – note

 

山古志の成功の理由と課題

NFTを利用した地域振興の成功の要因を考察してみましょう。

山古志住民会議はnoteの記事の中で初めてのNFTセールを振り返り、「2021年末、急速に高まるNFTブームに便乗し、思いつきでNFTを発行したわけではない」としています。ただ、初回のセールが行われた2021年12月といえば、2020年末に始まった暗号資産ブームと続くNFTブームによって、NFTが注目を集めた時期で、偶然であってもタイミングが良かったのは確かです。当時一世を風靡したジェネラティブNFTと相性の良い錦鯉という世界的に知られる地域資源があったのも功を奏した理由の一つと言えるしょう。

Web3やDAOについての解説を行い、実際に自身の実験的なDAOも主催する元MITメディア所長の伊藤嬢一さんはじめ知的な著名人が錦鯉NFTを保有していることなども成功の一因と考えられます。インフルエンサーがプロジェクト参加し、語ることで、さらに参加者が増加する現象は、世界的に話題となった著名NFTプロジェクトやDAOにも見られました。

また、令和3年度の過疎地域等集落ネットワーク圏形成支援事業に採択され、助成金983万円が交付されたこともプロジェクトの推進力となったとはずです。山古志住民会議は、デジタル技術を活用したデジタル村民証NFTの販売による資金調達と意思決定の仕組みが評価され、2023年10月に総務大臣賞を受賞しました。国の支援事業を積極的に活用したこと、受賞歴もプロジェクトを有名にしたでしょう。

ただし、今回調査をする中で課題も見えてきました。まず、DAOという組織形態について日本国内では2024年現在、法的な定義がなされていないこともあってか、組織や活動を定義しきれずにいる様子がうかがえました。この点と関連しているのかもしれませんが、情報が整理されきっていない印象を受けました。山古志のデジタル分野での取り組みの情報が一元化されているとプロジェクトに興味を持った人が情報を得やすいでしょう。また、noteなど、メディアによってはアップデートが止まってしまっているものもあります。人手が限られているの状況は察しますが、今後情報が整理され、更新されていくことに期待したいです。

 

おわりに

本記事では新潟県の限界集落の山古志地域のNFTを活用したDAO的な地域振興の取り組みを取り上げました。筆者にとって特に印象的だったのは、山古志での取り組みが、きちんとしたサポートがあれば、年齢や経験に関係なく暗号資産の世界に入れる明るい未来を示しているところでした。また、そこに住んでいなくても、地域振興に協力しながら、第二、第三の故郷を持てる点にも魅力を感じました。

山古志での取り組みはまだ始まったばかりです。山古志での取り組みは、合併によって村としては存在しなくなってしまっても、Web3技術を活用して、地域の外の人も巻き込みながら地域のアイデンティティや結束を残そうという興味深い取り組みです。今後、地域住民とデジタル住民がどのように協業し、プロジェクトを金銭面も含めて持続可能なものにし、地域を存続させていくのでしょうか。

2024年はビットコインの半減期が控えています。過去の半減期後の経緯から、近い将来、暗号資産ブームが再び到来するかもしれません。バブルと言ってしまえばそれまでですが、ブームの影響力は暗号資産に興味のない人にも及び、ポジティブなものにもなり得ます。山古志でのプロジェクトの行方に加えて、ブームの力を生かして山古志に続く日本の美しい地域が出てくるのか、期待しつつ見守りたいところです。

エンジニアの経験と情報学分野での経験を活かして、現在はドイツにてフリーランスで翻訳・技術解説に取り組む。2009年下期IPA未踏プログラム参加。2016年、本メディアでの調査の仕事をきっかけにブロックチェーンや仮想通貨、その先のトークンエコノミーに興味を持つ。

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