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2024年7月に日本では新しい紙幣が発行されましたが、金融界では新たな決済手段としてデジタル通貨に注目が集まっています。特にステーブルコインや中央銀行デジタル通貨(CBDC)は、それぞれ独自の利点を持ち、金融システムにおける重要な役割を果たしています。ステーブルコインは、価値の安定性を持ちながら、国境を越えた取引や支払いに適していると言えます。一方で、CBDCは国の中央銀行により発行され、金融政策の新たな手段として、またデジタル経済への適応を目指す政府の戦略として注目されています。本記事では、これらのデジタル通貨の現状と将来の展望を探り、特に最近新しい規制を導入したアラブ首長国連邦(UAE)の事例を紹介しながら、国際的な動向とDAOへの応用可能性を考察します。

ステーブルコインと国際的な規制の動き

ステーブルコインは、価値の安定を目指して設計された暗号資産です。その主な特徴は、法定通貨や他の資産に価値を連動させることによって、暗号資産特有の価格変動リスクを低減する点にあります。ステーブルコインは大きく分けて以下の三つのタイプがあります。

法定通貨担保型(fiat-collateralized): これは最も一般的なタイプで、米ドルやユーロ、日本円などの法定通貨を担保にしています。価値がこれらの法定通貨とほぼ1:1で連動するため、非常に安定しています。(例:米ドルに連動したステーブルコインUSDT(テザー)やUSDC、バイナンスUSD(BUSD)等)

暗号資産担保型 (crypto-collateralized): ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産を担保に使用し、その価値を基に発行されるステーブルコイン。暗号資産は価格変動リスクが高いため、担保とする暗号資産の総額はステーブルコインの発行額よりも大きくなり、超過担保となります。(例:イーサリアムを信用担保としているDAI、sUSD(SUSD)等)

無担保型(non-collateralized): アルゴリズムに基づいて価格が自動調整されるステーブルコインで、裏付け資産を持ちません。市場の需給に応じて価格が調整されるため、価格の変動リスクが存在しますが、プログラムにより需給のバランスを調整することで価格を維持するように設計されています。(例:Terra ClassicUSD(USTC)、フラックス(FRAX)等)

ステーブルコインの市場規模は、近年急速に拡大しています。2020年初頭のステーブルコイン市場の時価総額は1兆円にも満たない状況でしたが、2022年12月時点で20兆円を超えました(出典:Coincheck記事)。無担保型ステーブルコインの一部(TerraUSD)が2022年に崩壊したことなどもあり、特に法定通貨担保型のステーブルコインが市場で広く使用されています。その供給量は2022年のピーク後も高い水準を維持し、2024年に入ってから再び上昇傾向を示しています。2024年7月10日時点のステーブルコインの供給量は約1,700億ドル(同日為替レート換算で約27兆円)に相当しています。

画像:ステーブルコインの供給量の推移(2020年1月〜2024年7月)2024年7月10日現在、USDTとUSDCのみで全体の約91.4%を占めている(THE BLOCKより抜粋) 

新たな決済手段としてステーブルコインの流通が広がる中、規制や監督を導入する動きが国際的に進んでいます。2020年6月には、金融活動作業部会(FATF)が「いわゆるステーブルコインに関する G20 財務大臣・中央銀行総裁への FATF 報告書」を公表し、ステーブルコインがマネー・ロンダリングやテロ資金供与に悪用されるリスクが高く、FATF 基準の適用対象となる旨を明示しました。また、金融安定理事会(FSB)は「同じビジネス、同じリスクには同じルールを適用する(same business, same risk, same rules)」という原則に基づいて、2022年2月には「暗号資産の金融安定に対するリスクの評価」を、2022年7月には「暗号資産関連の活動に対する国際的な規制・監督に関するステートメント」を公表し、暗号資産関連の活動・市場及びグローバル・ステーブルコインに関する国際的な指針を策定しています。これらのハイレベル勧告や関連する文書に基づき、FSB は2023年7月に暗号資産関連の活動に関するグローバルな規制枠組みを最終化して公表しています。

これらの国際的な動きを踏まえて、各国でもステーブルコインに対する規制を策定しています。以下は、主要な国や地域のステーブルコインに関する規制の状況です。

アメリカ

  • 2023年7月にアメリカで「支払ステーブルコインの透明性に関する法案(Clarity for Payment Stablecoins Act of 2023、H.R. 4766)」が可決されました。この法案は、支払い用ステーブルコインに対する規制枠組みを設定し、発行者に対する監督機構を強化することを目的としています。これは、2022年にアルゴリズム型ステーブルコインの一部が崩壊したことなどを受けて、金融システム内でのステーブルコインの安全な運用を保証し、リスクに対処するための動きだと言えます。(詳細はこちら

欧州連合(EU)

  • EUでは、2023年5月に暗号資産に対するEU全域での統一された市場ルールとして「暗号資産市場規制(MiCA)」を承認しました。この規制は、従来の金融サービス法制によって規制されていない暗号資産に適用され、発行者や取引に関する透明性、開示、認可、監督の要件を含んでいます。MiCAは、暗号資産の公開提供を規制し、消費者が関連するリスクについてよりよく情報を得られるようにすることで市場の整合性と金融安定を支援しています。MiCAの一部は2023年6月に施行されていますが、具体的な適用開始はさらに詳細なレベル2、レベル3の規定が整備された後となっていて、2024年12月30日から法律が施行される予定となっています。(詳細はこちら

英国

  • 英国では、ステーブルコインを含む暗号資産の規制が進んでおり、2023年6月に「金融サービスおよび市場法2023(Financial Services and Markets Act 2023)」が施行されています。この法律により、法定通貨担保型ステーブルコインの発行や保管などの活動が金融サービスの規制範囲に含まれるようになり、金融行動監視機構(FCA)やイングランド銀行(BoE)が具体的な規制ガイドラインを設けています。これにより、ステーブルコインの安全な取り扱いと消費者保護が強化され、英国を暗号資産技術のグローバルハブとして位置づけるための環境整備が進められています。(詳細はこちら

日本

  • 日本では、2023年6月に施行された改正資金決済法により、ステーブルコインの規制が明確化されました。この法律では、ステーブルコインは「デジタルマネー類似型ステーブルコイン」と「暗号資産型ステーブルコイン」の2種類に大別されています。デジタルマネー類似型ステーブルコインは主に法定通貨担保型で、電子決済手段として位置づけられ、その発行は銀行や資金移動業者、信託会社に限定されています。一方、暗号資産担保型やアルゴリズム型ステーブルコインは暗号資産型ステーブルコインに該当し、従来の暗号資産交換業者に関する法制によって規制されています。(詳細はこちら

香港

アラブ首長国連邦(UAE)

  • 新たなweb3のハブ拠点としての地位を目指すドバイとアブダビを擁するUAEでは、2024年6月に連邦中央銀行(CBUAE)がステーブルコインの新しい規制を承認しました。また、同月、ドバイ金融サービス局(DFSA)は、ステーブルコインを認識するための追加基準を導入しています。UAEの動向や規制の内容については、本記事の後半で詳しく紹介します。

参考記事

 

CBDCの進展と各国の取り組み

ステーブルコインは、民間により開発・発行される金融サービスですが、中央銀行デジタル通貨(CBDC)は、その名前が示す通り、国の中央銀行政府が法定通貨としての価値を保証して発行するものです。CBDCには、主に一般利用型とホールセール型の2つの形態があり、前者は一般の消費者が使用し、後者は銀行やその他の金融機関間の取引に使用されます。現在世界各国で一般利用型CBDCとホールセール型CBDCの研究や開発が進められています。

米国のシンクタンクであるアトランティック・カウンシルによると、2024年5月時点で134ヶ国(世界のGDPの98%に相当)でCBDCの導入に向けた検討や準備が進められています。これは2020年5月時点の35ヶ国から大きな増加となっています。134ヶ国中68ヶ国は検討が進んだ段階(開発、パイロット、正式導入済のいずれか)に該当していて、中でもバハマ(Sand Dollar)、ジャマイカ(JAM-DEX)、ナイジェリア(e-Naira)の3カ国は、2024年5月時点でCBDCが正式に導入されている状態であると分類されています。この3カ国では、いずれも一般利用型CBDCが利用されています。

画像:アトランティック・カウンシル CBDC Tracker (2024年5月時点)

CBDCの目的や意義は国や地域によって様々ですが、通貨主権と通貨・金融の安定性の確保、決済システムの強化や効率化(国際送金の簡略化など)、金融包摂、現金の保管や取引コストの削減などが挙げられます。また、お金の動きが可視化されるため、マネーロンダリング対策や脱税防止の効果も期待されています。他方、中央銀行に決済履歴や預金の取引履歴などの情報を管理されるため、プライバシー保護の問題があることや、サイバー攻撃に遭う可能性、自然災害等によりシステムが停止した場合のオフライン時の対応などの問題も挙げられます。今年5月には、世界経済フォーラム(WEF)が、CBDCが量子コンピュータシステムからの復号攻撃に対して脆弱である可能性があるとの見方を示しています(参考記事)。これらのリスクを考慮しながら、CBDCのメリットを最大限引き出せるように各国で研究や開発が進められているのが現状です。

CBDCは各国の中央銀行により発行されますが、複数国で取り組むCBDCのクロスボーダープロジェクトも多数進行しています。例えば、日本が参加するクロスボーダープロジェクトであるプロジェクト・ステラ(Project Stella)は、2016年に日本銀行と欧州中央銀行が立ち上げた共同調査プロジェクトで、中央銀行が運用する決済システムに分散型台帳技術(DLT)を適用できるかを4つのフェーズに亘って検証を行っています。(プロジェクト・ステラについては、Blockchain Bizの過去記事「Project Stella:日本銀行・欧州中央銀行の共同調査からブロックチェーンの可能性を知る」でも取り上げられています。)また、他にも、国際決済銀行(BIS)とフランス中央銀行とスイス中央銀行による「Project Jura」(ホールセール型CBDCの国際決済に関する検証)や、東カリブ通貨同盟による「D-Cash」(東カリブ地域の8カ国における一般利用型CBDCの実証実験。現在DCash 2.0.準備中)など、国境を超えたCBDCの利用についての検証が各地で進められています。

 

ケーススタディ: UAEのデジタル通貨導入の動き

本ブログでもこれまでに紹介してきた中東のアラブ首長国連邦(UAE)では、政府主導でブロックチェーン技術やWeb3に関する戦略を策定し、関連企業の誘致に積極的に取り組んでいます。2023年2月には、アラブ首長国連邦中央銀行(CBUAE)は、同国の金融セクターのデジタル・トランスフォーメーションを推進するための施策として金融インフラ変革プログラム(以下、「FITプログラム」)を発表しました。FITプログラムは複数の段階に分かれていて、第1段階では、国内カードスキームの導入、即時支払いプラットフォームの立ち上げ、国内や国外との取引での利用を目的としたCBDCの発行が含まれています。続いて第2段階では、金融クラウド、eKYC(電子顧客確認)およびオープンファイナンスプラットフォームの確立など、多くのデジタルインフラの開発や実装が計画されています。これらのデジタルインフラは、規制遵守の改善、運営コストの削減、イノベーションの創出や顧客体験の向上、そしてセキュリティ強化を意図したものとなっています。また、デジタル通貨の導入により金融包摂を推進することも目指しています。

FITプログラムの一環として、2024年6月14日にCBUAEは、UAEのデジタル決済サービス、特にステーブルコインを含む決済トークンサービスのライセンスおよび監督に関する包括的な枠組みとなる「UAE決済トークンサービス規制」を正式に発表しています。この新たな規制は、決済トークンサービスを提供するためのルールおよび条件を明確にし、安全で効率的なデジタル決済エコシステムを確保することを目的としています。この規制の重要なポイントは以下の通りです。

  • ライセンスおよび登録:UAE国内において、または、UAE居住者に対して、決済トークンサービスを提供する企業は、CBUAEからライセンスを取得することが必要になっています。これらのサービスには、決済トークンの発行、交換、および保管と送金が含まれていて、サービスの内容に応じたライセンスが必要になります。各ライセンス取得要件は詳細に定められていて、例えば決済トークン発行事業者としてライセンスを取得するためには、本規制の13条に指定されている要件を満たす必要があります(1500万AEDの資本金に加えて、発行済み決済トークンの法定通貨額面の少なくとも0.5%に相当する追加の運転資本が必要)。
  • ​決済トークンの指定:UAEディルハム(AED)建てのトークン、または他のAED建てトークンを担保とするトークンと指定しています。ライセンスを得た決済トークン事業者は、AED建てトークンをUAE居住者に対して発行できます。
  • 外貨建て決済トークンの制限:AED以外の法定通貨を担保とする外貨建て決済トークン(Foreign Payment Token)には一定の制限がかけられます(ライセンスを得た事業者による暗号資産またはその派生商品の販売に限定)。
  • 禁止事項:無担保型ステーブルコイン(Algorithmic Stablecoin)やプライバシートークン(トークンホルダーの情報や取引履歴を隠す設計の暗号資産)の発行や販売などは禁止されます。(但し、AED建ての決済トークンや外貨建て決済トークンとして当局に承認されている場合を除く。)
  • 移行期間:本規制の移行期間は1年間とし、1年後の2025年6月14日に本格的に発効することになります。

今回、UAEが導入した規制は、決済トークンの規定や無担保型ステーブルコインの禁止など、欧州など他の地域の規制と比較しても保守的な内容になっていると言えます。UAEは、2024年2月にFATFの「グレイリスト」から最近削除されたばかりということも、今回より慎重なアプローチを採用した要因となったとも考えられます。(実際に、今回の規制では、マネーロンダリング防止措置を重視した内容になっています。)

また、CBUAEは、FITプログラムの一環として、2024年2月にCBDCの発行計画を発表していて、今回のステーブルコインへの規制は、CBDCに適用できる将来の規制アプローチのパイロット的な位置付けとも考えられます。明確で一貫した規制を採用することにより、ステーブルコイン、そして将来的にはCBDCを取り巻く環境が整い、信頼性の醸成と取引の効率化が進むことで、より多くの投資家やユーザーを引き寄せる可能性があると言えます。

さらに、UAEはCBDCのクロスボーダープロジェクト「mBridge」にも参加しており、CBDCの国際貿易での活用の検証にも取り組んでいます。プロジェクトmBridgeは、スイスに拠点を置く国際決済銀行(BIS)のイノベーション部門が中国、香港、タイ、UAEの中央銀行と連携して2021年に開始されたもので、プロジェクトのブロックチェーンであるmBridge Ledgerを使用して、即時の国境を越えた取引やその他の支払いのためのCBDCの実現可能性をテストすることを目的としています。2024年6月には、サウジアラビアの中央銀行が本プロジェクトに正式に参加することを発表しており、現在実用最小限の製品(MVP)の段階に達したmBridgeに対して国際的な注目が集まっています。

 

画像:BISのmBridgeに関するウェブサイト

参考記事

 

デジタル通貨のDAOへの応用可能性

ステーブルコインなどのデジタル通貨は、DAO(分散型自律組織)の運営やガバナンスにおいても重要な役割を果たす可能性があります。

DAOでは、独自トークン、仮想通貨、ステーブルコインなどがトークンとして利用されます。どのトークンを設定するかは、DAOの目的に応じて異なります。

  • 独自トークン: 価格変動を前提とし、DAOの価値向上に向けたインセンティブとして機能します。DAOの成功がトークンの価値に直接影響を与えるため、参加者の協力を促進する効果があります。
  • 仮想通貨:スマートコントラクトベースでお金を管理する場合に利用されていることが多いです(例えばNouns DAOでは、イーサリアム(ETH)を活用)。但し、外的要因等で問題が生じると価格変動が生じる可能性があります。
  • ステーブルコイン:独自トークンや仮想通貨と比べて安定した価値を持つため、報酬支払いや取引に適していると言えます。価値の変動が少ないため、DAOのメンバーに対して公正な報酬を提供できます。

ステーブルコインを活用するDAOの例としては、DeFi(分散型金融)プロトコルやガバナンストークンを持つプロジェクトが挙げられますが、現時点では、多くのDAOがステーブルコインを利用していません。その主な理由としては、規制の不確実性が挙げられます。本記事でご紹介した通り、ステーブルコインの利用に関する規制や運用ルールが各国で進む中、安定した価値の提供手段として今後DAOでもステーブルコインの活用が進展していくことが予想されます。

また、スマートコントラクトと連携することで、ステーブルコインは自動化された支払いや契約履行を可能にします。これにより、DAOの運営がより効率的で透明性の高いものとなり、参加者間の信頼性が向上することが期待されます。

参考記事

 

結論

今回の記事では、ステーブルコインやCBDCを中心に、これらのデジタル通貨の現状と将来の展望を探りました。UAEの事例からも分かるように、デジタル通貨の役割は新たな決済手段として注目されており、国外からの投資を集めるための戦略的な活用が進んでいます。国際的にデジタル通貨の運用ルールが整備され、技術インフラが構築されることで、DAOでの活用可能性も広がっていくと言えるでしょう。

将来的には、CBDCがスマートコントラクトと連携することで、ステーブルコインを代替する可能性も考えられます。しかし現状では、ステーブルコインがデジタル資産の中で先行しており、多くのDeFiプロジェクトなどで利用されています。

また、UAE、中国、香港、タイ、サウジアラビアが参加するクロスボーダープロジェクト「mBridge」など、新興国がデジタル通貨の革新を牽引する動きを見せており、これまでの世界の通貨の勢力図が大きく描き変えられていく可能性も示唆しています。今後もデジタル通貨の進展から目が離せません。

参考記事

株式会社ガイアックスDAOコンサルティング事業部リサーチャー
過去10年以上国際開発協力に従事し、国内外の社会課題の解決に関心を持っている。web3時代の新たな国際協力や関係人口創出の形としてDAOにポテンシャルを感じ、ガイアックスに参画。ドバイ在住。

CBDCステーブルコインデジタル通貨ドバイ

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