本記事ではモビリティー分野で活用が進むブロックチェーンについて、現状どのように利用されているのか、ブロックチェーンを利用するメリットはどこにあるのか、事例をもとに解説します。
CESでのブロックチェーンとモビリティー
以前は自動車というと大きなメカの塊というイメージがありましたが、最新の自動車はもはやコンピュータで制御された電気製品であり、ドライバーとして運転してみると操作感も大きく異なります。このような変化の中で、自動車も他のデバイス同様、IoTデバイスの1つとしてインターネットにつながる流れが出てきています。さらにその先にはブロックチェーンと組み合わせた利用といったことも模索されています。
自動車に関する先端技術というと、自動運転というワードに触れることが増えましたが、2019年1月にラスベガスで開催された電子機器の見本市CESではブロックチェーンとモビリティーに関する展示も見られました。CESはコンピューターをはじめとする電子機器における世界最大クラスのイベントで、毎年ITや様々な業界において大きな注目を集めています。
画像: CESのウェブサイトより
日本企業としては、大手自動車電気部品メーカーのデンソーがMobility as a Service(MaaS)をキーワードに、展示のひとつとしてブロックチェーンを車両のソフトウェアやデータ改ざん防止に活かす取り組みを発表しました。
デンソー、「CES 2019」に出展 | ニュース | DENSO – 株式会社デンソー / Crafting the Core
電子部品大手アルプス電気とその子会社であった自動車AVを手がけるアルパインが経営統合したアルプスアルパインのブースでは、同社がフリービットと共同開発を行うブロックチェーンベースのデジタルキー技術Car Key Platformが発表されました。スマホでの解鍵・施錠はもちろん、権限移転までも可能になるようで、カーシェアリングへの応用が期待されます。
- 【プレスリリース】アルプス電気 新会社アルプスアルパインとして「CES 2019」へ初出展 | アルプスアルパイン
- フリービット、ブロックチェーン技術を活用した 「デジタルキー」基礎技術をアルパインと共同開発 « プレスルーム|FreeBit
また、CESと同時期にラスベガスで開催されたCTS(Consumer Telematics Show)にも、CESに参加する自動車業界の関係者が集まりました。CTSでは、Toyota Research Instituteの元CFOで、現在MOBI(Mobility Open Blockchain Initiative)の創業者でCEOのChris Ballinger氏が「Blockchain: From Hype to Application」(ブロックチェーン – ハイプから応用まで)というタイトルで講演を行いました。
- Chris Ballinger – MOBI – the Mobility Open Blockchain Initiative | Consumer Telematics Show Speaker
- 元トヨタ研究所CFOが語る「ブロックチェーンがウーバーを消す」未来 【CES2019現地レポ】|ビジネス+IT
MOBIはブロックチェーンを利用し、モビリティーの安全性向上、環境対応、アクセシビリティ向上を目指す業界団体で、メンバーとしてBMWやGM、Fordといった世界的な自動車メーカー、デンソーやBOSCH、ZFといった大手部品メーカー、さらにはブロックチェーンを得意とするIT関連の大手からスタートアップまで多くの企業が名前を連ねています。モビリティーとブロックチェーンについて最新の情報を知る上で動向に注目したい団体です。
Mobi − mobility open blockchain initiative
注目しておきたいプロジェクト
本ブログではシェアリングエコノミーの観点からも、モビリティーとブロックチェーンに関するプロジェクトを取り上げてきました。ここでは過去の記事も交えて注目のプロジェクトを紹介します。
自動車産業で有名なドイツでは、ブロックチェーンと自動車に関する取り組みもさかんです。自動車部品メーカーのZF Friedrichshafenはブロックチェーンベースの車載ウォレットの開発を進めています。
ブロックチェーンベースの自動車用ウォレットCar eWallet – Blockchain Biz
同じく自動車部品の生産で有名なドイツのBoschは、仮想通貨バブルのさなかの2017年末、そのベンチャーキャピタルを通じてIoTのための仮想通貨IOTAのトークンを購入しIOTAに対して投資することを発表しました。Boschは参加者がデータを売買できる分散型のデータ市場「IOTAデータマーケットプレース」の参加企業でもあり、車がBoschのデータベースから自動的に不具合のある部品のデータを取得するといった応用も考えられるとの報道もありました。現在IOTAとBoschの間では、BoschのIoTセンサーデバイスBosch XDKをIOTAのネットワークにつなげる取り組みが続けられています。IOTAについては、ドイツの自動車大手Volkswagenとの共同開発も伝えられています。
- IoTのための仮想通貨IOTA – Blockchain Biz
- Everything you need to know about IOTA, XDK2MAM and Bosch XDK | Bosch Connected Devices and Solutions
- CEBIT ’18: IOTA and Volkswagen Present Proof of Concept for Autonomous Cars
車をブロックチェーンにつなげるだけでなく、ドライバーのよい行動をブロックチェーンに記録し仮想通貨で報酬を与える方向性も模索されています。ドイツのダイムラーは環境に配慮し低速でスムーズに安全運転をするドライバーに対して仮想通貨mobiCOINを付与するプロジェクトを発表しました。
ベンツのダイムラーがエコ運転に付与するmobiCOIN – Blockchain Biz
画像: mobiCOINのモバイルアプリのスクリーンショット(ダイムラーのブログより)
韓国発の分散型モビリティプラットフォームMass Vehicle Ledger(MVL)でも、車社会でドライバーの安全運転といったよい行動を評価する仕組みが採用されています。
分散型モビリティプラットフォームMass Vehicle Ledger(MVL) – Blockchain Biz
画像: MVLのウェブサイトより
シェアリングエコノミーの観点では、大手の動きが活発になる以前から、中央集権的なサービスに疑問を呈する形でカーシェア、ライドシェアのプロジェクトが発表されてきました。コンセプトから実運用につながらないプロジェクトもある中、先に触れた韓国発のMVLはシンガポールで配車サービスTADAを提供し、ベトナムへの進出を発表するなど東南アジアでの攻勢を強めています。インドのDerivezyもP2Pで自動車やバイクをシェアできるサービスを実際にユーザーに提供してきた実績があります。
インドでP2Pカーシェアリングを展開するDrivezy – Blockchain Biz
画像: Derivezyのウェブサイトより
このように、モビリティーの分野では、車やサービス利用者がネットワークにつながり、その情報がブロックチェーンに蓄積される流れが確実に進んでいます。
ブロックチェーンをモビリティーに適用するメリット
ここまでブロックチェーンを利用したモビリティーに関するプロジェクトを見てきましたが、改めて、ブロックチェーンを利用するメリットはどこにあるのでしょうか。
まず、第一に、データの改ざんがほぼ不可能に近いことが挙げられます。ここでいうデータとは、車やユーザーに関するデーターだけではなく、車両のソフトウェアといったデータも含みます。特に車両がインターネットにつながりさらにシェアが視野に入ってくると、車両は不特定多数の人のアクセスにさらされることになります。データの改ざんは金銭面でのトラブルや重大な事故を引き起こしかねず、データーを回改ざん不可能な形で安全に保つことはより重要になります。
パブリックチェーンであればデータの透明性が高いこと、データの共有が容易であることも大きなメリットとなるでしょう。企業やサービスの垣根を超えてデータが蓄積されるMVLやIOTAのようなプラットフォームが普及すれば、優良なサービス、車両、ユーザーが明らかになり、サービス利用者の判断を助け、ユーザーのよい行動を促し、保険など周辺分野にもビジネスチャンスが拡大していきます。
広範囲でのデータの共有は自動運転にも恩恵をもたらします。大規模な運転データが蓄積されるようになれば、自動運転のソフトウェアの機械学習にデータを活かせるからです。ドライバーが日々の運転から報酬を受け取る日が来るかもしれません。
また、シェアリングエコノミーの観点では、ブロックチェーンベースの分散型のサービスは中間搾取を少なくする可能性があります。さらにユーザーひとりひとりがトークンを利用し、同時に稼ぐサイクルができればトークンエコノミーの形成にもつながるでしょう。前出のMVLやDerivezyはこのような大きな将来像を描いています。
今後の展望
車両は購入コストや維持コストが高く、所有から共有へパラダイムシフトが起こる中で、モビリティーはシェアリングエコノミーの一大分野といえます。モビリティーを発展させ、より安全かつ公平公正にする技術としてブロックチェーンに注目が集まっています。
ただし、現在メジャーなパブリックチェーンが本格的にモビリティーで利用されるようになるには、スケーラビリティーやトランザクション手数料の問題を避けては通れません。運転データやユーザーデータの蓄積、車両の充電や利用に対するマイクロペイメントなど、細かな大量のデータを時にリアルタイムで処理する必要があるからです。一方、IOTAのようなユニークな次世代ブロックチェーンが登場し、仮想通貨は停滞した2018年には基礎技術の開発が進み、ゲームという遠く離れた分野からも興味深いソリューションが出てきているのは明るいニュースです。
使っていない自家用車がトークンを稼いできて、そのトークンで配車サービスを利用したり車を充電したりする、安全運転がデータに基づいて評価され割安の保険を契約するといった未来は意外と近くまで来ているのかもしれません。
本記事で紹介した地域や企業・団体、サービスを中心に、ブロックチェーンを利用したモビリティー分野でのシェアリングエコノミーや改ざん不可能なデータ管理に注目していきたいところです。