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Symbolの前身NEM

NEMは2014年に誕生したコミュニティを重視したプラットフォームで、オープンソースの仮想通貨ネットワークNxtに着想を得て開発が始まりました。2014年にNEMのテストが行われ、2015年に正式にローンチしました。本ブログでも2016年11月に代表的な仮想通貨・ブロックチェーンプラットフォームの一つとしてNEMを取り上げました。

NEM(ネム)ブロックチェーン – 独自の合意形成方法で新しい経済システムを作り出せるか?

NEMの通貨であるXEMは、2018年1月に日本の大手仮想通貨取引所Coincheckにて580億円相当の巨額のNEMが流出するという事件が発生しました。ただしこの流出事件は、取引所の資産の取り扱い体制に起因するハッキングが発生したもので、NEMやブロックチェーンに欠陥があったわけではありません。

NEMを利用したプロジェクトとしては、スポーツ業界に特化したブロックチェーンベースのギフティングサービスEngate、海外では、本ブログでも紹介したマレーシアの学位発行・検証プロジェクトe-Scrollなどが挙げられます。アメリカのモンタナ州ではNEMを利用した選挙の実証実験が行われ、アラブ首長国連邦はNEMと協定を締結し電子政府を目指すことを発表しました。2020年にはリトアニアの中央銀行、リトアニア銀行がデジタルコレクターコインLBCoinをNEM上のトークンとして発行しました

 

Symbolと独自通貨XYM

NEMではネットワークの処理性能やセキュリティの向上を目指し、「Catapult」(カタパルト)と呼ばれるバージョンへの大規模アップデートが長らく試行錯誤されてきました。Catapultはプログラミング言語C++でゼロから開発が始められました。

Catapultとして開発されてきたブロックチェーンはSymbol、その独自通貨はXYMと命名され、数度の延期を経て2021年3月17日、Symbolがローンチしました。

SymbolはNEMから分岐したブロックチェーンではなく、まったく新しいPoS+(Proof of Stakeプラス)ブロックチェーンとして誕生しました。SymbolはNEMと並行して稼働し、NEMプロジェクトにはNEMとSymbolのふたつのブロックチェーンが存在することになります。

Symbolの独自通貨XYMは、Symbol上のトークンでトランザクション手数料の支払いなどに利用されます。2021年3月12日にとられたXEMの残高のスナップショットに基づき1XEMに対して1XYMが配布されますが、自動的に配布されるわけではなく、指定期間内に配布を受ける意思表示(オプトイン)した者だけに配布されます。仮想通貨取引所にXEMを預けている場合は、取引所がオプトインを実施し、保有者に対して自動的にXYMが配布されるといった対応も行われる予定です。XEMを持っていてXYMを受け取りたいという人は保有状況と手続きを確認してください。日本においては、XYMが日本国内の暗号資産交換業者による取引が始まるまでは、円と交換することができません。

Symbolオプトインでお困りの方はご確認ください – Japan.nem.io

続いてSymbolで実現された新機能を見てみましょう。

 

Symbolでできるようになったこと

SymbolはNEMブロックチェーンの思想を受け継いでいます。NEMはPoWの電力消費を問題視し、PoSに似た、ネットワークでの貢献度も加味してブロック生成ノードを決めるPoI(Proof of Importance)という合意形成アルゴリズムを採用しています。SymbolではPoIに似た合意形成アルゴリズムPoS+(Proof of Stakeプラス)を採用しています。合意形成を行うノードは規定値以上のXYMをステークし、importance score(ネットワークにおける重要度を表す値)に基づき確率的に選ばれます。Importance scoreはステークしているXYMの量、そのアカウントが支払ったトランザクション手数料の総額、importanceスコアを委任しているアカウントの数によって決まります。ブロックを生成したノードは報酬としてXYMを得ます。

Symbolのアーキテクチャは「Peerノード」「APIノード」「RESTゲートウェイ」「クライアントとSDK」の4層で構成されています。

画像: Symbolの4層構造(Symbolテクニカルドキュメントより)

PeerノードはPoIでの合意形成を扱います。APIノードはPeerノードに渡すデータを検証し、Peerノードがブロックチェーンの状態、ブロックチェーンに保存されたデータをRESTゲートウェイが扱いやすい形でMongo DBに保存します。RESTゲートウェイはクライアントやSDKからのアクセスをAPIノードに橋渡しします。このような階層構造により、開発者はSDKだけ意識してSymbolを利用でき、企業や組織は既存のシステムにSymbolを組み込みやすくなります。

開発ニーズに柔軟に対応できるという点では、Symbolはプライベートチェーンとパブリックチェーンの両方を導入できるハイブリットチェーン構造を採用しています。機密情報はプライベートチェーンで扱い、必要に応じてパブリックチェーンと通信できます。また、Symbolの公式サイトのチュートリアル動画「Introducing Symbol from NEM」によると、SymbolはBitcoinやEthereumといった他のチェーンと仲介者なしでコミュニケーションするクロスチェーンスワップもサポートしているといいます。

このほか、複雑なマルチシグを扱えるのもSymbolの特徴です。Symbolではマルチシグアカウントを作ることができ、トランザクションには複数のアカウントで共同署名します。マルチシグアカウントは他のマルチシグアカウントの共同署名者になることもできます。Symbolが扱う高度なマルチシグはセキュリティを担保し、柔軟なビジネスプロセスの実装を可能にします。
※ 電子署名やマルチシグについて詳しくは本ブログの記事「電子署名・マルチシグ – ブロックチェーンの送金を支える技術」を参考にしてください。

Symbolの技術情報について詳しくは開発者向けのドキュメントが日本語で公開されています。

Symbolテクニカルドキュメント

 

Symbolの今後

数年をかけて満を持してリリースされたSymbolですが、今後どのように発展していくのでしょうか。

NEMはグローバルのコミュニティーだけでなく、日本にもコミュニティーがあり、日本語のウェブサイトや、日本語の技術文書も公開されています。また、Engateを始め、NEMを利用したサービスも出てきています。2020年6月には日本でコミュニティーからNPO法人「NEM技術普及推進会 NEMTUS」が立ち上げられました。

NEM+  |  NPO法人 NEM技術普及推進会 NEMTUS

海外でもNEMを利用するプロジェクトが発表され、前出のリトアニア銀行のLBCoinはSymbolへの移行を予定しています。このほか、2022年のカタールでのFIFAワールドカップに向けた建設をSymbolで管理するプロジェクトも発表されています。

Bimtrazer signs MOU in Qatar to support FIFA World Cup through Symbol blockchain – Projects – NEM Forum

また、2020年から2021年にかけてブロックチェーン・仮想通貨分野でCosmosやPolkadotといったブロックチェーンの相互運用を目指すプロジェクトに注目が集まる中、Symbolのクロスチェーンスワップ機能にも注目したいところです。

一方、Symbolが広く利用されるようには少し時間がかかるかもしれません。本記事執筆時点2021年4月時点でSymbolの通貨であるXYMを取り扱っている日本の大手取引所はなく、海外に目を向けても取り扱っている取引所の数が多いとは言えません。日本国内の取引所での取り扱いについては、金融庁の承認を待たなければいけません。

今後さまざまなプロジェクトでSymbolやXYMを使ってのブロックチェーンの活用も広がっていくことが期待されます。

Aram Mine

Gaiax技術マネージャ。研究開発チーム「さきがけ」リーダー。新たな事業のシーズ探しを牽引。2015年11月『イーサリアム(Ethereum)』 デベロッパーカンファレンス in ロンドンに参加しブロックチェーンの持つ可能性に魅入られる。以降ブロックチェーン分野について集中的に取り組む。

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