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  • 更新日: 2020年12月21日

本連載ではEthereumRipple、NEM、Bitcoinといったプラットフォームとそれを支えるブロックチェーンについて紹介します。EthereumRippleに続いて、今回はブロックチェーンプロジェクト「NEM」(ネム)の生い立ち、得意とする分野、通貨とその発行方法、合意形成の方法について解説します。

 

NEMとは

NEM(New Economy Movement / ネム)は独自のブロックチェーンを持つ分散型のP2Pプラットフォームです。合意形成の方法としてProof of Importance(PoI)アルゴリズムを採用し、APIアクセス、マルチ署名技術、独自の暗号通貨XEMを提供し、サードパーティーはNEM上にアプリケーションを構築できます。NEMによると、2016年11月現在、オンラインノード数393、ブロック数851,102、時価総額は39.39百万ドル(約42億円)となっています。

国内では、テックビューロ株式会社がNEMのパブリック型のブロックチェーンをプライベート型のmijinとして開発し、積極的に実証実験を行っています。

NEMの概要については、以下の紹介ビデオが参考になります。

Introducing NEM

www.nem.ioforum.nem.ioreddit.com/r/ournemfacebook.com/ournemtwitter.com/nemofficialNEM is a movement to create a new economy based on the principles of decen…

続いて、NEMの生い立ち、得意とする分野、通貨とその発行方法、合意形成の方法、今後の展望について順番にみていきましょう。

 

NEMの生い立ち

NEMは2014年にスタートした比較的新しいプラットフォームで、ブロックチェーンプラットフォームNxt(ネクスト)から着想を得たBitcoinのトークフォーラムのユーザーUtopianFutureによって、2014年1月「コミュニティー指向の仮想通貨をゼロから開発する」というゴールのもと開発が始まりました。同年に開始されたαテスト、βテストを経て、2015年3月にブロックチェーンプラットフォームNEMが公開されました。

 

NEMが得意とする分野

NEMは、その特徴として、マルチシグコントラクト、モザイク、ネームスペース、ハーベスティング、メッセージ送信の5つを挙げています。

複数のアカウントで署名するマルチシグ(multi signingの略)は、取引や権利の譲渡といった契約の安全を保障するだけでなく、NEMはブロックチェーンのシステム上で最初からマルチシグをサポートしていることから、APIを介してさまざまなクライアントでマルチシグの互換性を担保できるとしています。また、NEMでは権利譲渡によるマルチユーザーアカウントの構築が可能で、マルチユーザーアカウントによるマルチシグに柔軟に対応できることから、安全なファンドの構築や自立分散組織のファンドへの応用が考えられるといいます。

NEM上でユーザーはモザイクと呼ばれる独自通貨を発行することができ、発行量および総量は一定か可変か、送信可否、説明書きの有無、暗号化されたメッセージの送信可否など、自由度の高い設定が可能です。またモザイクの取引に税をかけ徴収するlevyという機能もあります。モザイクの発行にはNEMのネットワークでユニークなネームスペースが必要で、モザイクは[ネームスペース].[サブドメイン(あれば)]:[モザイク]の形で表されます。現バージョンではモザイクの発行に限られていますが、NEMのブログのモザイクとネームスペースについて書かれた記事では、今後新しい機能が追加される可能性を示唆しています。

新しくブロックを生成しブロックチェーンに追加する「ハーベスティング」について、詳細は後続の合意形成の項にゆずることにしますが、合意形成の負荷は少なく、ブロック生成間隔も60秒前後とRippleなどと比べると長くはなるものの、Bitcoinの数十分と比べて比較的短くなっています。

また、プレーンメッセージや暗号化メッセージを単発またはNEMの独自通貨XEMの取引とともに送れるメッセージ機能もあります。

 

通貨XEMとその発行方法

NEMの通貨はXEM(ゼム)と呼ばれ、XEM自身もNEM上のモザイクです。NEMの公開に際して8,999,999,999XEMが発行され、約1500人に広く公平に分配されたといいます。NEMはこれ以上XEMが発行されることはなく、インフレによってXEMが価値を失うことはないとしています。

XEMはWindows、Mac OS、Linux用のクライアント、Android向のモバイルクライアントで管理することができ、ソフトウェアは以下のページからダウンロードできます。

Install NEM / NEM – Distributed Ledger Technology (Blockchain)

合意形成に参加して報酬としてXEMを得るほか、取引所や現金で購入できるサービスを利用してXEM入手することもできます。NEMのウェブサイトにXEMの購入方法の案内があります。

Get XEM / NEM – Distributed Ledger Technology (Blockchain)

 

合意形成の方法

NEMでは、新しくブロックを生成しブロックチェーンに追加し手数料を得る(harvest、収穫する)プロセスを「ハーベスティング」と呼びます。一定の条件を満たせば、誰もがNEMのソフトウェアを自分のコンピューターにインストールしてハーベスティングのプロセスに参加することができます。NEMによるとノードは消費電力5Wのマイクロコンピューターで運用でき、BitcoinのようにP2Pネットワークを運用するのに数億ドルの出費、多大な環境負荷といった負担はかからないといいます。

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画像:BitcoinとNEMのネットワークの比較(動画Introducing NEMより)

ハーベスティングを行うノードはNEM独自のProof of Importance(PoI)と呼ばれるアルゴリズムで決定されます。各ノードが次のブロックを生成できる確率がNEMネットワーク内での重要度(importance)をもとに計算され、確率的にハーベスティングを行うノードが決まります。では、ネットワークにおける重要度はどのように計算されるのでしょう?

NEMの技術文書によると、10,000 vested XEMを持つノードは0でない重要度を持ち、ハーベスティングに参加する資格を持つことになります。XEMの残高にはunvested XEMとvested XEMの2種類があり、vested XEMとはそのノードによる所有が確定したXEMと考えることができます。100,000XEMを口座に入金してそのままにしておくと、翌日には10,000XEMがvested XEMとなり、1日ごとにunvested XEMの1/10がvested XEMになります。XEMを受け取った場合はunvested XEMとして残高に追加され、XEMを送った場合は、vested XEMとunvested XEMの割合が保持されます。これはハーベスティングに参加するためにXEMを移動するといった不正を防ぐ措置だと考えられます。

さらに、ハーベスティングに参加する資格のあるノードの条件を満たす取引(1000XEM以上、43,200ブロック以内に発生したものなど)から重みと方向付きの取引グラフが作られ、これをもとにノードの重要度が計算されます。Googleのウェブページの重要度を決定するページランクアルゴリズムの「重要なノードからリンクされているノードは重要」のようなイメージというとわかりやすいかもしれません。

NEMのPoIでは、Bitcoinで採用されているProof of Work(PoW)のように資源を多大に消費したり資源を所有するノードに見返りが偏ったりすることがなく、また、PoWのセキュリティーや資源消費の面での改善を試みるProof of Stake(PoS)のように資金力のあるノードが力を持つこともなく、NEM開発者 武宮 誠氏がCoinPortalのインタビューで語った「“お金持ちがさらに豊かになる流れ”を変えるシステム」を支える鍵となる可能性があります。

NEMの合意形成アルゴリズムPoIについて、詳細はNEMのテクニカルリファレンスのp26 7. Proof-of-Importanceに記載があります。

NEM Technical Reference

 

今後の展開

NEMの公式ニュースメディアNEMflash.comは、NEMがテックビューロによって開発されたプライベートブロックチェーン(コードネームCatapult)のホワイトペーパーを公開したと伝えています。

CatapultはNEMの開発者も参加して開発されたプライベートブロックチェーンmijinの後継にあたり、記事では「Catapultはオープンソースソリューションとしてリリースされ、将来的にはパブリックなブロックチェーン(NEM)に組込まれるでしょう」と結ばれています。また、Catapultはプログラムされている言語をJAVAからC++へ変更し、通信プロトコルもhttpからsocket通信に変えるなど高速化へ取り組みが行われています。NEMは2015年に公開された比較的新しいプラットフォームということもあり、まだ目立った利用事例は見当たりませんが、密接な開発が続くプライベートブロックチェーンmijinは企業と共同での実証実験続けており、その後継であるCatapultでも実験が行われ、これらに牽引される形でそのパブリック版であるNEMの普及が今後加速する可能性も十分に考えられます。

NEMの今後の展開をうらなう上では、スーパーノードと呼ばれるNEMの運用に貢献する高いパフォーマンスのノードの世界的な分布も見ておいてもよいかもしれません。

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画像:NEMのスーパーノードの分布(スーパーノードマップより)

New Economy Movementの頭文字をとったNEMが「コミュニティー指向の仮想通貨をゼロから開発する」という当初のゴールにどう近づくのか今後の展開が期待されます。

 

 

Gaiax技術マネージャ。研究開発チーム「さきがけ」リーダー。新たな事業のシーズ探しを牽引。2015年11月『イーサリアム(Ethereum)』 デベロッパーカンファレンス in ロンドンに参加しブロックチェーンの持つ可能性に魅入られる。以降ブロックチェーン分野について集中的に取り組む。

NEMブロックチェーン

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