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Axie infinity bunner

本記事では、ゲームをプレイしながらお金を手に入れる「Play to Earn」について、Play to Earnの文脈で注目を集めるブロックチェーンベースのゲームAxie Infinityと、Axie Infinityをはじめとするブロックチェーンゲームなどで使われるNFTの貸し借りやゲームに対する投資を行う「YGG」(Yield Guild Games)を交えて説明します。本記事はあくまでPlay to Earnという現象を説明するものであり、投資を勧めるものではありません。記事中のレートは本記事執筆時点の2021年9月上旬のレートです。

 

Play to Earnとは

ゲームをプレイしてお金を手に入れるというと、ビデオゲームで対戦するeスポーツや、古くは2000年代から始まったオンラインゲームのアイテムなどを法定通貨で取引するRMT(リアル・マネー・トレーディング)を思い浮かべる人もいるかもしれません。

ブロックチェーンとブロックチェーン上で発行される仮想通貨が徐々に社会に浸透する中で、ゲーム分野でのブロックチェーンの利用も広がっています。ブロックチェーンはゲームとお金をシームレスにつなぎ、2021年夏に入り、ゲームをプレイしてお金を手に入れる「Play to Earn」に注目が集まっています。ゲームと分散型金融(DeFi)を組み合わせた「GameFi」という用語も使われるようになりました。

Play to EarnやGameFiは今年になって突然生じた現象ではありません。Play to Earnが注目を集めるようになった背景を振り返ってみましょう。

歴史のあるBitcoinゲームSaruTobi(2014)は現在も愛好家の間で楽しまれ、Ethereumネットワーク上で子猫を収集、交配、トレードできるCrypto Kitties(2017)はNFTを使ったブロックチェーンゲームの先駆けとなりました。初期のブロックチェーンとゲームについては、本ブログの記事「ブロックチェーンとゲーム」に詳しい説明があります。

仮想通貨の価格が低迷した2018年、2019年には、静かに基礎技術や、現在のPlay to Earnにつながる要素技術、ゲームの開発の試行錯誤が続きました。本ブログでは2018年にローンチしたSteemブロックチェーン上のカードバトルゲームSteem Monsters(現Splinterlands)を「Steem Monsters – ブロックチェーンベースのカードバトルゲーム」で紹介しました。2018年にSteemの年次ミートアップでは、Steemではブログを書いて仮想通貨を手に入れるSteemitが主流な中、Steem Monstersのファウンダーがさまざまな人がそれぞれに適した方法で稼げる世界について語っていたのが印象的でした。

2020年末から2021年春にかけて仮想通貨が高騰し、余剰資金がNFTに流れ、ブロックチェーンゲームも盛り上がりを見せ始めました。この背景には少なからず新型コロナウィルスの影響もあります。本記事で取り上げるAxie Infinityは、フィリピンなど国や地域によっては、コロナ禍で経済が失速する中、生活のためのお金を手に入れる手段となりました。日本では信じられない話かもしれませんが、実際に起こっていることなのです。PLAY-TO-EARNというチャンネルのYouTube動画がリアルな現実を垣間見せています。

PLAY-TO-EARN | NFT Gaming in the Philippines | English

仮想通貨の統計情報を扱うCoinMarketCapやCoingeckoにはPlay to Earnやゲームに関するトークンのカテゴリが設けられています。どのようなブロックチェーンゲームがあるのか外観するには分散型アプリの統計情報を扱うDappRadarのゲームカテゴリを見てみるのもよいでしょう。

ここまで読んで「ゲームで稼いでみたい」「Play to Earnトークンに投資してみたい」と思った人もいるかもしれません。ただし、Play to Earnについては国内では法的な観点から考慮すべき事柄も存在し、本格的にプレーを始める前にどのような懸念事項があるのか知っておく必要があります。フィリピンでは人気のAxie Infinityで得た収益に課税を検討する動きもあるようです。

ここまでPlay to Earnの概要を説明しました。続いてPlay to Earnの代表格のブロックチェーンゲームAxie Infinityについて見てみましょう。

 

Axie Infinityとは

Axie Infinityは、分散型アプリと関連サービスを開発するスタートアップ、Sky Mavisが開発を進めるブロックチェーンゲームです。Sky Mavisの創業は2018年で、ベトナムのホーチミンに拠点を置いています。2021年の夏に入ってPlay to EarnやAxie Infinityに注目が集まりましたが、Axie Infinityは2021年になって急に出てきたゲームではなく、仮想通貨の低迷期にも開発が続けられたゲームです。Sky Mavisは2019年11月にAnimoca BrandsやConsenSys Venturesなどから1.5百億ドル、2021年5月にLibertus Capitalなどから7.5百億ドルの出資を受けました。

Axie Infinityはポケモンに着想を得たゲームで、Ethereumネットワーク上でNFTとして発行されるAxieと呼ばれる生き物を交配、収集し、育てて戦わせます。Axie Infinityの世界で土地を手に入れて王国を作ることもできます。プレイヤーはAxieを戦わせたり、Axieを売ったりすることでERC-20トークンのAXSとSLPを手に入れます。AXS、SLPはともにゲーム内で利用でき、AXSはAxie Infinityのガバナンストークンとしてステークできるようになるようです。

Axie Infinityのウェブサイトによると、1日に25万ユーザーがゲームをプレイし、Axie Infinityのマーケットプレイスでのトレード金額は累計90,000ETH(約390億円)にのぼり、これまでにもっとも高い価格をつけたAxieは300ETH(約1.3億円)で売られました。

Axie Infinityのホワイトペーパーでは、Axie Infinityが開発された経緯を「Axie was built as a fun and educational way to introduce the world to blockchain technology.」(Axie Infinityは世界にブロックチェーン技術を紹介する楽しく教育的な方法として開発されました)と説明しています。コロナ禍で生活費を稼ぐ手段として、ゲームが支持されているフィリピンで、ブロックチェーン技術とは無縁の人にまで広がった様子を見ると、Axie Infinityはブロックチェーンの世界への新しい入り口を作ることに成功したといってよいでしょう。

Axie Infinityをプレイするには3体のAxieを用意する必要があります。Axie Infinityに注目が集まったこともあり、Axieの価格は高騰しています。最も安いAxieでも本記事執筆時点2021年9月現在、0.05ETH(約2万2千円)で売りに出されています。

画像: Axie Infinityのマーケットプレイス

3体そろえようとすると数万円の出費が必要で、ゲームで勝つためによいAxieを入手しようとするとさらにお金が必要になります。また、Ethereumネットワークが混雑しガス代が高騰すると、気軽にゲームをプレイすることはできません。

このような課題に対してすばやくソリューションが提供されるのがゲーム分野のおもしろいところです。続いて、大きなお金を投じずにAxie InfinityをプレイするためのスカラーシッププログラムとスケーリングソリューションRoninについて見てみましょう。

 

Axie Infinityをプレイしやすくする施策

スカラーシッププログラム

Axie Infinityをプレイするには、はじめにAxieを3体用意する必要がありますが、3体のAxieを用意するにはかなりの金額を初期投資する必要があることは先に説明しました。Axie Infinityはフィリピンでブームに火がつきましたが、現在の価格でAxieを購入できる人は多くはありません。先進国に住む人でもゲームを試したいだけでここまでの金額を気軽に投じられる人は少ないでしょう。

でも、Axieを貸し借りできたらどうでしょう?Axie Infinityにはスカラーシッププログラムがあり、Axieを貸し出すスカラーシッププロバイダから、Axieを借りてAxie Infinityをプレイできます。スカラーシッププロバイダはプレイヤーの報酬から一定の割合を受け取り収益を上げます。

どのようなスカラーシッププロバイダがあるのか、推定収入はどのくらいなのか、仮想通貨の統計情報を扱うCoingeckoが一覧にまとめています。Coingeckoによると、スカラーシップを利用してAxie Infinityをプレイした場合の時給は3.06ドル(約330円)とのこと。先進国の基準からすると高くはありませんが、世界銀行の国際貧困ラインは1日1.9ドルです。これを考慮すると、国や地域によっては、インターネット接続とスマートフォン、リテラシさえあればゲームで生活費をまかなう人が出てきているのも想像に難くありません。

Axie Scholarship List & Tracker | CoinGecko

ただ、スカラーシッププログラムに申し込むにはAxie InfinityのDiscordに参加する必要があるようです。2021年9月現在、Axie InfinityのDiscordサーバーは満員で、プログラムへの申し込みはできず、多くの関心が寄せられていることがうかがわれます。

サイドチェーンRonin

初期投資のハードルを下げるほかに、Axie Infinityをスケールさせ、使いやすいものにする工夫もされています。

2020年6月、Sky MavisはAxie Infinityに専用のEthereumのサイドチェーンRoninを発表し、12月にテストネットを、2021年2月にメインネットをローンチしました(余談になりますがRoninの名前は日本語の「浪人」に由来しているとのこと)。2020年末から2021年はじめといえば、本ブログでも紹介したRollup系のセカンドレイヤー技術やサイドチェーンがEthereumのスケーリングソリューションとしてまだ本格的に利用され始める前のことで、Axie Infinityはこれらのソリューションを待たずに独自のサイドチェーンを構築し利用し始めたことになります。

Roninの合意形成は、Axie Infinityを開発するSky Mavisが任命するバリデータによって行われます。テストネットではゲーム会社のUbisoft、仮想通貨取引所のBinance、シードラウンドでSky Mavisに投資したAnimoca Brandsなどがバリデータの役割を担い、メインネットではDappRadarが加わりました。

2021年9月現在、Axie Infinityは完全にRonin上で動いているようで、ゲームをプレイするには手持ちのEthereumをRoninにブリッジで移動するか、Ronin上のWETH(Wrapped Ether)を購入します。Ethereumをブリッジで移動してみようとすると、本記事執筆時点ではガス代が75ドルほどと表示され、ある程度の初期コストは覚悟する必要があります。また、Ronin上のWrapped Etherを購入する場合でも少額の場合、レートがかなり悪くなります。

サイドチェーンの利用により、初期投資さえすれば高速かつ安価にゲームをプレイできるようになったのは大きな前進といえますが、NFTやゲームのデータがRoninという中央集権性の高いPoAのサイドチェーンで扱われる点には危うさが残ります。

 

YGG(Yield Guild Games)

スカラーシッププログラムの説明で、プレイヤーはAxieを借りられることを説明しましたが、貸し出す側のスカラーシッププロバイダはどのような組織なのでしょう。フィリピンのYGGはAxieの貸し手の一つで、コロナ禍で経済が失速する中、創業者の一人Gabby Dizon氏がさまざまな人にAxieを貸し出したことが創業のきっかけになったといいます。

YGG – Yield Guild Games

前掲のCoingeckoのAxie InfinityのスカラーシップリストでYGGは18位にリストされています。

画像: Axie Infinityのスカラーシップリスト

YGGは2021年に入り合計22.4百万ドル(約24.6億円)、4回の出資を受けました。直近では2021年8月に、ブロックチェーンや仮想通貨関連企業への投資でも目にすることの多いAndreessen Horowitzをリード投資家として、4.6百万ドル(約5億円)を調達しました。

YGGの興味深いところは、貸し借りや収益のシェアといったプロセスをDiscordやスマートコントラクトを使って自動化し、DAOを目指そうとしているところです。YGGはAxieの貸し借りの仲介だけでなく、YGGコミュニティーが共同所有する資産で収益を上げ、YGGトークンの所有者に収益を分配するために、The Sandboxの土地の取得や、冒頭でPlay to Earnの先駆けとして触れたSplinterlandsとの提携と、Splinterlandsへの投資も行っています。

YGG Partners With NFT Card Game Splinterlands | by Yield Guild Games | Medium

YGGに参加するためにYGGのウェブサイトでウォレットを接続すると、ギルドバッジをミントするように要求されます。この際にかかるガス代は2021年9月現在100ドル近く、参加のハードルは低くはありませんが、アートNFTなどよりも多くの人が貸し借りをしたいであろうゲームキャラクターやアイテムの貸し借りはGemeFiの好例といえます。

YGGについて詳しくはホワイトペーパーが公開されています。

YGG ホワイトペーパー

 

おわりに

本記事では、ゲームをしてお金を手に入れるPlay to Earnについて、Axie InfinityやYGGを交えて説明しました。ゲームというと、これまで余暇を過ごすためのエンターテインメントとしてとらえられ、ゲームでお金を手に入れることに違和感を感じる人もいるかもしれません。ただ、実際に世界ではコロナ禍の生活をゲームから得られるお金で支えていた人たちがいるというということは知っておきたい事実でもあります。

筆者はいつしか子どものころに時間を費やし楽しんだゲームをプレイしなくなってしまいました。大人になると自由度の上がった現実世界の方が楽しくなってしまったからかもしれません。そこから長い年月を経てゆっくり世界が変わり、ゲームやゲームのコミュニティーが現実世界とつながり、広がりつつあるのを感じます。ゲームをプレイしてお金が手に入るだけでなく、ゲームで手に入れたNFTが利益をもたらす真の資産になりつつあるのですから。

今後Axie InfinityをはじめとするPlay to Earnのゲームやそのコミュニティーが経済の中でどのような地位を築き、独自サイドチェーンにまつわる懸念事項や完全には解決されていないガス代の課題にどう取り組んでいくのか見守っていきたいです。

 

エンジニアの経験と情報学分野での経験を活かして、現在はドイツにてフリーランスで翻訳・技術解説に取り組む。2009年下期IPA未踏プログラム参加。2016年、本メディアでの調査の仕事をきっかけにブロックチェーンや仮想通貨、その先のトークンエコノミーに興味を持つ。

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