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アメリカのCESと並ぶ世界最大規模の電気技術の見本市IFAが2018年8月31日から9月5日にかけてドイツの首都ベルリンで開催されました。本記事では現地からIFAとブロックチェーンについてドイツのブロックチェーン事情も交えてお伝えします。

 

IFAとは

電気技術関連の見本市というと、アメリカのラスベガスで毎年1月に開催されるCES(Consumer Electronics Show、セス)が有名です。本記事で紹介するIFA(I nternationale Funkausstellung)は名前にFunkとあるように当初ラジオや放送技術の見本市として始まりました。現在はコンシューマ・エレクトロニクスとホーム・アプライアンスの見本市として、毎年9月にベルリンで開催されています。規模はCESと並び世界最大規模と言われています。

IFAはCESよりも古く初回は1924年に開催されました。また、CESは一般に公開されていませんが、IFAは誰でも入場可能です。巨大な展示会場はビジネスマンや技術者だけでなく、家族連れ、子ども、老若男女さまざまな人たちでにぎわっていました。2017年のIFAには1805社が出展し、約25万人が来場、会期中の取引額は約6,200億円にのぼりました。2018年の数字はまだ出ていませんが、昨年と同規模またはそれ以上と考えてよさそうです。

日本語のニュースは2018年のIFAを「考える家電」「AI」といったキーワードで説明しています。会場ではこれらに相当する「Smart Home」の展示が多く見られ、家を模したブースでハイテク家電、音声に反応して音楽や電気を操作するAIアシスタント、洗剤の量を調整する食洗機など家庭を便利にする製品やサービスが紹介されていました。

画像:Lenovo Smart Homeのデモ(左)とディスプレイ(右)

スマートホームと合わせて、家の中のデバイスがインターネットにつながる様子を連想させる「IoT」といったキーワードも少なからず見られました。

さて、ブロックチェーンついてはIFAでどのような扱いだったのでしょうか。

 

スマートホームとブロックチェーン、シェアリングエコノミー

会場を1日かけて見学した中で、残念ながら「ブロックチェーン」の文字を見かけたのは数える程でした。とはいえスマートホームとブロックチェーン、その先にあるシェアリングエコノミーに期待が持てなかったわけではありません。スマートホーム化の流れがこれからどのようにブロックチェーンやシェアリングエコノミーとつながっていくのか考察してみましょう。

IFAを訪れる前にブロックチェーン関連の話題を探していて、HTCが5月に発表したブロックチェーン搭載のスマートフォンExodusが公開されるかもしれないという噂に期待しましたが、ブースで尋ねてみたところ今回は公開なしとのことでした。

コールドウォレットにもなるというExodusを見ることはできなかったものの、IFAでは二社がハードウェアウォレットを展示していました。言わずと知れたハードウェアウォレットメーカーのLedgerと、もう一社はスマートホームのためのデバイスを製造しているARCHOSです。ARCHOSのブースではスマートホームのためのデバイスと並んでTREZORベースのハードウェアウォレットSafe-T miniが展示され、家庭で仮想通貨資産を守る日を予見しているようでもありました。Ledger、ARCHOSともにフランスの会社で、ハードウェアウォレットについてはフランスのほか、IFAに出展してはいませんがスイスのDigital Bitbox、チェコのTREZOR(Satoshi Labs)といったヨーロッパ勢が健闘しています。
※ 関連記事:専用デバイスで秘密鍵を管理するハードウェアウォレット

画像:Ledgerのブース(左)、ARCHOSのSafe-T mini(右)

もうひとつ、ブロックチェーンというキーワードとともに展示されていたものがありました。個人間でも使えるブロックチェーンベースの決済サービスSamsung Global Pointです。

画像:Samsung Global Pointのデモ(左)とスクリーンショット(右、Red Dot Design Awardのページの画像キットより)

Samsung Global PointはSamsungのブースではなく、UX デザインアワードのエリアにひっそりと展示されていましたが、相手に支払いリクエストを送り、送金してもらうインターフェイスはライトニングウォレットでの支払いを見ているようでもありました。Samsung Global Pointはライトニングを使ったものではありませんが、会場を見学する中で、今後人間が関わらないデバイスによる決済や、使った分だけ随時支払うマイクロペイメントが増えることになると、ライトニングのように低コストで迅速に少額でも送金できる技術が何らかの形で家庭に浸透していく未来を想像せずにはいられませんでした。

スマートホームでの物理的なセキュリティーを保つ仕組みとして、スマートロックに関する技術や製品も展示されていました。

画像:Igloohome(左)とHisense(右)のスマートロック

展示されていたスマートロックは個々の家庭やオフィスをどう安全かつ便利に施錠するかを重視したもので、Airbnbのような空間シェアでの利用を示唆したものもありましたが、付加的な扱いにとどまっていました。ただし、スマートロックによるシェア、ブロックチェーンの応用についてはすでに方向性が示されています。IFAには参加していませんでが、EthereumブロックチェーンにハードフォークをもたらしたThe DAOで有名なSlock.itはドイツのスタートアップで、家、車、洗濯機、自転車など鍵をかけられるものであればどんなものでも共有可能にするブロックチェーンベースのスマートロックを開発しています。
※ 関連記事:ブロックチェーンとシェアリングエコノミー – Slock.it

このように現状では各社、個別の家の中をどのように快適にするか、インターネットにつないでどう便利にするかを重視している印象を受けました。いろいろな人が訪れるということから技術偏重にならない展示になっていた可能性もあります。

今後、スマートホームが音声に反応して電気をつけたり消したりしてくれる、台所でレシピを検索してくれるなど受動的に反応するだけでなく、もう一歩進んで与えられた権限で決済をしたり、コントラクトに基づいて他者に貸し出されたり、自身のデータを発信してマイクロインカムを生み出したりするようになると、私たちの生活は本当に新しいフェーズに突入するかもしれません。

このような発想は決して突飛なものではなく、ベルリンに財団を置くIoTのための仮想通貨IOTAは、IoTと親和性の高い独自の次世代ブロックチェーンを開発し、大手企業と連携してデバイスがデータを売り買いするためのデータマーケットプレイスの実証実験を行なっています。ドイツを代表する大企業のBOSCHのベンチャーキャピタルが2017年12月にIOTAのトークンMIOTAを購入して投資をしたことで注目を集めたことから、BOSCHのブースものぞいてみましたが「ブロックチェーン」や「IOTA」の文字は見当たりませんでした。
※ 関連記事:IoTのための仮想通貨IOTA

 

トークやカンファレンスに垣間みる「ブロックチェーン」

IFA会期中には、企業によるブースでの展示のほかに、専門家によるトークやカンファレンスが開催されました。

ブロックチェーンに関連するものでは、オープンソースでブロックチェーンベースのスマートスピーカーVolareoの創業者Nick NM Yap氏によるキーノートがあり、同時開催のカンファレンスIFA+ Summitではベルリンを拠点にするブロックチェーン分野のシリアルアントレプレナーTrent McConaghy氏(Ascribe、Bigchain DB、Ocean Protocolを創業)の名前が登壇者一覧にありました。

前項で紹介したハードウェアウォレットを製造・販売する二社、Samsung Global Payはいずれもスタートアップのホールでの展示で、ブロックチェーンに関するトークやIFA+ Summitも先端技術を紹介するような位置付けです。

ブロックチェーンについてはこれから一般に浸透する先進技術として、IFAではその一端が垣間見えたと捉えるのがよいのかもしれません。キーワードとして明確に打ち出されてはいなかったものの、ブロックチェーンや仮想通貨について考えずにはいられない場面は見学中に幾度となくあり、2019年、2020年のIFAに期待したいところです。

 

おわりに

インターネットは90年代の黎明期、2000年前後のインターネットバブルを経て、2000年代後半のスマートフォンの登場で広く普及しました。ブロックチェーンが基盤にある分散化社会、シェアリングエコノミーが本格的に到来するにはまだ少し時間がかかるのも無理はありません。

ただ、今回IFAが開催されたベルリンでは着実にブロックチェーンや仮想通貨に関する技術開発が進んでいるようです。ベルリンにはIOTAの財団があり、このブログでも紹介されているいくつかのブロックチェーンに関するスタートアップはベルリンに本拠地を置いています。ブロックチェーンにフォーカスしたコワーキングも。ベルリンからドイツ全土に視野を広げてみると、ベルリンから数時間の旧東ドイツの小さな町にはSlock.itが拠点を置いています。そしてドイツ語が公用語のひとつで隣国の金融立国スイスとのつながりも見え隠れします。

本記事に続いて、近日中にベルリンをはじめとするドイツとドイツ語圏のブロックチェーンや仮想通貨事情について紹介させていただきます。どうぞお楽しみに!

エンジニアの経験と情報学分野での経験を活かして、現在はドイツにてフリーランスで翻訳・技術解説に取り組む。2009年下期IPA未踏プログラム参加。2016年、本メディアでの調査の仕事をきっかけにブロックチェーンや仮想通貨、その先のトークンエコノミーに興味を持つ。

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