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  • 更新日: 2020年8月5日

今回から数回にわたって、ブロックチェーンを利用したシェアリングエコノミーに関連するサービスを紹介します。初回はIoTとブロックチェーンを組み合わせて、鍵のアクセスコントロールを扱うシステム「Slock.it(スロックイット)」について説明します。

Slock.itとは

Slock.itは2015年9月に創業したドイツ・ザクセン州に本社をおくスタートアップです。crunchbaseによると従業員数10名以下ですが、同社ウェブサイトではパートナーとしてubuntu、サムソン、Microsoftなどの名前を挙げ、創業者は関連分野での経験が豊富で、受賞歴も華やかです。

本記事で紹介する会社名と同名のシステム「Slock.it」は、第三者の仲介なしで家、車、洗濯機、自転車など鍵をかけられるものであればどんなものでも容易に売買、賃貸または共有できるようにし、個人や企業がその資産を収入にかえることを意図したシステムです。同社のウェブサイトでは、部屋の貸し借りの完全な自動化、オンデマンドでのWi-Fiの利用、使用していないオフィススペースのリースといった例を挙げ、Slock.itは今広がりつつあるシェアリングエコノミーに革命をもたらし、その未来のインフラとなるとしています。

 

シェアリングエコノミーとSlock.it

シェアリングエコノミーに関する研究機関シェアリングエコノミーラボは、「シェアリングエコノミーとは、ソーシャルメディアを使ってモノや空間、お金、スキルを共有していく新しい経済の仕組みです。日本でも車の“ライドシェア”や、“民泊”などが新時代のビジネスとして注目を集めています」と説明しています。ライドシェアサービスではUber、民泊サービスではAirbnbが代表的なサービスとして挙げられます。モノやサービスの単独所有をステータスとした時代から、共同利用の時代へと移り変わりつつある、そんな変化を身近に感じている人も少なくないのではないでしょうか。総務省の情報通信白書によるとシェアリングエコノミーは「2013年に約150億ドルの市場規模が2025年には約3,350億ドル規模に成長する見込みである」とのこと(PwC “The sharing economy – sizing the revenue opportunity”)。成長を続けるシェアリングエコノミーにおいて、Slock.itはどのような点で革新的で、「シェアリングエコノミーの未来のインフラ」になりうるのでしょうか。

Slock.itは、ブロックチェーンとIoT(Internet of Things:モノのインターネット)を組み合わせ、スマートで安全かつ仲介者なしに、ブロックチェーンの安全性や透明性を活かしてモノの共有を可能にします。シェアリングエコノミーの代表的なサービスであるAirbnbと比較してみましょう。Airbnbでは、常に仲介者としてAirbnbが存在し、住居を貸したい人はAirbnbに住居を登録し、借りたい人はAirbnb経由で住居を借ります。一方、Slock.itでは、共有の対象となるモノを自律的なオブジェクト化し、ブロックチェーンを利用して貸し借りといった契約を成立させます。同社の動画では、オフィスや賃貸住宅へのアクセスを与える錠前のシステム、ワンステップで自転車を貸し出し、保険を発行し、支払いを受け取ることのできるシステムが紹介されています。

何だか魔法のようですね。ブロックチェーンとの関連も含め、どのようにSlock.itが実現されるのか詳しくみてみましょう。

シェアリングエコノミーについて詳しくは、総務省白書、シェアリングエコノミー協会のウェブサイト、事例を交えた最新の動向についてはシェアリングエコノミーラボのウェブサイトが参考になります。

 

Slock.itとブロックチェーン

Slock.itはそのシステムを「初のブロックチェーン技術の物理的な実装」と説明しているように、物理的なモノ、それを自律的なオブジェクトにするデバイスやプログラム、ブロックチェーンを含む包括的なシステムと考えることができます。具体的な例を挙げると、同社の電子鍵Slockが取り付けられたドア、スマホから鍵を操作するためのアプリ、これらを協調的に動作させるSlock.itが開発を進めているEthereum Computer、アクセス権に関する契約情報が記録されるブロックチェーンといった具合です。例に挙げたドアの施錠にとどまらず、電子的に鍵をかけられるものであればSlock.itを導入することでどんなものでも共有したり、貸したり、売ったりできるようになると言います。

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(画像左・中央: Slock.it紹介動画より、右: Slock.it – Ethereum Computerより)

Slock.itではイーサリアム(Ethereum)と呼ばれるブロックチェーンプラットフォームを利用しています。イーサリアムブロックチェーンでは、ビットコインのブロックチェーン上でビットコインの取引が記録されるように、仮想通貨イーサを扱えるほか、資産やその移転のためのスマートコントラクトを記述することができます。Slock.itはイーサリアムブロックチェーンを主にユーザーのアクセスコントロールに使用しています。つまりイーサリアムブロックチェーン上で「誰がいつからいつまで何を利用できるか」を管理するわけです。たとえば、ドアの鍵を開ける場合、スマホアプリから保証金を支払い、ビットコインを送受金する際のように、マイナーの処理によりブロックチェーン上で要求が確定するのを待ちます。この処理が確定すると、ブロックチェーン上でこの鍵のアクセスコントロールを獲得したことになります。ドアの開閉にはスマホアプリなどを用いて、鍵に対して自身の秘密鍵で署名して開閉要求を送ると、鍵がブロックチェーンを参照して公開鍵が合致するか比較して処理を決めます。Slock.it CTOのChristoph Jentzsch氏が以下の動画でデモを交えて解説しています。

Integrated IoT + Blockchain – 3 minute demo

3 minute demo where we rent, then open a door using the Ethereum Blockchain and Whisper messages (and nothing else!). Emerging from stealth mode, ambitious G…

また、Slock.itはオープンソースのプラットフォームで、シングルボードコンピューターRaspberry Piや極小のIntel Edison上でも動作することから、誰もがそれぞれのデバイスを作り出すことができるとしています。

イーサリウムやスマートコントラクト、シェアリングエコノミーへの応用について詳しくは「『イーサリアム(Ethereum)』 デベロッパーカンファレンス in ロンドンレポート」をご参照ください。

 

Slock.itのこれから

Slock.itは企業との共同開発にも積極的で、中でもドイツの大手エネルギー会社RWEとの世界規模での電気自動車のP2P充電プラットフォームShare&Charge(旧Blockcharge)に力を入れています。2016年3月にプロジェクトを発表してから半年、9月にははやくもドイツでベータ版のテストが始まりました。同社のブログによると、どんな人でも技術的な詳細を意識することなく安全にかつ簡単に利用でき、システムとしてはブロックチェーンの特徴を活かしてコストを削減し、これまでにないP2Pサービスを実現しているとのことです。

Blockchain Energy P2P sharing project Share&Charge going into live Beta

また、Slock.itがウェブサイトで公開しているロードマップでは、今後の予定として、2016年後半Ethereum Computerの初期プロトタイプを分散アプリケーション開発者に提供、2017年をEthereum Computerの販売開始元年としAmazonなどでの販売を目指すとしています。Ethereum Computerが広く普及するようになれば、家庭やオフィスにEthereum Computerを設置し、誰でも自身の資産を共有し、さらには収入を得るのもそう遠くはないのかもしれません。

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(画像: Ethereum Computerが中心となり資産を管理する様子 Slock.it – Ethereum Computerより)

 

おわりに

ブロックチェーンを利用したシェアリングエコノミーに変革にもたらす可能性のあるシステムとしてSlock.itを紹介しましたがいかがでしたでしょうか。弊社ガイアックスも、スマートコントラクトやシェアリングエコノミーといった観点からブロックチェーンの応用に着目しています。Slock.itと近い分野では、スマートロック「Akerun」を開発しているフォトシンスへ出資、支援をしています。

シェアリングエコノミーが身近になる中、縁の下ではIoTとブロックチェーンの組み合わせで、これまでの中央集権的なシステムが根底から変わろうとしています。これからもこの流れに注目していきたいところです。

 

Gaiax技術マネージャ。研究開発チーム「さきがけ」リーダー。新たな事業のシーズ探しを牽引。2015年11月『イーサリアム(Ethereum)』 デベロッパーカンファレンス in ロンドンに参加しブロックチェーンの持つ可能性に魅入られる。以降ブロックチェーン分野について集中的に取り組む。

Ethereumガイアックスシェアリングエコノミーブロックチェーン

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