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ID2020

世界で未だ11億人もの人が国が発行した公式なIDを持っていなという大きな問題があります。この大きな問題に対し、公的機関、NGO、企業が連携してアイデンティティーに関する諸問題を技術的に解決しようという取り組みであるID2020を紹介します。

 

すべての人にIDを

多くの日本人にとって、出生とともに戸籍ができ、住民登録をし、日本におけるIDが発行されます。これをもとに国際的に認められるIDとしてパスポートも取得できます。これは日本人にとっては当たり前のことでIDに関して特に不自由することなく暮らしている方がほとんどです。一方で、世界には政府が正確にIDを発行できない国に所属する人たちが難民となった場合、自身がどこの誰であるか証明する術を失ってしまうという問題が起こります。しかも、そういった人たちは少なくありません。現在世界で2000万人を超える難民を含め、11億人もの人が公式なIDを持たないと言われています。このような状況下にあると、医療、教育といった基本的なサービスを受けるのにも支障をきたすことが多く、深刻な人権上の問題として受けとめられ、国連は持続可能な開発目標の中で「2030年までにすべての人に出生証明を含む法的なアイデンティティーを提供する」という目標を定めています。

ID2020はこの目標を達成するべく国連機関、NGO、政府、企業が連携して現在IDを持たない人たちにデジタルIDを提供するとともに、分散型のIDネットワークのフレームワークの標準を作り、効率的に開発人道支援を提供できるようにすることを目指しています。

ID2020

現在ID2020は2017年から2020年までの実験フェーズにあり、デジタルIDのシステムに最適な生体認証やブロックチェーンといった技術の検討・開発を行い、開発した技術の導入を政府や既存の機関と協力して進めています。

 

IDから医療、教育へ

ID2020は従来のIDに関するプロジェクトの縦割りのアプローチの問題を指摘し、地理的・組織的境界を超えて相互運用可能なデジタルIDが必要だとしています。

先進国では通常出生とともに出生登録が行われますが、途上国では出生登録がされないことも少なくありません。ID2020によると、アフリカのマラウィとタンザニアで出生登録がされた人の割合はそれぞれ人口の2.3%、16.3%です。現行のシステムではIDの起点となる出生登録がされないと、その後、医療や教育といった社会保障を受けられない可能性が高くなってしまいます。

これに対して、ID2020は国連機関、NGO、政府、企業が連携して、こういった人たちと「つながりが持てるところからIDを構築していく」というアプローチをとろうとしています。たとえば先に挙げた出生登録率が低いマラウィ、タンザニアの二ヵ国においてワクチン接種率は9割を超えるため、ワクチン接種とともにIDを発行すれば、より多くの人にIDを提供する機会になり得ます。出生にとらわれず様々な機会を通して組織が連携してIDを発行することで、他の組織がID保有者の存在を認識し、医療や教育といった社会保障が広くゆきとどくことが期待されます。

ID2020の創業メンバーで国際的なコンサルティングファームのAccenture(アクセンチュア)はID2020のIDシステムのプロトタイプをブロックチェーンと生体認証システムを利用して開発しています。続いてその概要を見てみましょう。

 

ブロックチェーンの使い方

Accentureは生体情報を利用した認証システムを構築し、国際連合難民高等弁務官事務所と連携して2013年から身分証明に必要な書類を持たない難民にIDを提供する取り組みを進めています。指紋や目の虹彩を含む複数の生体情報を組み合わせることで個人を識別する精度を上げ、二重申請の試みを排除することが可能だとしています。これまでにアジア、アフリカ、カリブ海周辺の29ヵ国130万人の難民の登録に利用されてきました。

AccentureはMicrosoftなどとともに、オープンソースの分散型IDのエコシステムを構築するDecentralized Identity Foundation (DIF、分散型ID)の立ち上げメンバーでもあります。

DIF – Decentralized Identity Foundation

Accentureは2016年からMicrosoftと共同で前述の生体認証システムとDIFで開発中のデジタルID技術を利用し、ID2020のためのブロックチェーンベースのデジタルIDシステムの構築を進めています。2017年7月に行われた国連のID2020に関する会議では、Enterprise Ethereumのプライベートなブロックチェーンを利用し、MicrosoftのクラウドプラットフォームAzureで動作するデジタルIDシステムのプロトタイプが公開されました。

画像:ブロックチェーンベースのIDシステムのアプリケーション(Accentureのブログより)

ブロックチェーンは信頼のおける複数の組織によって管理され、これまでIDを発行してきた政府といった中央集権的な権威が不要になります。また、データは医療サービスの提供者などに恒久的に渡ることなく、誰がどのデータにいつまでアクセスできるのかIDの保有者が選択できるといいます。

技術的な詳細は今後明らかになると考えられますが、ID2020を含むAccentureのデジタルIDに関する取り組みについては同社のブログとニュースリリースが参考になります。

 

今後の展望

ID2020は戦略的ロードマップの中で、2030年までに国連の持続的な開発目標にそった安全で永続性のあるデジタルIDシステムを普及させることを目標とし、技術的には既存のIDシステムと今後構築されるIDシステムを相互運用可能にする標準と仕様の確立することを、サービス提供の面では公的組織や企業と積極的に連携してさまざまなエントリーポイントからデジタルIDの提供することを目指すとしています。

ID2020はブログの中で興味深い統計を挙げています。アフリカのマラウィでは、出生登録率が2.3%であるのに対してワクチンの接種率が9割を超えるのは先に触れた通りですが、facebookのアカウントの所有率は4%ほどと出生登録率より高くさらに増加傾向にあり、マラウィを含むサハラ以南のアフリカではモバイルデバイスの保有率は40%だといいます。この統計を見ても、これまで先進国で運用されてきた仕組みや常識を単純に持ち込むだけでない柔軟なアプローチが必要だと考えられます。

ID2020は身分を証明する文書を持たない人や難民に対する支援として語られることが多いですが、ブロックチェーンを取り入れたデジタルIDはエストニアのe-Residencyにも見られるように先進国に暮らしIDに不自由のない人たちにも魅力的なものとなり得る可能性を秘めています。

本連載ではブロックチェーンを利用したデジタルIDについてID2020の他にBitnationOnenameuPortSovrin Foundationなど多岐にわたって紹介してきました。今後どのような標準が構築され、将来私たちがどのような形でIDを保有しどのように利用していくのか目が離せません。

 

Gaiax技術マネージャ。研究開発チーム「さきがけ」リーダー。新たな事業のシーズ探しを牽引。2015年11月『イーサリアム(Ethereum)』 デベロッパーカンファレンス in ロンドンに参加しブロックチェーンの持つ可能性に魅入られる。以降ブロックチェーン分野について集中的に取り組む。

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