本記事ではデジタルIDサービスについて、Blockstack社のOnenameに続き、ConsenSys社が開発を進めている「uPort」について紹介します。
デジタルIDサービスOnename -ブロックチェーンの情報ならBlockchain Biz【Gaiax】
uPortとは
uPortはEthereumブロックチェーンを利用した分散型のデジタルIDサービスで、Ethereumブロックチェーンに特化した分散型アプリケーション開発スタジオConsenSys社が開発を進めています。
uPort: Self-Sovereign Identity
ConsenSys社はEthereum Foundationの共同創業者であるJoseph Lubin氏が2015年に創業したニューヨークに本社をおく企業です。余談になりますが、以前紹介したデジタルIDサービスOnenameを開発しているBlockstack社もConsenSys社同様シリコンバレーではなくニューヨークに本社があるのは興味深いです。
話を戻しましょう。uPortのウェブサイトではuPortについて「人々、ビジネス、組織、デバイスそしてボットのためのグローバルで統一された自治的なIDシステムを確立するためのオープンソースソフトウェアプロジェクトである」と説明しています。IDサービスというとまず個人のIDが思い浮かびますが、uPortでは人以外のIDも取り扱うことを想定しているようです。uPortはEthereumブロックチェーン上で分散型のIDサービスとして実現され、IDの作成や管理において中央集権的にサービス提供者に依存せず、IDは作成者のものであることが強調されています。
uPortが提供するソフトウェアとして、エンドユーザーがIDを作成し利用するためのuPort Mobile App、企業や開発者がIDを管理するためのuPort AppManager、開発者のためのライブラリuPort Connect、企業やアプリがユーザーに暗号で署名されたデータを提供するためのuPort Credentialsがあります。このうちuPort Mobile Appはα版にサインアップすることができますが、すぐにサービスを利用することはできず、順番待ちのリストに追加されます(2017年5月現在)。また、uPort ConnectはGitHubにコードが公開されています。
ConsenSys社はuPortでどのように収益をあげるのでしょうか。uPortのFAQによると、現状ではEthereum開発者のための分散型のIDソリューションの構築に専念していて、サービスの成功は収益やトークンセールの結果ではなく、uPortを利用するプロジェクトの数で判断するものだとしています。プロダクトやビジネスを持続可能なものにするための方法は今後模索していくようです。
uPortとブロックチェーン
uPortの概要に続いて、uPortがEthereumブロックチェーン上でどのように実現されているかみてみましょう。uPortのEthereumブロックチェーン上のスマートコントラクトにはコントローラーコントラクト、プロキシコントラクト、アプリケーションコントラクトの3種類があります。uPort上の人やものの識別子はプロキシコントラクトのアドレスとして定義され、これにユーザーの名前、プロフィールの写真、メールアドレスといった情報が関連づけられます。ユーザーはモバイルアプリでID、つまりEthereumアドレスの鍵を管理し、アプリケーションを利用する際にはコントローラーコントラクトとプロキシコントラクトを通してアプリケーションコントラクトにトランザクションを送ります。サードパーティーの開発者はuPortが提供するライブラリを使ってuPortのIDをアプリケーション中で利用します。
画像:Ethereum上でのuPortのコントラクトの構成(uPortホワイトペーパーより)
uPort上の識別子として、ユーザーのモバイルデバイスに保存されたキーではなく、プロキシコントラクトというレイヤーを間に入れてそのアドレスを利用するのは、たとえユーザーがモバイルデバイスを紛失するなどしてモバイルデバイスに保存されたキーにアクセスできなくなってしまったとしてもuPort上で永続的な識別子を保持できるようにするためです。以前紹介したBlockstackのOnenameではアカウント作成時のバックアップファイルを紛失してしまうとアカウントをリカバリーする術がなくなってしまいましたが、uPortではアカウントリカバリーネットワークにあらかじめ登録された友人や家族などのマルチシグネチャによるアカウントリカバリーの仕組みがあります。
画像:uPortのアカウントリカバリーの仕組み(uPortホワイトペーパーより)
ホワイトペーパーにはこの他にも、容量の限られるブロックチェーンと分散ファイルシステムIPFS(InterPlanetary File System)とを連携させてどのようにデータをマッピングするかなどより詳しい説明があります。
UPORT: A PLATFORM FOR SELF-SOVEREIGN IDENTITY DRAFT VERSION (2017-02-21)
uPortのこれから
ホワイトペーパーの末尾では、アカウントリカバリーの仕組みのセキュリティー強化、ひとりのユーザーがモバイルアプリで複数のIDを取り扱えるようにするといった将来的なシステムの拡張について展望が述べられています。
大局的な動きとしては、2016年にマイクロソフトがOnename(Bitcoinブロックチェーンベース)を開発しているBlockstack社と今回紹介したuPort(Ethereumブロックチェーンベース)を開発しているConsenSys社と連携して、国連が提唱するすべての人に法的なIDを提供するという目標に沿ったオープンソースのクロスチェーンIDシステムの開発を発表しています。
What does identity mean in today’s physical and digital world? | Blog | Microsoft Azure
社会でアイデンティティーがなく人権侵害につながるといった問題は日本ではあまり身近なものではありませんが、国際社会では深刻な問題です。IDの管理は通常国家、国際社会で行われてきましたが、特定の企業や国家の力のおよばないグローバルなIDについて考えると、分散型で管理組織のないIDのシステムはまさにこの用途に合致するものと言えそうです。グローバルなID構築の取り組みからは、改めてブロックチェーンの技術的なおもしろさにとどまらない社会的なインパクトの大きさが感じられるのではないでしょうか。
分散型のIDサービスの今後に注目したいところです。