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ソーシャルネットワークと分散化

2000年代の前半にはGoogleのOrkut、日本国内ではGREEやMixiといったソーシャルネットワークサービスがリリースされ、2000年代後半にはFacebookが一般に公開され一斉を風靡しました。旧来のソーシャルネットワークから若者が離れていったり、個人情報の取り扱いについて問題が取りざたされたりしますが、ソーシャルネットワークは今でも少なくない影響力を持っています。

現在使われているソーシャルネットワークやソーシャルメディアの多くは「中央集権型」のサービスです。中央集権型のサービスにはユーザーやコンテンツ、メディアのあり方をコントロールする運営者が存在します。たとえば、FacebookはMeta Platformsが運営しています。運営者がいることで、ユーザーは運営者という明確な存在にトラブルの解決を依頼したり、ヘイトスピーチといった問題行動を制止したりできます。一方で、運営主体が特定のユーザーや発言を制限したり、恣意的に特定の情報を拡散させたり、ユーザーや開発者による情報アクセスを制限したりもできます。ソーシャルネットワークの運営者が情報を故意または故意でないにせよ漏洩する可能性もあります。

2010年代後半には中央集権型のソーシャルネットワークへの不信感が少なからず高まっていったのかもしれません。このような状況がビットコインやそれ以前のP2Pサービスが持ち込んだ分散化といういわば思想と相まって、ブロックチェーン・暗号通貨界隈で分散化されたソーシャルネットワークが志向されるようになりました。

十分に分散化されたサービスには開発者はいるものの、サービスをその一存でコントロールするような運営主体はなく、公開されたコード(スマートコントラクト)がサービスを管理・提供し、実質誰もが制限を受けることなくサービスを利用できます。ただし、分散型のサービスにも欠点がないわけではなく、自由であるがゆえに無法地帯になりかねないという問題はあり、これは分散型のサービスが普及する中で解決策が見出されることを期待したいところです。

黎明期の分散型のソーシャルメディアとして、2016年にローンチしたSteemitとそのブロックチェーンSteemがあります。Steemitは2020年のTronによる買収とハードフォークを受けて、SteemitとHive.blog(とそのブロックチェーンHive)として存続しています。日本ではSteemitに着想を得てALISがローンチされました。それぞれのサービスについて詳しくは本ブログの以下の記事を参考にしてください:

その後も分散型ソーシャルメディアDSCVR、分散型の執筆プラットフォームMirrorといったサービスがリリースされ、現在でもサービスを続けています。

最近のニュースとしては、2022年10月、ビットコインの支持者として知られるTwitterの創業者ジャック・ドーシー氏が分散型SNSのためのプロトコルAT Protocol(旧Bluesky)が安定してきたとして分散型SNS「Bluesky」を発表しました。

Twitter創業者の立ち上げた分散型SNSプロトコル開発団体が新SNS「Bluesky」を発表 – GIGAZINE

Web2.0時代の巨大企業と分散化といえば、2018年の年初にFacebookの創業者のマーク・ザッカーバーグ氏が暗号化技術と仮想通貨に興味を示したことを覚えているという人もいるかもしれません。

【全文和訳掲載】マーク・ザッカーバーグ「仮想通貨は権力を人々の手に戻す、フェイスブックでの活用方法探る」新年の抱負で言及 | CoinTelegraph Japan

FacebookのCEOマーク・ザッカーバーグ氏が興味を示したのを覚えているという人もいることでしょう。中央集権型のソーシャルメディアやSNSの運営者が分散化に興味を示したことは、自社のサービスの抱える問題点、弱点を認識していると見ることができるかもしれません。

このような状況で、2022年後半に分散型のソーシャルネットワークのためのプロトコル「Farcaster」のv2がリリースされようとしています。

 

Farcasterとは

Farcasterはアメリカのロサンゼルスに拠点を置くMerkle Manufactoryが開発を進める分散型ソーシャルネットワークのためのプロトコルで、創業者は世界的な大手暗号通貨取引所Coinbaseのヴァイスプレジデントを務めたDan Romero氏です。

Merkle Manufactoryは2022年7月にa16zが率いるシードラウンドでMulticoin Capitalや、同じくCoinbase出身の起業家で投資家のBalaji Srinivasan氏ら24の投資家から30百万ドル(2022年11月本記事執筆時点のレートで約44億円)の資金を調達しました。

Farcasterの前身は、2020年にRomero氏と前出の投資家Srinivasan氏が構築をはじめたRSS+です。RSS+では中立で、ユーザーがコンテンツの視聴者と直接的な関係を築け、開発者が許可なく自由にクライアントを作れるプロトコルの構築を目指し、結果、分散型のソーシャルネットワークのためのプロトコルFarcasterが誕生しました。

Farcasterの初期バージョンは2021年にリリースされ、2022年11月現在まで1年強利用されています。現在はFarcasterのv2の開発が進められ、2022年内にリリースされる予定です。

 

Farcasterのしくみ

FarcasterのGitHubにFarcaster v2の仕組みを解説したページがあります。また、十分に分散化されたソーシャルネットワークについてはSrinivasan氏の記事にコンパクトにまとまっています。

Farcasterはコミュニケーションしたい2者がいつでも必ずやりとりをできることを保証します。Farcasterを利用するソーシャルネットワークでは、ネットワークがAの投稿をBが読めなくすることはできません。

Farcasterは分散型のソーシャルネットワークのためのプロトコルですが、より一般化して、IDとIDに紐づく改ざんが困難なメッセージ群を扱うためのプロトコルと考えるとわかりやすいかもしれません。

FarcasterのIDは、Ethereumアドレスと関連づけられ、オンチェーンでEthereum上のスマートコントラクトに保存されます。Farcasterに基づいて発信するメッセージにユーザーはFarcaster IDで署名し、改ざんを防止できます。FarcasterのIDはEthereumネットワーク上に保存されますが、ユーザーが発信するメッセージといったデータは処理速度と費用を考慮してオフチェーンのFarcaster Hubとよばれるサーバー群からなるネットワークに保存されます。

Farcaster自体はIDとメッセージを扱う分散化されたプロトコルで、アプリケーションを通してユーザーはメッセージを発信したり、読んだり、つまりソーシャルネットワーク上で対話します。Farcasterを利用したアプリケーションについてはFarcasterのエコシステムのページにリストがあります。

Ecosystem | Farcaster

試しにリストの一番上にあるFarcaster Searchを開いてみると、Farcasterで発信されたメッセージを検索できます。見た目上は普段使っているウェブサービスと違いありませんが、背後ではIDやメッセージが分散化された形で扱われているはずです。

画像: Farcaster Searchでの検索結果

本記事執筆時点の2022年11月上旬の時点では、Farcasterは招待制のベータ版で、誰もが自由にアカウントを作ってメッセージを発信したり、メッセージに反応したりすることはできません。2022年内にFarcaster v2がリリースされ一般にサービスが公開されることが期待されます。

 

Farcasterの今後

Farcasterは現状では招待制のベータ版で、招待を受けていない場合できることはアプリケーションを通してFarcasterのデータを閲覧するのみです。

Farcasterを開発するMerkle Manufactoryに出資している投資家のひとつChapter One VenturesがFarcasterについて書いた2022年10月の記事があります。この記事ではFarcasterの今後が示唆されています。

Farcaster: The New Crypto GTM — Chapter One

Farcasterは最初の100万アカウントはTwitterでのRomero氏へのメッセージベースでの招待とし、コミュニティ主導の招待制とする計画です。Farcasterは、プロトコルの品質を保ち、長期的な視野を持つ開発者をはじめとする質の高いコミュニティメンバーを集めるために小さなコミュニティを成長させていくことを選んだといいます。

2022年内にV2をリリースしたあとは開発者がプロトコルを利用しやすくするようにするとのこと。まず活発な開発者コミュニティを築き、アプリケーションを構築し、ユーザーを集めていく戦略がうかがえます。

 

おわりに

本記事では分散型ソーシャルメディアのためのプロトコルFarcasterを紹介しました。分散型ソーシャルメディアは古くて新しいサービスです。2020年から構想が練られ始め、2021年のバブルに飛び乗らずに着実に成長することを選んだFarcasterが次の暗号通貨ブームまでの間にどのように成長するのか、2022年内のV2のリリースから注目したいところです。

エンジニアの経験と情報学分野での経験を活かして、現在はドイツにてフリーランスで翻訳・技術解説に取り組む。2009年下期IPA未踏プログラム参加。2016年、本メディアでの調査の仕事をきっかけにブロックチェーンや仮想通貨、その先のトークンエコノミーに興味を持つ。

Farcaster分散型SNS

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