2016年から続いている本シリーズも4回目となりました。2019年はブロックチェーンについてどのような1年だったのでしょう。ブロックチェーンプロジェクトの動向、規制と法律、産業界での利用動向、事件の4項目に分けて振り返ります。
目次
ブロックチェーンプロジェクトの動向
Libra
Libra | A New Global Payment System
2019年、ブロックチェーン関連で最もインパクトのあったニュースといえば、6月のFacebookによるLibraの発表でしょう。2018年年初にFacebookのCEO、Mark Zuckerberg氏が仮想通貨や分散型システムに興味を示して以来、長らく秘密裏に開発が進められてきたステーブルコインLibraの構想が明らかになり、大きな話題となりました。
Facebook announces Libra cryptocurrency: All you need to know – TechCrunch
Libraの開発はFacebookが主導していますが、2020年に予定されているローンチの後はLibra協会が運用にあたります。アメリカを含め、マネーロンダリングや国際金融秩序に対する懸念からリブラに懐疑的な国は少なくなく、発表当初Libra協会に名前を連ねていたPayPalやVisa、Mastercardなどが10月に脱退を表明しました。
Visa、eBayもFacebookの仮想通貨リブラから離脱。残る決済系企業は1社 – 仮想通貨 Watch
有力企業がLibra協会から脱退を表明したのと同じ10月には、ザッカーバーグ氏がアメリカ下院の公聴会に出席する一幕もありました。
ザッカーバーグの下院公聴会での苦難、フェイスブックの仮想通貨「Libra」を巡り再び|WIRED.jp
当初発表された2020年のLibraローンチについて、計画の変更は発表されておらず、今後Libraがどのように規制当局と折り合いをつけローンチにこぎつけるのか気になるところです。
未だ議論が続いているLibraですが、GaiaxはLibraの発表直後からその可能性に注目し、Libraを使ったプロトタイプの開発を行なっています。今後はオープンソースソフトウェアとして公開していく予定です。
Bitcoin
2019年、Bitcoinは運用開始から10年を迎えました。2017年の仮想通貨バブルを経て、1年前の12月にはBitcoinの価格は3000ドル強まで落ち込みましたが、2019年5月には13,000ドルほどまで持ち直す局面があり、2019年12月現在7000ドル近辺にとどまっています。5月の高騰はアメリカの金融サービス大手Fidelityが機関投資家向けにビットコインの取り扱いを始めるといったニュースがきっかけだったともいわれています。機関投資家向けのサービスでは、機関投資家が仮想通貨市場に参入するのに欠かせないとされているカストディーサービス(保管サービス)への参入を、Bakkt、Fidelity、Coinbaseが発表しました。12月に入ると、韓国の取引所Upbitの親会社とハードウェアウォレット大手Ledgerもタッグを組んで同分野に参入することを発表しました。2019年にはBitcoinをはじめとする仮想通貨に対する個人投資家の投機熱は再燃しませんでしたが、機関投資家が市場に参入する準備が整えられていきました。
Bakktがカストディサービスを機関投資家向けに提供することを発表 | CRYPTO TIMES
韓国仮想通貨取引所アップビット親会社、レジャーと提携して機関投資家向けカストディサービス展開へ【ニュース】 | Cointelegraph
機関投資家向けのサービスと合わせて、2019年にはLightning Networkを利用したサービスが出てきたことも押さえておきたいところです。2018年に本ブログでLightning Network対応のウォレットをレポートをした時には、まだユースケースがほとんど出てきていない印象でしたが、2019年には徐々に利用が進む兆しが見られました。2019年2月にLightning Networkを利用してTwitterユーザーがBitcoinを投げ銭できるTippinが発表されると、Twitter CEOのJack Dorsey氏が絶賛して話題を集めました。日本国内では、Nayutaが同社のライトニングネットワークノードPtarmiganを使用して実店舗でリアルタイム決済の実験を行いました。
米TwitterのCEO、ツイートにビットコイン投げ銭機能を追加する「tippin.me」を賞賛 – 仮想通貨 Watch
Nayuta、ビットコインのLightning Network決済サービスを実店舗へ試験導入 – 仮想通貨 Watch
Lightning Networkは高速に、かつ少額の手数料でBitcoinの送金を可能にするのに欠かせない技術です。また、手数料の安さから極少額の送金も可能になり、今後新たな課金モデルやビジネスが出てくることが期待されます。ただし、Lightningはまだ新しい技術であり、8月には脆弱性が指摘され、開発者が対応に追われる場面もありました。
BTCのライトニングネットワーク、脆弱性の詳細が明らかに – CoinPost
ブロックチェーンの本家であり、仮想通貨としては最大の時価総額を誇るBitcoinは、2020年に約4年に一度の半減期を迎えます。○○Payといったスマホ決済サービスが国内外で普及を見せる中、Bitcoinは当初の匿名の分散型送金システムとしての方向性を模索するのか、それとも機関投資家の参入からデジタルゴールドとしての方向性を模索することになるのか、遅かれ早かれ方向性が決まってくることでしょう。
Ethereum
Bitcoinと並ぶ2大ネットワークEthereumでは、長い間PoWからPoSへの移行が検討されてきました。PoSに基づく新しいEthereumはEthereum 2.0と呼ばれ、現在Casper CBC、FFGふたつの実装について議論と開発が進められ、Casperの段階的なローンチが2020年に始まると見られています。ただし、本記事執筆中の2019年12月時点でもBeacon Chainのローンチ延期が議論され始めるなど、Ethereum 2.0への移行は一筋縄ではいかないようです。
Ethereum 2.0、7つのマルチクライアントで動作を確認 – 仮想通貨 Watch
【墨汁速報】イーサリアム(ETH2)のBeacon Chainローンチ 開発者は2020年7月への変更を提案 | CoinChoice
スマートコントラクトプラットフォームとしてのEthereumについては、Libraが発表されると、将来的にEthereumの競合となるのではという見方も出ました。2018年にEOSがローンチした時にもEOSがEthereumに代わるのではという意見がありましたが、今のところEthereumは元祖スマートコントラクトプラットフォームとしての地位を保っています。幻冬社のウェブメディア「あたらしい経済」のインタビューで、Ethereum Foundationのエグゼクティブディレクター、宮口あや氏がLibraに対する見解を述べています。Libraの内情も垣間見える興味深いインタビューです。
「Ethereumのスケーリングは今起きている」イーサリアム財団エグゼクティブディレクター宮口あや氏インタビュー(2) | あたらしい経済
結局のところ、すべてのケースに万能なプラットフォームはなく、アプリケーションごとに分散性、処理能力、手数料、ユーザーベースなど何を重視するのか検討し、プラットフォームを選ぶことになるのでしょう。複数ブロックチェーンに対応したブロックチェーンゲームがあるように、複数のブロックチェーンを利用するのもひとつの手です。Ethereumが古くから存在するプラットフォームというだけでなく、Ethereum 2.0への移行でどのように独自性を打ち出していくのか注目しておきたいところです。
その他、11月にアメリカ政府によってEthereum Foundationの開発者Virgil Griffithが逮捕されるという衝撃的な事件がありました。Griffith氏は、北朝鮮で開催されたブロックチェーンと仮想通貨に関するカンファレンスに出席し、経済制裁を回避する方法について議論した疑いから逮捕されたといいます。分散型で、国家の権力が及びにくいとされてきたブロックチェーンと仮想通貨ですが、この一件で、国家は開発者を起点に実力行使ができることを示しました。
米FBIがイーサリアム開発者を逮捕 – 仮想通貨 Watch
Hyperledger
企業向けのオープンソースのブロックチェーンプラットフォームHyperledgerは、本記事執筆中の2019年12月にプロジェクト開始から4年を迎えました。2019年は、Hyperledger Aries、Hyperledger Besu、Hyperledger Transact の3つのプロジェクトが新しく採択されインキュベーションステータスとなり(下図赤枠)、Hyperledger Indyがインキュベーションステータスからアクティブなプロジェクトになりました(下図青枠)。
画像: Hyperledgerのプロジェクト(Hyperledgerのウェブサイトより。赤枠・青枠は筆者追記)
2018年、2019年と仮想通貨市場は比較的静かな2年でしたが、この間、本ブログの記事でも紹介してきた通り、企業ではブロックチェーンを使った実証実験や本格的な導入が進んでいます。Hyperledger で新しくプロジェクトが採択され、企業がブロックチェーンを導入する上で欠かせないツールが揃いつつあります。
中国のブロックチェーン構想
国家のブロックチェーンや仮想通貨構想については、これまでにもさまざまな発表がありましたが、2019年10月に中国の習近平首席がブロックチェーンの導入について積極的な姿勢を示し、12月には中国銀行がブロックチェーンベースの債券発行し、近日中にデジタル人民元のテストが始まるという報道がありました。
中国の「ブロックチェーン強国」宣言に沸く仮想通貨市場。習政権が目指す世界初の官製デジタル通貨 | Business Insider Japan
「デジタル人民元」近くテスト開始か。中国銀行が3000億円分の債券をブロックチェーンで発行 | CoinDesk Japan | コインデスク・ジャパン
習首席の発言が報道された10月には、Googleが量子コンピューターの開発に成功したという報道や、Facebook CEOのマークザッカバーグ氏がアメリカ下院公聴会で締め上げられたことから、仮想通貨は大きく価格を下げていましたが、習首席の発言で仮想通貨は大きく値を上げ、Bitcoinは一時10,000ドルを回復しました。
ただし、中国はブロックチェーンの導入は推進するものの、仮想通貨に対しては依然厳しく規制する立場をとっていて、10月の習主席の発言に続く、11月の仮想通貨取り締まり強化の報道で、仮想通貨は一転大きく値を下げました。
中国人民銀、仮想通貨のリスク警告-業界を引き続き規制と表明 – Bloomberg
中国のブロックチェーン推進の動きは業界にとって好材料のようにも見えますが、ブロックチェーンと仮想通貨を明確に切り分けていること、一党支配の中国ではリベラルな分散型システムではなく監視目的でブロックチェーンが使われかねないこと、今後も中国の方針が市場や業界に大きな影響力を及ぼすことは覚えておいた方がよさそうです。
規制と法律
2017年から2018年初頭にかけての仮想通貨の狂乱や続く大規模な流出事件をきっかけに、2018年から仮想通貨とは何か、どのように国際金融秩序を保っていくのか議論が重ねられ、2019年は仮想通貨に関する規制が強化された1年になりました。ここでは規制と法律について特に重要なFATFによる規制と、国内で可決・成立した改正資金決済法と改正金融商品取引法について見てみましょう。
FATFによる規制
FATFとは、Financial Action Task Force on Money Launderingの頭文字をとったもので、日本語ではマネーロンダリングに関する金融活動作業部会と呼ばれています。FATFは30年前に設立された組織で、マネーロンダリングやテロ資金対策の国際基準の策定、参加国や地域による相互監視体制の整備を推進しています。現在30を超える国と地域、機関が参加していて、日本も参加国のひとつです。
FATF-GAFI.ORG – Financial Action Task Force (FATF)
2019年6月、FATFはアメリカのフロリダ州で本会議を開き、仮想通貨に関する規制基準を採択し、続いて「解釈ノートとガイダンス」を発表しました。これにより、KYC義務の強化が定められ、各国は仮想通貨取引所といった仮想通貨サービスプロバイダと送金者だけでなく資金の受取り手に関する情報も共有することが求められました。1年の準備期間を経て、2020年6月までに発表された各種規制に対応することが推奨されています。
FATF、仮想通貨のマネロン対策で国際基準を採択──フロリダの本会議が終了 | CoinDesk Japan | コインデスク・ジャパン
FATF、仮想通貨とマネロンで新たなガイダンスを発表 議論を呼んだ項目を維持 | Cointelegraph
マネーロンダリング対策や国際金融秩序を保つ仕組みは必要ですが、仮想通貨サービスプロバイダにとってFATFの勧告に完全に従うのは難しく、各国がすべての取引所と情報共有するのも容易ではありません。また、そもそも匿名のウォレットをどう扱うのかという課題も指摘されています。
10月末から11月には、日本に対する10年に一度のFATFの相互審査が行われました。相互審査では、マネーロンダリングやテロ資金対策に関するFATFの勧告を、各国が法令として定めるなどして順守しているかが審査されます。日本では2018年に大手仮想通貨取引所の流出事件が起き、世界に先駆けて仮想通貨に関する規制が議論されてきたことから、仮想通貨に関してはFATFの勧告に従った環境整備が概ねできていると見てよいでしょう。審査の結果は2020年に発表される予定です。
仮想通貨規制にも関連するFATFの相互審査とは? 日本は10月末から立ち入り審査 – 仮想通貨 Watch
改正資金決済法と改正金融商品取引法
日本国内では、2019年5月に改正資金決済法と改正金融商品取引法が可決、成立しました。改正法は2020年に施行予定です。改正法では、暗号資産への呼称変更、交換業者やカストディー業者に対する規制、広告・勧誘に関わる禁止行為、セキュリティートークンの扱いなどについて定められています。
「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための 資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案」 説明資料 – 金融庁
仮想通貨の「暗号資産」改称や規制強化の改正法が成立。改正資金決済法と改正金融商品取引法 – 仮想通貨 Watch
規制強化の影響
国内外で規制強化に伴い、閉鎖する取引所が出てきました。2019年にはBitShares上の分散型取引所CryptoBridgeが閉鎖したほか、CoinExchange、Coinoneも閉鎖を発表しました。閉鎖を発表した取引所の中には、規制対応がままならなかっただけでなく、長期にわたる仮想通貨市場の低迷で資金難から閉鎖を余儀なくされた取引所もありました。
また「草コイン仮想通貨取引所」が閉鎖 規制強化などで資金が枯渇 – CoinPost
2019年に相次いだ草コイン取引所の閉鎖は、無秩序ながらもさまざまなプロジェクトが登場し、関連する仮想通貨の値上がりに熱狂した仮想通貨黎明期が完全に終わったことを告げる出来事といえるでしょう。
産業界での利用動向
2019年、本ブログでは業界ごとに毎月特筆すべき事例を取り上げ、その業界全体のブロックチェーンの利用動向を紹介してきました。ソーシャルメディアに始まり、モビリティー、教育、電力、音楽、ヘルスケア、食品、ゲーム、保険、IoT、物流、シェアリングエコノミーまで幅広く取り上げました。各業界でブロックチェーン導入の動きに進展が見られましたが、ここでは特に進展のあった流通分野、国内で進展のあったゲームに関して詳しく見てみましょう。
流通
IBMと大手海運企業マースクが主導する海上物流のためのプラットフォームTradeLensは2018年に発表されたプラットフォームですが、2019年にマースクに次ぐ規模のスイスの海運会社MSC、フランスのCMA CGMといった大手の参加が決まり、大きく前進しました。MSC、CGMに続き、日本からは最大手のオーシャンネットワークエクスプレスがTradeLensに参加を表明しています。ブロックチェーンベースの海上物流についてはTradeLensが覇権を手にし、勢力図が固まりつつあるといえそうです。大規模な国際物流以外では、日本ではユニークな地域特化型の物流サービスが出てきているのも抑えておきたいところです。物流業界でのブロックチェーンの活用事例について詳しくは本ブログの記事「ブロックチェーンと物流」を参考にしてください。
物を運ぶ物流分野だけでなく、食品業界など実体のある商品を扱う分野も流通と密接に関わっています。食品業界ではサプライチェーンにブロックチェーンを利用する動きが加速しました。2018年にIBMが実運用を開始したFood Trustはウォルマート、ネスレ、ドール、ユニリーバといった国際的な大企業が利用していることで知られています。2019年には、セイフウェイなどを展開するアメリカの食料品販売大手アルバートソンズがFood Trustを利用した実証実験を開始することを発表しました。Food Trust以外では、スターバックスが、MicrosoftのクラウドプラットフォームAzureとそのブロックチェーンサービスを利用し、コーヒー豆のリアルタイムのトレーサビリティーと透明性を実現するプロジェクトBean to Cupを発表しました。
海上物流のTradeLensのように、食品業界でも大手を巻き込んだIBMのプラットフォームが業界を制する可能性は十分ありそうです。その上で、スターバックスのような単一の製品を扱う大手が独自のシステムを築いていくのか、2020年以降、食品業界の大局的な動向が見えてくることでしょう。食品業界でのブロックチェーンの活用事例について詳しくは本ブログの記事「ブロックチェーンと食品」を参考にしてください。
ゲーム
ブロックチェーンベースのゲームというと、2017年末に話題となった子猫を収集するゲームCrypto Kittiesを思い出す人も少なくないでしょう。Ethereum上の分散型アプリユーザーの多くはゲームプレーヤーで、最も大きなユーザーグループであるとも言われています。2018年にはEOSやTronといった新興プラットフォームがローンチし、さまざまなブロックチェーンベースのゲームがリリースされました。2018年後半からは日本発のゲームが発表されるようになり、中でもdouble jump.tokyoのMy Crypto Heroes(通称マイクリ)は2019年を通じてプレーヤーからの支持を得ています。分散型アプリケーションに関する統計サイトDappRadarでは、本記事執筆時点でMy Crypto HeroesはEthereumベースの分散型アプリのユーザー数ランキングでトップにランクインしています。他に日本発のゲームとして、Crypto GamesのCryptospells(通称クリスペ)が14位にランクインしています。
画像: Ethereumベースの分散型アプリのランキング(DappRadarより。赤枠は筆者追記)
2019年12月、My Crypto Heroesは手塚プロダクションとのコラボを発表しました。これにより、プレーヤーはゲーム内で鉄腕アトムといった手塚作品のヒーロを利用できるようになります。有名作品とのコラボレーションは、個々のキャラクターやアイテムの価値を象徴するトークンの特性を活したブロックチェーンゲームならではのよい展開となりそうです。
ゲームはブロックチェーンのユーザーの裾野を広げる分野となる可能性があり、今後も国内外のブロックチェーンベースのゲーム開発に期待したいところです。ブロックチェーンとゲームについて詳しくは本ブログの記事「ブロックチェーンとゲーム」を参考にしてください。
事件
「仮想通貨のあるところに流出事件あり」ではありませんが、2019年も例に漏れず、ハッキングによる取引所での流出事件が発生しました。2019年5月には世界最大の仮想通貨取引所とも言われ、圧倒的なアルトコイン取り扱い数と個性的なCEOでも知られるBinanceで45億円相当のBitcoinが流出しました。Binanceの流出事件に続いて、7月には日本の取引所Bitpointから30億円相当の仮想通貨が流出しました。
海外大手Binanceがハッキング被害、45億円相当の仮想通貨が不正流出 – 仮想通貨 Watch
仮想通貨の不正流出に関するお知らせとお詫び(第一報) 2019.07.12 | 【BITPoint】仮想通貨(ビットコイン)ならビットポイント
これらの流出事件で興味深かったのは、流出事件に対して市場が極度にネガティブな反応を示さなかったことです。特にBinanceで流出事件が起きた5月は、仮想通貨市場への機関投資家の参入が期待された時期と重なり、Bitcoinの価格は大きく値上がりさえしました。これまでの数えきれない流出事件とその後の暴落から「取引所での流出事件は、ブロックチェーンや仮想通貨そのものの問題ではないと市場参加者がさすがに学んだのでは」という見方もありました。
しかし、10月にGoogleが量子コンピューターの開発に成功したと報道されると、仮想通貨は大きく値崩れし、依然として市場参加者がニュースに翻弄されやすいことが明らかになります。
ビットコイン、7500ドル割れ 量子コンピューター警戒 (写真=ロイター) :日本経済新聞
結局、Googleが開発したのは特殊な問題を解決する量子コンピューターで、一般的な公開鍵暗号をすべて解読するようなものではないという解釈が広まると、市場は平静を取り戻しました。公開鍵暗号が解けてしまうのであれば、仮想通貨だけでなく、現行のさまざまなシステムに影響が及ぶことはすぐにわかることです。この騒動では、短絡的に量子コンピューターと仮想通貨を紐付け、読者や視聴者を煽るようなメディアの報道にも問題があったことを指摘しておく必要があります。日頃から根本的な仕組みの理解に努め、冷静に考えることの重要性が改めて問われる一件でもありました。
おわりに
2018年に続いて、表面的には静かに見えたブロックチェーンの2019年ですが、水面下では着実に技術開発や実証実験、導入が進んでいたことを本記事から感じていただけことでしょう。2020年には、Bitcoinが半減期を迎え、EthereumはPoSへの移行の一歩を踏み出します。各業界でのブロックチェーンの利用も一層進むことでしょう。
国家や国際社会による規制は強化される傾向にあり、実際、マネーロンダリングなどに対する適切な規制は必要です。ただ、そのような中にあってもブロックチェーンや仮想通貨のプロジェクトが権力や規制の前に萎縮することなく、本来の自由な思想のもと、企業向け・個人向けのサービスやアプリケーションの基盤となり、未来を切り開くことを願っています。
来年も引き続きブロックチェーンに関する最新情報お伝えしていきます。どうぞご期待ください。