Berlin Image 01

ドイツの首都ベルリンは昨今ヨーロッパのスタートアップハブとして注目を集め、ブロックチェーンや仮想通貨に関するプロジェクトもベルリンに拠点を置くようになり、ブロックチェーンハブとしても頭角を現しつつあります。本記事では現地ドイツからスタートアップハブ、ブロックチェーンハブとして成長するベルリンについて紹介します。

 

アーティストの街からヨーロッパのスタートアップハブへ

ドイツ北東部に位置する首都ベルリン(画像: Google Mapsより)

ドイツの首都ベルリンの人口は350万人ほどで、東京と比べると人口密度は低く、高い建物も少なく、日本から初めて訪れると拍子抜けするかもしれません。数年前までは先進国の首都とは思えないほど特に家賃が安く、食品や日用雑貨の価格が手頃なこともあり、6-7万円の住居を数人でシェアすれば1ヶ月10万円で十分暮らせると言われ、アーティストやデザイナーなどクリエイティブな人たちを魅了してきました。

多くのアーティストが製作を行ってきたKunsthaus Tacheles。2012年に閉鎖(画像: 筆者撮影)

そんなベルリンのアートな時代と今のスタートアップ全盛期の過渡期を象徴する存在として、2007年創業の音声ファイル共有サービスSoundCloudがあります。SoundCloudはイギリス出身の起業家Alexander Ljung氏とスウェーデン出身の作曲家Eric Wahlforss氏によって立ち上げられました。EU加盟国の国籍を持つ人は滞在許可や労働許可の申請など煩雑な事務手続きなくEU域内の国に居住し働くことができるため、クリエイターが暮らしやすいベルリンはEU域内から、さらに域外からも才能を集め、スタートアップハブとして頭角を現してきました。

ヨーロッパのスタートアップハブとして、ベルリンの他には世界的な金融都市としても知られるロンドン、フランスの首都パリも有名ですが、イギリスのEU離脱が間近となる中、比較的物価が安く、クリエイティブな気風に富んだベルリンに人材が集まるのは無理のない流れといえるでしょう。

ただ、スタートアップハブとして注目を集める一方で難しい問題も出てきています。新たに人と資金が流入し、家賃や住宅価格が上昇、ひとつの賃貸住宅に50人、60人の応募者が殺到するのもざらというほど住宅争奪戦は激しさを増しています。ベルリンにもジェントリフィケーションと呼ばれる画一的な開発の流れが及び、以前の自由闊達さが失われ、古くからベルリンに住んでいた人たちや、お金はないけれどクリエイティブにベルリンを盛り上げてきたアーティストたちがベルリンを去ることを残念だとする意見も聞かれます。

 

ベルリンを拠点とするブロックチェーンプロジェクト

ベルリンのスタートアップシーンが盛り上がる中で、ブロックチェーンや仮想通貨に関するスタートアップやプロジェクトも出てきています。ドイツを代表する日刊紙南ドイツ新聞は、Ethereumの共同創業者で分散型アプリケーションの開発スタジオConsensysの創業者でもあるジョゼフ・ルービン氏がベルリンを訪れ、ベルリンを重要なブロックチェーンコスモスとして評価したことを取り上げました。この記事を引用した日本語の記事がCointelegraphで公開されています。

本ブログGaiax Blockchain Bizでもベルリンに拠点を置くプロジェクトを紹介しました。

Ascribe とBigchainDBはどちらもTrent McConaghy氏が共同創業者のプロジェクトで、現在McConaghy氏はOcean Protocolという分散型のデータ交換プロトコルの開発に取り組んでいます。AscribeとBigchainDBはベンチャーキャピタルからの投資に加え、European Regional Development Fund (ERDF)の支援も受けています。EUでは研究やイノベーションに投資するHorizon 2020をはじめ、大小様々なサポートプログラムがあり、今後ベルリンを世界のスタートアップハブ、ブロックチェーンハブとして押し上げる一因となるかもしれません。

本ブログで取り上げた以外にも多くのスタートアップやプロジェクトがベルリンを拠点としています。代表的なものとして、仮想通貨と法定通貨をつなぐブロックチェーン銀行を標榜するBitwala、BitcoinレンディングのBitbond、BitcoinウォレットのElectrumがあります。また、拠点はクリプトバレーと呼ばれる隣国スイスのツーク市に置きつつ、ベルリンで活発に活動している仮想通貨Lisk、ブロックチェーン同士をつなぐCosmos Networkといったプロジェクトもあります。

また、Berlin Basic Income Labによる分散型のユニバーサルベーシックインカムプラットフォームCirclesは、社会システムに疑問を呈し変革をいとわないベルリンらしさが感じられるプロジェクトのひとつといえそうです。Circlesのウェブサイトではパートナーのひとつとして前出のConsenSysの名前もあがっています。

ベルリンのブロックチェーンや仮想通貨に関するスタートアップやプロジェクトについては、Sandeep Bajjuri氏とエネルギー企業InnogyのInnovation Hubによる詳細なまとめが参考になります。Innogy Innovation Hubはブロックチェーンを注力分野のひとつとしていて、本ブログで取り上げたSlock.itやZF Friedrichshafenとも共同でプロジェクトを遂行しています。

 

コミュニティーの拠点 – カフェからブロックチェーンコワーキング、バーまで

ベルリンには古くからスタートアップ、フリーランスの人材が集まるカフェやコワーキングスペースがあります。その先駆けがベルリン中心部のSankt Oberholzで、Betahausやロンドンから来たrainmaking Loftも代表的なコワーキングスペースです。これらに大手が続き、Googleの支援を受けたFactory Berlinが2014年に、世界的なコワーキングチェーンWeWorkが2016年にベルリンにオープンしました。そして、2018年には予測市場のGnosisと前出のCosmosがヨーロッパ最大のブロックチェーン企業のためのコワーキングFULL NODEをオープンしました。

FULL NODEは旧東ベルリンのクロイツベルクと呼ばれるエリアの郵便局のビルにあります。オフィスを借りたりメンバーになったりするための費用は、物価が高騰する新ベルリン価格といった印象で、生まれて間もないプロジェクトやスタートアップが利用するには少しハードルが高いかもしれません。FULL NODEが気になるという人はまずはイベントのある日に訪れてみるとよさそうです。

ブロックチェーンコワーキングFULL NODE(画像: 筆者撮影)

続いてこちらはコワーキングと公言しているわけではありませんが、Blockchain Embassyというブロックチェーンに関するスペースを訪れる機会がありました。

Blockchain Embassy (Berlin, Germany) | Meetup

Blockchain Embassyは、FULL NODEと同じクロイツベルクエリアの看板もない雑居ビルの最上階にあります。ドイツのブロックチェーン協会Bundesblockの創業者のFlorian Glatz氏らがホストするスペースで、まだオープンして間もなく、ウェブサイトもメンバーシップもプランもない状態で、コアメンバーはいつつも適当に人が人を呼んでスペースができあがりつつあるといった様子で、訪問した当日も数名が作業をしていました。スタートアップの波が押し寄せる前の古きよきベルリンの名残を感じて少し安心しました。

Blockchain Embassy Berlin(画像: 筆者撮影)

FULL NODEやBlockchain Embassyのあるクロイツベルクエリアには、Bitcoinを早期から受け付け始めたことで有名なバーRoom77もあります。ここにもカオスで反骨精神の溢れる古いベルリンの雰囲気が残っています。月例のBerliner Bitcoin-StammtischといったBitcoinに関するミートアップも開催されています。

Room77(画像: 筆者撮影)

ブロックチェーンや仮想通貨の観点からベルリンを訪れてみたいと思った方は、Startup Digestのベルリンのイベントカレンダーmeetup.comのベルリンのイベントリストBlockchainhub Berlinのイベントリストをチェックしてみるとよいでしょう。ブロックチェーンや仮想通貨に関するスペースが会場となっていることも多いようです。

 

ドイツのその他の都市、スイス、オーストリア

首都ベルリン以外の都市でもスタートアップシーンが盛り上がっているのは、都市機能や人口が分散しているドイツならではと言えるかもしれません。

The DAOで有名になったスマートロックを開発するSlock.itは前出のブロックチェーンコワーキングFULL NODEのパートナーとしてウェブサイトに名前がありますが、ベルリンの企業ではありません。Slock.itはベルリンから車で3時間ほど、ザクセン州のミットヴァイダという人口1万5千人の小都市に拠点を置いています。同じザクセン州のライプチヒ市はベルリンから電車で1時間、ベルリンで家賃や住宅価格が高騰する中、まだ比較的家賃が手頃で、第二のベルリンになるかもしれないといわれています。筆者はライプチヒに住んで2年になりますが、2018年に入って分散型で確率的なデータストレージの開発を進める若い硬派なスタートアップAllBlockの存在を知り、同市では2017年に続いてブロックチェーンを利用した音楽とアートのフェスティバルSeaNapsが開催されるなど、2018年後半に入ってライプチヒ市に現実味のある期待を持ち始めています。

ベルリンの周辺以外では、港湾都市ハンブルク、金融街フランクフルト、南部の裕福なミュンヘン、工科大学で有名なカールスルーエもスタートアップを輩出していて、今後ブロックチェーン関連のプロジェクトが出てくる可能性もあります。

また、スイスのツークに拠点を置きつつベルリンでも活動するLiskやCosmos Networkといったようなプロジェクトもあり、ドイツ語を公用語のひとつとし、国境を接する金融国家スイスとのつながりも見え隠れします。今後、もうひとつのドイツ語圏、東西ヨーロッパの中心に位置するオーストリアの首都ウィーンを中心とするスタートアップコミュニティーがどのように絡んでくるのかも気になるところです。

インターネットの時代にはスタートアップのメッカといえばアメリカのシリコンバレーでしたが、今後スタートアップや開発コミュニティーは世界中に分散化していくのでしょうか。分散化の兆候のひとつとして、ベルリンをはじめとするドイツ語圏ヨーロッパのスタートアップシーンにもぜひ注目してみてください。

Akiko T.

エンジニアの経験と情報学分野での経験を活かして、現在はドイツにてフリーランスで翻訳・技術解説に取り組む。2009年下期IPA未踏プログラム参加。2016年、本メディアでの調査の仕事をきっかけにブロックチェーンや仮想通貨、その先のトークンエコノミーに興味を持つ。

Search