大手事業者の破綻が相次いだ2022年と比べると、暗号通貨分野は比較的静かな一年になりました。そのような間にも基盤となるブロックチェーン分野ではさまざまな動きがありました。本記事ではブロックチェーンと暗号通貨の2023年をニュースをもとに振り返ります。
ビットコイン関連の動き
2024年にビットコインは4回目の半減期を迎えます。関連性があるとは言い切れませんが、2016年と2020年の半減期では、それぞれ1年半後の2017年末、数ヶ月後の2020年後半に暗号通貨市場が盛り上がりを見せ始めました。
ビットコインにも投機色はありますが、ローンチから15年ほどが経過し、ビットコイン界隈はいい意味で枯れてきています。投機はアルトコインに譲り、時に論争が起こることはあっても、継続的かつ冷静に新しいお金の方向性が模索されています。
分散型SNS、Nostr・Damus
年初には分散型プロトコルNostrとクライアントのDamusが注目を集めました。ビットコインやそのネットワークを直接利用するものではありませんが、ビットコイン関連の開発者が深く関わっていることから、ビットコインファンの間で利用が広がりました。記事執筆当時は、クライアントが限られていましたが、現在はiOSやAndroid向のクライアントに加えて、ブラウザやデスクトップで使える環境が整っています。
分散型プロトコルNostrとそのクライアントDamus – Gaiax Blockchain Biz
Twitterの代替になる? 分散型SNS「Damus」とプロトコル「Nostr」とは?- All About デジタル
ビットコインNFT Ordinals
ビットコインの最小単位であるsatsを使ったNFTスキームOrdinalsも2023年の注目すべきプロジェクトといえるでしょう。Ordinalsは導入にあたってフォークが必要なく、ビットコインNFTの可能性を探る興味深いプロジェクトです。一方で、ブロックスペースを占有し、手数料の高騰を引き起こしたり、ビットコインの世界に投機を呼び込んだりしたりすることも懸念され、物議をかもしました。
Ordinals(オーディナルズ) – ビットコインの最小単位を使ったNFTスキーム – Gaiax Blockchain Biz
ビットコインの機能拡張の動き
2020年から2022年にかけての暗号通貨ブームで他のブロックチェーンに見られた機能拡張の動きがビットコイン界隈でも見られました。すでにローンチしているプロジェクトに加え、DrivechainやBitVMなどコンセプト段階にあるものの期待が寄せられているプロジェクトもあります。
ビットコインの機能拡張プロジェクトのこれまでと現在 – Gaiax Blockchain Biz
アメリカでの現物ETF承認への期待
秋口には、アメリカでのビットコインの現物ETFが承認されるかもしれないという期待からビットコイン価格が保ち直し、急騰しています。
ブラックロックがビットコインETF修正案を提出、発行・償還方法を絞り「市場が好感」 – CoinPost
2024年春にはビットコインの半減期が来ると予想されています。その前のETF承認、その後に起きるかもしれない暗号通貨市場の盛り上がりでビットコインにどのような展開があるのか期待して見守りたいところです。市場はにぎわいを取り戻し始めているようですが、まだまだ界隈が静かなうちに勉強をしておくとよいでしょう。
ビットコインに関する日本語での硬派な情報源は、古くから界隈で愛されている「ビットコイナー反省会」と、ビットコイン界隈で必読書とされる『ビットコインスタンダード』の翻訳者の練木照子さんがとりまとめをされている「ロストイン・ビットコイン」がおすすめです。
イーサリアム関連の動き
存在感を増すレイヤー2
ビットコインの次に古いEthereumでは、レイヤー2ネットワークの利用が広がっています。DeFiに関する統計情報を扱うDefiLlamaで、DeFiのブロックチェーンごとのTVL(ロックされた資金の合計金額)を見てみると、Tron、BSC、Sonala、AvalancheといったEthereumキラーと呼ばれたブロックチェーンは健在である一方、2023年は、ArbitrumやOptimismといったレイヤー2ネットワークがTVLランキングで存在感を表しました。
画像: ブロックチェーンごとのDeFi TVLランキング(DefiLlamaより)
本ブログの2022年の年末のまとめ記事では、2022年11月にレイヤー2のトランザクション数がレイヤー1を超えたことを印象的な出来事として紹介しましたが、2023年はレイヤー2のトランザクション数が恒常的にレイヤー1のトランザクション数を上まわりました。
画像: Ethereumレイヤー1とレイヤー2のトランザクション数の推移(Orbiter Financeより)
zkEVMのローンチ
zkEVMはZK rollupを使ったEthereumのレイヤー2ソリューションです。EthereumのバーチャルマシンEVMはゼロ知識証明をサポートしていませんが、zkEVMではゼロ知識証明技術を利用できます。2023年にはMatter Labs、Polygon、ScrollからzkEVMの実装がローンチし、今後の競争の激化が予想されています。
Scroll zkEVM Launches, Blockchain Data Shows, Competing With Polygon, Matter Labs – CoinDesk
レイヤー2構築キットの広がり
zkEVMのローンチからも見えてくる現象ですが、2023年にはレイヤー2ネットワークを構築するための開発キットの利用が広がりました。Optimismのレイヤー2構築キットOP StackはCoinbaseのBase、Worldcoin、BinanceのopBNBなど、ビッグネームのプロジェクトで利用されています。
L2構築キットのOP StackとOP Stackベースのチェーンを包括したSuperchain構想 – Blockchain Biz
zkEVMのキットを使ってレイヤー2ネットワークを構築する動きも見られ、OP Stackからの移行を検討するプロジェクトについても報道されました。
OKX Launches zkEVM Layer 2 Network Powered by Polygon CDK
Manta Network Plans Shift to Polygon zkEVM From OP Labs’ OP Stack
レイヤー1チェーンのレイヤー2化
前回の暗号通貨ブームでは、イーサリアムキラーと呼ばれる安価で処理が高速なブロックチェーンに注目が集まりました。その後レイヤー2の利用が広がる中で、レイヤー2に移行するネットワークが出てきました。
【速報】アスターがイーサリアムL2参入、ポリゴンラボと協業で「Astar zkEVM」提供へ | あたらしい経済
Celoブロックチェーン、イーサリアムエコシステムへの復帰とL2への移行を提案 – Cointelegraph
クロスチェーンソリューション
ブロックチェーン間の相互運用性については、古くから議論と開発が続いてきた課題でした。そのような中、OptimismのOP Stackを使って作られたOPチェーンをつなぐSuperchain構想や、より広くEthereumを超えてブロックチェーンをつなぐ新しいプロトコルもローンチしました。ブロックチェーンが増える中、今後、クロスチェーンソリューションの重要性は増していくことが予想されます。
チェインリンク ブロックチェーンと伝統的金融機関をブリッジするクロスチェーンプロトコル開始 – Cointelegraph
USDCのクロスチェーン転送をより安全に「CCTP」メインネットでローンチ – Circle
日本国内の動向
大手企業のウォレット事業参入
NTTドコモの子会社NTT Digitalは金融やコンテンツ業界など幅広い業種の大手企業と連携し、ウォレットなどの開発に取り組むことを発表しました。このほか、電通や三菱UFJなどの大手も実装の検討や実験を開始することを発表しました。
web3推進のNTT Digitalが13社と連携、トークンウォレットなど開発へ – CoinPost
電通とTOPPAN、Web3.0ウォレットの利便性向上へ実証実験 – CoinDesk Japan
三菱UFJ銀行とGaudiy、Web3領域でのウォレットサービスで協働 – Impress Watch
国や地域によって規制やユーザーのニーズは異なり、国内で開発が盛り上がることには期待したいものの、車輪の再発明にならないように、さらに携帯電話で経験したガラパゴス化の道をたどらないように注意は必要です。利用者としても開発者しても国内外の動向両方を追っていくことが求められます。
日本円にペグされたステーブルコイン発行の動き
2023年6月に改正資金決済法が施行され、ステーブルコインは電子決済の手段として法律で明確に定義されました。これにともない、国内でステーブルコインの発行を検討する流れが加速しました。
ステーブルコイン、日本で年内発行へ 1000兆円市場開拓 – 日本経済新聞
デジタル通貨「DCJPY」 来年7月にも発行へ ブロックチェーン技術使い決済 – テレ朝news
ステーブルコイン「XJPY」「XUSD」発行へ──三菱UFJ信託銀行、Ginco、Progmatが共同検討開始【更新】
DCJPY、XJPYいずれも2024年に発行が始まる予定です。国内でステーブルコインの利用は広がるのか、そうだとしたらどのような広がりをみせるのか、同行に注目したいところです。
ガイアックスとブロックチェーンの2023年
PlanetDAO
PlanetDAOとは不動産をトークン化し、オーナーシップをDAOで持つというプロジェクトです。高山や和歌山県那智勝浦町の色川村でテストケースを行いました。
ツアーの回想。理想郷、色川
PlanetDAO 那智勝浦プロジェクト始動!
CryptoBase
CryptoBaseが始動して約1年で100以上のイベントが開催されました。
https://twitter.com/nanmo_nee/status/1707330654692901132
美しい村DAO
鳥取県智頭町、静岡県松崎町、合同会社美しい村づくりプロジェクトと立ち上げを行なってきた「美しい村DAO」において、3/1からデジタル村民証NFTの事前予約受付がはじまり、4月には販売開始しました。その後300人以上のDiscordへの参加、約80名がデジタル村民として参加しています。鳥取県智頭町のお祭りNFTや、静岡県松崎町からは町長が自らAIを使ってデザインした画像を含むツアーNFTが発売されました。
2024年は、デジタル村民や加盟町村の増加に取り組んでいきます。
『美しい村DAO』、DAOへの参加権&投票権を付与した『美しい村NFT』の予約販売を3月1日より開始
Roopt DAO
DAO型シェアハウスのRootpDAOが開業から1年が経ちました。DAO導入前と比較して、「高い入居率」および「集客・維持管理コストの低減」を実現し、物件の魅力と収益性の双方を大きく向上しています。
日本初の DAO 型シェアハウス「Roopt DAO」、 開業から 1 年で売上 1.7 倍&利益率の大幅改善を達成 ~DAO で稼働率 UP&運営・集客コスト減を実現~
DAOX・DAO Agency
ガイアックスではDAOの取り組みが大きく進んだ一年でした。より活動の幅を広げるために、株式会社DAOエージェンシーを設立し、DAOのサーバー契約やクレジットカード登録、オフィス契約等の法人業務の代行をおこなう「DAOX法人業務代行サービス」を立ち上げました。
ガイアックス、DAO組成・運用プラットフォーム「DAOX」のベータ版
1サービス完結で初心者も”DAO”をサクッと立ち上げ!DAO組成・運用プラットフォーム「DAOX(ダオエックス)」を発表
DAOの活動
博報堂キースリー・AstarGamesと連携し、企業と顧客の共創型商品開発ソリューション「新!商品開発」の提供を開始しました。
企業のマーケティング・ブランド戦略を支援してきた博報堂グループの知見と、多くのDAOの設計・運用・コンサルティングを実績に持つガイアックスの知見、web3サービス・ゲームの企画・開発・運用実績を持つAstarGamesの強み掛け合わせた、商品開発DAOの実装ソリューションになります。
ガイアックス、博報堂キースリー・AstarGamesと連携し、企業と顧客の共創型商品開発ソリューション「新!商品開発」の提供を開始!
また、ガイアックスの支援先である三井住友火災海上保険の就活DAOが注目を集めました。NewsPicsでも1位になり、DAO支援に関する手応えと、DAOの社会浸透が進んでいると感じました。
三井住友海上火災保険株式会社と共同で、新卒採用を現場社員と就活生のDAO組織で運用し透明化
1年の活動の締めくくりとして、DAO活用現場の最前線を取り上げる『DAO FORUM 2023』を主催しました。400名以上の申し込みがあり、事前のアンケートでは申込者の40%以上がDAOでの新規事業を検討中との回答を頂き、DAOに対する関心の高さを伺えました。
DAO FORUM 2023|ガイアックス主催のDAOイベント申込み450人超え
これからもブロックチェーン・web3/DAOを中心とした、新たな技術・概念の社会実装の実現を目指してまいります。
おわりに
暗号通貨市場は投機色がうすく比較的静かな一年でしたが、ブロックチェーンや暗号通貨が次の一歩を踏み出すための仕込みは着実に進んでいることが伝わったかと思います。2018年や2019年に前回の暗号通貨ブームの下地が作られていたのと似ているかもしれません。
2024年にはアメリカでのビットコインETFの承認が期待され、春にはビットコンの半減期が控えています。再びブロックチェーンと暗号通貨が大きな盛り上がりを見せるのか、それとも静かに実際のユースケースを増やしながら浸透していくのか、注目したいところです。
本ブログも2016年に記事を公開し始めてから8年が経とうとしています。今年も一年間ありがとうございました。来年も国内外のブロックチェーンに関する情報をわかりやすくお伝えしていけたらと思います。