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Ordinals

ビットコインとNFT

Ordinalsは、ビットコインの最小単位であるサトシ(1ビットコイン=1億サトシ)にユニークな識別子を割り当て、画像などデータを追加し、NFTのように取引できるようにするための仕組みです。
※ Ordinalsでは、NFTまたはそれを超えた代替不可能なデジタルオブジェクトはinscription(インスクリプション、碑文、石碑に刻まれた文章)と呼ばれます。OrdinalsをNFTとするような表現も見られ、表記には揺れがあるのが現状です。本記事では以降、可読性の観点からinscriptionではなくNFTと表記します。

Ordinals

法定通貨やビットコインをはじめとする暗号通貨には代替性があります(fungible、ファンジブル)。これは、どの1円も等しく1円で、どの1ビットコインも等しく1ビットコインということです。一方で、NFTのような唯一無二の性質を持つトークンは代替不可能(non-fungible)で、このような性質を非代替性といいます。

ビットコインで非代替性を持つ対象を扱おうとしたプロジェクトは過去にもありました。たとえば、黎明期の2012年のColored Coins、2014年のCounter Partyやその後Counter Partyを利用して2016年に発行されたNFTの原型Rare Pepeがあります。
※ Counter Partyについては本ブログの記事「コイン焼却の証明が新しい価値創造の証明になる「プルーフ・オブ・バーン」」も参考にしてください。

その後、Ethereumが登場し、Ethereumやその競合チェーンでNFTがさかんに発行されるようになりました。2020年後半から始まった暗号通貨ブームでは、DeFiに続いてNFTにも資金と注目が集まり、高額落札がニュースになることもありました。

ビットコインネットワークでは2017年のSegwitと2021年のTaprootアップデートで、NFTのような非代替性のあるオブジェクトを扱う可能性も広がり、Ordinalsの発案者であるCasey Rodarmor氏によってビットコインネットワークでNFTを発行できる仕組みの構想が練られていました。Rodarmor氏のGitHubのページによると、Ordinalsと類似するアイディアはすでに2012年に提案されていたとのこと。

2023年に入り、1月にビットコインのメインネットでOrdinalsが利用可能になったことが発表されました。

画像: Ordinalsリリース時のツイート

Ordinalsについては、導入にあたってソフトフォークやハードフォークが必要なく、ビットコインNFTの可能性を探る興味深いプロジェクトではあるものの、ブロックスペースを占有し、手数料の高騰を引き起こしたり、ビットコインの世界に投機を呼び込んだりしたりすることも懸念され、賛否両論があります。

Ordinals good or bad for Bitcoin? Supporters and opposers raise voices – Coin Telegraph

すべてのブロックチェーンでのNFTの取引高は、2021年、2022年と比べると激減していますが、2023年5月からは、Bitcoinネットワークでの取引高がSolanaやPolygonを上回り、Ethereumに続いて2位になっている時期もあります。

画像: ブロックチェーンごとのNFTの取引高の推移(The Blockより)

2023年5月から初夏にかけての盛り上がりは、同年3月にDomo氏が提案した、Ordinalsの仕様に基づくビットコインのNFT標準BRC-20の影響があるようです。

Ordinalsは2023年春から初夏にかけて盛り上がりを、見せましたが、その後、取引量は激減し、現在もその傾向が続いています。

Ordinals Sales Down 97% Since May – Are Bitcoin NFTs Over?

 

Ordinalsのしくみ

Ordinalsでは、サトシ(ビットコインのそれ以上分割できない最小単位、1ビットコイン=1億サトシ)に、マイニングされた順番で番号を割り当てます。

マイニングされたばかりのサトシは、その時点のブロック高をもとに、それまでに何枚のサトシが発行されたかを計算し、何番目のサトシか計算できることは容易に想像できます。Ordinalsを考案したRodarmor氏のGitHubのページには、特定のブロックで生成されたサトシのordinalsを計算する簡潔なコードが示されています。

そうはいうものの「Ordinalsが登場する以前にマイニングされたサトシに番号をつけられるの?」「代替可能なサトシはどれも同じで見分けがつかないのでは?」と疑問に思う人もいるかもしれません。これについては、ビットコインのUTXO(未使用のトランザクション)を追うことで、サトシに割り当てられた番号を知ることができます。UTXOやOrdinalsの番号割り当ての仕組みを、袋入りのリンゴを例にわかりやすく解説した記事があるので、詳しく知りたい人は目を通してみるとよいでしょう。
※ UTXOについては、本ブログの記事「UTXO – ブロックチェーンの取引データをひとつなぎにする仕組み」を参考にしてください。

Rodamor’s Bitcoin Ordinals Explained | by Keir Finlow-Bates | Medium

このようにして個々のサトシは、Ordinalsに対応したウォレットやエクスプローラで一意に認識できるようになります。個々のサトシが一意に認識できれば、それに対して、テキストや画像、スクリプトなどのデータを刻んで(inscribeして)、代替不可能なNFTのようなデジタルオブジェクトを作れます。データは、2021年にアクティベートされたTaprootの特定のスクリプトに基づいて資金を支払う方法を指定する部分に保存され、4MBまでのデータをサトシに紐づけて、完全にオンチェーンに保存できます。

一般的にNFTというと、CryptoPunksのような例外はありますが、メタデータのみがブロックチェーン上に保存され、画像などのコンテンツデータは発行元のサーバーやIPFSに保存されるため、本当に分散化されているのか、永久に存在するデータなのかという議論があります。これに対して、Ordinalsで作られたNFTは、中央集権的な存在のないビットコインのブロックチェーンに保存される分散性の高いNFTと言えます。

 

Ordinalsで発行されているNFT

OrdinalsでどのようなNFTが発行されているのか知るには、Ordinals NFTを扱っているマーケットプレイスを見てみるとよいでしょう。Ordinals NFTのマーケットプレイスの先駆けであるGamma.io、Solana  NFTのマーケットプレイスとして知られるMagic EdenでもOrdinals NFTの取り扱いがあります。

画像: Gamma.ioでの全期間のトップコレクションのリスト

Bitcoin Magazineの表紙のNFTコレクションがあるのがなんともビットコイン界隈ならではという印象で、個人的には好感が持てました。Magic Edenでは、Ordinal PunksやBitcoin PunksといったCrypto Punksのパロディーコレクションもランクインしていました。

画像: Magic Edenでの過去30日間のトップコレクションのリスト

 

Ordinals NFTを売買・発行するには

Ordinals NFTを売買するには、前出のGamma.ioやMagic EdenなどのNFTマーケットプレイスを利用するのがよいでしょう。

NFTを発行するには、ビットコインコアをダウンロードし、Ordをインストールして・・・と技術的な知識が必要なステップを踏んで発行することもできますが、Gamma.ioやMagic Edenのミント機能を利用すると比較的手軽にOrdinals NFTを発行できます。ただし、手軽と言っても、Taprootのアドレスを扱えるビットコインウォレットを用意するなど、少なからずビットコインに関する知識が必要になります。

How to Inscribe Ordinals | Gamma Learn | Gamma

Ordinalsのリリースは2023年1月と比較的新しいことから、ブロックチェーンや暗号通貨の初心者にもやさしいツールが出そろっているとは言い難い状況です。これは玄人・技術志向で比較的閉鎖的なビットコインコミュニティの問題でもあるかもしれません。

今後Ordinalsが広がりを見せるには、使いやすいツールがなくてはならないでしょう。

 

おわりに

本記事では、2023年年初に発表され、今後どのように広がりを見せるか注目されるBitcoinネットワーク上でNFTをはじめとする一意なオブジェクトを発行する仕組みOrdinalsについて説明しました。

2022年のTerra/Luna ショック、FTXの破綻などさまざまな騒動を経て、暗号通貨界隈が静かな中、Ordinalsだけでなく、NostrやDrive Chainなどビットコイン関連の興味深い動きが出てきています。Ordinals NFTの取引量は2023年初夏のピーク時から激減していますが、来年2024年はビットコインの半減期があり、ユニークなビットコインコミュニティを中心に今後どのような議論がなされ、展開を見せるのか見守りたいところです。

エンジニアの経験と情報学分野での経験を活かして、現在はドイツにてフリーランスで翻訳・技術解説に取り組む。2009年下期IPA未踏プログラム参加。2016年、本メディアでの調査の仕事をきっかけにブロックチェーンや仮想通貨、その先のトークンエコノミーに興味を持つ。

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