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Ethereumレイヤー2ネットワークを開発する Optimism

Optimismは、Ethereumのスケーラビリティと拡張性の問題に取り組むPlasma グループがもとになって、誕生したスタートアップで、2020年にPlasmaグループの解散とOptimismの創業が発表されました。2021年の暗号通貨ブームでは、Ethereumのレイヤー2ネットワークとしてArbitrumとともに注目を集めました。

Optimismと呼ばれたEthereumのレイヤー2ネットワークは、OP Mainnetと名前を変えて運用されています。OP Mainnetで行った処理をまとめて(ロールアップ)して、Ethereumメインネットに書き込むことで、Ethereumのスケーラビリティを目指します。OptimismやOP Mainnetで採用されているOptimistic Rollupという手法について詳しくは、本ブログの以下の記事を参考にしてください。

Optimism – Ethereum(イーサリアム)のレイヤー2スケーリングソリューション

DeFiのTVLランキング(TVL: Total Value Locked、スマートコントラクトにロックされている資金の総額)では、Ethereumのレイヤー2ネットワークは2022年の夏頃から頭角を現し始め、DeFiに関する情報を公開しているDeFillamaによると、OptimismのDeFiのTBLは、Ethereum、Tron、BSC、Arbitrum、Polygonに続いて6位です。

画像: ブロックチェーンごとのDeFi TVLランキング(DefiLlamaより)

2022年後半にはOptimismをはじめとするEthereumのレイヤー2ネットワークのトランザクション数がEthereumメインネット(レイヤー1)のトランザクション数を上回り注目を集めました。以降、レイヤー2のトランザクションの方が常に多い状態が続いています。

画像: EthereumメインネットとL2のトランザクション数の推移(Orbiterより)

Optimismは、OP Stackと呼ばれるOptimismを支える一連のソフトウェア群を公開しています。プロジェクトや開発者はOP Stackを使えば、OptimisticロールアップのEthereumレイヤー2ネットワーク(OPチェーン)を開発できます。あくまで構想段階ですが、OptimismはOP Stackを使って開発されたOPチェーンをつなぐSuperchain構想を発表しています。

続いてOP Stack、Superchain構想それぞれについて見てみましょう。

 

レイヤー2ブロックチェーン開発キットOP Stack

OP Stackの「スタック」とは、ITやソフトウェア開発の文脈で使用される用語で、一連の技術やソフトウェア群を表します。

OP Stackは、Optimismを支える一連のソフトウェア群で、開発はオープンソースで進められ、開発者はOP Stackを使って、Optimismのロールアップ方式であるOptimisticロールアップを採用したレイヤー2ブロックチェーンを新しく作成できます。自分のOP Mainnetを作れる開発キットをイメージするとよいでしょう。2023年9月現在、OP Stackのバージョン1「Bedrock」を利用できます。

Welcome to the OP Stack | OP Stack Docs

OP Stackの構造を概観してみましょう。下の図のように最下層のベースとなるブロックチェーンとのやりとりをするDAレイヤーから、エグゼキューションレイヤーまでがOP Stackチェーンの基本となる部分で、このほかに、他のOP Stackチェーンがデータを参照できるようにするセトルメントレイヤー、OP Stackチェーンでの決定を扱うガバナンスレイヤーがあります。

画像: OP Stackのレイヤー構造
OP Stackのドキュメントより。日本語部分は筆者が加筆)

OP Stackを使うことで、モジュールを組み合わせ、効率よくレイヤー2ブロックチェーンを作成できるようになります。大手暗号通貨取引所CoinbaseはOP Stackを使って、Ethereumレイヤー2ネットワークBaseの開発を進めています。将来的には、ほかのOP Stackを使ったレイヤー2ネットワークとの相互運用を可能にすることを目指していて、Superchain構想と呼ばれています。

 

OptimismのSuperchain構想

Superchainのウェブページでは、OP MainnetがEthereumユーザーの手数料を数十億ドル規模で削減したとしつつ、Ethereumにはまだインターネットレベルの処理能力はなく、Ethereumのエコシステムやアプリケーション、コミュニティを壊さないマルチチェーンソリューションが必要だとしています。

Superchain「構想」としたように、OptimismのSuperchainはまだ実現されていない構想段階のもので、Optimismに貢献する開発者たちと今後実現していくものだとOP Stackのドキュメントに記載されています。

Superchainは複数のOPチェーンからなるネットワークで、OPチェーンはセキュリティ、通信レイヤー、オープンソーステクノロジースタックを共有します。開発者は、スーパーチェーン全体を対象とするような分散型アプリケーションも構築でき、アプリケーションを実行するチェーンを抽象化できるといいます。

画像: Superchainの概要(OP Stackドキュメントより)

Superchainはパーミッションレスのシステムで、誰もが新しいOPチェーンを追加でき、開発者は自身のOPチェーンから手数料を受け取れる仕組みも考えられているようです。

 

OP Stackの活用事例

Superchainは構想段階ですが、OP StackについてはCoinbaseやWorldcoinといった世界的なビッグネームの事例に加えて、国内の開発事例も出てきています。

CoinbaseのBase

Baseは、OP Stackの開発にも貢献している大手暗号通貨取引所Coinbaseが、Optimismと共同でOP Stackを使って開発したOPチェーンで、2023年2月に発表されました。Coinbaseの説明によると、Base上では、Coinbaseの製品、ユーザー、ツールにアクセスできる分散型アプリを簡単に構築できるといいます。

レイヤー2ネットワークの情報を扱うL2Beatによると、TBLはArbitrum One、OP Mainnet、zkSync Eraに続いて4位で、38,200万ドル(2023年9月執筆時点のレートで560億円強)です。

どのようなアプリがBase上で動いているかについては、DappRadarを見てみるとよいでしょう。過去7日間のUAW(ユニーク・アクティブ・ウォレット数)では、Baseに特化した分散型アプリケーションのほか、クロスチェーンの資金移動プロトコルStargate、Uniswap、OpenSea、PancakeSwapといったアプリケーションも見られます。

画像: Base上の分散型アプリケーションの過去7日間のUAWランキング(DappRadarより)

Worldcoin

Worldcoinは、2023年5月に公開したブログ記事の中で、OP Stackを利用したスケーラブルなシステムを構築する第一歩として、分散型IDシステムWorld IDをOP Mainnet上に構築することを発表し、7月にOP Mainnetへの移行を完了しました。OP Mainnetへの移行完了を発表した記事で、WorldcoinはSuperchain構想への指示を表明しています。

Worldcoinについて詳しくは本ブログの以下の記事を参照してください。

Worldcoin(ワールドコイン) − OpenAI CEOが関わるID・金融ネットワーク

opBNB

大手暗号通貨取引所のBinanceは、Ethereumのレイヤー2ネットワークではなく、BNB Chainのレイヤー2ネットワークopBNBをOP Stackを使って構築しました。本記事執筆時点では、テストネットを利用できます。オープンソースとはいえ、EthereumをフォークしてBNBチェーンを立ち上げたときのことを彷彿とさせます。

opBNB: High-Performance Optimistic Layer 2 Solution for BNB Smart Chain

Zora Network

NFTをEthereumのレイヤー2ネットワークで扱うプロトコルZoraのチェーンは、Zora Networkの開発でOP Stackを利用しています。NFTファーストをうたっているチェーンで、単純にDeFiに一般またはDeFiに特化したプラットフォームとは比較できませんが、L2BeatのEthereumのレイヤー2ネットワークのTVLランキングでは、TVLは542万ドル(2023年9月執筆時点のレートで8億円弱)で、20位につけています。

チューリンガム株式会社のTuringum Business Chain

国内の事例としては、チューリンガム株式会社のTuringum Business Chainがあります。同社についてはビットコイナー反省会のレギュラーメンバーだったカナゴールドさんやなまはげさんが参画する企業として名前を耳にしたことがある人もいるかもしれません。

Turingum Business Chainは、OP Stackの技術を用いて独自のブロックチェーンを構築するサービスで、2023年6月にサービスの開始が発表されました。

オリジナルブロックチェーン構築サービス「Turingum Business Chain」開始のお知らせ|チューリンガム株式会社のプレスリリース

 

おわりに

本記事では、OptimismのOP StackとSuperchain構想について説明し、国内外の事例を紹介しました。Ethereumのスケーラビリティを改善するソリューションとして期待されるOptimismは、Arbitrumに続く規模の大きなEthereumレイヤー2ネットワークです。また、CoinbaseやWorldcoinといった業界で存在感のある組織が開発にコミットし、OP Stackを利用していますが、一方で、Worldcoinは物議を醸すプロジェクトでもあり、OP Stackと続くSuperchainが展開していく上で、プロジェクトに影響力が及びすぎないかは懸念するところです。

このほか、OptimismやArbitrumが採用するOptimistic Rollupとは異なる、ゼロ知識証明を利用したロールアップ方式ZK Rollupを採用したレイヤー2ネットワークも少なくありません。

今後レイヤー2勢力図がどのように変化していくのか、Optimismがどのように展開していくのか、注目したいところです。

 

 

エンジニアの経験と情報学分野での経験を活かして、現在はドイツにてフリーランスで翻訳・技術解説に取り組む。2009年下期IPA未踏プログラム参加。2016年、本メディアでの調査の仕事をきっかけにブロックチェーンや仮想通貨、その先のトークンエコノミーに興味を持つ。

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