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Optimism

Ethereum(イーサリアム)のスケーリングソリューションが長らく求められる中、さまざまなレイヤー2ソリューションが出てきています。本記事では先日解説したArbitrumと同様にOptimistic Rollupを実装し、Ethereum(イーサリアム)のスケーリングとガス代削減を目指すOptimismについて説明します。

 

Optimismとは

Optimismは、EthereumのPlasma Groupがもとになって2019年に生まれたスタートアップで、2020年に入りPlasma Groupの解散とOptimismの創業が発表されました。創業者は元Plasma Group の研究者のJinglan Wang氏、Karl Floersch氏、Kevin Ho氏です。

Optimism

LinkedinのOptimismのページによると、拠点はニューヨークのほか、シアトルやロサンゼルスにもあるようです。Optimismは創業時にIDEO CoLab VenturesとParadigmから350万ドル、2021年2月にはAndreessen Horowitzから2500万ドルの合計2850万ドルの出資(本記事執筆時点2021年6月末のレートで約31.6億円)を受けました。

Optimismは2020年9月にテストネットのトライアル、2021年1月にメインネットのテストを開始し、今後2021年7月以降にメインネットを公開する予定です。

Optimismとして実装が進められているOptimistic RollupはPlasm Groupで考案されたEthereumをスケールさせるためのレイヤー2技術で、Uniswapのデモサイトではガス代は10-100分の1に、トランザクションが確定するまでの時間は169msまで削減できるとしています。

画像: Optimismを利用したUniswapのデモのパフォーマンス(Optimismウェブサイトより)

Optimismのウェブサイトでは、OptimismによってUniswapやCompoundといったサービスのガス代がどの程度安くなるのか試算することもできます。CompoundでDAIを借りる際のガス代は70倍ほど安くなると試算されました。

画像: Optimism採用によるガス代の削減効果(Optimismウェブサイトより)

 

Optimismの仕組み

Optimismが実装を進めているOptimistic Rollupについては、ethereum.orgのRollupについて解説した記事に説明があります。まず以下に引用した記事中の図でOptimistic Rollupの概要を把握するとよいでしょう。

画像: Optimistic Rollupの概要(ethereum.orgの解説記事より)

スマートコントラクトによる計算処理はEthereumネットワーク(レイヤー1)の外のRollupチェーン(レイヤー2)で行われ、結果がEthereumネットワークに書き込まれます。これによりスマートコントラクトを実行する際に発生するガス代を削減できます。Ethereumネットワークへの書き込みは「楽観的」(optimistic)に行われ、書き込まれるデータの有効性の検証は書き込み時には行われません。

Optimismの具体的な仕組みについては、Optimismも開発者向けのドキュメントを公開していますが、Optimismを含む仮想通貨関連企業に集中的に投資をしているParadigmによる解説がコンパクトにまとまっています。ここではParadigmによる解説記事をもとにOptimismの仕組みの要所を見てみましょう。

How does Optimism’s Rollup really work? | Paradigm Research

Optimismでは、シーケンサと呼ばれるノードがユーザーからトランザクションを受け取り、L2のOVM(Optimistic Virtual Machine)と呼ばれるほぼEVMと互換性のある環境でスマートコントラクトを実行します。シーケンサはトランザクションをまとめて、トランザクションによって生成される中間状態のルートと合わせてEthereumネットワーク上に書き込みます。担保さえ差し出せれば誰もがシーケンサになることができます。

ここで問題になるのが、Ethereumネットワーク上に書き込まれるトランザクションの結果の有効性です。Optimistic Rollupでは結果が書き込まれた時点では有効性が検証されていないため、虚偽の結果が書き込まれる可能性があります。このためOptimistic RollupにはFraud Proof(不正証明)という仕組みがあり、一定期間内に検証者が不正な状態遷移に異議を申し立てられます。OptimismでもこのFraud Proofが実装されています。

OptimismのFraud Proofでは、検証者はローカルの状態に当該のトランザクション群を適用して不正がないか検証します。不正がなければ何もせず、不正があれば検証者は異議を申し立てます。異議申し立てにあたっては、オンチェーン、つまりEthereum上のOVMでの検証に必要な情報を提供します。オンチェーンのOVMで状態遷移が再実行され、不正があったと判断された場合、異議が申し立てられた以降の中間状態は無効になり、シーケンサが預け入れた担保は一部がバーンされ、残りは不正の証明に貢献した検証者に分配されます。

画像: Fraud Proofにともなう処理(Paradigm Researchによる解説記事中の図に筆者追記)

OVMについてはEVMとほぼ互換性があると説明しましたが、L2で行われた処理を、異議申し立て時にコンテキストを含めてL1で再現できるように、オペコードの一部が置き換えられているといった違いがあります。EVMとOVMの違いについてはドキュメントが公開されています。

Complete EVM/OVM Comparison | Stay Optimistic.

OVMとEVMに違いはあるものの、Ethereum向けのアプリケーションを書くのと同じようにSolidityでスマートコントラクトを書き、カスタムコンパイラを使ってOVMに対応したコードにコンパイルできます。Optimism向けのアプリケーションの開発については、プログラミングからコンパイル、デプロイまでを説明したドキュメントが公開されています。

Building Stuff on Optimistic Ethereum | Stay Optimistic.

 

OptimismとArbitrumの比較

冒頭でも紹介しましたが、OptimismはOptimistic Rollupを考案したPlasm Groupが前身のスタートアップで、OptimismによるOptimistic Rollupの実装には期待が寄せられてきました。

ただし、Optimistic Rollupの実装はOptimismだけではありません。本ブログでも紹介したOffchain LabsのArbitrumもOptimistic Rollupの実装を進めているほか、ethereum.orgのRollupについて解説した記事では、Fuel Network、Cartesi、OMGXの名前も挙がっています。

ArbitrumはOptimismに先駆けて2021年5月には開発者向けにメインネットをし、プロジェクトのオンボーディングを開始しています。DeFi分野からUniswapやDODOといったプロジェクトがArbitrumの利用を発表しています。

Arbitrum – Ethereumのレイヤー2スケーリングソリューション

ArbitrumのAVM(Arbitrum Virtual Machine)はEVMと完全に互換性があり、Ethereumの開発で使われるツールに対応し、SolidityやVyper、Yulで書かれたスマートコントラクトを実行できます。OptimismとArbitrumの開発面での柔軟性を比較すると、現時点ではより柔軟性があるのはArbitrumといえそうです。

一方、Optimismではトランザクションに対する異議の申し立てが発生すると、状態の検証がオンチェーンで行われ、Arbitrumのようにバリデータとチャレンジャーが複数ラウンドにわたって検証を行う必要がありません。このため、Arbitrumと比べてFraud Proofが迅速に完了すると考えられます。ただし、Arbitrumと比べてオンチェーンでの処理が多くなることの弊害もあります。

Optimistic RollupではロールアップとEthereumネットワークに書き込みを行う主体(Optimismではシーケンサ、Arbitrumではバリデータ)は担保を差し入れて処理を行うため、正しく行動するインセンティブがあります。このためどの程度Fraud Proofが起こるのか、Fraud Proofが起こることによりどの程度の影響が出るのか、実際にネットワークとネットワーク上でアプリケーションが稼働してはじめて両者の比較ができるようになるといえそうです。

 

Optimismの今後

Optimismはウェブサイトでロードマップを公開しています。直近ではメインネットのローンチを2021年7月に控え、数年をかけてシーケンサの分散化、トランザクションの順序を決める権利のオークション(MEVA: Miner Extracted Value Auction)の導入が計画されています。

画像: Optimismのロードマップ(Optimismウェブサイトより)

 

おわりに

本記事では、Plasma Groupを前身として生まれたスタートアップOptimismによるセカンドレイヤー技術Optimismについてみてきました。今後Optimismが、ArbitrumをはじめとするOptimistic Rollupを採用したセカンドレイヤーやその他のEthereumのスケーリング技術に対してどのように優位性を築いていくのか、Optimismが有名アプリケーションを含めどのようなアプリケーションを誘致していくのか、まずは直近に控えたメインネットの公開と、メインネット上でのアプリケーションのローンチに注目したいところです。

Edited by Yosuke Aramaki

エンジニアの経験と情報学分野での経験を活かして、現在はドイツにてフリーランスで翻訳・技術解説に取り組む。2009年下期IPA未踏プログラム参加。2016年、本メディアでの調査の仕事をきっかけにブロックチェーンや仮想通貨、その先のトークンエコノミーに興味を持つ。

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