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2021年はAxie Infinityの盛り上がりをきっかけに、ブロックチェーンゲームをプレーしてお金を稼ぐ「Play to Earn」に注目が集まりました。2022年に入り、NFTスニーカーを購入して歩いたり走ったりするとトークンをもらえる「STEPN」と、運動ゲームのカテゴリ「Move to Earn」が盛り上がりを見せています。本記事では実は古くから存在していたMove to Earnの流れを振り返り、STEPNを紹介し、なぜSTEPNとMove to Earnが注目を集めているのか説明します。

※ 本記事は現象としてのSTEPNブームとMove to Earnを説明するものであり、投資やサービスの利用を推奨するものではありません。

 

Move to Earnの小史

歩くことに対してトークンを付与するサービスは実は古くから存在します。

2017年末から2018年初頭にかけての第一次仮想通貨ブームよりも前の2016年、イギリスではSweatcoinというプロジェクトが始まりました。Sweatcoinはブロックチェーンを使って発行されるトークンではありませんが、ブロックチェーンベースのサービスになる可能性のあるプロジェクトとして名前を耳にすることがありました。現在SweatcoinはMove to Earnの波に乗って新サービスのリリースを予定しているようです。

2018年にはSteemブロックチェーンを利用してActifitがリリースされました。Actifitのユーザーはウォーキングなどのエクササイズをしてトークンを獲得します。また、Steem上のブログメディアSteemitにエクササイズの記録を投稿することでSteem上のトークンも獲得できました。Actifitは2020年のSteemブロックチェーンのハードフォーク以降、Hiveブロックチェーンでサービスを継続しています。

第一次仮想通貨ブームのあとの2019年には日本でも歩いてコインをもらえるFiFicがリリースされました。FiFicはNEMブロックチェーンを使って作られていて、提携店でFiFicを使ってためたコインを使ってサービスを受けられます。

Sweatcoin、Actifit、FiFicといった初期のMove to Earnサービスは一定の認知度やユーザーを獲得しましたが、なぜ2022年の今になってSTEPNが注目を集めているのでしょうか。続いてSTEPNについて詳しくみてみましょう。

 

STEPNとは

STEPNはオーストラリアのアデレードに拠点を置く2021年創業の新しいスタートアップです。社名と同名のモバイルアプリSTEPNはSolanaブロックチェーンを利用したフィットネスゲームで、ユーザーはNFTスニーカーを購入して歩いたり走ったりすると、STEPNの独自トークンをもらえます。

STEPNはどのスニーカーを選んでどう育てていくか、どう効率よくトークンを稼ぐかなどゲーム性が強く、Play to Earnのゲームと見ることもできますが、フィットネスサービスの側面を強調してMove to Earn(動いて稼ぐ)と形容されます。
※ Solanaについて詳しくは本ブログの記事「Solana(ソラナ) – 高速かつ安価にトランザクションを処理するブロックチェーン」を参考にしてください。

STEPNは2021年8月から10月にかけて行われたSolanaのグローバルハッカソンIGNITIONのゲーム部門4位入賞者で、同年11月にクローズドβ、12月にオープンβをリリースしました。2022年1月には5百万ドル(約6億円)のシード投資を受けました。筆者はこの時期に、暗号通貨やブロックチェーンのニュースを配信しているメールマガジンBspeak!でSTEPNの存在を知りました。

動いて稼ぐ『Move to Earn』 – by TheCoffeeTimes ☕

STEPNへの投資は巨額の投資が相次ぐ暗号通貨分野では大きな金額ではありませんが、Solana Venturesのほか、Alameda Researchが投資家として名前を連ねていて、Solanaエコシステムからの期待がうかがえます(Alameda Researchは新進気鋭の暗号通貨取引所FTXと創業者を同じくする投資会社で、Solanaに投資をしているほか、Solana上にDEX Serumを構築するなどし、Solanaを支持しています)。

STEPNは、NFTを組み合わせることでよりゲーム性を強くし、これまでのブロックチェーンベースのフィットネスアプリと一線を画しています。2021年にNFTがより一般に知られ、Solanaのような高速で安価にトランザクションを処理できるプラットフォームが台頭し、STEPNはよいタイミングでアプリをリリースしたといえるでしょう。

現在のユーザー数は公開されていませんが、投資を受けたことを報じる2022年1月のThe Blockの記事では1日のアクティブユーザーが1500人とあります。2022年3月時点の統計値として以下のデータがSTEPNのウェブサイトで公開されています。

画像: これまでの総合走行距離などの統計値(STEPNウェブサイトより)

STEPNはスニーカーの取引、新規発行(ミント)、レンタルに対して手数料をとり、収益をあげています。

 

STEPNを使ってみる

アプリのインストールからトークンをもらうまで

STEPNはiOSとAndroid OSに対応したモバイルアプリで、それぞれApp StoreGoogle Playからダウンロードできます。現在は招待制になっていますが、招待コードは既存のユーザーが持っているほか、STEPNの公式Discordグループでも取得できます(Discordはゲーム分野から利用が広まったコミュニケーションアプリで、暗号通貨コミュニティでも盛んに利用されています)。

アプリをインストールしたら、スニーカーを買う前にテストランをしてどのくらいのスピードで10分間継続して走れるか測定してみましょう。自分のスピードに合わないスニーカーを買ってしまうとトークンをもらいにくくなるからです。

STEPNのスニーカーはSolanaのNFTとして発行され、アプリ内のマーケットプレイスでSolanaのネイティブ通貨SOL払いで購入できます。スニーカーの値段は変動しますが、最も安いもので9.5SOL前後です(2022年3月執筆時点の価格で約10万円)。

画像: STEPNアプリ内のマーケットプレイス

これまで日本の取引所で日本円でSOLを購入することはできませんでしたが、前出のFTXが暗号通貨取引所Liquidを買収して日本に進出したためLiquidでSOLを買えるようになりました。

スニーカーの種類にはWalker(1-6km/時)、Jogger(4-10km/時)、Runner(8-20km/時)、Trainer(1-20km/時)の4種類があります。スニーカーの種類を決めたらEfficiency(効率)、Luck(運)、Comfort(快適さ)、Resilience(回復力)、何回NFTを発行できるかといったパラメーターと価格を見ながらスニーカーを選びます。スニーカーの種類やパラメーター、レベルについてはSTEPNのホワイトペーパーに解説があるほか、ユーザーがブログや動画などで攻略方法を紹介しています。

Sneakers – STEPN WHITEPAPER

筆者は運動不足を解消したいと思いごく普通のJoggerを一足持っています。1日1回10分間、スニーカーに合ったスピードで走ると20-30ドル相当のSTEPNの独自トークン「GST」をもらえます。GSTはアプリ内でSOLや米ドルにペグされたステーブルコインUSDCと交換できます。ただし、手に入れたGSTはスニーカーの修理に必要で、この金額がそのまま手に入るわけではありません。GSTはスニーカーの修理以外にも、レベルアップや新しいスニーカーのNFTの発行に使えます。運動時間をもっと増やしたいという人は、スニーカーの数を増やすと運動時間を増やせます。

画像: ジョギング中の計測画面

スニーカーを買うための初期費用は必要ですが、Ethereum NFTのように取引など各種処理に多額のガス代(ネットワーク手数料)がかかることはありません。今後2022年第三四半期にはレンタル機能がリリースされる予定で、より気軽にSTEPNで遊べるようになるかもしれません。

STEPNを利用する際に注意したいこと

スニーカーNFTの個数には上限がないため供給過剰で価格が大幅に下落する可能性があります。NFTは一般的に流動性がないことで知られていて、希少価値のないスニーカーは売り抜けることができないかもしれません。独自トークンの価格変動リスクもあり、初期投資を回収できない可能性があります。

超初期のユーザーの体験談を読んで「あわよくば自分もSTEPNで一儲け・・・」と思う人もいるかもしれませんが、スニーカー代は楽しく運動習慣を確立するための支出と考えるのが賢明といえそうです。

また、STEPNのアプリは常に位置情報を要求します。位置情報を表すGPSデータはスピードの計測に使われていますが、データがどのように取り扱われているのか、STEPN側に保存されているのかといった説明は見当たりません。

画像: 位置情報の利用を求める確認画面

杞憂にすぎないかもしれませんが、ログインのためのメールアドレスと生活圏内の運動コースがセットで漏洩したり、何らかの分析に利用されていたりするとしたら気持ちのよいものではなく、STEPN用のメールアドレスを用意する、自宅から離れた場所でGPSをオンにして運動を開始・終了するなど注意してもよいでしょう。本記事執筆時点では、STEPNを使っていないときにはGPSをオフにしていてもアプリの利用に支障はありません。

また、STEPNをきっかけにブロックチェーンや暗号通貨の世界に足を踏み入れるという人は、特に暗号通貨に関する詐欺全般に気をつける必要もあるでしょう。

 

STEPNとMove to Earnが注目される理由

STEPNは暗号通貨やNFTが認知され、Play to Earnが注目を集めた2021年というとてもよいタイミングでリリースされました。さらにゲームで扱う対象が多くの人が気にかけるフィットネスで、中でも気軽に始めやすいウォーキングとランニングという分野にアプローチしたのは効果的でした。シンプルでクリーンなモバイルインターフェイスにはゲーマーでない人でも好感を持てそうです。

Play to Earnのゲームでは、ゲームを楽しむのではなくお金を稼ぐことが目的になり、苦行のようにゲームをすることになりかねません。実際に2021年に人気を博したAxie Infinityをスカラーシップ制度を利用してプレーした場合の1日に稼げる金額は大きく下がっています(2021年9月には12ドルほど、2022年3月現在は1ドル以下)。STEPNでも報酬の低下は想定されますが、1日10分ほどのエクササイズから始められ、運動不足の解消を解消したり、運動のパフォーマンスを改善したりしながらトークンを受け取れ、このような苦行感の少なさはSTEPNの人気の一因といえます。

また、STEPNがSolanaブロックチェーンを選んだのもよい選択だったと考えられます。Ethereumは高額なNFTの取り扱いの実績がありますが、処理スピード、NFTの発行や取引にかかる手数料は理想的ではありません。2021年にはSolanaのほかBSC、Polygon、Avalancheといった高速で安価な手数料を売りにするブロックチェーンやEthereumのセカンドレイヤーが注目を集めました。Solanaはネットワークトラブルにみまわれることがあるものの、高額なNFTの取扱実績があり、エコシステムや支持者が存在するのも事実です。

2022年後半にはオンラインマラソンやコミュニティイベントが企画され、Social-Fi(ソーシャルネットワーク×金融)要素の導入も予定されています。他のユーザーの存在も感じられると一人で運動に取り組むよりも楽しみが広がることでしょう。

画像: STEPNのロードマップ(STEPNウェブサイトより)

 

おわりに

本記事では、Move to Earnの数年の歴史を振り返り、2022年に入って注目を集め始めたMove to EarnアプリSTEPNを紹介しました。今後はスニーカーのレンタル機能がリリースされ、複数のブロックチェーンにも対応していくようです。運動はゲームよりも裾野が広く、STEPNは今まで暗号通貨に興味がなかった人たちがブロックチェーンベースのサービスを使い始めるきっかけになるかもしれません。ゲームが分散型アプリケーションの世界への新しい入り口になったように、Move to Earnがブロックチェーンと暗号通貨のユーザー層を広げることに期待したいです。

エンジニアの経験と情報学分野での経験を活かして、現在はドイツにてフリーランスで翻訳・技術解説に取り組む。2009年下期IPA未踏プログラム参加。2016年、本メディアでの調査の仕事をきっかけにブロックチェーンや仮想通貨、その先のトークンエコノミーに興味を持つ。

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