Nouns DAOとは
Nouns DAOは「founders」(創業者)とNounを組み合わせた「Nounders」と呼ばれる10人のプロジェクト創業メンバー(@cryptoseneca、@supergremplin、@punk4156、@eboyarts、@punk4464、@solimander、@dhof、@devcarrot、@TimpersHD、@lastpunk9999)によって開始されたNFTベースのオンチェーン・アバターコミュニティについての実験的な試みです。
Nouns DAOはNounとよばれるアバター(32ピクセル×32ピクセルの画像)をEthereumのブロックハッシュに基づいてランダムに生成し、24時間ごとに一体のNounをオークションにかけます。Nouns DAOはこの生成とオークションのプロセスを永遠に繰り返します。
Nouns DAOのウェブサイトではこれまでに生成されたNounを見られます。たとえばNoun 1は2021年8月にオークションにかけられ、613.37ETH(2022年4月本記事執筆時点のレートで約2億28百万円)で落札されました。
画像: 高額で落札されたNoun 1(Nouns DAOウェブサイトより)
ここまで読んでNouns DAOをNFTアートプロジェクトと思った人もいるかもしれません。たしかにNounsのドット絵は有名ピクセルアーティストeBoyのデザインで、NounsにはNFTアートとしての側面もありますが、画像自体はパブリックドメインで商用でも許可なく複製、変更、配布できます。
Nouns DAOのユニークな点は、すべてのNounの所有者がNouns DAOのメンバーであり、提案や投票を行う権利を持っているところです。提案・投票の権利は、DAOのガバナンスやオークションで得られた資金などを管理するNouns DAOのトレジャリー(基金)にもおよびます。過去・現在の提案や投票状況についてはNouns DAOのウェブサイトに掲載されています。
Nouns DAOのトレジャリーのアドレスは公開されていて、2022年4月現在、保有総額はドル換算で66,611,934.83ドル(84億円相当)にのぼります。
Nouns DAOのトレジャリーのアドレス(Etherscan)
Nounsにはなんとも愛嬌があり、他の参加者とともにDAOを共同運営することに興味を持った人もいるかも知れません。筆者もその一人です。残念ながらNounsの落札価格を見てみると50ETHを超えるものがほとんどで、中には100ETHを超えるものも。一体まるまるは高嶺の花ですが、Shark DAOに400人超が集まって6体のNounsを共同購入するという事例も見られます。
また、Nouns DAOのウェブサイトにはPlaygroundが用意されていて、誰でもアバター画像を作って遊べて、画像はプロフィール画像として使用できます。
画像: Nouns DAOのPlayground
自動生成されたジェネラティブと呼ばれるタイプのNFTのコミュニティーというと、古くはCrypto Punksに始まり、2021年のNFTブームの最中にはさまざまなコミュニティーが誕生しました。Nouns DAOはこれらのコミュニティとどこがどのように違うのでしょうか。
続いてNouns DAOの仕組みと特徴を見てみましょう。
Nouns DAOの仕組みと特徴
Nouns DAOは、DAOと名前にある通り、一連のスマートコントラクトとして実行されているDAO(自律分散型組織)で、トークンの生成からオークション、ガバナンスまでトラストレスに自動的に実行されています。ガバナンスの仕組みはDeFiレンディングサービスCompoundのCompound Governanceのフォークとして実装されています。
※ DAOについて詳しくは本ブログの記事「自律分散型組織DAOとは」を参考にしてください。
NFTコレクションの中には、NFTにパラメータを持たせて個々のNFTの希少性に差を持たせるものもありますが、NounsにはパラメータはなくどのNounも等しく希少とされています。
Nouns DAOでは制限なく永遠にNFTが発行されることから価値が失われると考える人もいるかもしれません。1日1体オークションにかけられるとして年間で365体、5年で1825体が市場に出回ります。CryptoPunksやBAYC(Bored Ape Yacht Club)といった有名NFTコレクションが10000個限定でNFTを発行したことを考えると、Nounsの数は少なくとも向こう数年では異常に多いというわけではありません。
プロジェクトの開始から5年間はプロジェクトの創業メンバーに10体に1体のNounが報酬として渡されます。Nounの売り上げは100% Nouns DAOの基金に蓄積され、創業メンバーはNounを報酬として受け取ります。過去のNounsを見てみると、落札価格がn/aで落札者がnounders.ethとなっているものがあります。これが創業メンバーに贈られたNounです。
画像: 創業メンバーに報酬として贈られたNoun 270
当初はNounの数が少なく創業メンバーの影響力が大きくなりますが、Nounsの増加に伴い徐々に分散していくことが予想されます。
ガバナンスについてはスロースタートをうたっていて、当初創業メンバーは拒否権を持っていてNounsの少ない初期に悪意のある提案を却下できます。
Nouns DAOの実験的な試みとしてもう一点、ブロックチェーンに画像データを保存している点があります。ごく初期のNFTコレクションCryptoKittiesでは猫の画像データが運営企業のサーバーに保存されていました。猫のメタデータはオンチェーンに保存されますが、運営企業が画像データを失ってしまったら、見た目のない猫のNFTの価値は少なからず失われることでしょう。後続のNFTコレクションでは分散型で改ざん、障害、検閲に強いとされるIPFS(分散型ファイルシステム)を使う動きもありますが、IPFS上のファイルが失われる可能性もあります。最も確実なのは完全にオンチェーンでNFTのデータを保存することで、Nouns DAOはこれを実現しました。
※ IPFSについて詳しくは本ブログの記事「IPFS – 分散型ファイルシステム」を参考にしてください。
Nouns DAOが注目される理由
Nouns DAOは、第一にDAOが発行するNFTコレクションで、DAOが管理するアバターコミュニティーである点で先進的だといえます。プロジェクトの創業メンバーとして、2021年夏に盛り上がりを見せた実験的なNFTプロジェクトLootを開発したDom Hofmann氏(@dhof)や有名ピクセルアーティストeBoy氏(@eboyarts)が関与しています。これらに加えて、高額でのNFT落札が続くこともNouns DAOに注目が集まる理由といえそうです。
実験的な取り組みに加え、Nounの所有者がコミュニティーにコミットしている様子もうかがえます。Open Seaに出品されているNounsは本記事執筆時点の2022年4月現在、十数点で、これまでに発行されたNouns 277体の4%弱にとどまります。もちろん創業者に配布されたNounsの出品はありません。
Nouns DAOの提案リストを詳しく見てみると、トレジャリーの資産運用に関する提案などに加え、3DのNounジェネレータの作成など遊び心のある提案もあります。また、ウクライナのロシア侵攻を受けてウクライナへの人道支援が決定されました。このように、DAOの運営や基金の運用に加え、遊び心を持ちつつ、公にもよいことをというNouns DAOのWeb 3.0気質のようなものは新しく、時代の転換点で私たちの心をつかむのかもしれません。
このほか、Nounsがパブリックドメインであることから、Nounsに手を加えて遊ぶプロジェクトや楽しいNFTコレクションも出てきています。Nouns DAOを中心に周辺でも遊ばれている様子からはNouns DAOが愛されていることがうかがえます。
おわりに
本記事ではDAOが1日1体アバターを生成し、コミュニティーを管理する実験的なアバターコミュニティーを作り出そうというNouns DAOの試みを紹介しました。Nouns DAOからはアートコレクション的なNFTを超えたNFTの可能性、Web 3.0的なコミュニティのあり方が垣間見えます。
短期的な盛り上がりだけでなく、特にNounsの数が増加した段階でコミュニティがどのように形成されていくのか、長期的な視点でもNouns DAOは注目したいプロジェクトです。
10年後にはNouns DAOやNouns DAOに続くDAOが世界をどんどんよくしていっているかもしれません。そして私たちもその流れに無関係ではなく、いずれかのDAOに所属しているかもしれません。
期待を持ってNouns DAOの今後を見守りたいところです。
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