Crypto Kittiesというゲームから産まれ、ブロックチェーンを使ったゲームでゲーム内のアイテムを管理するために広く使われている技術にNFT(Non Fangible Token)があります。ゲーム以外においても、NFTの活用は広がっており、本記事ではそういったゲーム以外のNFTの活用事例を紹介するとともに、NFTがゲーム以外にもたらす可能性を解説しています。
NFTとは?
まず、NFTについて軽く解説します。NFTとはNon-Fangible-Tokeの頭文字で、Ethereumの規格であるERC721を元に発行される唯一無二の価値を持ったトークンのことを指します。
唯一無二の価値を持つトークンであるNFTを理解するためにビットコイン等の代替可能と呼ばれるトークンと比較するとわかりやすいでしょう。例えば自分が1BTCを持っていると仮定します。自分の持っている1BTCと、他の方が持っている1BTCの価値は基本的に同じで、たとえそのビットコインを交換しても価値は変わりません。したがって、ビットコインは代替可能なトークンと言えます。しかし、仮に自分の持っている1BTCに「有名な人が過去持っていた」という情報を付け加えることができたとします。そうすると、自分の1BTCの価値と他の方の1BTCの価値は全く違った価値を持つことになります。このように、トークンに様々な情報をつけることで唯一無二の価値をもつトークンのことをNFTとよんでいます。
EC721の規格やNFTに関しては、以前の記事で詳しく紹介してますので、こちらもご参照ください。
また、NFTが活用されることが多い、ゲーム分野に関してはこちらの記事で詳しく紹介しています。
今回の記事ではゲーム以外におけるNFTの活用事例を紹介していきます。
Forbesの取り組み
2019年12月17日にForbesが広告を表示しないようにする会員権をNFT(唯一無二の価値を持つトークン)として発売することを発表しました。
この会員権はForbesのネット記事を読む際に出てくる広告を表示しないようにすることができます。広告が表示されないことで記事に集中できるだけでなく、広告の画像などの読み込みにかかっていた時間も削減することができより速く快適に記事を閲覧することができるようになります。
会員権は、30日間有効な会員権(0.0208ETH)と7日間有効な会員権(0.0052ETH)の2種類があります。この会員権を購入するには、Forbesのウェブサイトを開き、「Crypto & Blockchain」のカテゴリーから記事を選択します。すると、右サイドに「Using a crypto-enabled browser?」と表示され、「Pay using Ether」をクリックすると購入画面に移動することができます。会員権の支払いはETHのみ可能で、MetamaskやTrust Walletなどのイーサリアムウォレットを使って支払うことで、購入できます。支払い完了後に、ユーザーは支払いの際に利用したイーサリアムのアドレスに紐づいた会員権(NFT)を持つことができます。
Forbesのサイトを訪れたユーザーが会員権を持っているかはUnlockというプロトコルにより確認されます。ユーザーが会員権であるNFTを持っていると承認されたら、会員機能が有効になり、ユーザーは広告の表示なしにForbesの記事を読むことができるようになります。
画像:Forbes (https://www.forbes.com/crypto-blockchain)
2020年1月現在で30日会員権が50個程度、7日会員権が90個程度が購入されているようです。Ethereumブロックチェーンに関する情報を公開するEtherscanと呼ばれるサービスで会員権がどのように取引されているかを誰でも見ることができます。
また、会員権を購入した人が、メリットが感じられないなどの理由で会員権がいらなくなったときに、この会員権であるNFTを他のユーザーに売却することができます。NFTは権利を他の人に渡すことができる機能がもともと実装されているので、その機能によって会員権であるNFTを他のユーザーに売却することができるのです。さらに、NFTは発行上限を決めることができるため、人数を限定したプレミアム会員権なども作ることができます。
このようにNFTとして会員権を発行すると権利の二次流通が簡単にできるので、コンテンツの流動性が上がると考えられます。今後、他の大手メディアやオンラインサロンなども導入されることが期待されます。
NIKEの取り組み
2019年12月10日、NIKEはERC721を用いて靴をトークン化する特許を米国特許商標庁に申請しました。
靴をトークン化する仕組みとして、まず消費者が靴を購入した時にデジタルアセットが作られます。このデジタルアセットにはデジタルシューズのデータとデジタルシューズIDが含まれています。デジタルアセットの作成後、購入者のオーナーIDとデジタルアセットが紐付けられ、デジタルシューズIDとオーナーIDをブロックチェーンに書き込む事でトークン化できる仕組みとなっています。申請された特許ではEthereumを使いトークンを発行することが想定されており、購入者は自分のイーサリウムアドレスに紐付けてデジタルアセット(NFT)を管理できるようになります。
NIKEは靴をトークン化してユーザーに新しい体験を提供することを狙っています。
例えば、自分が購入した靴をあるゲーム内のキャラクターに履かせることが想定できます。トークンを直接使った事例ではありませんが、2019年8月にアクションビルディングゲーム「フォーナイト」とコラボしてNIKEのロゴのついたシューズをゲーム内で使用できるようにした企画がありました。今後もこのようにゲームとコラボした企画でトークンが使われる事例が多く出てくることが予想されます。また、現実の靴の使用度合いに応じて靴トークンの価値を変化させること、靴トークンを交配させ新しい靴トークンを生成すること、なども想定しているようです。NIKEは2019年4月にも「Cryptokicks」という言葉で商標登録もしており、今後のNIKEのトークンと活用した新しい取り組みには目が離せません。
Nike Files Trademark Application in the US for ‘Cryptokicks’
今までのNFTを用いたゲームはデジタル空間のみでしかNFTを使うことができませんでしたが、今回のNIKEのNFTを活用した事例ではリアルとデジタルが連動していることが大きな違いを挙げることができます。
リアルとデジタルの結びつけには様々な問題が絡んできますが、NIKEがそれらの問題をどのように解決していくのか目が離せません。
OpenLawの取り組み
2018年4月にOpenLawが、NFTを使って不動産所有権の証明や売買をてきるプロトコルを発表しました。
OpenLawは契約書の作成や執行を行うためのブロックチェーンのプロトコルで、2017年7月からConsensysにより開発が開始されています。
OpenLawは独自の開発言語(リーガルマークアップ言語)を開発しており、その言語を使うことでより少ない労力で、より広範囲の法的拘束力を持った書類を容易に作ることを可能にしています。また、OpenLawでは複雑な契約をブロックチェーンによって簡略化することを目的として、アートへの寄付契約、ローン契約、リース契約などのプロトコルを今ままでに開発してきました。
今回の紹介する動産所有権の証明や売買をてきるプロトコルも、OpenLaw独自の言語を利用しているため開発しやすく、法律に準拠した形でスマートコントラクトを作成できることが強みと考えられています。
OpenLawを利用し不動産の所有権をNFTをして管理することで、今まで煩雑だった不動産売買の手続きを簡略化することができます。それにより、コストカットや時間の節約だけでなく不動産性が流動性をあげることができます。また、不動産のオーナーは所有権をNFTとして所有するため不動産所有権を追跡しやすくすることもメリットとして挙げられます。
ただ、OpenLawは不動産所有権自体の売買とその所有権の追跡の2つのプロセスを簡略化したにすぎません。不動産売買には様々な税金や利子の支払いも発生します。今後は、それら税や利子を所有権に紐づけて払うことができる仕組みや、複数人で不動産を所有できる仕組みなど開発する予定です。
ブロックチェーンは不動産産業を変えると言われますが、一回の取扱金額が高く、また法律も複雑であるため、まだまだ実用化には至っていません。ですが、OpenLawの事例を見てもわかりように、着実に、できるところから社会実装は進んでいるように感じます。
NFTの今後
NFTの活用事例としてForbes、NIKE、OpenLawの取り組みを紹介しました。
「所有している権利自体は頻繁に取引されないが、権利を所有していることの証明が頻繁に必要なもの」にNFTは有効であると考えられます。例えばForbesの事例だと、会員であることを証明する必要は頻繁にありますが、その会員証自体を取引することはそう多くはありません。
紹介した事例以外にもNFTの貸し借りサービスや売掛債権の証券化なども議論されています。また、改正資金決済法で、STOなど新しい権利の流通が法律で定義されます。法律面での裏付けや、新しいユースケースが浸透していくことで、今後もNFTの活用は増えていくでしょう。