TransActive Grid
Pocket

本連載では、ブロックチェーンを活用したシェアリングエコノミーのサービスを紹介しています。Slock.itLa’ZoozColonyに続き、今回は電力シェアの「TransActive Grid」(トランスアクティブ・グリッド)について説明します。

 

TransActive Gridとは

TransActive GridはアメリカのコンサルティングファームLO3 Energyと、ブロックチェーンに関する技術の開発スタジオConsenSysのジョイントベンチャーで、電力を共有するための暗号論的に安全なP2Pプラットフォームと関連技術の開発を行っています。

TransActive Gridの利用者は、地域で電力を共有するためのネットワーク「マイクログリッド」の一部として、「スマートメーター」と呼ばれるハードウェアを自宅やオフィスに設置します。スマートメーターは、既存の電力網から電力を購入するのか、マイクログリッドから電力を調達するのか決定し、ネットワークの安全を保ちながら、マイクログリッドでの電力の売り買いといったトランザクションを管理します。マイクログリッド上のトランザクションは、スマートコントラクトとブロックチェーンを利用したシステムで保証されます。

tagrid_image_02
画像: TransActiveGridのマイクロメーター(TransActive Grid ウェブサイトより)

TransActive Gridやそのシステム概要については、動画「TransActive Grid Intro」のが参考になります。

 

シェアリングエコノミーとTransActive Grid

日本でも消費者をとりまく電力に関する制度はこの数年で大きく変わりつつあります。2012年7月に固定価格買取制度で電力会社に発電した電力を売ることができるようになり、さらに2016年4月の電力小売全面自由化により消費者が電力会社を自由に選べるようになりました。ただ、現在も一般的な消費者の電力の売り買いには電力会社が介在しているのが現状です。

これに対して、TransActive Gridのシステムでは、電力マーケットへの参入障壁を下げ、個人が電力を消費するだけでなく、マイクログリッドに参加する隣近所と直接、発電した電力や余剰電力を売り買いすることができます。また、スマートコントラクトとブロックチェーンを利用したシステムにより電力会社といった第三者が介在しないことで、運用コストが削減されるほか、価値観や利害関係を同じくする参加者によって、電力取引のプロセスやデータの透明性を保ちながらマイクログリッドが運用される点も特徴的で、まさにシェアリングエコノミーの電力シェアサービスと言えるでしょう。

TransActive GridのシステムはBrooklyn Microgrid(ブルックリン・マイクログリッド)として、実験的にニューヨークのブルックリン区で運用されています。

tagrid_image_03

Brooklyn Microgridのチームは、エネルギーサービスの専門家からなりますが、マイクログリッドへは地元に住む一般の人たちも電力の生産および消費者として参加しています。Brooklyn Microgridのウェブサイトでは、地域に長く住む住人が屋根の上に設置したソーラーグリッドで発電し、真冬にマイクログリッドから電力を消費する以外はマイクログリッドに電力を供給しているといった事例が動画で紹介されています。 Brooklyn Microgridの取り組みについては、ウェブマガジンgreenz.jpの記事「地球に優しいエネルギーを、お隣さんから買おう。ブルックリン発、電力会社に頼らずに住民間での電力取引を実現した「Brooklyn Microgrid」」で詳しく読むことができます。

 

TransActive Gridはブロックチェーンを何に使っているのか

本連載でこれまでに紹介したSlock.it、La’ZoozColony同様、TransActive Gridイーサリアムブロックチェーンを利用しています。

ある家庭でスマートメーターが電力が生成されたことを検知すると、「エナジークレジット」と呼ばれるトークンが生成されます。エナジークレジットはマイクロエナジーマーケットでスマートコントラクトに基づいて取引され、電力の生産者は収入を得て、電力の消費者はこのトークンを買い取り、電力を消費するとトークンが消滅します。トランザクションはブロックチェーン上で自動的に処理・検証され、エナジークレジットの二重カウント、不正の発生などを防ぐことができます。また、コスト面では透明性の高いシステムにより、外部監査を入れる必要がなくなり、ブロックチェーンを利用することでコスト削減にもつながるといいます。

TransActive Gridのスマートコントラクトやブロックチェーンを利用したシステムにつては「DEVCON1: Transactive Grid: A Decentralized Energy Management Solution」の中盤で言及されています。

 

TransActive Gridのこれから

TransActive Gridは、イーサリアムブロックチェーンとスマートコントラクトを活用した電力シェアシステムの開発を進めるほか、次の二点をマイルストーンとして挙げています。

TransActive Gridのプロジェクトマネージャーによると、この数年でニューヨーク市内に500万から600万のスマートメーターが設置されるといいます。これにより、世界規模でのスマートメーターの普及が加速し、TransActive Gridの事業拡大の可能性を見いだしています。

また、トークンといった技術的な概念を理解しなくても、一般の利用者が「クリーンエネルギーの割合を増やしたい」「マイクログリッドから収入をあげることを重視したい」といった希望をもとに直観的に使いやすいユーザーインターフェイスを提供することも重視し、開発をすすめていくようです。

 

おわりに

シェアリングエコノミーのサービスのひとつとして、今回はP2P電力シェアプラットフォームTransActive Gridについて説明しました。

TransActive Gridのメンバーがプレゼンテーションの中で、ハリケーン・サンディーがニューヨークで大規模な停電を引き起こした時に、独自の電力網を持っていた地域が難を逃れたケースを例に挙げ、地域の電力ネットワークの重要性について、共同体が運用するリベラルな電力網とはまた異なる観点からマイクログリッドを紹介していました。日本の電力事情を見ると、まだまだマイクログリッドやスマートメーターといったシステムの普及には時間がかかるかもしれませんが、自然災害の多い日本において特に導入を検討する必要があるシステムなのかもしれません。また、Brooklyn Microgridの参加者が技術者に限らず純粋にマイクログリッドに参加することを楽しんでいる様子を見ると、未来の電力シェアシステムにわくわくさせられました。

TransActive Gridと電力シェアシステムの今後に注目したいところです。

Pocket

Mine Aram

Gaiax技術マネージャ。研究開発チーム「さきがけ」リーダー。新たな事業のシーズ探しを牽引。2015年11月『イーサリアム(Ethereum)』 デベロッパーカンファレンス in ロンドンに参加しブロックチェーンの持つ可能性に魅入られる。以降ブロックチェーン分野について集中的に取り組む。