2022年に入ってから、「Web3(ウェブスリー)」という言葉を耳にするようになったと思います。政府の間でも「Web3を国家戦略に」という取り組みが表明され(参照)、世界中の経営者・投資家からの注目が集まっています。
こうした情勢から、Web3領域で起業したいと考えている起業家の方も多いでしょう。
そこで本記事では、Web3領域で起業するために必要な知識とアクション、先行事例について解説していきます。
目次
前提となるWeb3の特徴
Web3とはブロックチェーンを用いた分散型インターネットの総称で、代表的な技術としてはNFT(非代替性トークン)、DeFi(分散型金融)、DAO(分散型自律組織)、スマートコントラクトなどがあります。
Web3の特徴を理解するために、インターネットの歴史と特徴を大別すると、大きくWEB1.0、WEB2.0、WEB3.0の3つがあります。
WEB1.0の特徴
WEB1.0は黎明期のころのインターネットを指します。回線速度や処理性能の低さといった要因があり、用途としては企業などが作ったテキストページを閲覧することがメインでした。
WEB2.0の特徴と課題
今も続くWEB2.0ではTwitter、Faccebook、Instagram、YouTubeなどが普及し、利用者も発信し双方向なコミュニケーションを取ることができるようになりました。
WEB2.0の課題としては、個人情報やコンテンツの所有権をプラットフォーマー(GAFAなど)が占有するという点があります。この仕組みの問題点は、運営の方針でアカウントのBANが行われたり、個人情報をもとにターゲティングした広告が配信され続けることなどがあります。
これに対して、Web3ではデータは分散して管理されるため、企業によるデータの独占と利用が起こりません。一か所にデータが集まることがないので、そこをピンポイントで攻撃され個人情報が流出するといったことも起こりづらい特徴があります。
Web3がもたらす社会的な変化
そんなWeb3ですが、社会的にはどのような変化をもたらすのでしょうか。
Web3が普及した社会において、ブロックチェーン技術は既存産業の中に組み込まれる技術として社会実装されていきます。
ポイントとしては大きく3つの点があります。「非中央集権化」と「金銭取引の容易化」、「個人情報漏洩リスクの軽減」です。
非中央集権化
Web3によって、特定のサービスを使えなくするような国の規制・検閲や企業による独占的な個人情報の収集が難しくなるため、非中央集権化が進むといわれています。
アメリカの元大統領であったドナルド・トランプ氏の複数のSNSアカウントがすべて凍結されてしまったことは記憶に新しいと思います。WEB2.0においては、「アカウントのデータ=運営企業(または国)の所有物」でした。既存の仕組みではアメリカの元大統領であっても一企業の規約に抗うことはできなかったのです。これに対して、WEB3.0ではプラットフォーム上に投稿したコンテンツは「NFT」としてユーザーが所有することができます。そのため、比較すると中央の権限が弱い状態となります。
さらに、Web3の要素の中でも非中央集権的な色が濃いものとして、DAOがあります。
DAOはスマートコントラクトによる、「経営者」または「運営者」の代替です。中央集権的な管理者がおらず、インターネットにさえ接続できれば、いつでもどこでも誰もがスマートコントラクトにより決められたルールに従って仕事ができ、報酬も得られます。中央となる指導者が存在しないため、方針も自分たちで決定します。
金銭取引の容易化
仮想通貨を用いて取引を行うことにより、銀行を介さずに手数料を抑えて国を跨いだ送金を行うことができるようになります。
通常の国際送金であれば銀行の審査もありますし、手数料も少なくありません。さらに、着金するにも長い時間が掛かります。
ブロックチェーン技術を使えば、ピアツーピアで取引ができるため、そのようなわずらわしさから解放されます。銀行を利用しなくても誰でも安全な取引ができますし、時間とお金、双方の面でもさらに便利になることでしょう。
個人情報漏洩リスクの軽減
Web3のサービス利用に際しては、ランダムな文字れるを持つ個人が特定できないウォレットの利用が前提となるため、個人情報を要する「会員登録」を必要としません。個人情報が使われないため、流出や悪用の心配もありません。
※補足:企業に個人情報を管理してもらう必要はなくなりますが、自分でウォレットの登録情報を管理する必要があります。
Web3領域における起業はチャンスなのか?
このような特徴をもつWeb3ですが、既存の産業にブロックチェーンとその周辺技術が組み込まれることで、社会を変化させるポテンシャルがあります。
すでに投資家・起業家からも注目され、各国のIT企業がWeb3分野への参入を加速させています。アメリカのVCの30社以上がWeb3に特化した投資ファンドを設立したと発表しました。投資規模は合わせて170億ドル(約2兆2700億円)を越えています(参照)。
ブロックチェーンとその周辺技術は既存産業に影響を与えますが、その具体的な事業・サービスはまだ多くありません。実験段階で失敗しているプロジェクトも多いです。それゆえに、Web3は大きな成長を見込める領域であり、ビジネスチャンスであるといえます。
Web3で起業するのに必要なこと
このように今後の期待が高まるWeb3ですが、Web3で起業するにはどのようなアクションが必要でしょうか。
Web3の領域で起業するにあたって何をする必要があるのか、具体的な行動について解説していきます。
Web3における関連キーワードの理解
Web3分野で起業する以上、技術やサービスの根底には必ずブロックチェーンに関する技術があるため、NFT、DEX(分散型取引所)、DAO、スマートコントラクト、メタバースなどといった基礎的用語の定義・仕組みを抑えておく必要があります。
ブロックチェーン上のアプリ(DApps)を開発する技術者レベルの知識は起業家になくても問題ありませんが、情報収集を行い、ビジネスを創っていく上で基礎的な知識は不可欠です。インターネットやコミュニティ、書籍などで学び、Web3への理解を深めましょう。
Web3起業のビジネスアイデアを練ること
次に、Web3によってもたらされると想定される社会的な変化(非中央集権化や金銭取引の容易化など)を元に、社会課題を解決するにはどのようなビジネスが作れるか考えてみましょう。
アイデアを思いつくのも一苦労だと思いますが、自分でNFTを買ってみたり、メタバースイベントに参加したり、DAOに参加するなど、Web3に関するプロダクトを実際に使ってみて、使いづらい点や変えたい点を見つけていくのもおすすめです。利用者の立場になることで、発見があるかもしれません。
また、それと並列してできることが、Web3の事業の先行事例を自分なりに集めて研究し、それらを参考にビジネスアイデアを模索していくことです。英語圏まで視野を広げると、実証段階にある事業は多いです。
法律や税制面の理解
日本では暗号資産に関する法律や税制が障壁となってWeb3領域の事業展開が難しいこともあり、海外で起業する人が増えてきています。
例えば、後述するAsterNetworkの運営会社であるStake Technolosies CEOの渡辺創太氏もその一人です。
渡辺氏は、保有しているトークンでさえも課税対象となってしまうという日本の法人税制が原因で、海外に出るしか選択肢がありませんでした。納税のためにトークンを大量に売却してしまえば、市場が崩壊してしまう恐れがあるためです。
このように、場合によっては海外に出て起業するという選択肢も、十分視野に入ってきます。
実際に起業する場合、Web3の知見がある弁護士や税理士に相談したい場面が出てくるでしょう。アイデアがあってもそれを日本国内で現実的に実装できるのか、見極めなければなりません。
ただし、これらを1から一人で情報収集しながら起業するのはスピード感的にも難しいこともあると思います。Blockchain Biz Communityのような情報収集と事業立ち上げに向けたイベントを開催している無料コミュニティもあるので、このような環境を利用して、効率的に情報収集と事業開発を進めたいです。
» Blockchain Biz Communityに参加する
Web3領域で起業した事業の事例
Web3で起業するにあたって、もう少しWeb3での起業がどのようなものか、イメージを明瞭にしていきましょう。
ここからは、Web3領域においてすでに起業した先駆者たちの先行事例をいくつか見ていきます。実際の事業例を見ることで、事業アイデアの着想を得ることができるかもしれません。
AsterNetwork
「AsterNetwork」は日本人の渡辺創太氏が代表を勤めるStake Technolosiesが運営するプロジェクトです。
異なるチェーン同士を相互接続可能なPolkadot(ポルカドット)のハブとして活動することで、Web3を実現することを目標としています。世界で3番目にPolkadotのパラチェーンと接続し、2021年12月に本格的に稼働しはじめました。
運営会社であるStake Technoosiesは国内外で高い注目を集めており、プロサッカー選手の本田圭佑氏やイーサリアムの共同創設者のギャビンウッド氏を始め、コインチェックが運営する「Coincheck Labs」やWeb3の開発に出資する「Crypto.com Capital」等、国内外から多くの出資を受けています。
CryptoBase 渋谷
「CryptoBase 渋谷」は都内を中心にシェアオフィス「MIDORI.so」を運営するMirai Instituteとガイアックスが運営するWeb3特化シェアオフィスです。
ここではWeb3起業家やDAOプロジェクトの運営者、NFTアーティスト、その他Web3に関心のある人々などが集い勉強会に参加したりします。リアルな出会いや交流を加速させてWeb3業界の裾野を広げることを目的としています。
特徴的な仕掛けとしては、NFTギャラリーがあり、入退室にはNFT認証でのスマートロックを導入、運営母体自身もDAO要素を取り入れるなど、Web3技術をオフラインで体感できる点です。
Akerun×NFT
ガイアックスとPhotosynthは、スマートロック「Akerun」のAPI連携を活用したNFT認証での解錠を可能にするソフトウェアを共同開発しています。
これは上記のCryptoBaseにおいて実証実験が行われ、今後それをベースに、NFT認証Akerunの導入を希望する企業のニーズに応じて、逐次改善が加えられていく予定です。
この技術によって、個々人が所有しているNFTをスマートロックのキーとして利用することができるようになります。リアルイベントの入退場時など、オフィスだけでなく多くの用途での導入が期待されています。
» NFT認証で解錠できるAkerunに関するプレスリリース
Web3へのコミットは今がチャンス
ここまでWeb3領域における起業について解説してきました。
「インターネットの再来」ともいわれビジネスチャンスが期待されるWeb3です。大きな社会変革の中で、次のGAFAが生まれてきたとしても不思議ではありません。成長産業かつ、新しい分野で、既存の成熟しきった市場で戦うよりもこの領域で勝負することはチャンスが大きいのではないでしょうか。
これからWeb3領域で起業するにあたり、トレンド情報の収集や事業事例の収集、事業アイデアの考案を一人で進めることは簡単なことではありません。Blockchain Biz Communityでは効率的な情報収集が可能で、さらに事業を開発して立ち上げるための環境が整えられています。日本ブロックチェーン協会理事を勤めるメンバーも運営に参画していますので、コミュニティ参加もぜひご検討ください。