ブロックチェーンにロックされた金額を表すTVL(Total Value Locked)のランキングを見てみると「Terra」というブロックチェーンがランキング上位に位置しています。Terraのネイティブトークン「LUNA」の価格が高騰したことからTerraを知ったという人もいるかもしれません。Terraとは一体どのようなブロックチェーンなのでしょうか。本記事ではTerraの概要、技術、エコシステムについて説明します。
※ 記事中の為替レートは本記事執筆中の2021年10月のものです。
目次
Terraとは
Terraは韓国のソウルに拠点を置くTerraform labsが開発を進めるブロックチェーンで、法定通貨とペグされたステーブルコインの運用を可能にします。Terraform labsの創業は2018年で、2017年末のバブル後の仮想通貨冬の時代を生き残ったブロックチェーンスタートアップです。Terraform labsは2019年にTerraのメインネットをローンチしました。
Terra – powering the innovation of money
企業情報を扱うCrunchbaseによると、Terraform labsは2021年1月にGalaxy DigitalをリードインベスターとしてPantera CapitalやCoinbase Venturesなどから2500万ドル(約28.5億円)を調達し、これまでにICOや投資家からの投資で合計5800万ドル(約66億円)の資金を調達しました。
Terra – Crunchbase Investor Profile & Investments
Terraでは、法定通貨にペグされたTerra通貨と呼ばれるステーブルコインUST(Terra USD)、KRT(Terra KRW)、MNT(Terra MNT)などが発行され、それぞれ米ドル、韓国ウォン、モンゴルトゥグルグにペグされています。Tetherが発行するUSDTや、Circleが発行するUSDCといった準備金に基づいて発行されるステーブルコインとは異なり、Terra通貨は分散型のネットワークでプログラムによって管理されます。
CoinMarketCapのステーブルコインの時価総額のランキングを見てみると、USDT、USDC、BUSD、DAIに続いてUSTが5位に入っています。ただ、USTの時価総額は1位のUSDTの約1360分の1、4位のDAIの約10分の1で、時価総額の大きさには開きがあります。
画像: ステーブルコインの時価総額ランキング(CoinMarketCapより)
Coin98 Analyticsの調査によると、Terraにロックされた金額は、2021年前半にはEthereum、Binance Smart Chainに続いて大きかった時期が続き、その後PolygonやSolanaに抜かることはあったものの、TVLは堅調にのび、2021年9月のTVLはEthereum、Binance Smart Chain、Solanaに次いで4番目に大きくなっています。
画像: 2021年9月中旬のEthereumを除いた各プラットフォームのTVL
(COIN98 Analyticsのツイートより)
時価総額の大きさで見るとUSTと上位ステーブルコインとの間には大きな差がありますが、TVLの大きさを見ると、Terraの影響力を無視できないことがうかがわれます。
続いてTerraがどのように機能しているのか、ネイティブトークンLUNAと合わせてTerraの仕組みを見てみましょう。
TerraとネイティブトークンLUNAの仕組み
Terraブロックチェーン
TerraはブロックチェーンをつなぐネットワークCosmosのSDKを使って作られたブロックチェーンです。Cosmosについて詳しくは本ブログのCosmosについての記事や、CoinPost とあたらしい経済によるYouTubeチャンネルConnecTVの動画「コスモス(Atom)って何?全体像を10分で大解剖」が参考になります。
TerraはCosmosのTendermintを採用していて、合意形成はPoSで行われます。Terraの独自トークンLUNAのステーク量の多いトップ130のバリデータが合意形成に参加し、トランザクションを処理します。Tendermintでどのように合意形成が行われるのか詳しくは本ブログのTendermintについての記事を参考にしてください。
Terra上では法定通貨にペグされたステーブルコインを発行できるほか、分散型アプリを開発しTerra上で動かすこともできます。
ネイティブトークンLUNA
LUNAはTerraのネイティブトークンで、バリデータとして合意形成に参加する際にステークするほか、ネットワーク上での計算にかかる手数料(ガス代)の支払いや、Terraプロトコルのガバナンスにも使われます。
このほかに、LUNAはTerraのステーブルコイン(Terra通貨)を発行する際にも使われます。USTをはじめとするTerra通貨を発行するには、同じ価値のLUNAをバーンします。現在1LUNAが40ドルほどで、100USTを発行するには2.5LUNAをバーンします。逆にTerra通貨をバーンしてLUNAを発行することもできます。
価格安定メカニズム
Terra通貨の需要が多く、供給が限られている場合、Terra通貨の価格はペグされている通貨よりも高くなります。たとえば、USTの需要が多いと本来1USDであるはずの1USTが1.01USDになってしまうことがあります。逆にTerra通貨の需要が少なく、供給過多の場合、Terra通貨の価格はペグされている通貨よりも安くなり、1USTに0.99USDといった1USD未満の値がつきます。
このようにペグしている先の法定通貨と値段が乖離してしまわないように、工夫がされています。TerraではTerra通貨とペグしている先の法定通貨の価格の乖離に関わらず、1対1で扱い、これによってTerra通貨の価格が安定すると考えられています。
1USTが1USDよりも高くなってしまった場合を見てみましょう。このような状況では裁定取引が行われます。つまり、1USD分のLUNAを購入して、このLUNAをバーンして1USTを手に入れる人が出てきます。1USTを1.01USDに交換して、この人は0.01USDの差益を手にします。裁定取引によって、需要に対して供給が少なかったUSTが供給され、USTの価格が下落し、1USDに近づきます。
1USTが1USDよりも安くなってしまった場合も同様で、1USTを0.99USDで安く買ってバーンし、LUNAを手に入れ、1USDに交換して0.01USDの差益を手に入れる裁定取引を行う人が出てきます。これによってUSTの供給が減り、USTの価格が上昇し、1USDに近づきます。
TerraやLUNAについて詳しくは、Terraform labsが公開しているドキュメントが参考になります。
Terraが注目される理由
ステーブルコインはブロックチェーンや仮想通貨が広く使われるようになる上で重要な要素であり、本ブログでも2018年に一つの記事として取り上げました。
「ステーブルコイン (Stable Coin)」安定した価格を実現するコイン
この記事の中の中央集権型か自律分散型かという分類では、Terra通貨は複数のノードが運用するTerraという分散型のネットワークで発行されるステーブルコインであることから、自律分散型のステーブルコインになります。一方、時価総額が大きくユーザーも多いTetherのUSDTやCircleのUSDC、BinanceのBUSDは発行の主体のある中央集権的なステーブルコインです。中央集権型の自律分散型のステーブルコインにも長所と短所がありますが、ある程度の分散化されていて、プログラムで実行されることから透明性が高いという点でTerraは主要な米ドルペグの中央集権型のステーブルコインと差別化を図っています。
Terraと同じく自律分散型のステーブルコインとしては、Ethereum上でMaker DAOが発行するDAIがあります。Terraの共同創業者の一人であるDo Kwon氏は、USTについて書いた記事の中でDAIの需給とスケーラビリティの課題を指摘しています。また、DAIを生成するには必要な額の150%の担保を差し入れる必要があるのに対して、Terra通貨を生成するには必要な額に相当するLUNAを手に入れてバーンします。
Announcing TerraUSD (UST)— the Interchain Stablecoin | by Do Kwon | Terra Money | Medium
Terraのおもしろいところは、韓国ウォンにペグされたKRTやモンゴルトゥグルグにペグされたMNT通貨が現実世界の決済でも使われているところです。ソウルの決済スタートアップCHAIが提供するeウォレットは、Terraの公式ウォレットTerra Stationのモバイル版とリンクし、自動的に残高をトップアップできるようになりました。USTによる支払いを受け付ける場合、販売者は2-3%の手数料を払います。国や地域にもよりますが、クレジットカードの決済サービスの手数料と同程度または若干安くなっています。
Terraのドキュメントによると、韓国の人口の5%がCHAIを利用しています。共同創業者のKwon氏のTweetによると「KRTはKRWのできることは何でも、そしてより多くのことができる」とのこと。
画像: Terra共同創業者のKwon氏のツイート
韓国と同様にモンゴルでは人口の3%が使っているという決済サービスMemePayでMNTを使えるようです。
Terraのエコシステム
Terraの文書の中にTerraに関連する情報を提供するウェブサイトや、アプリケーション、サービスなどの一覧があります。
まだ、Terra上で動いているアプリケーションは多くはないものの、USTはEthereum上のさまざまな有名DeFiサービスで取り扱われています。
前節でも触れましたが、Terra通貨がすでに現実世界でも使われているのは興味深く、今後、他のチェーンのアプリケーションがTerra上にも展開したり、Terra独自のサービスが展開されたりすることで、インターネット世界と実世界がつながったエコシステムが拡大していくことが期待されます。
おわりに
本記事では、ステーブルコインの発行を行うブロックチェーンTerraについて解説しました。筆者は当初、意外にもTVLが大きいものの、これまであまり名前を耳にすることのなかったTerraに興味を持ちました。地元のアジアで韓国のウォンにペグされたKRT、モンゴルのトゥグルグMNTで一定の成功をおさめたTerraが今後どのようにして、米ドルステーブルコインの分野でUSDT、USDC、BUSD、DAIといった競合とシェアを争っていくのか、特徴を打ち出していくのか注目したいところです。