分散型アプリケーションを開発・運用するプロジェクトやDAOでは、ユーザーを巻き込んで分散型の意思決定を実行しようとしていて、この意思決定自体も分散型のシステムで行いたいところです。本記事では分散型アプリケーションを開発・運用するプロジェクトやDAOで利用が進んでいる分散型投票システム「Snapshot」を紹介します。
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目次
Snapshot(スナップショット)とは
Snapshotは、自動化されたポートフォリオ管理システムや分散型取引所を開発するBalancer Labsの開発者Fabien Marinoが作成したオープンソースの分散型投票システムです。2021年創業のSnapshot Labs, Inc.(以下Snapshot Labs)がオープンソースで開発を進めています。
企業データベースCrunchBaseによると、Snapshot Labsは2021年11月に1kxをリード投資家としてCoinbase Venturesなどから4百万ドル(本記事執筆時点2022年6月のレートで約5億3700万円)の投資を受けました。
Snapshot Labs – Crunchbase Company Profile & Funding
分散型アプリケーションを開発・運用するプロジェクトやDAOでは、アプリケーションだけでなく組織の意思決定も分散型で行おうとする傾向がありますが、それぞれが独自トークンを使った分散型の投票システムを一から作り上げるのは大きな負担です。
Snapshotは分散型アプリケーションを開発・運用するプロジェクトやDAOのニーズをとらえ、AaveやUniswapなどDeFiを中心に多くの分散型アプリケーションを提供するプロジェクトで利用されています。Snapshotを利用するプロジェクトの中にはBanklessDAOのようなDAOもあります。
続いてSnapshotがどのように機能するのか見てみましょう。
Snapshotの仕組み
Snapshotは分散型の投票システムですが、提案の作成や投票にはブロックチェーンは使われていません。提案や投票に関するデータは分散型ファイルシステムIPFSに保存されるため、Snapshotで提案を作成したり投票したりする際にガス代はかかりません。
※ IPFSについて詳しくは本ブログの記事「IPFS – 分散型ファイルシステム」を参照してください。
ただし、プロジェクトやDAOは、Snapshotで提案を受け付けるためのスペースを作る必要があり、その際にETHでENSドメイン代とガス代を支払います。2021年6月に入ってからの暗号通貨価格の下落に伴い、執筆時点では5文字以上のドメインの10年分の価格は10年分ガス代込で$80ほどです。
※ ENSについて詳しくは本ブログの記事「ENS (Ethereum Name Service) – 分散型の名前解決サービス」 を参照してください。
投票に用いるトークンはプロジェクトやDAOが自由に選べますが、プロジェクト独自のガバナンストークンを利用するのが一般的です。独自トークンがない場合は、ETHやDAIなどを選べます。1トークンを1票として扱うだけでなく、票数の計算をカスタマイズすることもできます。
SnapshotのYouTubeチャンネルではスペース作成の様子を動画で公開しています。
Create a space on Snapshot – YouTube
提案に対して投票したい人は投票権を表すトークンを保持しているウォレットをSnapshotにつなぎ、署名付きのメッセージを送ることで投票したことになります。トークンは投票できる権利を表すだけで、投票してもトークンはなくなりません。投票が完了するとレシートが発行され、誰でも簡単にSignator.ioで検証できます。
画像: Snapshotでの投票のレシート(Snaspwhost ウェブサイトより)
Snapshotの使い方全般についてより詳しくは、Snapshotがドキュメントを公開しています。
Snapshotを利用しているプロジェクト
Snapshotのウェブサイトによると、Snapshot上には現在7800のスペースが存在します。Snapshotは有名DeFiプロジェクトで利用されていることで知られていますが、カテゴリごとのスペース数を見るとSocialカテゴリのスペースが915あり、最も多くなっています。メンバー数の多いスペースには数万人のメンバーがいます。
画像: Socialカテゴリのスペース一覧
Socialに続いてスペース数が多いのがProtocolとInvestmentカテゴリで、Protocolカテゴリを開くとAave、Sushi、Uniswap、Curve Financeなど有名プロジェクトのスペースが表示されます。
このようにさまざまなプロジェクトで利用されるSnapshotは、Web3分野の提案・投票ツールとしてデファクトスタンダードの地位を築きつつあるといえそうです。
開発中のオンチェーン投票システムSnapshot X
現在利用されているSnapshotはIPFSを利用し、オフチェーンで分散型投票システムを実現したものですが、Snapshotはオンチェーン版の開発も進めていることを明らかにしています。
Introducing Snapshot X: our upcoming on-chain voting framework f… — Snapshot Labs
オンチェーン版のSnapshotはSnapshot Xと呼ばれ、Ethereumのレイヤー2ネットワークのStarkNet上で構築が進められています。StarkNetを利用することでSnapshot XはEthereumネットワークのセキュリティの恩恵を受けつつ、高速かつ安価に投票が可能になるといいます。Snapshotがメッセージを取りまとめてStarkNetに書き込みを行い、コストはSnapshot DAOがまかなうため、Snapshot同様Snapshot Xでもユーザーレベルでは提案や投票にガス代はかからないといいます。
Snapshot Xの発表時のブログ記事によると、Snapshot Xのリリースは2022年第二四半期の予定で、リリース後にいくつかのDAOをオンボーディングさせたのち、2022年第三四半期に誰でも利用できるようになるとのこと。
おわりに
本記事では分散型アプリケーションを開発・運用するプロジェクトやDAOで利用されている分散型投票システムSnapshotを紹介しました。
Snapshotを考案したFabien Marino氏自身、DeFi分野のBalancer Labsの開発者で、分散型プロジェクトのニーズを的確にとらえ、Snapshotは分散型プロジェクトの投票システムのデファクトスタンダードになろうとしています。
今後は、現在開発が進められているオンチェーン版のSnapshot Xがされ、Web3分野で採用が進むのか注目したいところです。
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