ブロックチェーンの発展に伴い、ブロックチェーン技術を通貨以外の分野へ利用するプロジェクトも活発になってきました。その中で「サイドチェーン」と呼ばれる概念が誕生しました。サイドチェーンとは、複数のブロックチェーン間で仮想通貨などのやり取りを双方向で行い、様々な機能をブロックチェーンに追加する技術のことです。今回はこのサイドチェーンについて紹介します。
(画像は https://blockstream.com/technology/ 参照)
目次
サイドチェーンが作られた背景
サイドチェーンが開発された大きな目的はブロックチェーンの機能拡張としての役割をはたすことです。ビットコインには、経年により送金手数料が増えている、ブロック承認までの時間が10分と長い、スマートコントラクトなど機能がないといったデメリットが存在します。これらのデメリットを解決するために、サイドチェーンという概念が登場しました。
また、ブロックチェーンとして信頼性の高いビットコインのブロックチェーンには技術的蓄積がありますが、技術の蓄積とともに関わる人間も増え、新たな技術変更をするにも合意が得られにくくなっているという欠点もあります。しかしサイドチェーンであれば、ビットコインのコア技術を利用しつつ、新たな技術を素早く投入できるというメリットが存在します。
このような背景のもと、マイニングなどの作業がビットコインブロックチェーンに紐付けられた、サイドチェーンが開発されることになります。
サイドチェーンとは
サイドチェーンとは、ビットコインに端を発したパブリックブロックチェーンの「側鎖」となる概念です。サイドチェーンの導入により、今まで複数の仮想通貨が持っていた独自のブロックチェーンが相互に結ばれ、仮想通貨全体を一つのブロックチェーンとして転送することが可能になるとされており、親チェーンからサイドチェーンへの資産移動が簡単・自由に行えるようになる革命的な技術として注目を浴びています。
サイドチェーンは、2014年にBlockstreamにより初めて実装に関するホワイトペーパーが発表されました。2016年11月には、米国特許商標庁よりサイドチェーン技術の特許出願書が公開されています。特許自体は2016年5月に申請されたもので、特許防衛ライセンス(DPL)取得に伴い、一般アクセスが可能になっています。
Blockstream
Blockstreamは実業家兼投資家のAustin Hill氏を始めとし、ビットコインの初期から開発に関わってきたAdam Back氏やGregory Maxwell氏などによる開発チームで開発を行っている企業であり、設立からわずか2年間で760万ドル(約8億2000万円)の資金調達に成功しています。
画像:Blockstream
Blockstreamのプロダクトとして、オープンソースのアプリケーション開発向けプロダクトである「Elements」と、ビットコイン取引所を対象とし、Blockchain-as-a Sreviceとして提供するサイドチェーンプロダクト「Liquid」があります。
サイドチェーンの特徴
サイドチェーンには大きく分けて二つの特徴があります。
一つ目は背景で述べたようにビットコインブロックチェーンの機能拡張ができるという点です。サイドチェーンを用いることで、送金手数料の軽減・ブロック承認の時間短縮・スマートコントラクトなどの機能追加といった、従来のビットコインにはできないような機能を実装することができます。しかしそれでは今までのアルトコインと同様の位置付けに思われるかもしれません。サイドチェーンで重要な点は、ビットコインブロックチェーンに紐付けられているという点です。従ってビットコインブロックチェーンにおいて担保されるセキュリティの高さなどの恩恵を受けることができ、これは流動性の低いアルトコインとは大きく異なります。
二つ目は、独自仮想通貨をサイドチェーン上で発行できるということです。ポイントは、ビットコインもサイドチェーン上の独自通貨も双方向で移動・取引ができるという双方向ペグ(two-way pegging)にあります。これに似たプロダクトは以前から存在しており、例えばcounterpartyの独自通貨であるXCPはビットコインをあるアドレスにおくりProof of Burnすることで、XCPを割り当てていました。しかし、この方法ではXCPからBTCに戻すことができないので、一方向ペグ(one-way pegging)でした。サイドチェーンの仕様ではtwo-way-pegを実現しているので、変換した仮想通貨からBTCに戻すことができます。
コイン焼却の証明が新しい価値創造の証明になる「プルーフ・オブ・バーン」
画像:https://blockstream.com/technology/参照
サイドチェーンは親チェーンでトランザクションを作成し、子チェーンで相対するトランザクションを作成し、資産を転送するという手法を取ります。この時SPV(Simplified Payment Verification)と呼ばれるブロックチェーンの全データをダウンロードすることなくトランザクションの検証を行うアプローチを用いています。親チェーンのコインをサイドチェーンに転送するために、親チェーンのコインを親チェーン上の特殊なOutputに送ります。それをアンロックできるのはサイドチェーン上のSPV証明のみとなっています。チェーン間の処理の流れは以下の図のようになっており、親チェーンとサイドチェーン間で相互にSPV検証を行うようにしようという提案です。
画像:Enabling Blockchain Innovations with Pegged Sidechains
サイドチェーンの問題点
しかし、サイドチェーンの実装にはいくつかの問題もあると考えられています。
サイドチェーンはセキュリティ確保のため、同じコンピューターのハッシュレートでビットコインの親チェーンとサイドチェーンを同時採掘できるマージマイニング(merged mining)の導入が必要となる可能性があるとしています。もしマージマイニングが行われない場合、マイナーはどのブロックチェーンをマイニングするかを選ばなければならないため、一部のチェーンでセキュリティリスクが高まる可能性があります。
また、総合的にはより大きなマイニングパワーが必要となるため、ビットコインで問題となっているマイニングの集中化がさらに進む懸念があるという問題もあります。マイナーはサイドチェーンに接続されたブロックチェーンすべての取引手数料を得ることになるため、強力なハッシュパワーを持つ少数の企業がさらにその力を強めてしまう危険性が指摘されています。
サイドチェーンの実装事例
Liquid
Liquidは、Blockstreamが最初に発表したサイドチェーンの実装であり、複数のビットコイン取引所やウォレットなどの間のビットコインの共同保管場として機能します。親チェーンのビットコインと1対1で交換できる共同のビットコインをサイドチェーン上に導入することにより、流動性プールを実装することになることから、即時送金が大きなメリットになります。
共同プールにより、サービス間のビットコインの移動が瞬時に可能となり、また共同でビットコインを保有することにより、各ビットコイン企業の破産リスクが低下するなどのメリットが生まれます。このLiquidでは取引情報を隠すことができる機密トランザクションが実装されており、プライバシーも守られるとされています。
サイドチェーンであるLiquid内での移動を即座に行うため、Liquidにおける取引承認にはプルーフ・オブ・ワークではなく、選ばれた特定の承認者のみにより取引承認を行う、RippleやStellarなどの合意形成プロトコルに近い仕組み(Byzantine round robin consensus protocol)をとっています。
画像:Introducing Liquid: Bitcoin’s First Production Sidechain
Rootstock
Rootstockとはサイドチェーンを用いたビットコインベースのスマートコントラクトプラットフォームです。ビットコインのセキュリティ面などの強みを生かしながらEthereumのような複雑なスマートコントラクトの作成をサイドチェーン上で可能にしようとするプロジェクトです。つまりビットコインにスマートコントラクトという機能を追加するという意味合いが強い事例であると捉えることができます。
Rootstockにおける取引承認は、マージマイニングを利用するため高いセキュリティ性が確保されます。またDECOR+やFastBlock5と呼ばれるプロトコルを採用することで、サイドチェーンのブロック生成間隔を約10秒程度という非常に短い時間にするため、即時送金が可能となり、ビットコインのスケーラビリティも上がるとされています。
画像:RSK
ビットコインのメリットを活かしつつ、デメリットをも改善するような新しい概念であるサイドチェーン。これから多くの決済機能やスマートコントラクトなどがサイドチェーンによってビットコインブロックチェーンに紐付けられる未来が来る可能性が予想されることからも、サイドチェーンはブロックチェーンの発展を見る上で目が離せない注目の存在です。