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電力は送電にコストがかかりロスが発生することから地域で発電した電力を消費するのが効率がよいとされています。さらに太陽光パネルを利用した個人による発電とも相まって、マイクログリッドをはじめさまざまな地域型やP2P型のネットワークがさかんに検討されています。本記事ではブロックチェーンを使ってP2P電力取引プラットフォームを実現しようとするオーストラリアのPower Ledgerを紹介します。

 

Power Ledgerとは

Power Ledgerはオーストラリアのパース市に拠点をおく2016年創業のスタートアップで、トラストレスで透明かつ相互運用可能な電力の取引プラットフォームを提供することを目指しています。

Power Ledger: Energy, reimagined

Power Ledgerのプラットフォームを構成する製品は多岐に渡り、P2Pの電力取引を扱うxGridやμGrid、電力会社向けのソリューションVPP 2.0、コミュニティーがインフラを整備して利益をシェアするためのソリューションAsset Germination、電気自動車の充電スタンドためのPower Port、カーボンクレジットの取引を扱うC6とC6+などがあります。

Power Ledgerは、既存の電力業界に対抗するのではなくあくまでソフトウェアプラットフォームを提供する企業として共存しつつ、電力取引の仕組みに革新をもたらそうとしています。電力の消費者や、消費者でありながら電力の生産もするプロシューマーに多くの権限を与え、電力を効率化し透明性を高め、クリーンで手の届く価格の電力を提供することを目指しています。

日本の固定価格買取制度のように余剰電力を売れる制度はすでに存在しますが、電力会社に売る場合、電力会社まで距離があると送電コストとロスが発生します。また、電力会社を中心とした中央集権的な電力ネットワークは脆弱でもあります。電力は地域やコミュニティーでの発電と消費が最も効率よく、さらに攻撃への耐性という点でもP2P、分散型のネットワークと相性がよいといえます。Power Ledgerはこのような電力の特徴を押さえ、プロシューマーが余剰電力を売れるだけでなく、周波数や電圧のコントロール、負荷分散をも扱うような真のP2P型の電力ネットワークを構築することを視野に入れています。

Power Ledgerは2017年9月のICOで34百万ドル(当時のレートで約38億円)を調達し、同年11月には政府からの助成も決定しました。ICOについてはオーストラリアのスタートアップとしては巨額のICOとなり注目を集めました。

壮大な計画を掲げるPower Ledgerですが、その計画は青写真ではなく、仮想通貨が低迷した2018年にもオーストラリアやニュージーランドをはじめ、アジアやアメリカなどで精力的に実験や運用を行ってきました。日本では関西電力によるμGridの試験利用や、シェアリングエネルギーとの再生可能エネルギーの消費量をトラッキングする共同プロジェクトが発表されています。

画像: Power Ledgerの世界でのプロジェクト(事業概要を説明した資料What We Doより)

Power Ledgerの概要を押さえたところで、続いてPower Ledgerがどのようにブロックチェーンを活用しているのか見てみましょう。

 

Power Ledgerとブロックチェーン

Power Ledgerのホワイトペーパーによると、Power LedgerのプラットフォームではEthereumブロックチェーンとコンソーシアム型のブロックチェーンを併用しています。ホワイトペーパーではPower Ledgerの価値として持続可能性をあげ、PoWによる電力消費は最小限にしたく、将来的には完全にパブリックなPoSチェーンに移行する計画です。

Power Ledgerのふたつのトークン

Power Ledgerがどのようにブロックチェーンを併用するのかを知る上で、プラットフォーム上には「POWR」、「Sparkz」ふたつのトークンが存在することを把握しておくとよいでしょう。POWRはグローバルに流通するERC20トークンとして発行され、ICOを経て、現在Binanceをはじめとする取引所に上場しています。2019年3月現在、CoinMarketCapの時価総額のランキングでは100位前後です。

Power Ledger (POWR) price, charts, market cap, and other metrics | CoinMarketCap

小売事業者が存在する環境では、電力の小売事業者などPower Ledger上のアプリケーションホストがPOWRを購入し、これを担保にSparkzを発行します(下図 左)。Sparkzはローカルな電力の取引に利用され流通するトークンで、地域ごとに「1 Sparkz=1セント」のように法定通貨に固定されます。価格が変動するPOWRと、法定通貨と固定されるSparkzを調整する仕組みは明らかにされていません。Sparkzは現在はアプリケーションごとに閉じた環境で便宜的に法定通貨の代わりに用いられているようです。

P2P化した環境では消費者、プロシューマーがPOWRを購入しローカルのSparkzに換金して利用することが想定されています(下図 右)。

画像: POWRとSparkzが利用される様子(ホワイトペーパー p17 図4.1.1、4.1.2 より)

 

ブロックチェーンをどのように利用しているのか

Power Ledgerのプラットフォームがブロックチェーンをどのように使っているか、ホワイトペーパーにあるプラットフォームの各レイヤーを説明した図を上から下に見ていきましょう。

Power Ledgerのプラットフォームを構成する各レイヤー(ホワイトペーパー p23 図5.3.1より)

Power Ledgerの基礎にあるのがEthereumブロックチェーンで、Ethereumブロックチェーン上でPower Ledgerコアと呼ばれるスマートコントラクト群が動作しています。これらのスマートコントラクトはERC20トークンであるPOWRを管理したり、POWRを担保にSparkzを発行するSmart Bondを処理したりしています。

さらにその上にあるのがEcoChainと呼ばれる自社開発の電力業界に特化したPoSのプライベートチェーンです。現在このレイヤーは手数料のかからないEthereumベースのコンソーシアム型のブロックチェーンに移行が進められているといいます。いずれにせよこのレイヤーでは地域ごとに複数のブロックチェーンが動作し、Sparkzの生成と管理、法定通貨での支払い処理などが行われ、スマートメーターの値や取引に関するデータがブロックチェーンに記録されます。

プラットフォームの最上位のアプリケーションレイヤーにはxGridやμGrid ほかPower Ledgerが提供する商品群が存在します。

この他にもプラットフォームには今後実現されるものも含めてさまざまな仕組みが盛り込まれています。技術的な詳細やアルゴリズムについては書かれていませんが、Power Ledgerの全容を外観するにはホワイトペーパーが参考になります。

Power Ledger Whitepaper

 

Power Ledgerのビジネスモデル

Power Ledgerの仕組みが明らかになると、Power Ledgerが企業としてどのように収益をあげていくのかが気になります。

ブロックチェーンを利用してトークンを発行し、サービスを運営している企業の場合、ICOによる資金調達や内部で保有するトークンの値上がりに依存するケースが見られますが、仮想通貨の低迷で苦境に立たされる企業も少なくありません。

Power LedgerのビジネスモデルについてはFAQの質問・回答のいくつかから、どのように収益化しようとしているのか方針が見えてきます。Power Ledgerは内部で保有しているPOWRの価値は認めつつも、トークンの価値にとらわれず、ビジネスの中心はあくまで電力の取引プラットフォームやサービスであるとし、これらの開発やコミュニティーのケアに注力するとしています。収益をあげる手段の一例として、電力の取引に極少額の手数料を課すことをあげています。

FAQ – Power Ledger: Energy, reimagined

 

Power Ledgerの課題

近隣から、またはコミュニティーでクリーンな電力を手ごろな値段で買えるとあればPower Ledgerを使ってみたいという人も少なくないでしょう。プロシューマーとして余剰電力を売ってみたいと考える人もいるかもしれません。

Power Ledgerが普及する上で課題がないわけではありません。ブロックチェーンを使ったサービスでまず課題として思い浮かぶのが処理能力の問題ですが、コンソーシアムチェーンのレイヤーで解消するようで、実際にストレステストが行われ実運用にもこぎつけています。

ただ、今後プラットフォームの利用を広げるには、一般のユーザーやアプリケーションホストとなる企業に対して、P2Pとは何なのかからはじめ、なぜPOWRとSparkzが存在するのか、それぞれの役割は何なのか、わかりやすく説明していく必要があります。仮想通貨に不慣れな一般のユーザーが直観的に電力を購入し、コミュニティーに参加できるわかりやすいインターフェイスも必須でしょう。

価格が変動するPOWRを担保に、法定通貨に固定されたSparkzを発行する仕組みで、POWRの価格変動に合わせて担保量を調整したりSparkzの発行上限を調整したりする必要なのか、必要であればどのようなメカニズムになるのか詳しい説明が求められます。

POWRやSparkzの法的な解釈が問題となることも考えられます。アプリケーションホストとしてPOWRを購入してサービスを提供したい企業があっても、取引所へのアクセスが物理的にない国、規制のため取引所を利用できない国も存在します。仮想通貨の扱いが短期間に大きく転換した国もあり、安定供給が必須の電力分野で突然のサービス停止は死活問題です。各国での実験を通して、今後P2Pで安定的に電力を供給する方法が確立されることが期待されます。

 

Power Ledgerの今後

Power Ledgerは2018年第四四半期から2019年第三四半期までの1年間の計画をブログで公開しています。

Power Ledger Roadmap: 2018/2019 – Power Ledger – Medium

記事によると、P2P電力取引のためのxGridとμGridの機能拡充に加え、PowerLedgerはアジアにおけるブロックチェーンを利用した電力取引に関心を示していて、タイと日本ではパートナー企業とともに、中国や韓国、フィリピンなどでもコミュニティーとともにプラットフォームの拡大に努める計画です。

P2P電力以外では、xGridとμGridが受け入れられつつあることから、カーボンクレジットを扱うPower Ledgerの製品C6とC6+にも可能性にも期待しているようです。Silicon Valley Powerと開始した、アメリカ・カリフォルニア州で最大規模の電気自動車の充電施設での実験の行方が注目されます。

また、規制当局との対話も続けていくとのこと。Power Ledgerの本拠地のあるオーストラリアでは前向きな議論が進んでいるようです。

 

おわりに

本記事ではオーストリアから世界へP2P電力取引プラットフォームを展開しようとしているPower Ledgerを紹介しました。P2P電力の取り組みとしては、以前本ブログで、アメリカのTrans Active Gridとニューヨークのブルックリン地区での運用事例Brooklyn Microgridを紹介しました。

ブロックチェーンとシェアリングエコノミー – TransActive Grid

電力は「消費地で生産して使うのが効率がよい」という分散型システムと相性のよいおもしろい性質を持っています。また、現在は電力会社から購入するのが一般的ですが、電力については対価を支払って取引する習慣がすでにできあがっていて、きちんと収益を伴うブロックチェーンを活かした事業が生まれる分野として電力分野には期待が持てます。

Power LedgerのP2P電力プラットフォームの世界展開に今後も注目していきたいところです。

 

Aram Mine

Gaiax技術マネージャ。研究開発チーム「さきがけ」リーダー。新たな事業のシーズ探しを牽引。2015年11月『イーサリアム(Ethereum)』 デベロッパーカンファレンス in ロンドンに参加しブロックチェーンの持つ可能性に魅入られる。以降ブロックチェーン分野について集中的に取り組む。

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