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blockchain-lightning-2021

本記事では、本ブログのLightningネットワークの仕組みを解説した記事や、Lightning対応ウォレットをレポートした記事に続き、現在広がりを見せつつあるLightningネットワークについて利用事例を中心に紹介します。

 

Lightningとは

Lightningネットワークは、Bitcoinのセカンドレイヤーネットワークで、高速かつ手数料に負けずに1円以下のマイクロペイメント(小額決済)を可能にします。正確には、手数料を考慮する必要はありますが、1satoshi(0.00000001 BTC、0.04円)から送金できます。さらに、Bitcoin同様、Lightningもトラストレスなネットワークで、送金にあたってネットワークの他の参加者を信頼する必要がありません。

LightningはJoseph Poon氏とThaddeus Dryja氏によって考案され、2015年に仕様が発表されました。この仕様に基づいて、ACINQ、Blockstream、Lightning Labsなどが実装を進めています。

Lightningネットワークの実態は、ペイメントチャネルでつながったノードからなるネットワークで、はじめに受金者から送金者へインボイスと呼ばれる請求情報が送られ、同じパスをたどって受金者まで次々と送金が行われます。

画像: Lightningネットワークの概略

送金はノード間で開かれているペイメントチャネルを使ってオフチェーンで行われ、ペイメントチャネルを開閉するタイミングでBitcoinブロックチェーンにトランザクションが書き込まれます。こうして高速かつ手数料を抑えた送金が可能になるというわけです。

Lightningの仕組みについては、本ブログの以下の記事や、仮想通貨に関する国内老舗メディアのビットコイナー反省会の動画で解説されています。

 

使いやすくなったLightning Wallet

2018年に初めてLightningでの送金を試し、Bitcoinを高速かつ手数料を抑えて送金できることに感動しましたが、ウォレットの機能が一部使えなかったり、接続先のノードを選んで手動でペイメントチャネルを開かないといけなかったりと、まだLightningは誰もが使いやすいものではありませんでした。

仮想通貨が低迷した時期にも、Lightningネットワークと関連技術の開発が進み、Lightningネットワークは利用しやすくなってきています。

たとえば、BitcoinウォレットのBlueWalletでは、ユーザーはペイメントチャネルを開くといった煩雑な操作をすることなく(”zero configuration”)、Lightningネットワークを利用できます。ただし、この場合、BlueWalletのホストするウォレットを使うことになり、利便性とセキュリティーがトレードオフになります。

Lightning Wallet – Bitcoin wallet for iOS and Android | BlueWallet

 

Lightningの利用事例

Lightningの高速かつ小額決済ができるという特徴を活かしたアプリケーションはLAppsと呼ばれます。さまざまなLAppsのリストが公開されていますが、以下のリストは掲載数が多く、LAppsの世界を一望するのに役立ちます。

Lightning App Directory

ここでは初期の限定的な事例から始め、投げ銭、決済、ゲーム、取引所のLightning対応、日本での事例についても取り上げます。

初期の事例

Lightningが認知され、使われ始めた2018年頃のLAppsは、ピクセルあたり1Satoshiで落書きができるSatoshi’s Placeや、サンプルとして作られた一部の物販サービスに限られていました。

Satoshi’s Place

投げ銭

2019年、Lightningを使ったTwitter上の投げ銭サービスTippinが発表されると、TwitterのCEOで熱烈なBitcoin支持者でもあるJack Dorsey氏が同サービスについてツイートしたこともあり、Tippinは一躍注目を集めました。

決済

Lightningネットワークの実装やLightningに対応したウォレットの開発に取り組むACINQは、Lightningを利用した汎用の決済APIを提供しています。Strikeは2021年2月現在WordPressのeコマースプラグインWooCommerceに対応していて、StrikeのウェブページにはPrestashopやShopifyについて「soon」(近日対応)と記載されています。

Strike – Accept Lightning payments

ゲーム

ゲーム分野でもBitcoinとLightningが利用されています。歴史のあるBitcoinゲームSaruTobiは、Bitcoinを獲得できるゲームです。2021年1月にはSaruTobi Saturdayというイベントが開催され、日本のプレーヤーも参加しました。プレーヤーはSaruTobiで獲得したコインをBitcoinに換金し、Lightningネットワーク経由で受け取ります。

世界初を更新し続ける伝説のビットコインゲームSaruTobiの歴史 | kojisan | Spotlight

既存の人気ゲームにBitcoinやLightningを組み込む動きもあります。2021年2月には、ゲームにBitcoinとLightningを組み込むためのソフトウェアやインフラを提供するZEBEDEEが、マルチプレイヤーのシューティングゲームCS:GO(カウンターストライク:グローバルオフェンシブ)でBitcoinで報酬を支払うためのサーバーを近日中に立ち上げるとTwitterで発表しました。ツイートにあるデモ動画では、ゲームのプレー状況によって残高が増減しています。リアルタイムでの支払いかは不明ですが、報酬の支払いにはLightningが利用されるようです。

BitcoinやLightningを使ったゲームに興味がある、ゲームが得意でゲームをプレイしながらBitcoinを獲得したいという人は、Bitcoinゲームのイベント情報を掲載しているMintGoxをチェックしてみるとよいでしょう。

MintGox | Bitcoin Gaming Esports Series

取引所のLightning対応

海外の大手取引所がLightningに対応する動きがあります。Bitfinexに続く形で、Kraken、OKExが2021年にLightningに対応する計画を発表しました。2021年2月現在、Bitcoinの送金手数料が高騰する中でユーザーにうれしい施策といえます。

OKEx to accelerate Bitcoin transactions with Lightning Network

日本発の利用事例

日本でもLightningを利用したサービスがリリースされています。2019年11月にマイクロペイメントをサポートしたコンテンツ配信プラットフォームSpotlightのβ版が発表されました。Spotlightのユーザーはブログのように記事を書き、他のユーザーは気に入った記事にポイントを投げ銭したり、記事を購入したりできます。ポイントはLightningでBitcoinを入金し購入できます。当初、Spotlightで得たポイントは、Bitcoinで引き出すことができましたが、改正資金決済法に触れる可能性があるとして、現在はAmazonギフト券に交換する措置がとられています。

Spotlight

2020年には、トラストレス株式会社がオークションをホストできるプラットフォームPaddleをリリースし、ビットコイナー反省会のシャウトアウトの権利などがオークションにかけられました。

Paddle – Lightning Auctions

 

Lightningを利用したアプリケーションが続々と登場しているという状況ではありませんが、ネットワークやウォレットが安定し、ゆっくりながらも仮想通貨・ブロックチェーン界隈から徐々にLightningの利用が広がりつつあるといえそうです。

 

ノードの運用 – 個人が参加する余地も?

Lightningネットワークの情報を提供する1MLによると、2021年2月7日現在、16,446個のノードが存在しています。ノードの多くは北アメリカとヨーロッパに存在し、国別にノード数を見ると、アメリカ(1,297)、フランス(509)、ドイツ(342)、カナダ(257)、オランダ(138)と続きます。チャネル数のランキングはノード数のランキングと同様ですが、チャネルのキャパシティの合計では、アメリカ(577BTC)、ドイツ(85BTC)、カナダ(42BTC)、アイルランド(30BTC)、フランス(28BTC)と、アイルランドがランクインしています。Bitcoinのネットワークでは中国のマイナーが優勢ですが、Lightningネットワークのノードは北米に偏っているのは興味深い傾向です。

Coindeskは、まだLightningネットワークのノードの少ないアフリカで、現地の事情に合わせたRaspberry Piを使ったLightningノード用のキットを販売する起業家について取り上げました。

One Man’s Mission to Deploy Solar-Powered Bitcoin Nodes Across Africa – CoinDesk

レンタルサーバーを利用すれば安定してノードを運用できますが、上の記事のような仕組みで手元にRaspberry Piを置いてノードを運用するのも選択肢もエンジニア心をくすぐるのではないでしょうか。コストを概算してみると、Raspberry Pi の公式マガジンのベンチマークテストについて書かれた記事によればRaspberry Pi4のピーク時の消費電力は7.6Wで、1kWhあたり27円とすると、電気代は一ヶ月147.74円、年間1797.55円におさまります。CoindeskのLightningノードの作り方を説明した記事によると、Raspberry Pi4を含むキットは269ユーロ (2021年2月7日 時点で約34000円)で販売されています。

RaspiBlitz v1.6.3 – Heatsink Case | FULMO Shop The cheapest and fastest Node ever

Lightningネットワークで送金を中継するルーティングノードを運用すると、小額の手数料を受け取れますが、実際どのくらいの手数料を受け取れるのでしょうか。

Lightningの実装を進めるLightning LabsでLightningのインフラリードを務めるAlex Bosworth氏は、2021年1月のルーティングノードの運用結果についてツイートしました。

1ヶ月で1億円ほどのトランザクションを中継して、約26万円の手数料を得たことになります。これだけのトランザクションを中継するとノードの運用も難しくなったとあり、さらに、相応のBitcoinをペイメントチャネルに入れておく必要があるため、一般的なケースとはいえません。Bosworth氏のツイートに対する返信の中には、過去1ヶ月で6つのトランザクションを中継して6 satsを手に入れたというコメントもありました(1BTCを400万円とすると、1 satoshiは0.04円で、6satsは0.24円になります)。

日本でのノードの運用実績としては、前出のSpotlightのチーフエンジニアのYuya氏が、SpotlightのLightningノードの運用実績を一連の記事で公開しています。2020年に得られた中継手数料は705 satsで、2021年1月には運用が改善され、改善の工夫や結果についてはSpotlightに記事が投稿されています。

Lightningノードを立ち上げたからといってすぐに中継手数料を稼げるほど甘くはなさそうですが、技術に明るい人であればLightningネットワークに貢献しつつ、工夫を凝らして中継手数料を稼いでみるのも楽しみの一つになるかもしれません。

 

おわりに

本記事ではLightningネットワークについて、利用事例の広がりやノード運用の可能性を中心にお伝えしました。

Bitcoinをトラストレスかつ瞬時に手数料を抑えて送金できるLightningはとても魅力的なソリューションです。一般に広がるには時間がかかるかもしれませんが、この数年でLightningは格段に使いやすくなり、Lightningの特徴を活かしたアプリケーションやサービスが出てきています。

また、まだ個人がネットワークの一部として参加する余地が残されているのもおもしろいところです。IT業界に長くいる人の中には、インターネットの黎明期に自宅でウェブサーバーを立ち上げた頃を思い出す人もいるかもしれません。筆者もその1人で、Lightningノードを運用してみたいと考えています。

黎明期のわくわく感を楽しみつつ、今後Lightningの開発が進み、利用機会が増えることに期待しています。

エンジニアの経験と情報学分野での経験を活かして、現在はドイツにてフリーランスで翻訳・技術解説に取り組む。2009年下期IPA未踏プログラム参加。2016年、本メディアでの調査の仕事をきっかけにブロックチェーンや仮想通貨、その先のトークンエコノミーに興味を持つ。

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