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Gnosis Chainのこれまで

Gnosis Chainに触れる前に、Gnosisとはどのような組織なのか知っておくとよいでしょう。GnosisについてはGnosis Safeについての記事に説明があるので、ここでは概要にふれます。GnosisはEthereumの共同創業者でもあるJoseph Lubin氏が立ち上げた2015年操業の老舗ブロックチェーン開発スタジオConsenSysのプロジェクトとして誕生した歴史のあるプロジェクトです。2017年にConsenSysから独立し、2020年に組織のDAO化を発表し、現在はGnosis DAOとして活動しています。

Gnosis Chainは、以前はxDaiとして開発が進められていたEthereumのサイドチェーンです。2021年11月にGnosisの創業者の一人Martin Köppelmann氏によって、xDaiとGnosisのトークンの統合と、xDaiチェーンの共同開発が提案されました。

GIP 16 – Gnosis Chain – xDAI/Gnosis merge – GIPs – Gnosis

この提案は、さまざまなプロジェクトがxDaiの恩恵を受けているものの、長期的な視点では、他のブロックチェーンに移行したり、複数のブロックチェーンでアプリケーションを動かしたりすることを考えていて、それならばGnosisの技術力や資金力を投入して永続的に使えるブロックチェーンを目指してはどうかというものです。

xDaiは、NFTバッジを発行するPOAPや、リアルタイムストラテジーゲームのDark Forest、ユニバーサルベーシックインカムの実現を目指すCirclesなどのプロジェクトが利用し、開発者に支持されてきたものの、リソース不足の状態で、Gnosisの提案は魅力的なものでした。xDaiを利用するプロジェクトもこの提案に好意的だったようです。

一方で、統合にあたって、xDaiでステークしブロック生成に関わるためのトークンSTAKEの保有者からは、GnosisのトークンGNOとの交換比率に不満の声が上がりました。当時の経緯についてはCoinDeskの記事が詳しく伝えています。

xDai Wants a Gnosis Merger to Stay Relevant, but Some Tokenholders Are Crying Foul

当初提案にはGNOとSTAKEの交換比率が記載されていたところ、修正案では市場でのETH建のSTAKE価格に上乗せした価格を保証し、2021年11月にGnosisとxDaiの統合が決まりました。xDaiはGnosis ChainとしてのGnosis DAOに統合されましたが、統合は必ずしも成功裏には終わらず、Gnosisのフォーラムのやりとりを読むと、Gnosis の方針に賛同できずに離れていった開発者やユーザーもいたようです。

xDai team project involvement: past and future – #39 by igorbarinov – Gnosis Chain – Gnosis

 

Gnosis Chainの概要

Gnosis Chainの元となったxDaiは、Ethereumの初期のサイドチェーンの一つです。サイドチェーンとは、レイヤー1ブロックチェーン(Gnosis Chainの場合はEthereum)と資産移動ができるといったつながりを持ちながらも、独自の仕組みで合意形成が行われるブロックチェーンです。Ethereumのサイドチェーンとしては、Polygonが有名です。

レイヤー2ネットワークはレイヤー1ブロックチェーンに都度トランザクションをまとめて書き込むのに対し、サイドチェーンにはこのようなプロセスがないため、サイドチェーンは独自でセキュリティを担保する必要があります。

Gnosis Chainの最大の特徴は、トランザクション手数料としてMakerDAOが発行するステーブルコインのxDaiが使われるところです。xDaiはxDaiブリッジにDaiを預けたことを示す預かり証です。Daiは米ドルにペグされていて、xDaiはDaiと1:1で生成されるため、Gnosis Chainのユーザーは手数料を支払うためにxDaiを保有していても、理論的には米ドル建で価格変動の影響を受けません。
※ MakerDAOやDaiについて詳しくは本ブログの記事「MakerDAO – ステーブルコインDaiを発行する自律分散型組織」を参考にしてください。

Gnosis ChainにはxDaiのほかに、GNOという価格が変動するトークンが存在します。Gnosis Chainを使うだけであればGNOは必要ありません。GNOはGnosis Chainでのステーキングと、Gnosis DAOのガバナンスに使われます。GNOのステーキングの利回りは本記事執筆時点で15.98%ですが、価格変動を考慮する必要があります。2021年11月の最高値600ドル近くから、本記事執筆時点では118ドルほどまで下落しています。ガバナンスについては、70を超える提案がされ、342,000GNOが投票に使われたとされています(GNOは投票する権利を表すもので投票してもなくなりません)。

Gnosis Chainはトランザクションや状態の検証が行われるエグゼキューションレイヤーと、ブロックの処理をするコンセンサスレイヤーの二層構造になっています。xDaiのエグゼキューションレイヤーは承認されたバリデーターによるPoA(Proof of Authority)に基づく独自アルゴリズムで合意形成を行っていましたが、2022年12月にPoSに移行しました。

画像: Gnosis Chainのネットワークの構造
Gonosis Chainのバリデーター向のドキュメントより)

Gnosis Chainのウェブサイトによると、バリデーターは10万以上、ブロックタイムは5秒、複雑なスマートコントラクトを実行しても手数料は0.01ドル以下だといいます。EVMと完全な互換性があり、開発者の視点では分散型アプリケーションの開発や移植がしやすいのも魅力といえます。

続いてどのようなアプリケーションがGnosis Chain上で動いているのか見てみましょう。

 

Gnosis のエコシステム

Gnosis DAOのウェブページでは、Gnosis Chainを利用している主要な5つのプロジェクトが紹介されています。POAPDark ForestCirclesはxDai時代からGnosis Chainを使っている古株のプロジェクトです。

画像: Gnosis Chainの上のアプリケーション(Gnosisウェブサイトより)

Gnosis Chainのエコシステムを紹介するウェブサイトではより多くのアプリケーションやDAOが紹介されています。

画像: Gnosis Chainのエコシステムを紹介するウェブサイト

主要なアプリケーションとしてユビキタス・ベーシック・インカムのCircles、寄付プラットフォームのGivethがGnosis Chainのウェブサイトで取り上げられているのが印象的です。xDaiとの統合で摩擦が少なからずあったようですが、暗号資産黎明期の「公共のために」というスピリットのようなものが残されているところには期待したいです。

ブロックチェーンの現在の主要な用途であるDeFiについても見てみましょう。DeFiプロトコルについては、DefiLlamaで他のブロックチェーンと比較できます。

TVL(スマートコントラクトにロックされた金額の総額)のランキングを見てみると、Gnosis ChainのTVLは約69百万ドル(執筆時点のレートで90億円ほど)で、30位につけています。ランキングでは周辺に有名チェーンも見られますが、Gnosis ChainのTVLは7位のOptimismの10分の1以下です。Gnosis ChainのDeFiプロトコルの数は44で、トップ10のブロックチェーンと比べると少なくはありますが、極端に少ないわけではありません。

画像: ブロックチェーンのDeFiプロトコルのTVLランキング(DefiLlamaより)

Gnosis Chainについて詳しく見てみると、RealTというトークン化された不動産に投資できるサービスがGnosis Chain上のDeFiアプリケーションのTVLランキングの1位に入っています。他のブロックチェーンでも展開している有名DeFiプロトコルに加えて、Gnosis ChainとEthereum互換チェーンに特化したプロトコルも見られます。DeFiプロトコルとは少し異なりますが、10位にはDAOのような組織を作るためのプラットフォームGardens DAOが入っています。

画像: Gnosis ChainのDeFiプロトコルのTVLランキング(DefiLlamaより)

 

Gnosisの今後

Gnosis Chainのドキュメントの中で簡潔なロードマップが公開されています。2022年12月1日に最終更新されたロードマップでは、ブリッジを可能な限りトラストレスにし安全なものにできるよう全力を尽くしているとしています。

Roadmap | Gnosis Chain

本記事執筆時点の2023年2月現在、Ethereumのレイヤー2ネットワークであるArbitrumやOptimismが注目を集め、さらにTVLでもランキングの上位に浮上してきています。Gnosis Chain同様サイドチェーンとしてプロジェクトが始まったPolygonはZKロールアップによるスケーリング技術を開発する企業を買収し、レイヤー2ネットワークの開発を急いでいます。

このような中、Gnosis Chainはサイドチェーンとしてのスタンスを保つのでしょうか。2021年11月のコミュニティコールのスライドでは、今後Ethereumに対して、Polkadotの実験の場であるKusamaのような役割を果たしたいという方針が述べられています。

Circlesをはじめ独自性のある分散型アプリケーションのホームになっている部分もあり、今後Gnosis Chainがどのような立ち位置を築いていくのか注目したいところです。

 

おわりに

本記事では、EthereumのサイドチェーンであるGnosis Chainについて解説しました。xDaiとの統合は必ずしもスムーズには進まなかったようですが、Gnosis DAOはEthereumと緊密に連携することを目指し、良質なアプリケーションの誘致に力を入れているようです。マーケティング面でxDaiは他のレイヤー2チェーンやサイドチェーンに遅れたという指摘もあり、実際xDaiよりも遅くプロジェクトが始まったPolygonと比べてみると、この指摘は正しいのかもしれません。

Gnosis Chainのフォーラムでは、分散型アプリケーションの情報を扱うウェブサイトへのリスティングが議論されていましたが、本記事執筆時点ではDappRadarにGnosis Chainの名前はありません。露出やプロモーション、マーケティングでの押しの弱さはGnosis Chainになってもカルチャーとして残っているのかもしれません。

今後Gnosis DAOのもと、Gnosis Chainは遅れを取り戻し、ユニークなアプリケーションのホームとなっていくのでしょうか。個人的な意見になりますが、筆者はベーシックインカムに興味を持っており、Circlesのようなプロジェクトを推しているGnosisの今後を見守りたいです。

 

エンジニアの経験と情報学分野での経験を活かして、現在はドイツにてフリーランスで翻訳・技術解説に取り組む。2009年下期IPA未踏プログラム参加。2016年、本メディアでの調査の仕事をきっかけにブロックチェーンや仮想通貨、その先のトークンエコノミーに興味を持つ。

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