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フランスに拠点を置き世界各国で保険・金融サービスを提供するAXAは、2017年にEthereumブロックチェーンを利用し、スマートコントラクトで完全に自動化した航空機遅延保険fizzy(フィズィ)を発表しました。本記事ではfizzyについて、どのようにブロックチェーンを使っているのか、スマートコントラクトで保険を扱う意義も合わせて解説します。

 

fizzyとは

fizzyを提供しているAXAは200年以上の歴史を誇る世界的な保険・金融大手企業です。老舗大手のAXAが仮想通貨バブル以前の2017年9月にブロックチェーンを利用した保険fizzyを発表していたといったら驚く人もいるかもしれません。

fizzyは航空機遅延保険と呼ばれるタイプの保険で、保険加入者は自身が搭乗するフライトに対して保険をかけ、2時間以上の遅延やキャンセルがあった場合、金銭的な補償を受けられます。fizzyでは保険契約から支払いまで主な処理をEthereumブロックチェーン上のスマートコントラクトが扱い、保険の加入から支払いまでのプロセスが自動化されています。フライトが2時間以上遅延した場合、着陸後数分で保証について連絡がくるといいます。どんな理由でも2時間以上遅延すれば保険が適用され、保険会社に連絡したり、書面で補償を請求したりする必要がありません。

fizzy, smart insurance. Automatic compensation – YouTube

fizzyのウェブサイトでフライトナンバーと出発日を入力し、居住国を選ぶと、過去の航行データをもとに保険料が計算され、契約の選択肢が示されます。東京からパリまでの直通便で試したところ、一番安い保険が6ユーロ700円ほどで、到着が2時間以上遅れるまたはフライトがキャンセルされると130ユーロの補償を受けられます。130ユーロは15000円強で、ホテルまでタクシーで行く、新たにホテルを予約するといった出費をカバーできます。より補償額の多い保険でも20ユーロ2400円ほどです。保険は高いというイメージがありますが、手頃な金額で保険をかけられ、もしもの場合に妥当な補償が受けられます(為替レートは2019年8月現在の1ユーロ118円で換算)。

ただし、居住国の選択肢がヨーロッパの主要国に限られていることから、現状はヨーロッパ在住者を対象とした保険商品だと考えられます。

画像: 保険契約プロセス(fizzyウェブサイトより)

サービス発表時のテストフェーズではパリ-アメリカ間の直行便のみを対象としていましたが、2019年5月時点でfizzyは全世界のフライトの80%を対象とするまでになりました。AXAが老舗大手ということからも、今後さらに多くのフライトを対象として、ヨーロッパ域外にもサービスが広がることが期待されます。

 

fizzyとブロックチェーンとスマートコントラクト

AXAはfizzyの技術面について詳細をほとんど語っていませんが、フランスのコンサルティング会社Julhiet Sterwenでfizzyの開発に関わったAlexandre CLEMENT氏が自身のブログの記事で2019年5月時点のfizzyの仕組みの概要をわかりやすく説明しています。

fizzy by AXA: Ethereum Smart Contract in details – Alexandre CLEMENT – Medium

ユーザーの保険契約はEthereum上のスマートコントラクトFizzyCryptoが扱います。スマートコントラクトのコードや送られてくるトランザクションはEtherscanで見ることができます。サブルーチンの関数を含めて800行に満たないコンパクトなコードです。

fizzyのウェブサイトで利用者が保険契約を結ぶ、飛行機が着陸して到着時刻が確定するといったイベントをきっかけにEthereum上のスマートコントラクトが実行され、ブロックチェーンにデータが書き込まれます。保険の適用対象かどうか判定するための飛行機の到着時間はFlightstatsという外部サービスをオラクルとしてデータを取得しています。

画像: fizzyの仕組み(Alexandre CLEMENT氏のブログ記事の図に緑色の線・文字を筆者が追記)

保険の契約内容や保険の処理状態などはEthereumのブロックチェーンに書き込まれますが、契約者の個人情報をブロックチェーンに書き込むことはありません。また、金銭の取り扱いは、法定通貨払いの法定通貨補償で、スマートコントラクトでは金銭を扱いません。Ethereumブロックチェーンはあくまで透明性が高く改ざんが不可能なデータベースとして利用されています。

トランザクションに書き込まれるデータやその読み方について前出のAlexandre CLEMENT氏のブログ記事に詳しい記載があります。

 

ブロックチェーンとスマートコントラクトで保険を扱う意義

保険に加入するということは、保険会社との間に契約(コントラクト)を結ぶことです。これまで保険というと、書面かデジタルかというデータの取り扱い方の違いはあっても、どこかで人の手を介し煩雑なものになりがちでした。条件が複雑でニッチになりがちな契約をスマートコントラクトにするとなると、プログラムの作成コストに見合うのか、本当に完全に自動化できるのかといった課題がつきまといますが、航空機遅延保険のように外部オラクルを利用して絶対的な判断ができ、処理がシンプルでかつ相当数の利用が見込める保険はスマートコントラクトの応用例として最適でしょう。

ではなぜ通常のプログラムではいけないのでしょうか。Ethereumブロックチェーンではなく、一般的なウェブサーバーとデータベースの組み合わせでfizzyを実現することもできたはずです。fizzyの発表当時、ブロックチェーンが流行の兆しを見せていたからでしょうか?それだけではないはずです。まず、パブリックブロックチェーン上で実行されるコードは検証しようと思えば誰にでも検証可能です。さらにパブリックブロックチェーンにデータを書き込むことで、保険契約の内容を改ざんすることを不可能にし、誰にでも見える形で保存し、人の手を介さずにスマートコントラクトで機械的に事実に基づいて契約内容がフェアに実行されます。

fizzyはユーザーの利便性や法的な側面を考慮してか、金銭については法定通貨ユーロで取り扱い、補償はユーザーの銀行口座に対して支払われます。仮想通貨が今後どれだけ一般に浸透していくのかにもよりますが、支払いがEthereumベースの法定通貨ペッグのステーブルコインなどで行えるようになれば、保険契約は一層「スマートコントラクト」に近づきます。ユーザーが支払った金額とAXAが補償として支払うかもしれない金額の両方がスマートコントラクトにロックされ、着陸後に遅延があればユーザーが支払ったアドレスに補償が支払われる、遅延がなければAXAに全額が送金されるように処理すれば銀行口座の情報は必要なく、ユーザーは保険料の不払いを心配せず、安心して保険に加入できます。完全にトラストレスで自動的に実行される洗練された保険商品のできあがりです!

 

おわりに

本記事では、保険・金融大手のAXAが提供する航空機遅延保険fizzyを紹介しました。Etherscanのトランザクション数を見ると、fizzyの利用は1日数契約程度で、まだ広く一般に知られているとは言えませんが、契約内容の明確さや手軽さが知られれば、一気に利用が広まる可能性は十分にあります。アメリカの損害保険Lemonadeは人工知能をはじめとする先端ITを駆使して、保険契約を結ぶのに数秒、保険会社による調査不要で補償を受け取るまでに数分という究極の利便性を実現し、ユーザーからの支持はもちろん、ソフトバンクなどから巨額の投資を集めています(Lemonadeはブロックチェーンを使ったサービスではありません)。保険の契約や請求に苦しんだことのある人は、技術を駆使した保険の利便性のありがたみを実感をもってわかることでしょう。

fizzyが提供するようなシンプルな保険は、コードを見ると比較的簡単に実装できることがわかります。今後、fizzyに続き気の利く保険商品がスマートコントラクトで実現されていくことを期待したいです。

Aram Mine

Gaiax技術マネージャ。研究開発チーム「さきがけ」リーダー。新たな事業のシーズ探しを牽引。2015年11月『イーサリアム(Ethereum)』 デベロッパーカンファレンス in ロンドンに参加しブロックチェーンの持つ可能性に魅入られる。以降ブロックチェーン分野について集中的に取り組む。

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