今回はブロックチェーンを利用してダイヤモンドの取引履歴や所有権を記録する「Everledger」(エバーレッジャー)を紹介します。
Everledgerとは
Everledgerは2015年4月に設立されたロンドンに拠点をおく同名のスタートアップEverledgerが開発を進める電子台帳で、ダイヤモンドをはじめ、アートや高級車といった高価な資産の来歴を管理し、銀行、保険業者、市場のリスクを減らすことを目的としています。
Everledger | A Digital Global Ledger
ダイヤモンドは国際市場で宝石として高値で取引される一方、紛争地域で産出されるダイヤモンドは武器購入の資金源となっていることが問題視され、これらはブラッドダイヤモンド(血塗られたダイヤモンド)、コンフリクトダイヤモンド(紛争ダイヤモンド)と呼ばれています。2006年公開のレオナルド・ディカプリオ主演の映画『ブラッド・ダイヤモンド』をきっかけにこの問題を知ったという人もいるかもしれません。ブラッドダイヤモンドを国際市場から排除するための取り組みとして2002年に国連の承認を得て採択されたキンバリープロセス認証制度があります。
Everledgerの創業者レアンヌ・ケンプ氏はキンバリープロセスの効果を認めつつも、ダイヤモンドの来歴は未だに紙ベースで管理され、紛失や改竄、詐欺の可能性があり、保険業者は年間500億ドル(5.5兆円強)のコストを強いられていると指摘しています。
このような状況を改善するべく、Everledgerは世界の主要なダイヤモンド認証機関との関係構築からはじめ、これまでに100万個を超えるダイヤモンドの情報をブロックチェーンに記録しました。
Everledgerとブロックチェーン
ブロックチェーンスタートアップというと、独自の台帳技術を開発するテックスタートアップというイメージがありますが、EverledgerはIBMブロックチェーン・エコシステムの参加企業のひとつで、Hyperledger Fabricを利用しつつ、同時にパブリックなブロックチェーンにも一部のデータを記録するハイブリッド型のシステムを構築しています。
Everledgerはダイヤモンドの取引履歴と会わせて、ダイヤモンドに刻印されたシリアルナンバー、形状、カッティングスタイル、サイズ、カラット数などといったダイヤモンドを識別するための40のメタデータをブロックチェーンに記録しています。
画像:ダイヤモンドの特徴を表す要素(EDGE 2016 – The Power of the Individual (CUTDOWN version)より)
システムの詳細は明らかにされていませんが、合意形成については、Everledgerを美術品に適用する計画について書かれた記事の中で、コンソーシアムを形成しそのメンバーのノードの一定数の署名をもってブロック承認とするとしていて、ダイヤモンドについても同様の方法をとっていると考えられます。
将来の展望
EverledgerはIBMと緊密に開発を進めており、IBMのブログでは、ダイヤモンドの規制や鑑定書をチェックするために、IBMの人工知能として知られるWatson(IBMによると「自然言語処理と機械学習を使用して、大量の非構造化データから洞察を明らかにするテクノロジー・プラットフォーム」)をブロックチェーンに適用する事例が紹介されています。
The power of blockchain + Watson – IBM Blog Research
また、Everledgerはダイヤモンドにとどまらず、美術品、ワイン、時計、高級車といった高価値の資産の取り扱いも視野に入れています。実際、美術品に関しては美術館とコレクターを橋渡しするVastariとのパートナーシップが伝えられ、ワインに関してもEverledgerの取り組みが始まっているようです。
Everledger Plans Blockchain Database to Combat Art Fraud – CoinDesk
Everledgerが今後どのように収益をあげていくのか気になるところですが、上記CoinDeskの記事末尾には蓄積されたデータの販売、データの検索や復旧、サードパーティーの開発者へのプラットフォームのライセンシングにより収益をあげることを期待しているとあります。
古くからあるダイヤモンド業界にブロックチェーンをはじめ新技術を導入し、ダイヤモンドを足がかりにその他の高価値資産の来歴管理も進めるEverledgerの展開に注目したいところです。