分散型予測市場プラットフォームAugurのv2が2020年7月28日に、ICOから5年、Ethereumメインネットでのリリースから2年の時を経てリリースされました。新しいバージョンでは、ステーブルコインDAIを使って予測に参加できるようになり、より多くの人が使いやすいユーザーインターフェイスが採用されます。本記事ではAugurとは、Augurとブロックチェーン、Augurの今後について解説します。
分散型予測市場プラットフォームAugur
まず分散型予測市場プラットフォームAugurで具体的に何ができるのか説明しておきましょう。
Augurは「分散型予測市場」と呼ばれることがありますが、Augurを開発するForecast FoundationはAugurを「no-limit betting platform」(制限のない賭けプラットフォーム)と説明しています。実際その通りで、Augur自体は予測市場ではなく、ユーザーが予測市場を作ることのできるプラットフォームで、参加者は予測市場が対象とするトピックに対して仮想通貨を賭け、予測が当たると配当を受け取ります。
たとえば、Augurでは「アメリカ大統領候補Aは大統領選挙に勝利するか」といったトピックに対して、予測市場が作られ、参加者は結果の「Yes」または「No」を表すトークンを売り買いします。結果を表すトークンの価格は1セントから99セントの範囲で、予測が当たると1トークンあたり1ドル相当の配当が支払われ、予測市場を作った人、結果の検証に参加し予測市場に貢献した人にも配当が支払われます。予測市場で取引される結果としてYes/Noの二択だけでなく、複数の選択肢、数値からの選択も指定できます。
Augur以前にも予測市場は存在しましたが、過去には規制によって閉鎖に追い込まれた予測市場もありました。予測市場の胴元となることや、金銭を賭けて予測市場に参加することが法律違反となる国や地域も少なくありません。また、著名人の暗殺が予測の対象となったこともあり、金銭を目当てに殺人をはじめとする犯罪が発生することも危惧されています。
物議を醸してきた予測市場の分野で他の分散型サービスに先駆けて、誰にも止めらない、制限のない分散型予測市場プラットフォームとしてブロックチェーン上に作られたのがAugurです。
Augurのこれまで – v1からv2へ
Augurの歴史は長く、2014年に設立されたForecast Foundationによって開発が進められています。2015年のICOは当時としては大型で、Augurは5億円を超える資金をBitcoinとEthereumで調達しました。ICOの翌年2016年にはベータ版がリリースされましたが、Augur v1の開発が進められていた時期はまだ仮想通貨やブロックチェーンの黎明期で、研究開発や技術的な課題の解決に多くの時間が費やされ、ICOから3年後の2018年にEthereumのメインネット上でAugur v1がリリースされました。リリースに時間はかかったものの、すでにこの時点でAugurは中央集権的な組織が存在せず、自律分散的にブロックチェーン上で稼働する事実上制限のない分散型予測市場を実現しました。予測対象、予測市場への参加者、金額などに対して制限はありません。また、当時は現在と異なり、完全なトレーディングインターフェイスを提供しようとしていたようです。
Forecast FoundationはAugur v1の開発を経て、分散型予測市場のための技術的な土台を築き、予測や利用者に関する知見を集め、Augur v2ではユーザーエクスペリエンスやユーザーインターフェイスにこだわり、より多くの人が使いやすいサービスを目指すこととなりました。この方針はv2で盛り込まれた機能に表れています。たとえば、Augur v2では予測に参加したい人はETHや、AugurのERC20トークンREPを手に入れる必要はありません。その代わりに1米ドル=1DAIでペグされたステーブルコインDAIを使って予測に参加できます。DAIを採用するメリットは、国や地域によってはDAIをクレジットカードで手軽に購入でき、かつ米ドルにペグされているため法定通貨に慣れている人が直観的に利用できる点にあります。実際にAugur v2の予測市場をのぞいてみると、賭けられている金額は仮想通貨建ではなく米ドル建で表示されています。
画像: Augurのトレーディングアプリ
画像: アメリカ大統領選挙に関する予測市場
また、ユーザーインターフェイスについてはモバイルファーストが掲げられ、コンピューターがなくてもAugurを使えるようにするとしています。2020年7月末時点ではスマホアプリは発表されていませんが、モバイルブラウザからAugur v2を使えます。
画像: Augur v2のモバイルインターフェイス
Augurとブロックチェーン
AugurはEthereumブロックチェーン上で動くスマートコントラクト群から成り立っています。
予測市場を作りたい人は予測対象としたい事象や選択肢、期限を決め、結果を確定する最初のレポーターを指名し(予測市場を作った人自身でも可)、レポーターに配分する金銭の割合を指定し、AugurのERC20トークンREPを預け入れます。予測市場に関する情報はスマートコントラクトを通してEthereumブロックチェーンに書き込まれ、改ざんや変更はできません。予測市場ができたら、参加者はDAIを使って結果を表すトークンの売り買いをします。市場の作成者のREPや賭け金のDAIはスマートコントラクトにエスクローされます。
これまでAugurは注文と決済の両方をEthereumブロックチェーンに書き込んでいましたが、Ethereumブロックチェーン上のP2P取引プロトコル0xを導入することで、注文はオフチェーンで、決済はオンチェーンで行われるようになり、Augur v2では手数料が軽減され、処理が高速になりました。
予測の期限が来たら、予測市場の作成者から指名されたレポーターが結果を報告します。このレポーターが正しい結果を報告していないと考える人は、REPを預け入れてレポーターとなり、異議を申し立てることができます。相手方の二倍の金額が集まると異議が有効になり、議論が繰り返されます。預け入れられたREPは最終的な結果を支持したレポーターに配分されます。Augurは金銭的なインセンティブからゲーム理論に基づいてレポーターは正しい結果を報告するように設計されているといいます。
議論を経て予測対象の結果が確定すると、予測市場の参加者はポジションの清算手続きに入ります。
Augurではすべての手続きはスマートコントラクトと市場参加者によって自律分散的に行われます。中央主権的な胴元の存在を排除したデザインをとても美しいと感じた人もいるのではないでしょうか。
Augurの動作の詳細については、Augurのウェブサイトでホワイトペーパーが、GitHubではソースコードが公開されています。
- Augur: a Decentralized Oracle and Prediction Market Platform (v2.0)
- GitHub – AugurProject/augur: Augur – Prediction Market Protocol and Client
Augurの今後
Augurはv2のリリース後も2020年内は継続してユーザーエクスペリエンスやユーザーインターフェイスの改善を続けていくとしています。具体的には、モバイルファーストのユーザーインターフェイスに加え、予測市場の流動性を高めるためにシステムトレードのためのオープンソースのライブラリが提供され、他の参加者と一緒に予測を楽しめるチャットなどソーシャル機能が導入される計画です。また、Augur v1、v2を通じて基本的なプラットフォームが確立されたことから、今後はユーザーを増やし、プラットフォームの活性化にも力を入れていくといいます。
最新の計画はAugurのブログ記事として公開されています。
The Augur Master Plan (Part 2) | Your Global, No-Limit Betting Platform
おわりに
ユーザーの視点では予測に参加することで金銭がもらえる可能性に注目しがちですが、たとえば新型コロナウィルスの拡散など、進行中の出来事の行方を占う上で予測市場・予測サービスでの予測の動向が役に立つかもしれません。また、予測を経てブロックチェーン上に変更も改ざんもできない形で出来事とそれが起きた日時が記録として残れば、私たち人類は世界で起きた出来事に関する情報をブロックチェーン上に共有資産として手に入れることになります。
分散型予測市場と関連するサービスとして、先日本ブログではFacebookの未来予測サービスForecastを紹介しました。
Facebookが挑戦する未来予測サービスForecast – Blockchain Biz 【Gaiax】
Augurが実現しようとしている分散型予測市場は特に法律や規制の面から難しい分野ではありますが、Augur v2のリリースやFacebookの関連分野への参入で、長く一般には受け入れられてこなかったこの分野が花開くことになるのでしょうか。今後両サービスが受け入れられ、予測サービスとしての地位を確立していくのか注目したいところです。