2019年6月18日にFacebookによりグローバルステブルコイン「Libra」の発表がありました。その後、多くの組織や国が批判的な内容も含めて様々な反応を見せています。各国から注目を集めているLibraを本記事では解説していきます。
目次
価格が安定するステーブルコイン Libra
Libraはスイスに拠点を置く非営利団体のLibra Association によって発行されるグローバルステーブスコインのことを指します。今までのBitocoinなどに代表される暗号資産は価値の変動が激しく主に投機目的として使われてきました。ですが、Libraは価格を安定させる仕組みを採用しており、日常での決済としても利用される可能性が高いと考えられています。
では、どうやってLibraは価値を安定させてるのでしょうか?Libraでは通貨バスケット制を採用し、主要法定通貨の価値と連動させてLibraの価値を安定させようとしています。
「円は14%」仮想通貨リブラの通貨バスケット 割合が明らかに
通貨バスケットとは複数の通貨を1つの通貨と見立てて通貨の価格を決定するもので、Libraの通貨バスケットの割合は50%を米ドル、18%をユーロ、14%を円、11%をポンド、7%をシンガポール・ドルにすると発表しています。ただ、価値が安定しているステーブルコインといっても、価格変動が起こらないということではありません。例えば、Libraの価値の50%を占める米ドルの価格が暴落したらLibraの価値も同じように下がります。ですが、Bitcoinなどの他の暗号資産と比べると価格の変動幅がかなり小さく設定されているのでステーブルコインと呼ばれています。
加えて、バスケットと連動するLibraの価値を安定させるために、安定した流動資産で完全に裏付けようとしています。この裏付け資産はLibra Reserve(準備資産)と呼ばれ、その資産としては主要国の法定通貨とその国債が想定されています。ですが、価値を安定させるためには運用初期から多くのLibra reserveが必要になります。そのため、Libra Reserveの資金の集めるために、Libra発表当初はコンソーシアムメンバーになるために最低限で1000万ドルを出資する必要がありました。ですが、2019年12月に1000万ドル出資の項目がWhite paperから削除されたので、運用初期の資金をどのように集めるかはまだ明確にはなっていません。また、一部報道ではバスケット通貨をやめるという話も上がってきていますが、Libra協会からは正式に発表されていません。
Libraの価値の安定方法に関しては当局の規制を受けならが試行錯誤しているので、今後も引き続き情報を追っていく必要がありそうです。
Libra Reserve
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収益構造改革のためにFacebookはLibraに取り組む
なぜFacebookはLibraに取り組むのでしょうか?FacebookがLibraに取り組む理由として、収益構造を改革するためだと考えられます。現在、Facebookの9割近くの収益は「広告事業」から成り立っていますが、広告の単価は減少傾向にあり広告収入だけでは将来限界がくるのは明らかです。そこで新たに金融領域にも手を伸ばし収益構造を改革しようとしています。
LibraによってFacebookにもたらされるメリットは、「Libra Reserveによる金利収入」と「新たな金融サービス展開による収入」の2つだと考えられます。
まず1つ目の「Libra Reserveによる金利収入」です。Libra Reserveに集まったお金は低リスク資産に投資する予定で、その額はかなり大きい額になることが予測されます。そのため、低い金利でも膨大な利益をあげることができると考えられています。ですが、これも同様にLibra発表当初はLibra Reserveの金利収入は投資家のみ還元されることが予定されていたことが、White paperの変更によってその文言が削除されています。変更後は、Libra Reserveによる金利は「エコシステムの維持とトランザクション手数料を抑える」ために使われると書かれています。この変更によりLibra Reserveによる金利収入はなくなったように思えるのですが、Libraはまだ発展段階ですので、Libraコンソーシアムメンバーとして投資したところには何かしらのメリットをもたらすようにFacebookは動くと思われます。
画像:2020/02/27時点でのコンソーシアムメンバー Libra.orgより
2つ目の「新たな金融サービス展開による収入」ですが、こちらがFacebookの大きな目的であるを考えます。Libraの大きな目的として金融包摂があります。発展途上国などに住んでいて今まで銀行口座を持つことができず金融サービスが受けられなかった人たちに、インターネット上でお金を使えるようにしようとしています。そうすることで、お金を使える人が増え、その分だけ市場規模が大きくなります。その大きくなった市場でFacebook社のサービスに課金してもらうことにより新たな収入源を得ようとしています。また、Facebook社はLibraを扱えるウォレットアプリ「Calibra」を開発しています。Libraに関わる決済の際にCalibraを利用してもらい、そこから手数料をいただくことでも収入を得ることがか考えられます。
画像:CalibraのイメージCalibraサイトより
このように、「新たな金融サービス展開による収入」では、今までお金をインターネット上で扱えなかった人たちにネット上で扱えるお金の手段を与え、大きくなった市場で金融サービスを展開することにより収益構造の改革が行えます。
Libra Blockchainの仕組み
ローンチ後初期のLibra BlockchainはBitcoinやEthereumなどのパブリックブロックチェーンではなく、ネットワーク参加者を限定した「コンソーシアムブロックチェーン」として運用される予定です。コンソーシアムブロックチェーンとして運用するメリットして主に2つあります。
1つ目がトランザクションの処理性能の向上です。コンソーシアムではネットワークの参加者を限定することによって、データの同期を容易にしトランザクションの処理性能をあげることができます。実際にLibraのトランザクションの処理性能は約1000tps(1秒あたり1000トランザクションを処理)と言われており、Bitocoin(約7tps)やEthereum(約15tps)などを大きく上回る性能となっています。
2つ目は「ファイナリティ」があることです。ファイナリティとは元々は金融業界の用語で「決済の確定」を意味し、安定した決済を実現する上で重要な要素になります。ファイナリティに関してもう少し詳しく説明すると、BitcoinやEthereumなどのパブリックチェーンはファイナリティーがなく、「決済の確定」は確率論的に決まっています。例えば、Bitocoinの場合は6個のブロックが承認されると決済が確定したとみなす場合が多いですが、これは6回の承認後に決済が覆る可能性は確率的に相当低く、ほぼおこらないとみなしてるからです。ですが、決済が取り消される確率はどれだけ時間が経ってもゼロになりことはありません。この様に「ファイナリティ」がない状態では商用の決済として受け入れづらいのが現状です。
ですが、LibraではLibraBFT(Libra Byzantine Fault Tolerance)という独自のコンセンサスアルゴリズムを用いてファイナリティを実現しています。LibraBFTでは参加者の半数以上がブロックを承認するとチェーンが更新され、その時点で決済が確定したとみなされます。
State Machine Replication in the Libra Blockchain
ファイナリティー、Byzantine Fault Toleranceに関しては下記の記事で詳しく説明してるのでそちらもご覧ください。
ブロックチェーンのおいて確定を意味する言葉「ファイナリティー」
コンソーシアム型ブロックチェーンで使用できる合意形成アルゴリズム「PBFT」
このようにLibra blockchainはコンソーシアムチェーンとして運用することでスピードと信頼性を担保していますが、将来的にはパブリックチェーンにすることも検討されています。Libra運用初期からパブリックチェーンにしない理由は、運用初期はノード数が少ないので51%問題によりLibraを乗っ取られる可能性が高いからです。したがって、当初はコンソーシアムで運用し十分なノード数が確保できてきたところでパブリックに変えるのが現実的なやり方であると言えます。パブリックチェーンへの移行は5年後のコンソーシアムメンバーが100社程度集まってから行うことを想定していますが、具体的にいつ、どのように行われるのかの具体的な発表はまだありません。
MOVE言語
LibraもEthereumのようにスマートコントラクトの機能を持っています。スマートコントラクトは契約の自動化のことで、契約の条件確認や履行までを自動的に実行するもののことをさします。LibraのスマートコントラクトはLibra独自の開発言語であるMOVEを使って書くことができます。MOVEはRust言語に似た特徴を持っており、早くて堅牢なプログラムを書くことができる言語となっています。このMOVE言語があることによってLibra Blockchainにスマートコントラクトを書くことができ、プログラマブルなお金を生み出せる様になっています。
Move Language
ブロックチェーン上で契約をプログラム化する仕組み「スマートコントラクト」
Libraの発表からこれまで
Libraの発表は各国から大きな注目を浴び、それと同時に批判的な声も多く上がりました。2019年7月には米国下院金融サービス委員会によりLibraに関する公聴会が開かれ、Facebookに対する批判を浴びせられたり、同月のG7財務大臣の会議ではLibraを含むグローバルステーブスコインに対しては最高水準の金融規制を適応する必要があると合意がなされたり、各国はLibraを含めたグローバルステーブルコインに関してはかなり厳しい姿勢を見せています。
ですが、これらの規制とは裏腹にLibra Blockchain自体の開発の方はかなり活発に行われています。Libraの開発者向けにLibra Communityというサイトがあり、Libra Blockchainの開発の状況を発信するのはもちろんのことですが、Libra開発言語であるMoveの使い方の質問をしたり、Libra関係者でない開発者が自主的にテストネット上でのLibraの取引を見れるサイトを作ってシェアしたり、Libraの送金を簡単にできるモジュールを作成したり、など開発者の熱は高くLibraをより良いものにしようと動いています。
また、Libracampと呼ばれるLibra Blockchainでアプリを開発するスタートアップのためのオンラインBootcampも開催されています。そこでは、Libraの簡単な送金が体験できるアプリやEthereumのウォレットアプリMetamaskを模したウォレットアプリLibraMaskなど様々なアプリが開発されています。
Libra Community サイト
Libracamp 参加チーム一覧
さらに、Libra Associationの方でも動きを見せており、2020年1月16日にはTechnical Steering Committee(技術運営委員会)を立ち上げました。セキュリティー、フィンテック、ブロックチェーン関係の専門家から委員会は成り立っており、Libraの開発に指揮監督やLibra開発者コミュニティーの発展のために活動する予定である。このようにFacebookから独立した組織を作ることでLibraを分散的なプロジェクトにしようとしています。
Steering committee now governs Libra technical development
Libraの今後
Libra発表時は2020年のローンチを目指していたのですが、2020年にはローンチできないだろうという声も上がってきています。また、当局からの姿勢も厳しいのでローンチまでの道なりはかなり険しいものになっています。
ですが、Libraが世界に投げかけたインパクトはかなり大きいものとなっています。Libraの発表後に中国が対抗する形でCBDC(中央銀行発行デジタル通貨)の発行の予定があると発表しました。また、米国下院やG7以外にも、G20がグローバルステーブルコインの発行に関する規制を述べたり、欧州理事会と欧州委員会がしばらくステーブスコインの域内使用の禁止に合意したり、現在は批判的ではあるものの多くの場所でLibraの影響を受けて何かしらの反応を見せています。各国はLibraに対して批判的な反応はしてるものの、Libraによってグローバルステーブルコインに対して各国が真剣に向き会い始めたとも捉えられます。各国がステーブルコインに対してどのように判断するのか、今後の対応は注目していきたいです。
FacebookでもLibra発表後から様々な動きを見せています。2019年9月にVR/AR関連のイベントであるOculus Connect 6にて、FacebookはVRソーシャルサービスである「horizon」を発表しました。2020年上旬でベータ版の公開を目指しており、VR空間でゲームをしたりバーチャルな物作りをできたりするサービスとなっています。FacebookはhorizonとLibraの関係性については言及してませんが、horizonのVR空間で使える通貨としてLibraが使われることも予想されます。
画像:horizon 公式サイトより
Libraはまだ発展途中であり、いまだに明確になってない部分が多くあります。Libraが必要であるものなのか、どれだけのインパクトをもたらすものなのか、今後しっかり見極めていきだいです。