ブロックチェーンの黎明期からブロックチェーンベースのライドシェアリングサービスはいくつも提案されてきました。カナダ発のライドシェアリングサービスEvaは、組合型というモデルを採用し、利用者が地域でのサービス運用に深く関わり、Evaにとっても利用者にとってもメリットのあるシステムを提供しています。
Evaとは
Evaはカナダのケベック州モントリオールの非営利組織Eva Foundationが開発するブロックチェーンベースのライドシェアリングサービスで、2017年の第四四半期に開発が始まりました。
これまでにリリースされた他のブロックチェーンベースのライドシェアリングサービス同様、Evaも既存の中央集権型のサービスに疑問を呈し、乗客とドライバーをP2Pの分散型システムつなぎ、仲介者なく双方に公平な料金、データの透明性やプライバシー保護を実現しようとしています。また、後述するEvaの組合モデルと関連しますが、Evaは地域経済にお金を循環させることも目指しています。
※ ブロックチェーンベースのモビリティーサービスについては、ライドシェアだけでなくカーシェアや車載ウォレットなど本ブログでも多くの事例を紹介してきました。詳しくは本ブログの記事「ブロクチェーンとモビリティー」も参照してください。
乗客はAndroidまたはiOS向けのアプリを利用して、現在位置から乗車機会を探します。近くにいるドライバーに通知があり、条件に問題がなければ、乗客はドライバーの到着を待って乗車します。乗車後は自動的にクレジットカードまたは仮想通貨で支払いが行われ、乗客とドライバーがお互いを評価します。
画像: Evaの乗客向けアプリ(App Storeより)
2019年1月、Evaはケベック州運輸省からモントリオール、ケベックシティー、ガティノーでのサービスに許可を得て、3週間の実証実験を行い、同年5月にモントリオールでのサービスを開始しました。サービス開始時の地元紙Montreal Gazetteの記事には、サービス開始時点で6000人以上がEvaのアプリをダウンロードし、すでに100人がドライバーとして働き、追加で400人のドライバーがトレーニングを受けるとという記述があります。現在サービスはケベック州のモントリオール、ケベックシティー、ガティノーとその周辺地域に広がっています。
Evaの組合モデル
Evaが他のブロックチェーンベースのライドシェアリングサービスと異なるのは「cooperative ride-sharing」(組合型のライドシェアリング)を全面に打ち出しているところです。
まず、Evaを支えるふたつの組織、Eva Foundationと地域ごとの組合(cooperative)について押さえておきましょう。Eva Foundationは非営利組織でプログラムの開発やグローバルなサービスの管理を行います。一方、乗客やドライバー、支援者からなる地域ごとの組合がその土地でのサービスの実務を行います。
画像: Evaの組織構成(ホワイトペーパーの 17ページの図をもとに著者作成)
ブロックチェーンベースのサービスというと、データの透明性や公平な料金を実現し、サービスやデータを利用者の手に戻すことが強調されます。しかしながら、ITシステムとしてはブロックチェーンを利用してP2Pの分散型システムとして動作しても、サービスの設計や運用方針は開発元の決定に依存する可能性があります。
Evaは地域での法規制への対応や、意思決定をドライバーや乗客、支援者からなる組合に任せます。組合のメンバーは1人1票を持ち、投票で自身の意思をサービスに反映することができます。組合の運営資金には、支援者が支払うシェアや運賃の一部などが当てられるようです。組合のメンバーは貢献度に応じて運賃の一定割合を配当のように受け取り、支援者はシェアに応じた支払いも受け取ります。利用者が組合メンバーとして主体的にサービスに関わることで、当事者意識の高いメンバーによる質の高いサービスが実現されます。
Evaによると、ライドシェアリングサービスを提供するにあたってもっとも難しいのは、資金でも技術でもなく、地域や国ごとに異なる法規制への対応だといいます。法規制に対応しきれずに撤退を余儀なくされるサービスがある中、地域ごとの組合で法規制にきめ細かく対応するのは理にかなった戦略といえそうです。
このように組合モデルは、Evaの利用者とEva Foundation双方にとってメリットのある仕組みになっています。
Evaとブロックチェーン
Evaは2018年にローンチしたEOSブロックチェーンを利用しています。EOSはDPoS(Delegated Proof of Stake)と呼ばれる合意形成アルゴリズムに基づき、大量のトランザクションを処理できることで知られています。Evaは秒間62,400トランザクションという数字をあげ、一般向けの分散型アプリに相当の量だとしています。
※ EOSについて詳しくは本ブログの記事「分散型アプリケーションのためのインフラEOSIO」を参考にしてください。
Evaのサービスの主要な部分はEOSブロックチェーン上のスマートコントラクトとして実装され、一部クレジットカード決済や返金処理、アカウントの復元など一部の機能がオフチェーンで実装されています。
地域でのサービス開始にあたって、ブロックチェーン上に組合が作られ、その組合のメンバーがスマートコントラクトに運賃、税のモデル、運賃として支払われた額のうち組合に還元する割合といったパラメーターを地域の状況に合わせて設定していきます。地域でサービスが開始し、ドライバーの提案に乗客が同意する、支払いが行われるといったイベントが発生するとスマートコントラクトが実行され、ブロックチェーンにデータが記録され、金銭処理が伴う場合はお金が動きます。
たとえば、乗客が支払いを行うと、運賃はドライバーに85%(割合は組合で設定)、組合に10%(ドライバーのへの支払い同様割合は組合で設定)、Eva Foundationに1%、エコシステムの基金に4%の割合で分配されます。さらに、組合に分配されたお金は組合への貢献度に応じてメンバーに、エコシステムの基金に分配されたお金はEVAトークンのホルダーにEVAの保有割合に応じて分配されます。
画像:乗客の支払いをトリガーにした資金分配の流れ
(ホワイトペーパーの20ページ MACRO ECOSYSTEM MODELより)
ブロックチェーンはEva FoundationのトークンEVAの発行にも利用される予定です。EVAはグローバルのEva Foundationの意思決定に関わり、運賃の一部を配当として受け取るための権利と考えるとよいでしょう。組合ではメンバーが1人1票を持つのとは異なり、Eva FoundationではEVAの保有量に応じて発言力や配当の割合が決まります。当初2018年にICOが予定されていましたが、セキュリティートークンに近いと考えられるEVAについては、国際的法的、税制的な解釈が定まっていないことから、慎重を期してICOは延期されました。2019年11月現在続報はありませんが、サービス自体は運用されているので、今後の進展を待ちたいところです。
Evaの今後
Evaの今後の計画についてはホワイトペーパー v0.03の36ページから37ページにかけて記載があります。ただし、ホワイトペーパー v0.03は2018年に公開されたもので、公開後にICOがキャンセルされ、計画が少なからず変わっている可能性があります。
ホワイトペーパーには、現在サービスを行っているケベック州の主要都市と周辺地域から、国内のトロント、さらにアルジェリア、コソボ、メキシコ、テキサスへと展開する計画が示されています。
機能面では当初MVPとしてリリースしたものに必要や要望に応じて機能が追加されています。
おわりに
トークンの解釈や当局との調整など、開発ではない部分でEvaは足踏みをしているようですが、サービスの許可を得たモントリオールでは、機能を拡充し、キャンペーンを開催するなどしながら着実にサービスを運用しています。
中央集権的な運営者からサービスを与えられるのではなく、利用者自身が組合のメンバーとして地域での意思決定に関わり、貢献度に応じて配当を受けとるEvaの仕組みは、サービスの品質向上を動機づけ、利用者が本当に利用したいシステムの実現につながるでしょう。Evaに続いて同様の組合型のサービス誕生し、地域経済の活性化に寄与することにも期待したいです。
Evaの創業者たちは来るべき分散型社会を生きるであろうまだ20代前半の若者たちです。これまで主流だった中央集権型のシステムや一極集中の経済モデルに対して、自分たちが生きる時代はどうあるべきか独自のビジョンを持っていることでしょう。トークンの解釈や調整など、時間がかかるプロセスがつきものですが、ロングスパンで捉えるとEvaの成長はとても楽しみです。