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世界各地でブロックチェーン技術の活用が進む中、その動きは新興国でも急速に拡大しています。中でも世界的に注目を集めているのが、中東、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイ。本記事ではドバイでのブロックチェーン活用の動きや、関連する規制・制度についてお伝えします。

「ブロックチェーン都市」ドバイ

ドバイは、UAEを構成する7つの首長国の1つで、正式には「ドバイ首長国」といいます。UAE最大の人口を抱え、中東地域の経済の中心地となっています。ドバイというと高層建築物や豪華な娯楽施設などからオイルマネーを連想する方も多いと思いますが、実はドバイ経済のほとんどは貿易、金融、不動産、観光といった非石油部門で成り立っています。

dubai-mapドバイは欧州、アフリカ、中東、中央アジア、南アジアへのアクセスが良好な交通のハブとしても知られています(画像:Google Map)

現在では多くの高層ビルが建ち並ぶドバイですが、以前は漁業や真珠の輸出を産業の要とする小さな漁村でした。その大きな変化は、交易の要所となるためのインフラ投資と自由貿易を推進する制度づくりによって生み出され、現在もオープンなビジネス環境と規制緩和により世界各地から人材(ヒト)、物資(モノ)、資金(カネ)を積極的に誘致する戦略をとっています。その結果、ドバイの人口は過去20年間で3倍以上に増加し(2022年時点で約355万人)、なんと現在の人口の約92%は外国人が占めています(データ参照元:ドバイ統計センター)。

変化の大きい時代でも競争力を確保するために、ドバイはデジタル技術の活用にも積極的です。2016年にドバイ政府は「ドバイブロックチェーン戦略」を発表し、2020年までにドバイをブロックチェーンで完全に強化された世界初の都市にすることを目標に掲げました。また同年には、官民で構成されるグローバルブロックチェーン評議会(Global Blockchain Council)を設置。2018年にUAE全体のブロックチェーン技術活用を加速するための戦略(Emirates Blockchain Strategy 2021)を発表し、2022年には暗号資産を規制する独立機関を設立するなど、積極的にブロックチェーンビジネスに適した環境作りを進めています。

このような継続的な取り組みにより、ドバイはweb3の新たな世界的なハブとして注目を集めるようになりました。英国のコンサルティング会社であるHenley & Partnersの「Crypto Adoption Index 2023」では仮想通貨の採用が最も進んでいる国としてシンガポール、スイスに次いで3位にUAEがランクインしています。また、CoinDeskの「Crypto Hubs 2023」では世界的な仮想通貨ハブとして、ツーク、シンガポール、ロンドン、ソウルに次いでドバイが5位にランクインしています。

 

ドバイのブロックチェーン技術を活用した取り組み

続いて、ドバイではブロックチェーン技術を使ってどのような取り組みが行われているのか具体的に見てみましょう。

 

分散型IDソリューション:「UAE PASS」アプリ

「UAE PASS」は、スマホ認証で自分自身を証明できるデジタル ID ソリューションです。アプリをダウンロードしてアカウントを作成すると、自分のデジタル ID を取得できます。なお、アプリの使用にはUAEの国民や居住者のIDカードであるエミレーツIDが必要になります。

UAE PASSは、デジタル変革の実現と紙ベースの手続きの削減という政府目標に沿ったもので、高レベルのセキュリティを確保しながら国内の各種サービスへのアクセスや電子署名による取引を可能にしています。そのため、サービス毎に新たなIDやパスワードを設定する必要がなく、直接窓口に行かなくてもスマホ1つで手続きが完了します。UAE PASSの導入は行政サービスだけではなく、電気通信事業者や銀行など民間のサービスにも広がっていて、2023年8月の現地報道によるとUAE PASSにより130 以上の組織(UAE連邦政府、地方政府、民間企業)が提供する6,000以上のサービスへのアクセスが可能となっています。

 

UAE-Pass出典:DIGTAL DUBAI UAE PASS

The UAE Pass app (UAEパスに関するUAE政府の説明)

 

車両のライフサイクルをブロックチェーンで管理:Dubai Vehicle Chain

ドバイ道路交通局(RTA)は、ブロックチェーン技術を用いた車両の情報管理システム、「ドバイビークルチェーン」の整備を目指しています。これは、車両の生産から破棄までのライフサイクルにかかる全ての情報を管理するというもので、2016年の「ドバイブロックチェーン戦略」の策定に貢献したドバイ未来財団が進めるイニシアティブ「ドバイ10X」の1つとなっています。車両の生産、所有、メンテナンス、事故などの情報を集約し、改ざん不能な形で管理・公開することで、中古車の購入や、所有する車両の維持管理などに活用されることが期待されています。(なお、当初は2020年に開始することが予定されていましたが、2023年9月時点ではまだ開始されていません。)

Blockchain in the UAE government(UAEでのブロックチェーンを利用した取り組み紹介)
ドバイ ブロックチェーンで車両追跡(コインテレグラフによる関連記事)
ブロクチェーンとモビリティー (モビリティー分野でのブロックチェーン活用については、こちらの記事もご参照ください)

 

世界のweb3企業を呼び込む税制と法整備

VARA

暗号資産規制局 (VARA) 

前述のとおり、世界各地から人材、物資、資金を積極的に呼び込んでいるドバイですが、その吸引力となっているのが外資を優遇する税制です。2023年6月に法人税が導入されましたが、税率は9%と他国に比べて低く設定されています。(なお、37万5,000ディルハム(約1,500万円)を超える利益を計上する企業が課税対象で、UAE国内(メインランド)との取引がないフリーゾーンにある企業は原則課税対象外となっています。詳しくは、こちらをご参照ください。)また、ドバイでは、保有する仮想通貨に対して、また暗号資産の運用益に対しての課税が現時点ではありません。米国など世界各地で暗号資産の規制が強化される中、大手仮想通貨取引所などがドバイに拠点を移動する動きが広がっています。

ドバイに関連事業者が集まる中、暗号資産に関するルールを明確化しようとする取り組みも進んでいます。2022年には暗号資産に関する法律が制定され、暗号資産規制局 (VARA) が設立されました。VARAは、暗号資産を規制する世界初の独立した機関となり、ドバイにおける暗号資産サービス提供事業者(VASP)のライセンス発行、コンプライアンス監督、消費者保護などを行っています。暗号資産を取り扱う各種事業体は、7分野(アドバイザリー、仲介、保管、交換、貸借り、支払/送金、資産管理/投資)に分類され、ドバイでの活動実績に応じて所定の手続きを経てVARAからVASPライセンスを取得する必要があります(手続きの詳細はVARAウェブサイトをご参照ください)。これまでに大手仮想通貨取引所のバイナンス(Binance)が運用MVP(Operational Minimum Viable Product)ライセンスを取得した他、Hex Trust(運用MVP)、GC Exchange(MVP申請中)、Bit Oasis Technologies(停止中)、CRO DAX Middle East(クリプトドットコム)(MVP申請中)、OKX Middle East Fintech(MVP申請中)、Bybit Fintech(MVP申請中)、Laser Digital Middle East(VASPライセンス認可)、Komainu MEA(VASPライセンス認可)、TOKO(VASPライセンス認可)などが手続きを行っています。最新の情報はVARAウェブサイトで確認することが出来ます。

 

ドバイの今後

ドバイは過去数十年にわたり、イノベーションを積極的に取り入れることで中東のビジネスと金融サービスの中心地として成長してきました。この動きは、デジタル分野でさらに加速していく見通しです。2022年、ドバイ政府は「ドバイメタバース戦略」を発表し、世界トップ10のメタバース経済圏の1つとなり、そしてメタバース・コミュニティのグローバル・ハブを作る意向を表明しました。この戦略によると、ドバイは2030年までにブロックチェーンおよびメタバース分野で1,000社の企業誘致と4万人の雇用創出を目指すとしています。

ただし、ドバイがweb3の世界的なハブとして成長していく上で課題も多くあります。ドバイに流入する外国人の数が増加を続ける中、不動産価格が高騰し、特に初期の資金調達段階にあるスタートアップにとってはドバイに新たに拠点を構えるのは高価になってきています。また、ウクライナ情勢を受けて、ロシア富裕層が他の国・地域から資金を引き揚げ、仮想通貨を使ってドバイで不動産を購入しているという報道もあり、ドバイのオープンな制度が制裁回避に利用されているのではないかという懸念も生まれています。実際に、金融の国際基準を作る国際組織である金融活動作業部会(FATF)は、2022年3月にUAEを「グレーリスト」(監視強化の対象となる国々のリスト)に追加しています。これを受けて、UAEはマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策(AML/CFT)を強化していて、2023年6月には仮想通貨に対するマネーロンダリング規制が施行されています。

今後、ドバイが様々な課題に対応しながら、web3分野でどのように成長を遂げていくのかに注目が集まります。Blockchain Bizでは、今後定期的にドバイ発の現地レポートをお届けしていく予定です。

株式会社ガイアックスDAOコンサルティング事業部リサーチャー
過去10年以上国際開発協力に従事し、国内外の社会課題の解決に関心を持っている。web3時代の新たな国際協力や関係人口創出の形としてDAOにポテンシャルを感じ、ガイアックスに参画。ドバイ在住。

ドバイブロックチェーン都市

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