Blockchain Power

2019年は固定価格買取制度の開始から10年、電力小売完全自由化から3年が経ち、電力分野では大きな節目の年となりそうです。電力分野に変革をもたらす要素技術のひとつとして今注目を集めているのがブロックチェーンです。本記事では日本の電力分野を中心にでブロックチェーンが電力分野で検討される背景とブロックチェーン活用の取り組みを説明します。

 

日本の電力の現状、ブロックチェーン検討の背景

はじめに日本ではどのように発電所から各所に電気が届くのか見ておきましょう。経済産業省資源エネルギー庁が電力小売全面自由化に伴い、電力供給の仕組みを説明した際の図を引用します。何気なく日々電気を使っているとあまり意識することはありませんが、発電所で作られた電力は送電線にのり、各種変電所を経由して消費者のもとに届きます。現状、日本では全国各地に存在するLNG火力、石炭火力発電所が発電の大部分を担っています。

画像: 電力供給の仕組み(資源エネルギー庁のウェブページより)

日本の電力分野での大きな制度変更として、2009年から始まった固定価格買取制度と、2016年の電力小売完全自由化があり、電力分野でのブロックチェーン活用と切っても切り離せません。

固定価格買取制度は、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスにより発電された再生可能エネルギーを電力会社が買い取ることを国が保証する制度です。ただ、設備を整えた上で国から認定を受け、電気事業者と売電契約を結ぶなど売電までのハードルは決して低くはなく、年々下落する売電価格にも懸念の声が上がっています。また、2019年は開始時から固定価格買取制度を利用している発電事業者に対する買取義務期間10年が終了する年で、今後の売電価格への不安から「2019年問題」とも呼ばれています。それでも固定価格買取制度で個人が発電により収益をあげたり、余剰電力を売ったりする可能性が開けたことは大きな変化です。

2016年に始まった電力小売全面自由化では、これまで東京の家庭であれば東京電力を利用するといったように地域ごとに管轄の電力会社を利用していたところ、家庭や商店などの低圧区分でも電力会社を選べるようになりました。特別高圧区分、高圧区分に続いて低圧区分でも小売が自由化され、全面的な自由化となりました。資源エネルギー庁の資料「電力・ガス小売全面自由化の進捗状況について」によると、低圧区分での新電力のシェアは順調に伸び、2018年9月時点では特に東京、関西、北海道で堅調で10%を超えています。低圧区分では2018年9月までに約795万件が大手電力から新電力に切り替えたことからも、新電力は無視できない存在といえるでしょう。

どの企業から電力を購入するのか選択肢が増え、消費者が主体的に電力会社を選び「再生可能エネルギーを支持したい」といった意思表示をできるにようになりました。また、最初の切り替えで旧式のメーターをスマートメーターに取り替える必要があることは、今後電力分野でデジタル化、料金やプランの多様化が進む追い風となるでしょう。

画像: スマートメーター(資源エネルギー庁のウェブページより)

このような背景のもと、分散化しIT化する電力とブロックチェーンの組み合わせが注目され、ブロックチェーンを利用したP2P電力、小さな電力源をまとめ仮想的に発電所のように機能させるVPP(Virtual Power Plant)といった仕組みが提案されるようになってきました。実際に実証実験を経て運用にこぎつけているプロジェクトもあります。続いてこのふたつのキーワード「P2P電力」と「VPP」について説明します。

 

P2P電力とVPP

P2P電力というと、新しい概念のようにも聞こえますが、古くはスマートグリッドやマイクログリッドといった仕組みにP2P電力の思想を垣間見ることができます。日本で暮らしていると停電は稀ですが、東京電力が公開している「停電時間の国際比較」によるとアメリカのカリフォルニア州では2016年の1年間で106.6分停電したとあります。先進国アメリカの停電は以前より大きな課題となっており、電力の安定供給を目指したコンピュータ制御の電力網、スマートグリッド構想につながりました。近年では、ブロックチェーンを利用したP2P電力にも期待が寄せられています。

電力には電子という実体はあるもののそれに色をつけて送電するわけでないことから、事実上実体がなく、仮想化やトークン化をしやすい対象と捉えることができます。このため発電地と消費地が離れていても、東京で九州の電力会社を利用するといったように、遠くで発電した電力を使ったと仮想的に扱えます。グリーン電力の分野では古くからある考え方で、P2Pは電力と相性のよいものです。

P2P電力の事例として、2016年に公開されたアメリカ発で初のP2P電力取引プラットフォームTransActive Gridと、 ニューヨークのブルックリン区での実験的な運用事例Brooklyn Microgridについては以前本ブログで紹介しました。この取引プラットフォームにはEthereumの共同創業者でもあるJoseph Lubin氏が率いるConsenSysも関わっています。

ブロックチェーンとシェアリングエコノミー – TransActive Grid – Blockchain Biz【Gaiax】

P2P電力はアメリカだけでなく、環境意識と技術力の高い欧米を中心にオセアニアやアジアでも広がりをみせています。オーストラリアやニュージーランドをはじめ、アメリカやアジアでも実証実験や運用を行っているオーストラリア発のP2P電力取引プラットフォームPower Ledgerがその一例です。

オーストラリアからP2P電力に挑戦するPower Ledger – Blockchain Biz【Gaiax】

P2P電力と合わせて注目しておきたい仕組みとしてVPP(Virtual Power Plant)があります。電源が分散化する中で、家庭の屋根の上のソーラーパネルなど小さな発電設備が増えています。これらから供給される電力をまとめ、需給バランスや送電網への負荷を調整し、仮想的な発電所のように機能するのがVPPです。前出のPower LedgerはVPPに関する製品VPP 2.0も提供しています。

これまでの電力大手から消費者が電力を買うという中央集権的な構造はシンプルではあるものの脆弱性を併せ持っています。規制緩和が進み、消費者が主体的に電力を選び、売電もできる分散化の流れの中で、複雑化する電力需給をやりくりする仕組みとしてP2P電力やVPPがあり、それを支える技術としてブロックチェーンが注目されています。透明性が高く、データの改ざんが不可能で、仮想通貨を利用した少額かつリアルタイムに近い取引二者間の直接決済にも期待できるからです。

2017年末のバブルを経て仮想通貨が低迷した2018年には日本でも着実にブロックチェーンを利用した電力システムの実験や運用が進められていきました。続いて日本におけるブロックチェーンと電力の取り組みについてみてみましょう。

 

日本でのブロックチェーン x 電力の取り組み

日本では2018年を境に電力大手を中心にブロックチェーンを活用する取り組みが始まっています。

関西電力がオーストラリアのPower LedgerのμGridを試験利用していることはPower Ledgerについての記事で説明しましたが、同社は東京大学、日本ユニシス、三菱UFJ銀行と太陽光発電の余剰電力の直接取引のためのシステムの実証実験を開始したことも発表しています。

電力売買価格の決定を含むブロックチェーン技術を活用した電力直接取引の実証研究の開始について|2018|プレスリリース|企業情報|関西電力

東京電力は、2017年7月の時点ですでにドイツの電力大手Innogyが設立したConjoule社に出資し、ドイツで得られた知見を日本国内での事業にも活かすことを発表していました。ドイツの大手電力会社はスタートアップとの協業を進めていますが、中でもInnogyのInnovation Hubは電気自動車や車載ウォレットに関するプロジェクトにも参画するなど積極的に新技術の開拓に取り組んでいます。東京電力はほかにも2018年1月にブロックチェーンを利用したP2P電力プラットフォームなどを構築しているイギリスのスタートアップElectron社への出資を発表しています。

ドイツ大手電力innogy社と共同での電力直接取引プラットフォーム事業の立ち上げについて~先端ITを活用し、ドイツで電力取引事業を展開~|プレスリリース|東京電力ホールディングス株式会社

英国ベンチャー企業Electron社への出資について|お知らせ|東京電力ホールディングス株式会社

また、東京電力のグループ会社のTRENDEは、ソーシャルレンディングのmaneoとブロックチェーン企業のOrbを創業し、フィンテックやブロックチェーンに通じた妹尾賢俊氏が仕掛けたものです。TRENDEは電力小売「あしたでんき」と初期費用ゼロで太陽光パネルを設置できる「ほっとでんき」をすでにサービスとして提供していて、今後P2P電力へと事業を拡大する計画です。

電力小売ベンチャー企業「TRENDE株式会社」の立ち上げについて~ご家庭向けの新しい電力小売サービス「あしたでんき」の営業を開始~|プレスリリース|東京電力ホールディングス株式会社

TRENDE株式会社|エネルギーで未来を変える

中部電力は、2018年3月にBitcoinブロックチェーンとLightning Networkを活用した電気自動車充電の実証実験を発表したほか、「これからデンキ」として、2019年、AI、IoT、ブロックチェーンを活用した電力取引の仕組みを検討するとしています。

中部電力|ブロックチェーンを使った電気自動車等の充電に係る新サービスの実証実験の実施について – プレスリリース(2018年)

これからデンキ

九州電力は東大発のエネルギーベンチャーであるデジタルグリッドに投資し、2019年10月から同社はブロックチェーンベースの電力取引プラットフォームの運用を開始する予定です。

九州電力 エネルギー関連のスタートアップ企業である「デジタルグリッド株式会社」に出資しました -将来の新たな事業やサービスの創出に向け技術的知見を獲得-

九州地区では、新電力の熊本電力が設立した熊本マイニング(旧OZマイニング)にも注目しておきたいところです。背景には九州地区特有の事情があります。九州地区では、2018年10月に九州電力が太陽光発電の電力を受け入れきれないとし出力抑制を実施しました。熊本電力と熊本マイニングの取り組みは、余剰電力を捨てるのではなくマイニングに利用することで、電力を暗号資産に変換するだけでなく、ブロックチェーンにハッシュパワーを提供するという形で貢献している点から大変意義深いものです。

熊本電力が仮想通貨採掘事業でマイニングファームを本格稼働!8/1から第1期を募集、2020年3月までに売上9,000万円を目指す|熊本電力株式会社のプレスリリース

このように現在日本では、電力大手が中心になって、その資本力を武器にスタートアップや大学と組んで、ブロックチェーンベースの電力ネットワークを検証している段階にあるといってよいでしょう。

 

おわりに

本記事ではブロックチェーンと電力と題して、電力分野でブロックチェーンの利用が検討される背景と、次世代電力の鍵となるP2P電力とVPPについて説明し、主に国内での取り組みを紹介しました。

2019年4月8付で経団連は国のエネルギー対策に対して提言をしました。提言の中では、再生可能エネルギーの活用とそれに適した電力ネットワークについても言及しています。

日本を支える電力システムを再構築する ― Society 5.0 実現に向けた電力政策 ― 一般社団法人 日本経済団体連合会

固定価格買取制度の開始から10年、規制緩和が進み、新電力の利用や個人による発電や売電も浸透しつつあります。今後は、分散化する小規模な電源からの電力を無駄なく活用できる電力網をはじめとするインフラ整備と、ブロックチェーンベースのものを含むソフトウェアプラットフォームの普及が進むフェーズとなるでしょう。

海外の事例を持ち込んで、実験するのが現在の日本のトレンドです。今後実験から実運用に入るプロジェクトが出てきて、ブロックチェーンが電力分野に浸透していくのか注目しておきたいところです。

Aram Mine

Gaiax技術マネージャ。研究開発チーム「さきがけ」リーダー。新たな事業のシーズ探しを牽引。2015年11月『イーサリアム(Ethereum)』 デベロッパーカンファレンス in ロンドンに参加しブロックチェーンの持つ可能性に魅入られる。以降ブロックチェーン分野について集中的に取り組む。

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