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BAYCのNFTコレクションは2021年4月に発行され、当初0.08ETHだったNFTは高額で取引され、著名人の購入もあり注目を集めています。さらに2022年3月にはApeCoin(APE)が発行され、BAYC発行元のYuga Labsのメタバースの土地のセール前後でApeCoinの価格は急騰・急落しました。本記事ではBAYCのこれまでを振り返りながら、なぜBAYCが注目を集めるのか見ていきましょう。

 

BAYCとは

BAYCはBored Ape Yacht Club(ボアード・エイプ・ヨット・クラブ)の略称で、2021年8月創業のフロリダ州マイアミに拠点を置くYuga Labsが発行する猿をモチーフにしたNFTコレクションです。2021年4月、パーツを自動的に組み合わせて生成されたジェネラティブと呼ばれるタイプのNFTがEthereum上で10000点限定で発行されました。

Welcome to Yuga Labs, Home of BAYC, MAYC, Otherside …

「どんな猿がいるのか見てみたい!」という人はBAYCのウェブサイトのギャラリーで#0から順番に、またはフィルターをかけて猿を見られます。

画像: NFTギャラリー(BAYCウェブサイトより)

猿のNFTといえば、2021年には8月にSolana上でDegenerate Ape Academyが発行され、そのうちの1点が1億円を超える価格(5980SOL)で取引されて注目を集めました。

BAYCも高額での取引で注目を集めています。当初は0.08ETH(発行時のレートで176ドル)だったNFTは、2021年老舗オークションハウスのサザビーズでは107点がまとめてオークションにかけられ約24.4百万ドル(当時の価格で約27億円)で落札されました。オークション開催時点のロイターの記事によるとBAYCのNFTの平均価格は12万ドルに迫ろうとしていました。NFTに関するデータや分析を提供するNonFungibleのBAYCに関するページによると、最も高額で取引されたBAYCのNFTは3百万ドル(本記事執筆時2022年5月のレートで約3.9億円)です。

画像: 高額で取引されたBAYCのNFT(NonFungibleのウェブサイトより)

BAYCを発行したYuga Labsは、Andreessen Horowitz をリード投資家としてThe Sandbox、Adidas、Samsung Electronics、Coinbaseなど36の投資家から4億5000万ドルという巨額の資金を調達しました。2022年3月にはLarvaLabsからNFTの先駆けとなったCryptoPunksと、Meebitsの知的財産権を取得しました。

Yuga Labsのウェブサイトには「Shaping web 3 through storytelling, experiences, and community.」とあります。BAYCやApeCoinの発行、独自のメタバースOthersideでYuga Labsは何を構想しているのでしょうか。BAYCを中心に「発行して終わり」を超えたNFTの次のステップを模索する様子を見てみましょう。

 

コミュニティーと遊びを提供するBAYC

クローズドなコミュニティ

BAYCのNFTを手に入れた人は、猿の画像をプロフィールに使えるだけでなく、クラブのメンバーになり、クローズドなDiscordのチャットに参加できます。BAYCのNFTは著名人の購入でも知られています。仮想通貨メディアDecryptが公開したBAYCのNFTを購入した著名人についての記事には、マドンナ、グウィネス・パルトロー、パリス・ヒルトンなど日本でも知られているセレブリティの名前も挙がっています。

The Biggest Celebrity NFT Owners in the Bored Ape Yacht Club – Decrypt

NFT保有者の中には著名人と同じクローズドなコミュニティに所属できるなら大金もいとわないという人もいるのかもしれません。

派生NFTコレクション

BAYCから派生する形で「Mutant Ape Yacht Club」(MAYC)、「Bored Ape Kennel Club」(BAKC)という2つのNFTコレクションが誕生しました。BAYCのNFT所有者にMutant Serumと呼ばれる突然変異を起こすアイテムがエアドロップされ、所有する猿のNFTをミュータントにすることができました。また新たに10000点のMAYCのNFTもオークションにかけられました。

画像: OpenSea上で取引されるMAYCのNFT

BAKCは2021年に注目を集めた芝犬のような犬のNFTコレクションで、Bored Apeのペットとして発表されました。BAYCのNFT所有者はEthereumのガス代を支払って期間限定のBAKCのNFTを手に入れることができました。

画像: BACK(BAYCのウェブサイトより)

ApeCoin

ApeCoinはYuga Labsではなく、The APE Foundationが発行するERC-20トークンです。ApeCoin DAOのガバナンストークンとして使えるほか、ユーティリティトークンとしての利用も想定されています。

ApeCoin

The ApeCoin DAOにはRedditの共同創業者のAlexis Ohanian氏、暗号通貨デリバティブ取引所FTXのベンチャー・ゲーム部門のトップのAmy Wu氏、ブロックチェーンゲームにも力を入れているモバイルゲーム会社Animoca Brandsの共同創業者のYat Siu氏などがボードメンバーとして参加しています。

ApeCoinの初期分配をみてみると、Yuga LabsとBAYCのファウンダーに総発行量の23%が、BAYCとMAYCの所有者に15%が割り当てられていて、The APE Foundation とYuga Labsはまったく無関係とはいえなさそうです。

画像: ApeCoinの配分割合(ApeCoinウェブサイトより)

Tech Crunchの記事ではSEC(米証券取引委員会)の取り締まりを避けるために、Yuga Labsは同社とApeCoinを注意深く切り離しているとしています。

Bored ApesのNFTプロジェクトに公式の「ApeCoin」トークンができた | TechCrunch Japan

ApeCoinは2022年3月に発行され、2022年5月1日に開催されたYuga LabsによるメタバースOthersideの土地がApeCoinで販売されるのを前にApeCoinは大きく価格を上げ、終了後は価格を下げました。

画像: ApeCoinの価格推移(CoinMarketCapより)

Otherside

OthersideはYuga Labsが開発中のゲーム要素が盛り込まれたメタバースで、現在はメタバース内の土地のセールが完了した段階です。土地はApeCoinで販売されましたが、現在公開されている情報ではBAYCと直接の関係はないようです。

Enter the Otherside

画像: Othersideの土地の一区画(Othersideウェブサイトより)

Othersideの土地のセールは混乱から始まり混乱の内に終了しました。セールのおよそ1週間前にBAYCのInstagramとDiscordがハックされ、数億円相当のNFTが盗まれました。さらに土地のセール方式がオークションから固定価格での販売に変更されたほか、Ethereumネットワークに大きな負荷がかかりました。セール参加者の中には土地そのものよりも多くのガス代を支払うことになったり、土地の購入に失敗してガス代だけを支払うことになったりした人もいたようです。

Yuga Labs apologises after sale of virtual land overwhelms Ethereum | Non-fungible tokens (NFTs) | The Guardian

 

BAYCが注目される理由

BAYCは2020年後半から2021年初頭にかけての暗号通貨ブームで豊かになった暗号通貨ユーザーをターゲットにクローズドなコミュニティーを提供しました。これに加えて、定期的に関連NFTがリリースされ、セールなどBAYC所有者やその周辺もまきこんでエンターテインメントを提供してきたところも人気の理由といえそうです。

BAYCについては派生NFTコレクションが発表され、関連するトークンとしてThe APE Foundation がApeCoinを発行し、ApeCoinでのOthersideの土地販売が終了し、一時的に話題が出つくした感がありましたが、2022年5月4日にはElon Musk氏がTwitterのプロフィール写真をBAYCのコラージュに変えたことで注目が集まり、ApeCoinの価格が瞬間的に暴騰し、そのあとで掌を返すようなツイートによって価格が下がるという出来事がありました。

画像: Elon Musk氏のTwitterのプロフィール画像がBAYCのコラージュに

 

おわりに

本記事では猿のNFTがいわば会員証として機能するBAYCについて見てきました。BAYCと同様にNFTが会員証のように機能するプロジェクトとして、本ブログではNounsDAOを紹介しました。やんちゃでやや中央集権的なBAYCと、Web3.0指向のNounsDAOはある意味対照的なNFTを活用したコミュニティーといえるかもしれません。

BAYCのNFTもNounsDAOのNFTも高額で、一般の暗号通貨・ブロックチェーンファンには手の出るものではありません。筆者自身BAYCがなぜここまで人々を魅了して資金を投じさせるのか、調査と執筆を終えても未だに腑に落ちない部分があるのは正直なところです。

今はNFTコミュニティーは暗号通貨で懐をあたためた人たちの遊びにすぎないかもしれませんが、今後BAYCやNounsDAOに続くNFTコミュニティーが出現し、個人がそれぞれの好みに応じてNFTコミュニティーに参加する未来を垣間見せてくれることには大きく期待しています。

Yuga Labsは2022年3月に興味深い動画をTwitterに投稿しています。この動画にはBAYCやOtherside、CryptoPunksなどYuga Labsが扱うNFTのキャラクターたちが登場します。将来的なコレクション横断の世界観を暗示しているのかもしれません。

画像: Yuga LabsがTwitterに投稿した動画の一場面

今後BAYCやその他のNFTコレクションを起点にYuga Labsがより一層楽しめるNFTの世界をどのように開拓していくのか注目したいところです。

エンジニアの経験と情報学分野での経験を活かして、現在はドイツにてフリーランスで翻訳・技術解説に取り組む。2009年下期IPA未踏プログラム参加。2016年、本メディアでの調査の仕事をきっかけにブロックチェーンや仮想通貨、その先のトークンエコノミーに興味を持つ。

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