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Argentとは

Argentとは、イギリスのロンドンに拠点を置く2017年創業の企業Argentが開発するモバイルウォレットです。暗号通貨の世界でも時間が流れ、2017年創業のArgentはバブルと冬の時代を生き抜いてきた比較的歴史のある企業といえるでしょう。

Argent – The best Ethereum wallet for DeFi and NFTs.

EthereumやERC20トークン、Ethereumと互換性のあるネットワークに対応したウォレットというとMetamaskがスタンダードですが、Argentのような新しいタイプのウォレットも出てきています。後述しますがArgentはスマートコントラクトウォレットと呼ばれるタイプのウォレットです。

Argentは2018年、2020年、2022年に4回、合計5620万ドル(2023年3月時点のレートで約77億円)の投資を受けました。Argentに出資した企業の中にはメタバースやNFTプロジェクトを中心に投資を行うAnimoca Brands、Starknetなどを開発するStarkware Industriesの名前があります。

企業情報を扱うCrunchBaseでは、Argentについて「Argent is the most simple and secure smart wallet for crypto. It does everything you’d expect from a bank (and more). Without the bank.」(Argentは、暗号通貨のためのもっともシンプルでセキュアなスマートウォレットです。銀行なしで銀行に求められるサービス、さらにはそれ以上のサービスを提供します)と説明されています。

実際に、Argentをインストールしてみると、従来の暗号通貨ウォレット同様お金を送受信できるだけでなく、DeFiを利用して利回りを得たり、暗号通貨を交換したりするメニューが表示され、ウォレットに加えた金融のワンストップを意識していることがうかがえます。

続いてArgentの特徴を詳しく見てみましょう。

 

Argentの特徴

Argentはスマートコントラクトウォレットと呼ばれるタイプのウォレットで、その名の通り、スマートコントラクトがブロックチェーン上で資産を管理します。ウォレットが作られたタイミングで、ネットワーク上にウォレットに対応するスマートコントラクトがデプロイされます。ユーザーがモバイルデバイスにインストールするアプリは、このスマートコントラクトとのインターフェイスです。

ここでは、Argentの二つの特徴「レイヤー2対応」「ソーシャルリカバリー」について説明します。

レイヤー2(zkSync)対応

Argentの特徴の一つとして、Ethereumのメインネットだけでなく、Ethereumのレイヤー2ネットワークzkSynk に対応している点があります。
※ zkSyncについて詳しくは本ブログの「zkSync – Ethereum(イーサリアム)のレイヤー2スケーリングソリューション」を参考にしてください。

ブリッジを使ってEthereumのメインネットからzkSynkに資産を移せるほか、モバイルアプリから暗号通貨を購入するとzkSyncのウォレットに反映されます。Ethereumメインネットを選ぶとモバイルアプリから利用できるDeFiサービスの種類は多いものの、ガス代は高くなります。一方で、zkSynkの場合は利用できるDeFiサービスは限られますが、大幅にガス代を抑えてサービスを利用できます。ArgentのウェブサイトによるとzkSyncでガス代は最大1/100まで抑えられるといいます。

Argentのウェブサイトでは「Easily earn up to 10% interest on your crypto through our partners Aave, Yearn, Lido and Index Coop.」(パートナーのAave、Yearn、Lido、Index Coopのサービスで手軽に最大10%の利回りを得られる)として、実績のあるDeFiサービスの名前が上がっているものの、過信は禁物です。まったく異なるサービスですが、昨年FTX Earnの年利最大8%で痛手を負った人も少なくないはずです。

ソーシャルリカバリー

Argentでもう一つの注目すべき特徴として、ソーシャルリカバリーがあります。通常、中央集権的な管理者のいないノンカストディ型の暗号通貨ウォレットを作ると、ウォレットを復元(リカバリー)するシードフレーズが提示され、紙にメモをして安全な場所に保管しておくように指示されます。この独特のステップを煩雑に感じた人も少なくないでしょう。秘密鍵を自己責任で管理する必要のある暗号通貨の世界でこれまでこのステップは必須でした。

Argentはスマートコントラクトウォレット(プログラム)であるため、柔軟に動作をプログラムすることができます。このためガーディアンと呼ばれる主体のアドレスを設定し、その過半数の署名によってArgentのウォレットを復元できます。ガーディアンは友人や家族などである必要はありません。自分が持っている他のウォレットをガーディアンとして登録することもできます。

ガーディアンはソーシャルリカバリーのプロセスを承認するだけでなく、大きな金額のトランザクションの承認や差し止めもできます。

ソーシャルリカバリーはEthereumの考案者でもあるVitalik Buterin氏も支持している考え方です。同氏のブログではウォレットのセキュリティーや既存のリカバリー方法についても触れた記事が公開されています。

Why we need wide adoption of social recovery wallets

 

Argentのビジネスモデル

無料でウォレットを提供しているArgentはどのようにビジネスを成り立たせようとしているのでしょうか。

ArgentのFAQによると、ArgentでParaswapを使ってユーザーが暗号通貨を交換する際の手数料を収益源としているといいます。交換時の手数料は0.5%、このうち85%がArgentに、15%がParaswapに分配されているといいます。100ドル相当の暗号通貨の交換で0.425ドルほどの手数料収入となり、収益源とするにはかなりの数の交換が行われる必要があります。

同FAQには、将来的にはプレミアムサービスを提供するなどして収益を上げていくという記述もあります。

 

Argentを使ってみよう

ArgentのモバイルアプリはApp StoreとGoogle Playで提供されています。筆者はiOS向けのアプリをダウンロードしてインストールしてみました。

インストールしたアプリを開くと、新しいウォレットを作るか既存のウォレットを使うか尋ねられます。新しいウォレットの作成を選ぶと、他のユーザーと暗号通貨を送受信するのに使えるユーザーネームを設定するよう指示されます。続いて電話番号とメールアドレスの確認手続きがあり、ウォレットを使えるようになります。ステップバイステップで指示があるので、はじめての人でも簡単にウォレットを作成できるでしょう。

画像: Argentでウォレットを新規作成

秘密鍵を書き留めるステップはなく、まだガーディアンは設定していません。この状態では、iCloud上(Android OSの場合はGoogle Drive上)に暗号化されたキーが保存されているようです。暗号化されたキーを復号するためのキーはArgentが持っていますが、ArgentはiCloudにはアクセスできないため、資金にはアクセスできません。Argentが持っている復号のためのキーは、メールアドレスと電話番号で認証すると入手できます。

How to Recover Your Argent Wallet Using Off-Chain Recovery

ソーシャルリカバリーのためのガーディアンのアドレスの設定、ウォレットのロック・アンロック、ウォレットのソーシャルリカバリーといった操作はArgent Security Centerからできます。ソーシャルリカバリーの手順について詳しくはArgentのウェブサイトに解説があります。

How to recover my wallet with guardians – complete guide | Argent Labs

Argentを使い始めるにあたって、元手となる暗号通貨はアプリ内で購入するか、アプリの指示に従ってzkSyncやEthereumメインネットから送金します。アプリの指示に従ってMetamaskからEthereumメインネットのETHをzkSyncのウォレットに移してみたところ、迷うことなく数分でウォレットにETHが着金しました。

また、ウォレットに送金した暗号通貨は、アプリ内で数タップで運用できます。zkSync上のETHであれば、ArgentからYearn、IndexCoop、Lidoを利用できます。初回利用時には手順やリスクが表示されます。

画像:Argent内のYearnでの運用画面

記事執筆にあたって、アプリ内で暗号通貨を購入しようとしましたが、購入先での本人確認が必要で、暗号通貨取引所で購入するのと比べて、暗号通貨購入の敷居が格段に下がったという印象はありませんでした。

 

おわりに

本記事では、長らく開発が続いているEthereumレイヤー2のzkSyncに対応したスマートコントラクトウォレットArgentを紹介しました。

「銀行なしで銀行に求められる以上のサービスを提供する」ことを目指すArgentですが、実際にアプリを使ってみると、リカバリーフレーズをメモする部分がないところ一つとっても、シンプルでスムーズに使えそうです。暗号通貨の世界に入ったばかりという人たちにとって使いやすいウォレット、ウォレットを超えた金融サービスとなるかもしれません。

ただし、Argentの利用者同士が銀行サービスを使うようにスムーズに暗号通貨を送受信したり、投資したりするには、zkSyncのユーザーや、zkSync上で利用できるアプリケーションが増える必要があります。レイヤー2ネットワークの情報を扱うL2Beatによると、現時点でzkSync(下の表ではzkSynk Lite)のTVLは7位で、1位のArbitrum Oneや2位のOptimismからは大きく離されています。

画像: レイヤー2ネットワークのTVLランキング(L2Beatより)

企業としてのArgentは、Ethereumレイヤー2ネットワークStarkNetに対応したArgent XやStarkNet上のアプリケーションの情報を集めたウェブサイトdapplandの開発も進めていて、StarkNetとのつながりも垣間見えます。
※ StarkNetについて詳しくは本ブログの「StarkNet – Ethereum(イーサリアム)のレイヤー2スケーリングソリューション」を参考にしてください。

Argentのシンプルでスムーズな使い勝手は新しい世代のウォレットが出てきたこと、次の暗号通貨ブームでのマスアダプションに貢献することを予感させます。

時間のある暗号通貨の冬の時代こそ、いろいろなサービスやツールを試してみたいところです。

エンジニアの経験と情報学分野での経験を活かして、現在はドイツにてフリーランスで翻訳・技術解説に取り組む。2009年下期IPA未踏プログラム参加。2016年、本メディアでの調査の仕事をきっかけにブロックチェーンや仮想通貨、その先のトークンエコノミーに興味を持つ。

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