TRONとは
TRONは中国出身の起業家Justin Sun氏のもと2017年に始まった暗号通貨プロジェクトです。
企業情報を扱うCrunchBaseによるとTRONの創業は2017年9月とあり、2020年に始まった暗号通貨ブームの一つ前の暗号通貨ブームが始まるか始まらないかの時期と重なります。また、WikipediaのTRONについてのページにはTRONのプロジェクトが始まったのは2014年3月で、2017年からシンガポールの非営利団体TRON財団がプロジェクトを監修しているとあります。いずれにせよTRONが長寿のプロジェクトであることがわかります。
TRONは当初ERC20トークンとしてEthereum上でローンチしましたが、2018年には独自のネットワークをローンチし、現在に至ります。
TRONは買収や提携に積極的で、P2Pプロトコルとソフトウェアの草分けBitTorrentを買収し、注目を集めました。TRONはブロックチェーンベースのサービスを取り込む動きも見せました。2019年ごろにはブロックチェーンゲームがTRONを併用する動きも見られ、2020年には分散型ソーシャルメディアの草分けSteemitとその基盤となるブロックチェーンSteemを買収しました。この買収については本ブログでも当時「TRONのSteemit買収が意味すること」で取り上げました。
最近のTRONの動きとしては、UST崩壊前の2022年5月に独自ステーブルコインUSDDの発行を始め、10月に中米のドミニカ共和国でドミニカコインの発行を発表、11月の大手取引所FTXの破綻時にはTRONに関連する5つのトークンの保有者に対する支援を発表し、注目を集めました。
- Justin Sun Promotes High-Yield, Terra-Inspired Stablecoin on Tron – Decrypt
- Dominican Government Partners With Tron To Launch Dominica Coin – Decrypt
- Justin Sun’s Tron To Aid Holders Of 5 Cryptos On FTX
TRONの名前とともに創業者のJustin Sun氏が言及されることも少なくなく、TRONはSun氏の影響力をもとに拡大を続けるプロジェクトと言っても過言ではありません。影響力を誇示するのは同氏の個人的な好みを超えた戦略とも考えられ、Sun氏と要人とのツーショットをソーシャルメディアやニュース記事で見たことがあるという人もいるかもしれません。
実際には、Sun氏は2021年にTRON財団から身を引き、現在中米のカリブ海の島国グレナダ世界貿易機関大使としての地位にあります。ただし、2022年の言動やそれを伝える記事にも見られるように、同氏の影響力は依然大きく、TRONをはじめ暗号通貨界隈に対する興味はそのままに、むしろ中米を中心に暗号通貨の利用促進、TRONネットワークの拡大を目指しているようにも見られます。
Justin Sun Is Retiring From Tron – But Not Crypto | CoinDesk
TRONの技術的概要
TRONのブロックチェーンは、合意形成アルゴリズムとしてDPoS(Delegated Proof of Stake、デリゲート・プルーフ・オブ・ステーク)を採用したブロックチェーンです。TRON上では独自トークンTRXが発行されています。TRXの発行上限はなく、CoinMarketCapによると2022年12月現在920億TRONが市場に流通しています。
TRONは、2021年に注目を集めたSolanaやAvalanche、Nearなど新しい世代のレイヤー1チェーンと比べて比較的シンプルな仕組みで動作しています。
TRONネットワークでは、27のSuper Representative(以下SR)と呼ばれる代表ノードが6時間ごとに選ばれ、SRが順番にブロックを作成していきます。SRは保有するTRXとデリゲートされたTRXの量によって選出されます。現在誰がSRとしてブロックを生成しているのかはTRONのブロックチェーンエクスプローラTRONSCANで確認できます。TRON関連と思われる団体や中国系の取引所の名前が少なくないのが気になるところです。
画像: TRONのブロックを作成するSRのリスト(TRONSCANより)
TRONではスマートコントラクトを実行することができ、その実行環境TVM(TRON Virtual Machine)は基本的にEthereumのEVMと互換性があると言います。
TRONにはBandwidth(帯域幅)とEnergy(エナジー)という概念があります。Bandwidthは、トランザクションの実行時に使用する帯域幅と考えるとよいでしょう。トランザクションのサイズによって必要なBandwidthは異なります。24時間ごとにすべてのアカウントに1500 Bandwidthが割り当てられ、割り当てられた以上のBandwidthが必要な場合はTRXをステークして獲得します。一方、EnergyはEthereumのガス(手数料)のようなもので、スマートコントラクトの実行に必要です。スマートコントラクトの複雑さによって必要になるEnergyの量は異なります。EnergyはTRXのステーキングでのみ獲得できます。
TRONについてより詳しくは、TRONのウェブサイトで公開されているホワイトペーパーまたは開発者向けのドキュメントが参考になります。ホワイトペーパーは2018年末に公開されたものですが、技術的な詳細を抜きに概要を理解するのには現在でも役立ちます。
TRONが注目を集める理由
Justin Sun氏はTRON財団を退きましたが、いまだに同士の存在を抜きにTRONを語ることはできないでしょう。
Justin Sun氏はよく言えば暗号通貨の未来に情熱を傾けていて、悪く言えば新しいことや騒動に首を突っ込んで露出する傾向があり、資金力をもって買収やパートナーシップ、開発を実現してきました。そしてこのようなSun氏の言動がTRONの認知度を高めてきました。
前述のように、TRONはTerra/Lunaを思わせるステーブルコインUSDDの発行し、Sun氏はエルサルバドルがビットコインで牽引しようとしている中米での暗号通貨浸透にもグレナダやドミニカから関与しようとしています。FTXの破綻時には、Sun氏はFTXでTRON関連の暗号通貨を保有していたユーザーの救済を提案しました。
また、Sun氏はPoloniexとHuobiという比較的規模の大きい暗号通貨取引所にも関与していて、今後も暗号通貨界隈で一定の発言力と影響力を保ち続けると考えられます。これに伴い、TRONもSun氏とともに一定の存在感を示し続けることが予想されます。
TRONのエコシステム
DeFiに関する情報を扱うDeFiLlamaのTRON上のTVLランキングによると、レンディングプラットフォームのJustLend、ステーブルコインUSDJを使った分散型金融システムJustStable、AMM型の分散型取引所SUNの3つのプロトコルに資金が集中していることがわかります。
画像: TRON上のTVLランキング(DeFiLlamaより)
また、DeFiLlamaのブロックチェーンごとのTVLランキングでは、2022年12月現在、EthereumとBSCについでTRONは3位につけています。ブロックチェーンごとのTVLを時系列で見ていくと、2022年5月からTRONが急激に頭角を現し、一時はBSCをしのいだ期間があることもわかります。
画像:ブロックチェーンごとのTVLランキング
(DeFiLlamaより、画面右上のグラフでは時系列での推移も見られる)
これを見てTRONが成長を遂げていると考えるのは早計かもしれません。暗号通貨に関する情報や分析を提供するMessariの四半期ごとのレポート(2022年第三四半期版)によると、オンチェーン分析によって3つの大口アカウントが約16億ドルの資産をJustLendに預け入れているといいます。現在のJustLendのTVLは28.4億ドルですから単純に計算してTVLの半分以上が大口によるものということになります。
主に利用されているアプリケーションが3つに限られていて、プロトコルの総数を見ても他のブロックチェーンと比べてかなり少なくなっています(Ethereum 605、BSC 506、TRON 11)。さらに、TRONのプロトコルの中でも最大のTVLをほこるJustLendの預入元が大口に集中している現状は、TRONのエコシステムの健全性の懸念事項として覚えておきたいところです。
今後TRON上でオリジナリティのあるアプリケーションが出てくるのか、また、人気のプロトコルの誘致に成功するのか、そしてそこにユーザーが集まるのか注目したいところです。
おわりに
本記事では比較的長い歴史を持ち、ユニークな創業者Justin Sun氏でも知られるスマートコントラクトプラットフォームTRONについて紹介しました。
TRONはこれまでにもJustin Sun氏の言動とともに名前が上がることが多く、暗号通貨界隈で存在自体はよく知られていました。ただ、分散型アプリケーションを開発するプロジェクトにとっては、特に2021年にレイヤー1、レイヤー2含め選択肢が増える中で、あえてTRONを選ぶ必要はなかったというのが実際のところなのかもしれません。
一方で、ある種の人為的な操作が背後で行われている可能性はあるものの、TRONは冬の時代にもかかわらずTVLの面でEhtereumやBSCといったスマートコントラクトプラットフォームとしての地位を確立したブロックチェーンに迫ろうとしているのも事実です。
TRON財団を退いたあとのJustin Sun氏が今後どのようにTRONと関わっていくのか、TRONはどのようにプロトコルやユーザーの誘致に取り組んでいくのか動向を追っていく価値はありそうです。