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  • 更新日: 2021年4月8日

不動産分野の課題とブロックチェーンへの期待

不動産は物件や土地ごとに特徴が異なり、一般的に単価が高く、流動性の低い資産といわれています。安全な不動産取引を実現するため、また、昔からの慣習から多くの書類が作られ、人手を介する事務手続きが行われます。取引が完了するまでには長い時間がかかり、その間ミスが発生するだけでなく、取引の仕組みの虚をついた詐欺が発生する可能性もあります。不動産の売買は扱う金額が大きいことから、仲介者に支払う手数料は数百万円、数千万円にのぼることも少なくないでしょう。さらに、不動産取引の仕組みは国や地域で規制や慣習が異なり、いっそう問題を複雑にしています。

ブロックチェーンが各分野に浸透する中で、不動産分野では、ブロックチェーンを以下の3つの点で活用しようという動きがあります。

  • 改竄不可能で一元化された情報の記録先(登記、物件情報)
  • スマートコントラクトによる自動化(取引)
  • 流動性の向上(不動産のトークン化)

土地の所有権をブロックチェーンに記録しようというアイデアは新しいものではなく、資産を管理する仕組みが脆弱な新興国を中心に実験が行われてきました。土地や建物の所有権だけでなく、売り買いする個人や組織のアイデンティティ、賃貸物件の情報もブロックチェーンの記録対象になりえます。改竄が不可能なブロックチェーン上に情報が一元化され、適宜関係者に開示されることで、透明かつ正確な不動産取引につながります。

ブロックチェーンに情報を記録するだけでなく、一歩進んで、スマートコントラクトで取引を自動化することも可能です。たとえば、不動産取引の肝である代金と所有権の交換について、代金をスマートコントラクトにロックして、所有権の移転と代金の受け渡しをスムーズに行うことができます。代金をエスクローエージェントに預託したり、決済の場に関係者が集合したりする必要がなく、取引の手間やコストを削減できます。規制や慣習を一朝一夕に変えることはできないため、完全な自動化までには時間がかかりそうですが、売り手と買い手によるP2Pの不動産取引を目指すプロジェクトもあります。

ブロックチェーンには、不動産の流動性を高める効果も期待されています。日本では2001年にREIT(Real Estate Investment Trust、不動産投資信託)が提供されるようになり、直接高額な不動産に投資できなかった個人でも、ファンドを通じて不動産に投資できるようになりました。その後、不動産投資クラウドファンディングが登場し、より不動産投資は身近になりました。ブロックチェーンを利用して不動産をトークン化すると、自由に細分化して小口投資が可能になるだけでなく、より柔軟かつ安全に所有権を移転できるようになる可能性があります。

株式など各種有価証券を、セキュリティトークン(有価証券トークン)として発行し、資金を調達する仕組みをSTO(Security Token Offering)といいます。STOは比較的新しい資金調達の手段で、BlockState社の2019年の調査では、分野別に金融で50件、ブロックチェーン関連で15件、続いて不動産分野で12件のSTOが行われたといいます。セキュリティートークンには国や地域の規制が適用され、完全に自由に取引できるわけではありませんが、STOやセキュリティトークンが浸透することで不動産の流動性が向上することが期待されています。

続いて不動産分野でブロックチェーンを活用している国内外の事例を見てみましょう。

 

海外の動向

ブロックチェーンによる所有権管理

不動産分野でブロックチェーンが使われ始めた黎明期には、新興国で土地の所有権をブロックチェーンに記録するプロジェクトが目立ちました。背景には政府による土地管理が行き届かず多くの土地が未登記になっていたり、腐敗により適切に権利管理がなされなかったりする新興国特有の事情があったと考えられます。代表的なプロジェクトとして、ホンジュラス政府とFactomのプロジェクト(2015年開始)、ガーナのBitland(2016年開始)、BenBen(2017年開始)があります。残念ながらこれらのプロジェクトは現在活発な活動はしていないようですが、土地の所有権をブロックチェーンに記録する試みは世界各地で続いています。

この分野でおさえておきたい企業として、スウェーデンのChromaWay(クロマウェイ)があります。ChromaWayは、アフリカやインドのほか、カナダやオーストラリアといった先進国でも土地登記に関するプロジェクトを進め、2019年には欧米米州開発銀行とともに南米でブロックチェーンを使った土地登記のテストを行うと報道されました。ChromaWayはこのほか不動産分野では住宅販売、不動産分野以外ではスウェーデンのCBDC e-kronaなどデジタル通貨の発行といった金融分野などにも幅広く取り組んでいます。


ChromaWay

アメリカのMedici Land Governanceは2018年にこの分野に参入し、アメリカ、ザンビア、ルワンダ、メキシコ、セントクリストファーネイビスなど、ChromaWayと並んび複数の国や地域で土地の所有権の管理に取り組んでいます。

Medici Land Governance

そのほか、仮想通貨のマイニングで知られるBitFuryは、マイニング以外の分野も手がけるブロックチェーンテック企業で、不動産分野もそのひとつです。過去2016年、2017年という早期にウクライナやジョージアで政府と共同で土地登記に関するプロジェクトを試験的に行いました。

不動産取引の自動化

スマートコントラクトを使って不動産取引を自動化するプロジェクトとしては、本ブログで取り上げたアメリカのPropyがあります。


ブロックチェーンを使った不動産取引プラットフォームPropy

2020年10月には、著名投資家のTim Draper氏からPropyが資金を調達したことが報道され、今後さらにブロックチェーンベースでの不動産取引の自動化を押し進めることが期待されます。

不動産のトークン化による流動性の向上

不動産のトークン化は、規制と歩調を合わせる必要があることから、まだ新しい分野ですが、欧米では実運用にこぎつけたサービスも出てきています。

この分野ではじめてブロックチェーンベースの商品を提供したとしているアメリカの不動産投資管理会社Resolute.Fundは、配当を受け取る権利がついた独自のERC-20トークンREZを発行しています。


Resolute.fund – Real Estate For The Digital Age

ルクセンブルクとドイツに拠点を置くBlack Manta Capital Partnersは、技術、金融、法律面から証券のトークン化や当該分野でのスタートアップの支援に取り組み、自社でも不動産に関するSTOを実施しています。


Tokenization as a Service – Black Manta Capital Partners®

STOで発行されたセキュリティトークンは、発行元のプラットフォームだけでなく、外部のマーケットで取引できることが期待されます。このようなマーケットはセカンダリマーケットと呼ばれ、STOの浸透とともに、セカンダリマーケットの整備も進んでいます。投資家保護の観点からセカンダリマーケットの運営には当該国の規制にしたがって認可を受ける必要があります。代表的なセカンダリマーケットとしてアメリカのOpenFinance NetworkやtZERO ATSがあります。

 

国内の動向

日本では、2018年に不動産情報コンソーシアムADREが設立され、ブロックチェーンを活用した不動産情報の共有が進められてきました。2020年には、同組織が不動産情報共有推進協議会として一般社団法人となりました。

不動産に特化したセキュリティートークンの動きとしては、LIFULL社とSecuritize社がSTOスキームの提供を始めるといった具体的なサービスも生まれています。

また、不動産に特化したものではありませんが、セキュリティトークンに関する動きとして、2019年に自主規制団体 一般社団法人STO協会とST(Security Token)研究コンソーシアムが設立されました。

 

日本国内の不動産分野でのブロックチェーン活用の取り組みはまだ実証実験の段階にあるものの、日本の事情に合ったサービスを提供している企業もあります。ITANDI BBが提供する「電子契約くん」では、ブロックチェーンとスマートコントラクトを使って、不動産契約を完全にオンラインで結べます。


電子契約くん – 不動産、駐車場の電子申込を完全Web化!|ITANDI BB

独特の価値観や慣習を持つ島国の日本と、特に古い建物に価値があり不動産が値上がりを期待できる資産といえる欧米では、今後不動産分野で登場するブロックチェーンベースのサービスは異なるのかもしれません。

 

不動産とブロックチェーンの今後

2017年前後に無秩序に行われたICOへの反省から、STOの実施やセキュリティートークンの扱いは国や地域の規制に準拠する形で慎重に進められています。

不動産分野は歴史が長く保守的な分野でもあります。投資家の層もICOの参加者とは異なります。不動産の登記、取引、セキュリティートークン化すべてで、規制に準拠する形で慎重にブロックチェーンの採用が進んでいくと考えられます。

不動産にまつわる権利を効率よくかつ安全にブロックチェーンベースで取引できるようになるまでには、まだ時間がかかりそうですが、世界の事例を見ると徐々に環境は整備されつつあるといってよいでしょう。

Gaiax技術マネージャ。研究開発チーム「さきがけ」リーダー。新たな事業のシーズ探しを牽引。2015年11月『イーサリアム(Ethereum)』 デベロッパーカンファレンス in ロンドンに参加しブロックチェーンの持つ可能性に魅入られる。以降ブロックチェーン分野について集中的に取り組む。

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