2014年のマウントゴックスの破綻をきっかけに、皮肉にも日本国内でもビットコインの名前が広く知られるようになりました。2年の時を経て2016年、今年はビットコインをはじめとする仮想通貨、その基盤システムであるブロックチェーンに関するさまざまな動きや事件がありながら、一過性のブームを経て、これらが徐々に社会に浸透していく過渡期の1年となったといえそうです。本記事では仮想通貨やブロックチェーンに関するニュースをふりかえりながらブロックチェーンの2016年を総括します。
影響を受けうる国内市場規模67兆円に
経済産業省は今年度はじめに「ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査」を公表し、国内で影響を受けうる潜在的なブロックチェーンの市場規模について、サプライチェーン関連で32兆円、プロセスや取引の自動化・効率化関連で20兆円、シェアリング関連で13兆円、その他を含め合計67兆円と発表しました。
- 4月28日付 経済産業省 「ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査」を取りまとめました
この調査レポートをまとめるための検討会には、弊社の肥後彰秀(当時 技術開発部部長 現執行役)も委員として名を連ねていていました。
画像: 経済産業省 ブロックチェーン技術による社会変革の可能性 p9より
経済産業省はブロックチェーンについて「フィンテックの次の技術」と位置づけ、金融や公共にとどまらないIoT、シェアリングなど幅広い分野への応用が期待できるとしています。一方、国内では個別の技術検証の段階であり、一歩先をいく海外勢に対して国際競争力を発揮できるかこれから問われることになりそうです。
日本国内での動き
このような状況で、2016年4月国内ではブロックチェーン推進協会(BCCC)とhttps://jba-web.jp/がほぼ同時期に設立されました。ガイアックスは日本ブロックチェーン協会に設立の段階から参画し、平成27年度定時総会で選任され理事を務めています。
- 4月25日付 ブロックチェーン推進協会 国内初のブロックチェーン業界団体『ブロックチェーン推進協会 – BCCC』を設立
- 4月28日付 日本ブロックチェーン協会 「一般社団法人 日本ブロックチェーン協会」設立のお知らせ
企業向の分野では、ブロックチェーンを広める動き、利用企業側で理解が徐々に広がりつつある一方、個人向の分野では、海外ですでにDELL、マイクロソフト、Rakuten、Expediaといった大手企業がビットコインでの決済を導入し、ブロックチェーンを利用したシェアリングエコノミーのサービスが公開される中、国内ではDMM.comが国内の大手サービスとしてはじめてビットコインを導入し、匿名でDMMのコンテンツを購入できることからもニュースとなりました。
- 3月2日付 RBB TODAY 国内大手サービスで初か、DMM.comが「ビットコイン」対応
また、ブロックチェーンの応用としては金融分野での実証実験が多い中、ガイアックスでは非金融のシェアリングエコノミー分野で他社に先駆けて実証実験を開始しました。今後は、シェアリングサービスのおける本人確認の審査や管理などに実証実験から得られた知見を活用、本格導入していきます。
- 4月27日付 ガイアックス ブロックチェーンを活用した本人確認サービスの実証実験を開始 ~ブロックチェーンのシェアリングエコノミー分野での応用を目指す~
ブロックチェーンに関する世界的な事件や出来事
ここまで国内の動きについて見てきましたが、世界的には今年はブロックチェーン、特に二大仮想通貨ビットコインとイーサリアムに関して大きな事件や出来事がありました。ここではこれらをふりかえってみましょう。
ブロックチェーンというとビットコインを思い浮かべる人も少なくないと思います。ビットコインについては夏にふたつの大きな出来事がありました。ひとつめは、ビットコインの2回目の半減期です。マイナーへのマイニング報酬が25BTCから12.5BTCに半減することから、相場の乱高下やネットワークの不安定化などが心配されましたが、大きなトラブルなく7月10日に半減期を向かえることとなりました。しかし、そのおよそ1ヶ月後、香港を本拠地とするビットフィネックスが盗難被害を発表して取引を停止。ビットコインの相場は急落し、被害額は2014年のマウントゴックスの破綻に次いで大きなものとなりました。
- 7月5日付 Gaiax Blockchain 2回目の半減期を迎えたビットコイン
- 8月4日付 ロイター 香港のビットコイン取引所で盗難、被害額7200万ドル 相場急落
また、ビットコインに次ぐ時価総額をほこるイーサリアムでも資金の流出がありました。ドイツ企業のSlock.itによる暗号通貨ファンドThe DAOが始動し巨額の出資を集め注目を集めましたが、スマートコントラクトのプログラムの不備をつかれ、数十億円が流出し大きな事故となりました。スマートコントラクトのプラットフォームとして期待の集まるイーサリアムですが、一方で、春のHomesteadローンチ時に、そしてThe DAOの救済措置として、秋にはDDoSアタックを受けてハードフォークを繰り返す1年でもありました。
- 5月30日付 TechCrunch Japan コードで定義された“ほぼ”自律的で民主化されたベンチャーファンド、The DAOが3億ドルを集めて始動
- 6月23日付 CoinPortal The DAOのイーサ流出事件 とこれからの道筋
- Ethereum hard forks – Wikipedia
ブロックチェーンへの過度な期待は収束
ビットコインや仮想通貨に関するニュースサイトCoinDeskが四半期ごとに「State of Blockchain 2016」というレポートを公開しています。2016年12月時点での最新版「State of Blockchain Q3 2016」によると、ベンチェーキャピタルによるブロックチェーンスタートアップへの2016年第三四半期の投資額は114百万ドルで、第二四半期からは回復したものの、第一四半期には及ばず、対前年比で18%の減少となるといいます。
データはCoinDesk State of Blockchain Q3 2016より
IT関連の調査・助言を行うガートナー社は2016年8月にレポート「Hype Cycle for Emerging Technologies, 2016」を発表し、その中で「ブロックチェーン技術は過剰な期待のピークに達している」としたといいます。
※ Hype Cycle(ハイプ曲線)とは新しい技術が社会に適応していく様子を表すモデルで、ガートナー社によって定義されました。黎明期、流行期、幻滅期、回復期、安定期からなり、同社はブロックチェーンはこのハイプ曲線の流行期の頂点にあるとしています。
- 8月16日付 PR WIRE Blockchain and Connected Home are almost at the peak of the Hype Cycle
- 8月17日付 CoinDesk Gartner: Blockchain Tech Hits Hype Cycle Peak
ブロックチェーンに深く関わる人物からの衝撃的な発言も注目を集めました。年初にはビットコインの開発に5年以上携わってきたマイク・ハーン氏がビットコインの開発から離脱し、自身のブログの「The resolution of the Bitcoin experiment」というタイトルの記事でビットコインという実験は失敗に終ったと発言し、ビットコイン相場の急落をまねきました。また、weusecoins.comでビットコインの紹介に努めてきた現Ripple Inc.のCTOステファン・トーマス氏は企業間のしがらみや合意形成などブロックチェーンの難点を指摘し懐疑的な見方を示しています。
- 1月14日付 Mike Hearn – Medium The resolution of the Bitcoin experiment
- 8月23日付 Bloomberg ブロックチェーンは終わった-ビットコイン信奉者、台帳技術に見切り
業界団体に関する大きなニュースとしては、R3 CEV社が主導し世界の大手金融機関が加盟するブロックチェーンコンソーシアム「R3」に関するものがあります。R3の創設メンバーであったゴールドマンサックスが会員権を更新せず、事実上R3から脱退することになり、波紋を呼んでいます。
- 11月22日付 Bloomberg ゴールドマンがブロックチェーン連合を脱退、他行も追随か-関係者
調査会社による分析、人や企業の動きからもブロックチェーンの過熱気味のブームは終わりを迎え、投資額が減少し、撤退する企業が増えてくることも予想されます。ただ、これはネガティブな動きというより、現在は前出のガートナーのハイプ曲線における流行期からの過渡期にあり、今後ブロックチェーンに本腰を入れて取り組む企業や人だけが残る兆候ととらえることもできそうです。
着実な動きは今後も継続
ここまで見てきたように、ブロックチェーンは黎明期とその後の過熱したブームを経て、現在過渡期にありますが、長期的な視点に立った動きは着実に進行しています。
そのひとつとして挙げられるのがブロックチェーンの国際標準化の動きです。国際標準化機構(ISO)で3つの専門家委員会が立ち上がり、互換性やデータ交換、トレーサビリティー、ガバナンスといった分野で標準化の議論が始まります。また、東京証券取引所や大阪取引所などを傘下に持つ日本取引所グループはHyperledger、イーサリアム系の分散型台帳技術を使った実証実験の結果をまとめ、ブロックチェーンは短期的に導入できる技術とは言いがたいが、長期的には金融に変革をもたらす可能性があるとしています。
- 10月7日付 経済産業省 ISOでブロックチェーンの国際標準化についての議論が始まります
- 8月30日付 日本取引所グループ 金融市場インフラに対する分散型台帳技術の適用可能性について
最後にForbesに掲載されたMITメディアラボの伊藤穰一所長のブロックチェーンに関する考察を紹介することにしましょう。莫大な資金が投資されているブロックチェーンの現状に継承をならしつつも、その可能性に期待を示しています。
- 8月8日付 Forbes MITメディアラボ 伊藤所長が明かす「お金」の未来予想図
この記事のおもしろいところは、歴史を見てきた大御所の視点からインターネットの黎明期、過渡期とのアナロジーでブロックチェーンの現状を読み解きながら、インターネットとブロックチェーンのネットワークで扱うデータ、流通するものの違いについて触れ、アプリケーションレイヤーよりも深いアルゴリズムやセキュリティー、インフラについて議論や実験を繰り返すべきだという深い洞察にあります。事件や事故を経て、懐疑的な見方も出てきたブロックチェーンですが、その未来に期待を持たせる記事末尾の伊藤氏の言葉を引用します。
楽観的な未来像ではあるが、デジタル通貨、ブロックチェーンの先に待っているかもしれない「お金の未来」に、私はワクワクしている。そして、そんな良き未来を創っていくことができると、私と仲間たちは信じている。
もうすぐ2017年、ブロックチェーンを含む広義での台帳技術、仮想通貨の動向から来年も目が離せなさそうです。本ブログをご愛読いただきありがとうございました。来年度も引き続きよろしくお願いいたします。