本連載では、ブロックチェーンを活用したシェアリングエコノミーのサービスを紹介しています。Slock.it、La’Zooz、Colony、TransActive Gridに続き、今回はライドシェアサービス「Arcade City」(アーケード・シティー)について説明します。
目次
Arcade Cityとは
Arcade City, Incは2016年1月創業のアメリカ合衆国ニューハンプシャー州に本社を置くスタートアップで、P2Pサービスの提供者と利用者のための分散型のグローバルなコミュニティーコミュニティー構築を目指し、現在はその最初のサービスとしてライドシェアサービスを開発しています。
Arcade Cityのユーザーは、iOS向アプリまたはAndroid向アプリをインストールし、自由に金額を設定して他のユーザーにライド(乗車の機会)を提供したり、ドライバーの評価や提示額を参考に自身のニーズにあったライドを探すことができます。そして、Arcade City内での対価の支払いは「アーケードトークン(ARC)」と呼ばれる独自の電子通貨でやりとりされます。
Arcade Cityはアメリカの一部の州など世界数十都市でライドシェアサービスを提供していますが、まだ開発段階にあります。2016年10月にストレステストの終了が発表され、Arcade Cityについて記されたホワイトペーパーが公開されました(現在はホワイトペーパーにアクセスできません)。Arcade Cityのサービス内電子通貨ARCは、2016年11月1日からはじまるトークンセールで手に入るようになります。トークンセール終了後は、取引所で取引できるようになるほか、将来的にはアプリ内でドルやユーロといった主要通貨でもARCが購入できるようになるとしています。
※ 2016年10月25日現在、iOS向、Android向アプリともにストレステストバージョンで、実際に日本でライドシェアサービスを利用することはできません。
シェアリングエコノミーとArcade City
Arcade Cityの創業者でCEOのChristopher David氏は元Uberのドライバーでもあり、サービスのコンセプトを説明した5分間のプレゼンテーションでは特に元ドライバーの視点から、Uberについて、サービスをUberが中央集権的に支配しており、2016年1月に事前の告知なく一夜にしてドライバーへの支払い額が大幅に引き下げられたことを引き合いに出し、「多くのライドシェアのドライバーはUberやLyftに支配されていると感じている」となで語っています。
Arcade City: The Five-Minute Pitch
0:08 – The Problem0:32 – The Solution1:40 & 2:23 – Business Model1:50 – Market Size2:04 – Why now?2:32 – Revenue Projection2:42 – Uber’s Endgame2:50 – Our En…
Arcade Cityのホワイトペーパーの「プロジェクトの歴史」によると、2015年年末のニューハンプシャー州ポーツマスでのUberを違法とした輸送規制をきっかけに、人の輸送手段が不足し、元・現役Uberのドライバーの小さなグループがArcade Cityという名前のもと組織され、P2P輸送を年末年始のパーティーに出かける人たちに無料で提供したのがプロジェクトのはじまりとなりました。
また、メディアネットワークFusionの記事によると、テキサス州オースティンでは住民投票でUberのドライバーの指紋採取や犯罪歴との照合が決まった際に、Arcade CityはFacebookページを開設し、無職になったドライバーと輸送手段に困った利用者がライドシェアの情報を交換していたといいます。
このように、従来の分散型でないシェアリングエコノミーサービスへの不満と、規制のタイミングが相まって、「ドライバーが独立した事業者のように、公正な価格を提示できる」ライドシェアサービスを提供し始めたのがArcade Cityというわけです。
シェアリングエコノミーの分散型P2Pライドシェアサービスというと、本連載ではLa’Zoozを紹介しましたが、La’Zoozのコンセプトは行き先へ向かうついでの空席を提供して輸送の無駄をなくし、ドライバーと利用者もwin-winというものであるのに対し、Arcade Cityは公正にドライバーが扱われることを意識した配車サービスにといえそうです。とはいえ、2016年4月のプレスリリースによると、Arcade Cityのおよそ半分のドライバーは利用者に対して「公正だと思える料金を支払ってください」と表明しているとしており、「ユートピア的でヒッピーなUber」と形容されるLa’Zoozとは異なるとしても、シェアリングエコノミーの良心を持った参加者を抱えるサービスになることが期待できそうです。
Arcade Cityはブロックチェーンを何に使っているのか
Arcade Cityの分散型P2Pライドシェアサービスはブロックチェーンの技術によって支えられています。ここではArcade Cityがブロックチェーンをどのように利用しているのか見てみましょう。
本連載でこれまでに紹介したSlock.it、La’Zooz、Colony、TransActive Grid同様、Arcade Cityもイーサリアムのブロックチェーンを利用しています。
V1と呼ばれる初期のArcade Cityでは、実際にライドシェアネットワークを世界数十都市で構築し、この成功をきっかけに経験豊富なイーサリアム開発者がチームに加わりました。続く開発中のv2では、イーサリアムのブロックチェーン上にシステムを再構築し、分散化を進める計画で、現在はプロトタイプが機能している段階です。ARCのトークンセールでv2の開発を加速し、トークンセールの終了後、数週間でイーサリアムブロックチェーンを利用した分散型のライドシェアアプリが公開されるようです。
Arcade Cityでは具体的にどのようにイーサリアムのブロックチェーンが使っているのか紹介していきます。まず、Arcade Cityの独自電子通貨ARCはイーサリアムのブロックチェーン上で発行されます。また、乗車機会の提供・利用の度に、スマートコントラクトが自動的に作成されたり、安全な取引のためのエスクロー、ユーザーのレピュテーション(評価)、契約と支払いの自動化などにイーサリアムブロックチェーンが利用されています。
イーサリアムのブロックチェーンを利用したv2のプロトタイプについては動画「Demo of AC Ethereum Ridesharing Prototype 9/30」で、開発者の説明を聞きながら、ライドがどのように成立するのか、その背後でイーサリアムブロックチェーンやスマートコントラクトがどのように利用されているのかデモを見ながら概要を知ることができます。
Arcade Cityのこれから
2016年11月1日に始まるの独自電子通貨ARCのトークンセールを控え、ライドシェアサービスについてはトークンセールの終了後数週間でイーサリアムブロックチェーンを利用した分散型のアプリが公開されるようです。
また、Arcade Cityはライドシェアサービスにとどまらず、より広範にP2Pデリバリー、短期の住宅貸し出しなどを視野に入れ、P2Pサービスの提供者と利用者のプラットフォームとなることを目指しています。長期的な計画は動画「Arcade City: The Path to Decentralized Dominance」で見ることができます。
Arcade City: The Path to Decentralized Dominance
A comprehensive explanation of Arcade City’s path to decentralization and what we mean by “ridesharing 2.0”.0.x [Completed] — Q1 2016 — The current app is …
この内容は動画「Stress Test Ends, Ethereum Integration Begins」の冒頭で、テキスト形式で要約されていて、これによると、今後、Arcade Cityは2018年までに分散化を進めてAPIを公開し、2018年から2020年を目処に完全に分散型のシステムを構築し、現在のArcade City Councilと呼ばれるコアチームおよび企業Arcade City, Incの手を離れ、コミュニティーにより管理される公共のサービスにしたいとしています。
おわりに
シェアリングエコノミーのサービスのひとつとして、今回はライドシェアサービスArcade Cityを紹介しました。ブロックチェーンを利用した同様のライドシェアサービスで、空席を共有しようというLa’Zoozのアプローチとはまた違う、ドライバーの公正な扱いを求め、Uberへの不満を解決すべく、ライドシェアサービスの今後の展開に注目したいところです。
La’Zoozに関する記事でも触れましたが、弊社Gaiaxでは、ライドシェアおよびシェアリングエコノミーに注目し、株式会社Costyleと日本最大のライドシェアリングサービス「notteco」を譲り受けることで2015年9月に合意しました。
- 相乗りマッチング型長距離ライドシェアサービス「notteco」事業を譲受 │ 株式会社ガイアックス
- 長距離ライドシェア(相乗り) – notteco(のってこ!)
こちらもライドシェアサービスとして、合わせて今後の展開にご期待ください。