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  • 更新日: 2018年9月25日

世界の様々な国家や地域がブロックチェーンや仮想通貨の活用に本腰を入れ始めています。本コラムでは、そのひとつとしてマルタ共和国を紹介しました。今回はブロックチェーンにコミットする世界でトップクラスの地域、クリプトバレーと呼ばれるスイスのツークについてお伝えします。

 

仮想通貨先進国スイス、クリプトバレーと呼ばれるツーク市

ツーク(Zug)は、スイス連邦の州のひとつで、州都のツーク市は世界的な金融都市チューリヒの南に位置し、電車で30分ほどの距離にあります。ツーク州の人口は12万人ほど、ツーク市はツーク湖沿いの小さな街で人口は3万人ほどです。スイスではドイツ語、イタリア語、ロマンシュ語が公用語ですが、ツークはドイツ語が使われる地域です。

画像: スイス連邦ツーク市(Google Mapsより)

小さなツークは突如クリプトバレーとなったわけではなく、隣国やスイスの他の地域と比べて低い税率を設定し、国際的な大企業をも引きつけてきた歴史があります。

ツークがクリプトバレーと呼ばれ、仮想通貨を積極的に取り入れるようになった背景には、スイスの仮想通貨に友好的な政策も影響しています。仮想通貨に関するメディアCointelegraphが主催するブロックチェーン技術を紹介するイベントBlockShowの調査によると、スイスはヨーロッパでもっとも仮想通貨やブロックチェーンへの規制が厳しくなく、友好的な国だといいます。この調査では2位ジブラルタルに続いて、以前本ブログでも紹介したマルタが3位に入っています。ランキングでは以降トップ10にイギリス、デンマーク、ドイツ、ポルトガル、オランダ、フィンランド、ベラルーシが入っています。

実際、コンサルティングファームPwC(プライスウォーターハウスクーパース)のICOに関する調査によると、アメリカに続いてスイスはシンガポールとともに世界的なICOハブになりつつあるようです。2016年から2018年6月末までの大型のICO15件のうち、4件がスイスで行われたもので、その中にはBancor、訴訟騒動もあったTezos、Ethereumブロックチェーンでハードフォークを引き起こしたThe DAOが含まれます。また、仮想通貨ビジネスに特殊なライセンスは必要なく、この点でも世界中から仮想通貨ビジネスを呼び込んでいると言えそうです。

Initial Coin Offering – A strategic perspective (PwCによる調査)

ビットコインについて時価総額第2位のEthereumはスイスの企業Ethereum Switzerland GmbHとしてはじまり、続いてEthereum Foundationがスイスに設立され、ツークに拠点が置かれています。

スイスでは仮想通貨ビジネスのための環境が整備されているだけでなく、エンドユーザー向けにも興味深い実験的な深いサービスが提供されてきました。スイスの一部地域ではビットコインで税金や公共サービスの支払いができ、スイス連邦鉄道の券売機ではビットコインを買うことができます。

スイスの中でもツークは金融都市チューリヒへの近さも活かして、クリプトバレーとしての地位を築いてきました。続いてツークでどのような取り組みが行われているのか具体的に見てみましょう。

 

ツーク市のブロックチェーンに関する取り組み

仮想通貨・ブロックチェーンのエコシステム

ツークのクリプトバレーとしての起源は、2013年に起業家のJohann Gevers氏がスイスの中立性やビジネス環境、社会システムや教育水準の高さに注目し、自身が起業したトランザクションプラットフォームMonetasとともにクリプトバレーの構想をツークに持ち込んだことにさかのぼります。2017年には非営利組織Crypto Valley Associationが立ち上げられ、仮想通貨に関する技術やビジネスのエコシステムの構築を進めています。

画像: Crypto Valley Associationウェブサイト

Crypto Valley Association の創業メンバーとしては、Gevers氏のMonetas、ICOの支援など仮想通貨に関する金融サービスを提供するBitcoin Suisse AG、法律や税制、企業のコンプライアンスを扱うコンサルティングファームMMEといった地元スイスの企業、大学に加え、大手情報企業トムソン・ロイターの名前もあがっています。さらに、メンバーにはEthereumプロジェクトの共同創業者Joseph Lubin氏のConsenSys、前出のPwCといった企業、地元自治体ツーク州やツーク市の名前があり、産官学でブロックチェーンエコシステムの構築に取り組む様子がうかがえます。

ツークではEthereum、Tezos、Liskといった仮想通貨の組織が設立され、ICOの支援を得意とする金融や法律に関するサービスが周縁に存在し、この分野に対して友好的な規制が仮想通貨やブロックチェーンに関するビジネスの成長を後押ししています。ツークはこの分野のエコシステムの構築という点で成功を収めていると言ってよいでしょう。

仮想通貨・ブロックチェーンを利用した実験的な市民サービス

市民サービスという点では、Crypto Valley AssociationのメンバーでもあるConsenSysが開発を進めるEthereumベースのデジタルIDサービスuPortと連携し、2017年11月よりデジタルIDサービスが試験的に提供されるようになりました。
※ uPort について詳しくは本ブログのEthereumブロックチェーンを利用したデジタルIDサービスuPortを参考にしてください。

ツークではブロックチェーンベースのデジタルIDにとどまらず、2018年6月25日から7月1日にかけてこのIDサービスを利用した法的拘束力のない実験的な投票が行われ、注目を集めました。スイスの他の地域でも電子投票は行われてきましたが、ブロックチェーンベースの投票はスイス初のものとなりました。ツーク市とルツェルン応用科学と芸術大学とのパートナーシップのもと、ツークに本拠地を置くLuxoftが投票システムの開発にあたりました。

スイスのニュースを多言語で発信するメディアSwissinfoはツーク市の広報部長の発言として投票は成功裏に終わったと伝えています。技術的な詳細はこれから数ヶ月かけて評価されるようです。

Switzerland’s first municipal blockchain vote hailed a success – SWI swissinfo.ch

ただ、ニュースを詳しく読んでみると課題も見えてきます。投票システムにアクセスすることのできた人は240人で、そのうち72人が投票に参加しました。参加者が少数にとどまったことは市も認めるところです。一方で、参加者は技術に明るい人が多かったと考えられますが、ほぼすべての参加者がこのデジタル投票システムでの投票を簡単だったと回答したといいます。デジタルIDの利用に関して、所得申告や調査に使うだろうと回答したのは22人、駐車料金の支払いに使うだろうと回答したのは19人、図書館で本を借りる際に使うだろうと回答したのは3人といった結果が明らかにされています。

そのほか、市民に向けたサービスとして、ツーク市では200フラン(2018年7月現在で22000円強)までビットコインでの支払いを受け付けています。2018年1月のスイスのビジネス誌 Handelszeitungの記事 によると、2016年夏の受付開始からのトランザクション数は40トランザクションで、これは当初市が想定していた数よりも多かったようです。興味深い記述として、市は受け取ったビットコインは保持せず随時換金していたため仮想通貨ブームによる恩恵は得られなかったとも書かれています。

ツーク市のブロックチェーンを利用したデジタルIDや投票実験、ビットコインでの支払い受付などは評価すべき取り組みで、仮想通貨やブロックチェーンの分野では注目を集めましたが、導入されたシステムが広く市民に利用されるようになるにはまだ時間がかかるのかもしれません。

 

ツークの今後

仮想通貨やブロックチェーンの分野にコミットして注目を集めるツーク市ですが、世界でクリプトバレーに続こうとする動きがあります。同じスイスの都市チアソーはビットコインでの納税を受け付け、韓国の釜山はクリプトビーチとして街のブランドを築こうとしているようです。タックスヘイブンとして知られる地域が本腰を入れてこの分野に取り組む流れもあり、仮想通貨先進国スイスもこのまま安泰とはいかないかもしれません。

焦点:仮想通貨先進国のスイス、銀行取引停止で事業流出か | ロイター

このような世界的な流れの中で、今後ツークが仮想通貨やブロックチェーンに関するエコシステムをどのように拡大していくのか、市や地域として実際に仮想通貨やブロックチェーンベースのシステムをどのように浸透させ未来の都市像を描いていくのか目が離せません。

 

Gaiax技術マネージャ。研究開発チーム「さきがけ」リーダー。新たな事業のシーズ探しを牽引。2015年11月『イーサリアム(Ethereum)』 デベロッパーカンファレンス in ロンドンに参加しブロックチェーンの持つ可能性に魅入られる。以降ブロックチェーン分野について集中的に取り組む。

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