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旅行業界ではオンライン化が進んだものの、オンライン旅行市場は仲介企業数社による寡占状態で、システムは古く、効率化されているとはいいがたい状態です。本記事では、このような旅行業界の現状を、パブリックなブロックチェーンを利用して打破しようとする「Winding Tree」(ワインディング・ツリー)について解説します。

 

Winding Treeとは

旅行というと以前は旅行代理店に電話をして航空券を予約したり、直接店舗を訪れてパッケージツアーを予約したりすることがほとんどだった時代がありました。インターネットの普及とともにオンラインで航空券やホテルを予約するようになった、自分で旅行を計画するようになったという人も少なくないでしょう。

旅行予約のオンライン化が進み、競争原理によって旅行市場は最適化されたかに見えますが、実はそうではないようです。Winding Treeによると、アメリカでは2社がオンライン旅行代理店市場の95%を占める寡占状態にあるといいます。このような事情からシステムやビジネスモデルの刷新は進まず、客室を提供するホテルや航空券を提供する航空会社には高額の手数料が課されています。

Winding Treeは「DECENTRALIZED TRAVEL DISTRIBUTION」(分散化型の旅行供給)を標榜し、現在の寡占状態を打破して、消費者はより安く旅行ができ、航空券や客室の供給者はより利益を出せるブロックチェーンベースのシステムを構築しています。

Winding Tree − Decentralized Travel Distribution

Winding Treeを開発する同名のスタートアップは2017年創業の非営利企業です。若い企業ですが、Y!Combinatorでホテルの利用客のリロケーションなどを扱うRoomstormの開発にあたったIZMAYLOV氏とVYSOKÝ氏がそれぞれCEOとCTOを務め、パートナーとしてドイツ最大の航空会社ルフトハンザなど名だたる大企業の名前があがっています。

画像: Winding Treeのパートナー企業(Winding Treeのウェブサイトより)

Winding Treeは具体的には何を提供するのでしょうか。Winding TreeのサービスはスマートコントラクトとAPI一式として構築されています。Winding Treeは消費者が直接利用するサービスではなく、B2Bの旅行マーケットプレイスです。航空会社やホテルといった旅行リソースの提供者と、旅行代理店はじめWinding Treeのデータや機能を利用したい革新的なスタートアップを橋渡しします。

 

Winding Treeとブロックチェーン

ホワイトペーパーをもとにWinding Treeがどのようにブロックチェーンを利用しているのか見てみましょう。

Winding Tree ホワイトペーパー − A Practical Application of Blockchain for the Travel

Winding Treeのような取り組みでは、業界団体が運用するプライベートなブロックチェーンを思い浮かべがちですが、Winding Treeはパブリックなブロックチェーンを利用しています。さらにコードはオープンソースでGitHubで公開されています。

Winding Tree · GitHub

コンセプトを実装した現行のMVP(Minimum Viable Productの略、実用最小限の製品)版はイーサリアムのブロックチェーンを利用していますが、Winding Treeはダウンタイムをなくすため今後ほかの複数のブロックチェーンに展開する可能性も示唆しています。

Winding Treeの処理についてホワイトペーパーにある具体例をもとに見てみましょう。


画像: Winding Treeの処理(Winding Treeホワイトペーパーより。オレンジ色の文字は筆者注)

ホテルはWinding TreeのAPIを利用して、イーサリアムブロックチェーン上のWinding Treeのスマートコントラクトにアクセスし、いつからいつまでどの部屋が何部屋空室であるといった情報を書き込み、在庫管理をします。旅行代理店は顧客の要求に応じてWinding TreeのAPIを利用して空室や価格を検索し、条件に見合うものがあれば、購入処理をします。Winding Treeはパブリックなブロックチェーンを利用していますが、予約情報といったトランザクションは暗号化され、当事者のみが閲覧できます。

ブロックチェーンにデータを書き込む在庫管理や購入のプロセスには手数料がかかります。この手数料はプラットフォームの利用手数料ではなく、マイナーに支払われる手数料です。手数料やホテルへの支払いはWinding Treeの独自トークンLiFで行われます。LiFの価格変動リスクは、トランザクション発生時に取引所といった第三者金融機関を利用してLiFと法定通貨を換金することで緩和するといいます。

Winding Treeの独自トークンLiFは、イーサリアムベースのトークンの標準ERC20と完全な互換性を保ちつつ、旅行業界のニーズに合わせてより多くのデータを扱えるように拡張されたトークンです。LiFは4度のICOで発行され、75%が参加者に、残りの25%がWinding Treeや関係者に分配されました。Winding TreeはLiFの価格をMVM(Market Validation Mechanism、市場検証メカニズム)と呼ばれるスマートコントラクトで管理しようとしています。
※ ERC20について詳しくは本ブログのEthereumベースのトークンの標準ERC20を参考にしてください。

また、パブリックなブロックチェーンの利用にあたって処理能力や速度が気になるところです。Winding Treeはビットコインのライトニングネットーワクやイーサリアムのライデンネットワークといった技術の開発に期待を寄せつつ、将来的にはパブリックなブロックチェーン上にステートチャネルを構築して秒間数千トランザクションを処理できるようにするとしています。

 

Winding Treeの課題

Winding Treeは、非効率だった旅行業界を大きく変える可能性を秘めていますが、パブリックチェーンを利用することに起因する問題や日本市場で利用が進む上での障壁があります。

Winding Treeは非中央集権的なパブリックチェーンの利用にこだわっています。現行のシステムはイーサリアムのブロックチェーンを利用しているため可能性は低いですが、利用するブロックチェーンによっては、2018年5月にモナコインがさらされたセルフィッシュマイニング攻撃を受ける可能性が出てきます。将来的にオリジナルのパブリックチェーンを採用する場合は、取扱額・影響範囲ともに大きい分野でどのように対策するかがポイントになってきます。
※ モナコインへの攻撃について詳しくは本ブログのモナコインへのセルフィッシュマイニング攻撃を参考にしてください。

また、ERC20と完全な互換性を保って拡張されたLiFトークンは、イーサリアムと相互交換できるものであれば、日本の資金決済法における第二号仮想通貨に該当すると考えられます。LiFが第二号仮想通貨として認められるようになれば、国内の旅行業界のプレーヤーも安心してWinding Treeを活用できるようになり、日本における普及につながるかもしれません。

 

Winding Treeのこれから

Winding Treeはホワイトペーパーで2017年第四四半期から2019年第四四半期までの2年間のロードマップを公開しています。ロードマップによると、2018年はホテルと航空会社向けの機能、客室や航空券に関するデータ交換標準やこれらを扱う機能の開発に注力し、2019年にツアー、レンタカーといったその他の分野にも着手するとともにスケーラビリティーやプライバシーを改善するようです。

将来的な計画として期日は定めず、Winding Treeの成長とともに大量のトランザクションを処理できるように、旅行業界に特化した複数ブロックチェーンのためのステートチャネルの開発に着手するとしています。

 

おわりに

Winding Treeが普及すれば、消費者としてはより手頃な価格で、自分の好みに合う旅行を計画できるようになるでしょう。開発者としてはWinding Treeを利用して従来の旅行代理店を超えるサービスや価格予測サービスなどを作るれるようになるおもしろさもあります。分散型自律組織DAOとしてのWinding Treeの今後からも目が離せません。

一方で、利用するブロックチェーンによっては攻撃の対象となりかねないこと、トークンの法的解釈など普及までに超えなければいけない壁もあります。2018年、2019年の開発と普及に注目しながらWinding Treeが改革をもたらすことに期待したいです。

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Aram Mine

Gaiax技術マネージャ。研究開発チーム「さきがけ」リーダー。新たな事業のシーズ探しを牽引。2015年11月『イーサリアム(Ethereum)』 デベロッパーカンファレンス in ロンドンに参加しブロックチェーンの持つ可能性に魅入られる。以降ブロックチェーン分野について集中的に取り組む。

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