Play to Earn ならぬ Learn to Earn
DeFiを皮切りに仮想通貨市場が再び盛り上がりを見せ始めた2020年の夏頃から「仮想通貨や分散型アプリケーションについて学んで仮想通貨を稼ごう」というキャンペーンが出てきました。大手仮想通貨取引所CoinbaseのCoinbase Earnや、Binanceが買収した仮想通貨情報サイトCoinMarketCapのキャンペーンについて聞いたことがあるという人もいるのではないでしょうか。
筆者は当時興味のあるトピックがあればと思い覗いてみたのですが、トークンを欲しい人が殺到するのは当然で、トークンの配布がすでに終了していたり、トークンの配布が抽選だったりで、結局上記のサービスは利用することなく終わってしまいました。
ただ、取り組みとしては興味深いもので、トークンというインセンティブを与えてユーザーに仮想通貨や分散型アプリケーションについて学んでもらい、トークンを発行しているサービスの運営は自社トークンを配布してユーザー増を期待でき、取引所などの業界関係企業も仮想通貨の裾野が広がれば収益向上につながる可能性があります。大儲けとはいきませんが、ユーザーも(価値があるであろう)トークンをもらいながら、仮想通貨の世界や新しいプラットフォームに足を踏み入れるきっかけになります。ゲームをプレイしてトークンを稼ぐPlay to Earnで指摘されるネズミ講的な要素がないのもよいところといえそうです。
先に挙げたCoinbaseやCoinMarketCapのサービスは中央集権的なサービスですが、本記事では今後サービスの分散化を目指す「RabbitHole」を紹介します。
RabbitHoleとは
Rabbit holeとは、ルイス・キャロルの小説『不思議の国のアリス』に由来する言い回しです。アリスがうさぎの穴に落ちて不思議の世界に迷い込んだことから、rabbit holeというと「不思議の世界、新しい世界の入り口」を意味します。
RabbitHoleはまさにそのようなサービスで、Web3の分散型アプリケーションを知り、Web3に関連するスキルを身につける入り口になります。将来的にはユーザーのブロックチェーン上でのさまざまな経験を集約したレジュメとしても機能するようです。
RabbitHoleは2020年に開発が始まった比較的新しいサービスで、アメリカのRabbitHole Studios Incが運営しています。RabbitHoleのYouTubeチャンネルにはCEOで共同創業者のBrian Flynn氏のインタビュー動画があり、同氏は2016年に仮想通貨の世界に足を踏み入れ、もともとゲーマーだったことからNFTに興味を持ったとしています。老舗NFTマーケットプレイスOpenSeaや、Crypto KittiesやNBA Top Shotで知られるDapper Labsを経て、ユーザーのリテラシーを向上させる必要があると感じ、RabbitHoleの立ち上げにいたりました。
What is RabbitHole and What Does the Path to Decentralization Look Like? (Brian Flynn) – YouTube
企業情報データベースCrunchBaseにはRabbitHole Studios Incの資金調達記録はありませんが、RabbitHoleの2021年6月のブログ記事ではElectric Capitalなどから360万ドル(2022年1月現在4億円強)を調達すると発表されました。
RabbitHole raises 3.6M to build the on-chain resume for the future — Mirror
また、2022年1月13日付で米国証券取引委員会(SEC)に株式・証券発行に関する書類が提出されていて、今後トークンが発行やトークンによる資金調達が行われる可能性もあります(本記事は投資を勧めるものではありません)。
EDGAR | Company Search Results − U.S. Securities and Exchange Commission
RabbitHole Studios Incはアメリカに登録されてはいますが、CrunchBaseのほかビジネス向けSNSのLinkedinなどには詳細な情報が記載されておらず、まだ創業から間もないからなのか、今後分散型を目指すからなのか気になるところです。
サービスとしてのRabbitHoleは、MetaMaskなどのウォレットをつないで、連携しているWeb3サービスを使ってサービスの理解を深めたりスキルを身につけたりすると、関連するトークンやRabbitHoleでのレベルアップにつながるXPという経験値がたまり、レベルが上がっていくというものです。DeFiやNFTに関するものが中心で、投票やIDに関するサービスも見られます。
続いて実際にRabbitHoleを使ってどのようなサービスか見てみましょう。
RabbitHoleを使ってみよう
RabbitHoleを使うにはMetaMaskかWalletConnectに対応したウォレットが必要です。ここではブラウザ拡張のMetaMaskでRabbitHoleを使います。
RabbitHoleには「Quests」「Skills」「Projects」というカテゴリーがあります。2022年1月現在、挑戦できるクエスト(Quests)はありませんが、スキル(Skills)には投票、ID、資金の取り扱いに関するチャレンジがあり、プロジェクト(Projects)にはCompoundやAave、OpenSeaといった有名プロジェクトほかさまざまなプロジェクトのアプリケーションを使うチャレンジがあります。
画像: RabbitHoleのチャレンジ
RabbitHoleで学べる分散型アプリケーションの中には、Ethereumだけでなく、PolygonやAvalanche、Celoといった新興ブロックチェーン上の分散型アプリケーションもあります。Ethereumはガス代(手数料)が高く、気軽に挑戦しにくいため、手数料の安いブロックチェーンのアプリケーションから始めてみるのも一つの手です。
ここでは分散型レンディングプラットフォームAaveのPolygon版を使ってみます。ウォレットでPolygonのネットワークを設定していない場合は設定しておきましょう。「Projects」をクリックしてPolygon版のAaveの「Supply assets on Aave Polygon」の「Start」をクリックしてMATICを貸してみます。
画像: Polygon版のAaveでMATICを貸し出し
貸し出しが完了したらRabbitHoleに戻ってページをリロードすると、RabbitHoleの内部の経験値を表すXPを受け取れるようになっていました。
画像: チャレンジを完了して100XPをRedeem可能に
続いてAaveでMATICを借りてRabbitHoleでXPを受け取ります。合計200XPがたまり、Level 1になりました。Polygon上のSushi SwapやPool Togetherなども使って最終的にLevel 3になりました。レベルが上がるとなんだかうれしいですね!
このように駆け足で見てみると簡単に見えますが、特に初めて分散型アプリケーションを利用するという人の場合は、ウォレットのインストール、ネットワークの設定、Aaveとは何なのか、Polygonとは何なのか・・・などたくさんの壁にぶつかることでしょう。自分で一から調べていく必要はなく、それぞれのチャレンジの詳細ページからはRabbitHoleのブログ記事にリンクがはってあり、記事を読みながら学習を進められます。
ガス代の高いEthereumのアプリケーションを学習に使うのはハードルが高いですが、手数料の安いブロックチェーンのアプリケーションやBright IDでのID作成など取り組みやすいチャレンジがあります。
ひとつ残念なのは、本記事執筆中の2022年1月現在、XPには今のところ金銭的な価値はなく、課題にチャレンジするインセンティブが若干低いところです。過去にはトークンが付与されるタイプのクエストがあったので、今後またこのようなクエストが出てくることを期待したいです。
画像: Polygonについてのクエスト(現在このクエストは終了しています。)
RabbitHoleのチャレンジでトークンやXPを受け取ってレベルを上げるほか、PathFinderとしてRabbitHoleの運営に貢献することもできます。ウェイティングリストがあるので気になった人は登録してみてもよいかもしれません。
PathFinder registration – RabbitHole
RabbitHoleの今後と課題
さまざまなプロジェクトと提携してユーザーのリテラシー向上を目指しているRabbitHoleですが、長期的には、オンチェーン上の活動を可視化したWeb3時代のレジュメを作ることを掲げています。この機能の実現にあたって、どのようなチャレンジを設定し証明を付与するか、どのようにRabbitHoleを運営していくかといった決定はRabbitHoleだけでなく利用者を含む関係者で行うべきだとしてRabbitHoleは分散化を目指しています。
今回RabbitHoleを使ってみて、ユーザーは理解を深められ、プロジェクトは潜在ユーザーにアプローチできるとてもよい仕組みだと感じました。また、取引所による学習サービスでは、学習テーマやトークンに偏りが生じる可能性があり、RabbitHoleが将来分散化すれば公平に多様な学習コンテンツが設定されることが期待できます。
一方で、RabbitHoleが将来的にレジュメを目指すとすると、レジュメとウォレットが紐づくことで、どの程度の資金を持っているのか、どのようなサービスを使っているのかが見えてしまう点には課題があると感じました。RabbitHole用のウォレットを作ればよいかもしれませんが、RabbitHoleのチャレンジのためだけにEthereumのガス代を数千円、数万円単位で払うのは現実的ではありません。今後RabbitHoleがプライバシーを気にかけるのか、そうであればどのようにオンチェーン上での活動履歴の集約とプライバシーを両立させるのか注目したいところです。
おわりに
本記事ではWeb3アプリケーションについて学びながらレベルアップし、トークンを受け取れるサービスRabbitHoleを取り上げました。本記事で紹介したように、Polygonのように手数料の安いブロックチェーンや、IDに関する課題などを選べば少額でRabbitHoleで学習を進められます。
仮想通貨や分散型アプリケーション、Web3に興味はあるけれどどこから手をつけてよいのかわからない、長らく界隈にいるもののマンネリ化してきて新しいサービスを使ってみたいという人はRabbitHoleにから新しい世界をのぞいてみてはいかがでしょうか。
2022年に入って仮想通貨の価格は下落していて、界隈を離れてしまう人もいるかもしれませんが、そんな時こそ勉強のしどきです。悲観ムードの中でも今後躍進するプロジェクトの開発は続いているのですから!