Bitcoinの誕生から10年以上が経ち、Ethereumをはじめとするネットワークとその基盤となるブロックチェーンがあとに続いています。ブロックチェーン同士の相互運用や、ブロックチェーン間で資産を移転するためのブリッジの仕組みは古くから開発が進められてきました。本記事ではさまざまなブロックチェーン間でのトラストレスな通信を可能するLayerZeroを紹介します。
LayerZeroとは
LayerZeroは、異なるブロックチェーン上の分散型アプリケーションが通信できるようにするためのプロトコルです。2021年創業のカナダのスタートアップLayerZero Labsが開発を進めています。
LayerZeroは、本記事執筆時点2022年10月現在、創業から1年ほどのごく若いスタートアップですが、すでにa16z、Sequaia Capitalといった有名ベンチャーキャピタルを含む28の投資家から14330万ドル(約214億円)もの資金を調達しています。
LayerZero Labs – Crunchbase Investor Profile & Investments
LayerZeroが約165億円調達、a16zやFTXら出資 | あたらしい経済
ブロックチェーン間で資産を移動する仕組みとしてはブリッジがあり、ブロックチェーンの相互運用を可能にする仕組みとしてはPolkadotやCosmosなどがあります。
既存の仕組みに対して、LayerZeroはトラストレスかつ軽量に、コストを抑えてブロックチェーン間での通信を実現しようとしていることから注目を集めています。
続いてLayerZeroの仕組みを見てみましょう。
LayerZeroの仕組み
LayerZeroの仕組みは2021年5月のホワイトペーパーで詳しく解説されています。
LayerZero: Trustless Omnichain Interoperability Protocol
最初にLayerZeroの概要を表した図を見ておくと全体像を把握しやすいです。
画像: LayerZeroの概要(LayerZeroホワイトペーパーより)
LayerZeroはブロックチェーンA(図右)上のエンドポイントと呼ばれるスマートコントラクト、ブロックチェーン B(図左)のエンドポイント、オフチェーンの独立したリレイヤーとオラクルから成り立っています。分散型アプリケーションは、同じブロックチェーン上のLayerZeroのエンドポイントに対してリクエストを送り、リレイヤーとオラクルが独立してリクエストを検証し、両者からの情報が合致した場合にクロスチェーンでのトランザクションが実行されます。
LayerZeroのドキュメントによると、公式のエンドポイントはEthereum、BNB Chain、Avalanche、Polygon、Arbitrum、Optimism、Fantom、Swimmer、DFK、Harmony、Moonbeamにあり、これらのブロックチェーン上の分散型アプリケーションはLayerZeroを利用して通信できます。
実際にどのように通信が行われるかについては、通信の流れを詳しく表した図を見てみるとよいでしょう。
画像: クロスチェーントランザクションの流れ(LayerZeroホワイトペーパーより)
各ブロックチェーン上のLayerZeroのエンドポイントはコミュニケーター、バリデータ、ネットワークの三つの要素から成り立っています。ブロックチェーンA上の分散型アプリケーションがブロックチェーンAでトランザクションを実行し、ブロックチェーンA上のエンドポイントのコミュニケーターに対して、トランザクションやクロスチェーンで通信する相手先の分散型アプリやそこで必要となる情報を通知します。これらの情報はバリデータとネットワークからそれぞれリレイヤーとオラクルに送られます。オラクルはネットワークからの情報とブロックヘッダを取得して、相手先の分散型アプリケーションが稼働しているブロックチェーンB上のエンドポイントに通知します。
ブロックチェーンBのエンドポイントでは、オラクルからの通知が正しいものか、バリデーターはリレイヤーの情報と付き合わせて検証します。オラクルからの情報とリレイヤーからの情報が合致すると、ブロックチェーンB上の通信相手の分散型アプリでの処理が行われます。
LayerZeroはトラストレスで、ブリッジを利用するときのように第三者を信頼して資産を預ける必要はありませんが、ブロックチェーン間で適切な通信が行えるかはオラクルとリレイヤーに大きく依存します。LayerZeroのホワイトペーパーでは分散型オラクルChainlinkの利用が想定されています。LayerZeroのドキュメントによると、LayerZeroを利用する分散型アプリケーションはデフォルトのオラクルとデフォルトのリレイヤーを利用できるとあります。リレイヤーについては、現在は今後オープンソース化され、誰でもリレイヤーを運用できるようになる予定です。リレイヤーの分散化にあたっては、リレイヤーのインセンティブも合わせて設計される必要があります。
LayerZeroの仕組みについて詳しくは英語のホワイトペーパーが公開されているほか、仮想戦士ロイさんがYouTubeで日本語の「LayerZero ホワイトペーパー読書会」を公開しています。
LayerZero: Trustless Omnichain Interoperability Protocol
LayerZeroのエコシステム
LayerZeroは、スマートコントラクトとして実装されたエンドポイントさえデプロイできれば事実上あらゆるブロックチェーンに対応できるため、今後、EVM互換のブロックチェーンを対象にエコシステムが拡大していくことが期待されます。
LayerZeroは誕生から間もなく、本記事執筆時点の2022年10月時点でLayerZeroを利用しているサービスは多くはありません。ただし、そのユースケースからはLayerZeroの可能性が見えてきます。
LayerZeroのホワイトペーパーではクロスチェーンのDEX、マルチチェーンのイールドアグリゲーター、マルチチェーンでのレンディングといったDeFi分野でのLayerZero利用可能性が挙げらています。
LayerZeroを使った最初の分散型アプリケーションとして、LayerZero LabsによるStargate Financeがあります。Stargate Financeを利用すると、ユーザーはブロックチェーンにネイティブな形で資産を移動できます(通常のブリッジを利用した資金移動では、一方のブロックチェーンで資金をロックして、その預かり証をもう一方のブロックチェーンで受け取り、利用することになります)。
リリース直後のStargate Financeへの期待は高く、一時はTVL40億ドル超、流動性を提供した際の年利は20%を超えていました。現在は暗号通貨市場が停滞していることもあり、TVLは51,000万ドル、年利は4%ほどに落ち着いています。
Stargate Finance以外の事例としては、LayerZeroはブログで分散型のステーブルコインプロトコルAngleがLayerZeroを採用し、同サービスが発行するユーロのステーブルコインをクロスチェーンで扱えるようになったことを発表しています。
Angle Integrates with LayerZero to Make agEUR Chain Agnostic | by LayerZero Labs
また、前出の仮想戦士ロイさんの「LayerZero ホワイトペーパー読書会」では、DeFi以外での利用として出てきたゲーム・NFTでのLayerZeroの利用についても触れていて、あるブロックチェーン上のNFTを他のブロックチェーンのゲームで利用するといった例があげられています。
おわりに
本記事ではクロスチェーンでの通信プロトコルLayerZeroを紹介しました。LayerZeroにはリレイヤーの分散化やインセンティブ設計、エンドポイントを軽量化しオラクルとリレイヤーに依存する設計がセキュリティ面に悪影響が現れないかなど考慮すべき点はありますが、クロスチェーンでのトラストレスな通信を実現でき、EVM互換のブロックチェーンへの展開が容易な点は魅力的です。
現在ブロックチェーン間で資産を移転する、マルチチェーン対応のブロックチェーンゲームをプレーするというと、まだまだブロックチェーン間の敷居を感じます。今後LayerZeroや同様の仕組みが浸透する中で、ブロックチェーンを意識しないで分散型アプリケーションを利用できるようになる日がくるかもしれません。